超神曼陀羅REBOOT

石動天明

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第十四章 魔獣戦線

第十節 刑事の矜持

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「な──にが、どうなってンのよ……」

 玲子は、コンテナの影から、その状況を窺っていた。

 刑事たちの暴走を掻い潜って、池田享憲が身を隠したと思しきフェリーに、明石雅人の協力もあって乗れたは良いのだが、肝心の池田はばらばらにされて殺されてしまい、その遺体が謎の青年を作り出し、彼は雅人に殺されて得体の知れない肉塊となり、その雅人もフェリーから海に飛び込んで姿を消した──

 異常事態にへたり込んでしまいそうになった玲子だが、フェリーに搭載されていたボートを借りて、陸に戻った。

 果たしてどのような証拠になるのか分からないが、池田享憲の五つの生首が詰め込まれていた、五つの鉄箱も持って帰って来ている。

 この時、埠頭で白い閃光がまたたくのを見た。灯台に照らされたというような光ではない。閃光弾でも使われたかのように、その付近が白昼よりも明るくなったのだ。

 玲子は、フェリーターミナルと埠頭の中間地点にボートを停めた。
 そこから、ガントリークレーンの手前に出現した巨大な怪物を見た。

 又も腰を抜かしそうになったが、ゾンビの如く正気を失くして暴れていた刑事の口から不気味な肉塊が吐き出され、五つの老人の生首が一人の青年を作り上げるのを見た後だ。巨獣くらいいても良いだろうと半ば開き直って、そのまま倉庫街へ向かった。

 しかし、その巨獣が、何処から派遣されたものか小型のヘリコプターからの機銃掃射を受け、人間の衣服を身に着けた赤黒い蜥蜴の怪物に燃やされて、その魔獣と、漫画の中から飛び出して来たような鎧騎士が戦っている光景にまで出くわしては──

 自分の頭がおかしくなってしまったのではないかと、疑わざるを得なかった。

 それでも、夢から醒める訳でも、幻覚が消える訳でもないので、眼の前の光景を現実と受け止めて、様子を見ていた。

 魔獣は兎も角、様々な武装を用いる鎧騎士は、何らかの許可を得ていない限り銃刀法違反で引っ張る事が出来るかもしれない……などとは考えたが、玲子はその二体の戦いに口を挟む事は出来なかった。

 警察手帳を見せ付けて、魔獣と鎧騎士が戦闘をやめるとは思えなかったのだ。

 水門署から出て来た刑事たちは、まだフェリーターミナルでダウンしているのだろうか?
 この状況を誰かに知らせるべきなのか。
 そうだとして誰に?

 玲子は冷静に状況を観察しているようで、その実やはり錯乱しており、何の行動にも移せずにその異質な格闘を見ているばかりであった。

 だが、流石に赤い魔獣がどのような原理によるものか、巨大な光の剣で埠頭を撫で回し、コンテナやガントリークレーンを破壊して辺り一面を火の海に変えてしまったとなれば、黙っている訳にはいかない。

 玲子は改めて、自分が刑事である事を思い出した。
 法に違反する者があれば、それを糺さねばならない。

 とは言え、異能力を用いて周辺を地獄の光景に変える怪物に、一介の刑事が何を出来るだろう。武器と呼べるものは拳銃一つで、署内一と言われる格闘術も、果たしてあの魔物に通じるものだろうか……。

 そう思うと、やはり静観しか出来ないのである。

 それにしても──玲子は自分を取り戻してその光景を眺め、やはりこれは、現実離れした、刑事事件以上の非日常であり、そして神話の世界だと思った。

 炎を撒き散らし、人間の営みを破壊する醜悪な魔獣。
 これと対峙する、鋼鉄の鎧を身に着けた蒼白い騎士。

 容貌に対するバイアスを除いたとしても、それが、現代では経典の類に於いてのみ語られる、人間を超えた者同士の戦いである事は確実だ。

 彼らは、人間ではない。
 人間を超えた者として生まれ、そして戦う──何かである。

 魔獣か。
 天使か。

 故に、彼らは人の営みを度外視した攻防を繰り返すのである。

 赤黒い蜥蜴男に、蒼白い鎧騎士が拳銃を突き付けている。
 玲子は固唾を呑んで、彼らの動向を見守ろうとした。

 と──

「うっ……」

 炎が空気を焼く音に紛れて、人の声がした。
 玲子が、呻き声の発された場所を眼で追うと、海とコンクリートとの境目に、一人の女が倒れている。

 遠巻きに見てもはっきりと分かるくらい、炎は夜の埠頭を照らしていた。

「あの人……」

 そして玲子にも分かるくらいであるから、魔人と戦士にもそれは聞こえていただろう。だが、玲子はその人物の救出を考えたのとは違って、二体の超人はその声を、戦闘開始の合図と捉えた。

 鎧騎士が、拳銃を発砲しながら駆け出した──
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