39 / 56
第14話「邂逅」⑤
しおりを挟む
「貴志…あなたのお父さんがね、あなたが生まれたときに、あなたのお母さんと交わした約束があるの」
「約束…?」一体どんな約束なのだろう。とても気になった。
「志保って名前はね、『志を保つ』って書くじゃない?あなたがまだ小さな頃に、貴志がよく言ってたのよ『名前の通り、この子は俺に似て頑固になるぞ』って」
「それが、約束とどう関係があるの?」
「そのときにこうも言ったの。『頑張り屋のこの子が倒れてしまいそうになっても、俺たちがそばで支えてあげるんだ。寄りかかる柱さえあれば、この子はどんなことでもやってのけるさ。なにせ、俺と多佳子の子だからな』って」
ちいちゃんは目を閉じながら話し続けた。在りし日の父を思い出しているのだろう。
「そして決まって最後にこう言うの『志保が心置きなく前に進めるように、俺たちはいつも笑って背中を押してやろう』ってね」
「お父さんが、そんなことを…」そうだとしたら、あれは私の心が見せた夢なんかじゃなくて…。
「お母さん…私、心配ばっかりかけて…ごめんね?」
母はベットの柵に両手を掛けて、目をつむって黙って聞いていた。涙はまだ頬を伝って流れている。
「お母さんが言ってたみたいに、私…逃げてた。病気からも、お母さんからも…」
「でも、もうそれも終わりにする。またこれまでみたいに逃げてたら、お父さんに怒られちゃうから。もう…逃げない」私は母の目を真っ直ぐ見ながら、そう言って笑ってみせた。母も泣きながらではあったが、笑い返してくれたように見えた。
「ということは、手術も受けるってことでいいんだな?」祖父がそう言いながら、病室へ入ってきた。
「ちょっと用事に行って戻ってきてみれば、ずいぶんと人が増えとるじゃないか」そう言って、ベッドの脇に立った。
「約束…?」一体どんな約束なのだろう。とても気になった。
「志保って名前はね、『志を保つ』って書くじゃない?あなたがまだ小さな頃に、貴志がよく言ってたのよ『名前の通り、この子は俺に似て頑固になるぞ』って」
「それが、約束とどう関係があるの?」
「そのときにこうも言ったの。『頑張り屋のこの子が倒れてしまいそうになっても、俺たちがそばで支えてあげるんだ。寄りかかる柱さえあれば、この子はどんなことでもやってのけるさ。なにせ、俺と多佳子の子だからな』って」
ちいちゃんは目を閉じながら話し続けた。在りし日の父を思い出しているのだろう。
「そして決まって最後にこう言うの『志保が心置きなく前に進めるように、俺たちはいつも笑って背中を押してやろう』ってね」
「お父さんが、そんなことを…」そうだとしたら、あれは私の心が見せた夢なんかじゃなくて…。
「お母さん…私、心配ばっかりかけて…ごめんね?」
母はベットの柵に両手を掛けて、目をつむって黙って聞いていた。涙はまだ頬を伝って流れている。
「お母さんが言ってたみたいに、私…逃げてた。病気からも、お母さんからも…」
「でも、もうそれも終わりにする。またこれまでみたいに逃げてたら、お父さんに怒られちゃうから。もう…逃げない」私は母の目を真っ直ぐ見ながら、そう言って笑ってみせた。母も泣きながらではあったが、笑い返してくれたように見えた。
「ということは、手術も受けるってことでいいんだな?」祖父がそう言いながら、病室へ入ってきた。
「ちょっと用事に行って戻ってきてみれば、ずいぶんと人が増えとるじゃないか」そう言って、ベッドの脇に立った。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完結】夫もメイドも嘘ばかり
横居花琉
恋愛
真夜中に使用人の部屋から男女の睦み合うような声が聞こえていた。
サブリナはそのことを気に留めないようにしたが、ふと夫が浮気していたのではないかという疑念に駆られる。
そしてメイドから衝撃的なことを打ち明けられた。
夫のアランが無理矢理関係を迫ったというものだった。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
妻のち愛人。
ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。
「ねーねー、ロナぁー」
甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。
そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる