いつかまた、バス停で。

おぷてぃ

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第14話「邂逅」⑤

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「貴志…あなたのお父さんがね、あなたが生まれたときに、あなたのお母さんと交わした約束があるの」
「約束…?」一体どんな約束なのだろう。とても気になった。

「志保って名前はね、『志を保つ』って書くじゃない?あなたがまだ小さな頃に、貴志がよく言ってたのよ『名前の通り、この子は俺に似て頑固になるぞ』って」
「それが、約束とどう関係があるの?」

「そのときにこうも言ったの。『頑張り屋のこの子が倒れてしまいそうになっても、俺たちがそばで支えてあげるんだ。寄りかかる柱さえあれば、この子はどんなことでもやってのけるさ。なにせ、俺と多佳子の子だからな』って」
    ちいちゃんは目を閉じながら話し続けた。在りし日の父を思い出しているのだろう。

「そして決まって最後にこう言うの『志保が心置きなく前に進めるように、俺たちはいつも笑って背中を押してやろう』ってね」
「お父さんが、そんなことを…」そうだとしたら、あれは私の心が見せた夢なんかじゃなくて…。

「お母さん…私、心配ばっかりかけて…ごめんね?」
    母はベットの柵に両手を掛けて、目をつむって黙って聞いていた。涙はまだ頬を伝って流れている。
「お母さんが言ってたみたいに、私…逃げてた。病気からも、お母さんからも…」
「でも、もうそれも終わりにする。またこれまでみたいに逃げてたら、お父さんに怒られちゃうから。もう…逃げない」私は母の目を真っ直ぐ見ながら、そう言って笑ってみせた。母も泣きながらではあったが、笑い返してくれたように見えた。

「ということは、手術も受けるってことでいいんだな?」祖父がそう言いながら、病室へ入ってきた。
「ちょっと用事に行って戻ってきてみれば、ずいぶんと人が増えとるじゃないか」そう言って、ベッドの脇に立った。
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