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40.ジェイド

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「フーリダの栄誉に授かり光栄に思います。平和と繁栄のために共に友好を築いて行きましょう」
 どうしてアルクレイヘル王国、王子であるこの僕が獣風情と友好を築かなければならないんだ。
 劣等種の人モドキは、人族の奴隷として生きることこそ至上の喜びだろう。

「顔はいいけどアルクレイヘル王国の王子だってさ」

「人族以外はみんな奴隷にしてるんでしょ?怖い国よねぇ」

 私を見上げる顔はどれも醜い。半端に人の顔をしているところが更に憎たらしい。
 自由主義を掲げているが、フーリダ王にいいように使わているだけだ。

「坊ちゃま、馬車のご用意が出来ております」
 セバスはよく気が利く。歳だし、労ってやらなければな。


■ 
「姫、こちらに」
 街中を通るアルクレイヘル王国の紋章を掲げた馬車が、街中とは思えない速度で走ってくる。
 それを見た瞬間に、エルザがロゼッタを引き寄せて体で隠した。

「そこのお前、穢れた姫だな。我が妹がこんなところでなにをしている」
 通り過ぎた馬車から顔のいい金髪の男が出てくる。

「あの、失礼ですがどちら様ですか」
 ロゼッタのことを妹と呼ぶのは兄以外にいない、それは承知の上だが俺は俺の仲間を守らないといけない。

「銀髪が二人……?いや、黒髪の……失礼した」
 金髪の男は態度を改めて友好的に挨拶してきた。

「私はアルクレイヘル王国、王子。ジェイド・クレイヘルⅡ世だ」
 握手を求められたので、ジェイドの手を握る。
 俺のマメだらけの手とは違って、柔らかいし綺麗だ。

「その王子様が何の用ですか」
 ロゼッタを追ってきた風には見えないけど、万が一には魔法で動けないようにするべきか。

「君は連れなのか?私はそこの銀髪の兄で少し話しがあるだけだ」
 そんなことはわかっている。だけど、アルクレイヘル王国の人間をロゼッタとエルザに近づけるわけにはいかない。

「なら、俺が聞きますよ」
 俺はジェイドの前に立ちはだかる。

「我が妹!ここで何をしているっ!!」
 動かない俺を見て、肩越しにジェイドが怒鳴りつける。
 エルザを押しのけて、おずおずとロゼッタが歩み出る。

「お兄様……私がここにいるのは、私の意志です。城には戻りません」
 不安気な様子から一転して、ロゼッタは毅然とした態度でジェイドに詰め寄る。
 ロゼッタが近づいた分だけ、ジェイドが後ずさる。

「それ以上近づくな!!穢れが移る。……父上は知っていてのことだな」
 ロゼッタはなにも答えず、沈黙だけが流れる。

「まあよい、お前を引きずって帰るには遠すぎるからな。
 ……好きにしろ」
 それだけいうと、ジェイドは長い金髪をなびかせて馬車に戻っていった。

「私は大丈夫ですから、もう戻りましょう」
 声をかける前に、ロゼッタに宥められた。



「よくやったな」
 瓦礫の山と化したランドの街に、アインが帰って来た。

「怖かったですぅ~」
 施陀愛心せんだ あみがアインにしなだれかかる。

「こら、愛心もみんなのところに戻って」
 まんざらでもない顔でアインは愛心をみんなの下に戻す。唯一残った噴水の広場で、クラスメイトたちはアインの話しを聞く。

「街への損害は甚大だが、みんなが無事でよかった。まずはそれだけ言わせてくれ」

「肝心な時にいなかったせいで、この街の人が大勢死んだのよ」
 ゆらりと前に出た牡丹が静かに、けれどもはっきりとアインを糾弾する。

「それは……、本当にすまなかった。緊急の用事だったんだ」
 アインは申し訳なさそうにするが、牡丹の怒りは収まらなかった。

「守れたはずの人たちも守れずに、みんなが自分勝手に協力しなかったから……!!なにがスキルよ!!なにが魔法よ!!」
 怒りと悲しみと不甲斐なさで涙をボタボタと流しながら、牡丹はいかっていた。

「牡丹さん……」
 善光彩莉朱ぜんこう ありすが牡丹の方を抱いて宥める。

「その、南の方で魔物が活発になっているんだ。これから一度王都に戻り、これを撃滅する」
 アインはバツが悪そうにいうと、解散を命じた。
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