いろはどこ?

おぷてぃ

文字の大きさ
上 下
13 / 16

第6話「パシストンのおたから」②

しおりを挟む
「せっかくオレっちが気持ちよく寝ているというのに……それを起こすのはどこのどいつだ!」

    そう言って犬小屋から現れたのは一匹の白いブルテリアでした。左眼のまわりとおしりのあたりに黒いぶち模様があります。





    ブルテリアは「うぅー」と低くうなり声をあげながら、ノーブルのいるポストへ向かいました。そして、鎖が伸びきる少し手前あたりで、その大きな口をぱっくり開けて言いました。

「お前か、オレっちを起こしたのは?見ねえ顔だが、なんだ……くちばしの黄色いひよっ子カラスかよ」パシストンは「ふんっ!」と馬鹿にしたように鼻で笑いました。
「ずいぶんな口のきき方じゃねえか、パシストン。おれはあんたの大事なだあいじな《落としもの》をわざわさ届けにきてやったんだぜ」パシストンの態度は気にもとめず、ノーブルは言いました。
「落としものだぁ?」パシストンがすっとんきょうな声をあげます。

    クルルは庭木の陰から、そのやり取りをなんとか耳だけで追いかけていました。枝の隙間を覗いてみましたが、そこからでは満足にノーブルたちを見ることができません。そんなクルルをよそに、ノーブルは話を続けました。

「これ、なあんだ?」ノーブルは右足に握ったあるものをパシストンへ向かって突き出しました。
    白っぽくて細長く、両端が少し膨らんでいて…どうやら骨のようです。ノーブルはそれをうまくつかみ直し、先っぽを持ってヒラヒラさせると、ニヤリと笑いました。それがなにか理解したパシストンの顔は、怒りでみるみる歪んでいきました。

「オレっちお気に入りの骨をなんでお前が持ってるんだ!確かに小屋のそばに埋めたはず…」パシストンは慌てて後ろを振り返ります。
    様子をうかがおうと庭木の端から少しだけ顔を覗かせていたクルルでしたが、こちらも慌てて元の場所へ戻りました。幸い、思いがけない状況に取り乱すパシストンは、クルルの存在に気付きません。小屋のそばの地面には、ついさっき掘り返したような跡がありました。

「悪い悪い。お気に入りっていうわりに、土ん中じゃああんまりだと思ってよう。さっき掘り出してやったのさ。この黄色いクチバシも、こんなときにゃあなかなか役に立つもんだぜ」
「このやろう」パシストンがノーブルをにらみつけます。
「さあて、おれはこいつをどうすればいい?どうせ埋め直すんなら手伝ってやるよ。こんな狭い庭じゃなんだから、近くの公園…いや、いっそ山の中にでも持っていこうかね」
    内心ではパシストンの怒りようにひやひやしていましたが、ノーブルはそれをおくびにも出しませんでした。いかにパシストンを怒らせることができるか。それがこの作戦にとって重要な鍵だったからです。そして、いよいよ待ちに待った瞬間がやってきました。


「返せ!」

    怒りが頂点に達したパシストンはノーブルへと飛びかかりました!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

雲生みモックじいさん

おぷてぃ
児童書・童話
 地上から、はるか遠くに浮かぶ空の上。 みんなから『モックじいさん』と呼ばれるひとりのおじいさんがいました。  彼は雲を生み出すことを仕事にしていましたが、そのことについて、ある悩みを抱えていました。  それは「泣いたり怒ったりしているうちに消えていく雲たちがふびんでならない」というものでした。  そんなある日、ぐうぜん生まれた雲ひとつ。モックじいさんは一日だけ仕事をやすんで、雲たちのようすをたしかめるために、出かけることにしました。

ライオンのジレンマ

小森 輝
児童書・童話
誰よりも強いライオンが抱える孤独なジレンマ

たいせつにしなきゃイケナイこと

hanahui2021.6.1
児童書・童話
生きてくうえで、ほんとうに たいせつなことって、なに?

主役はだあれ?

流音あい
児童書・童話
お話を書くおじいさんが、カエル君とキリンさんとカバさんに話を聞いて作った本。それを読んだ彼らはみんな自分が主役だと主張するが、誰も譲らないので主役は誰かを考えることに。動物たちがたくさん出てくる子供向けのお話です。 目次(短編集ではなく、ひとつのお話です) 1、お話を書くおじいさん 2、主役はだあれ? 3、主役はひとり? 4、決めるのは誰?

山姫さま オコジョと狐と 海に行く

鷲野ユキ
児童書・童話
日本一のお山の中で、何不自由なく生きてきた山の神様の娘、山姫さま。 ある日手に入れた「人魚姫」の絵本を読んで、自分も人魚姫の様に人間にもてはやされたいと考えます。 そこで山姫さまはお山を飛び出てしまい、それを慌てておつきのオコジョと狐が追いかけますが……

両親大好きっ子平民聖女様は、モフモフ聖獣様と一緒に出稼ぎライフに勤しんでいます

井藤 美樹
児童書・童話
 私の両親はお人好しなの。それも、超が付くほどのお人好し。  ここだけの話、生まれたての赤ちゃんよりもピュアな存在だと、私は内心思ってるほどなの。少なくとも、六歳の私よりもピュアなのは間違いないわ。  なので、すぐ人にだまされる。  でもね、そんな両親が大好きなの。とってもね。  だから、私が防波堤になるしかないよね、必然的に。生まれてくる妹弟のためにね。お姉ちゃん頑張ります。  でもまさか、こんなことになるなんて思いもしなかったよ。  こんな私が〈聖女〉なんて。絶対間違いだよね。教会の偉い人たちは間違いないって言ってるし、すっごく可愛いモフモフに懐かれるし、どうしよう。  えっ!? 聖女って給料が出るの!? なら、なります!! 頑張ります!!  両親大好きっ子平民聖女様と白いモフモフ聖獣様との出稼ぎライフ、ここに開幕です!!

ガラスの王冠

すいかちゃん
児童書・童話
お姫様や王様を主人公にした、かわいいお話のショートショートを集めたものです。 お人好しな王子様や、素直になれないお姫様、そしてワガママな王様。 それぞれのストーリーが楽しめます。

お別れの銀河鉄道と+α

月歌(ツキウタ)
児童書・童話
気がつけば先輩と共に列車に乗っていて。 出会いと別れの切ないお話。 銀河鉄道の夜の世界観に憧れて、少しでも近づけたらいいなと‥‥想像の翼を広げてみました。 ※あずま先輩→あずさ先輩 変更しました。 ※お別れの銀河鉄道の改稿版です ※表紙絵はAIイラストです

処理中です...