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第27話 警備隊でお仕事をしよう

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 街の南にある一番大きな門の近くにある詰め所に向かった。
 
 「詰め所」と言っても比較的大きな建物だ。奥の方から訓練しているのかな?掛け声や木や鉄がぶつかる音が響いている。

 以前出会った兵士さんがいたので仕事の依頼を伝えるとそのまま「隊長室」と書かれた部屋に連れて行かれた。
 兵士さんが扉を開ける前に「頑張れよ」って言葉が気になる。

 その瞬間、隊長さんが会いたがっているって言っていたのを思い出した!

 どんな人なんだろう? 大きくて厳つい男の人に一喝されるのかな。

 扉を開け、中に入る。

「ニコ、戻っていたなら何故、私の元に一番に来なかった? ん?」

 両肘をデスクに着いて手を組んでいる女性が座っていた。
 穏やかな口調だが圧を感じる……。

「どうした? 何かあったのか? ん?」
「……リハビリをしていたので」
「あぁ、それは聞いている。しかし、何度か外出しているよな? ん?」

 あの「ん?」が怖いです……

「それは……」
「それは? ん?」
「隊長さんには万全の状態でお会いしたかったから、です!」

 ガバっと隊長さんは立ち上がって、ツカツカと詰め寄って来た!

 軍服を隙無く着こなした女性が足早に向かって来るのは怯む……が、直立不動から動けない! これが気圧されているってこと!?

 でも『鑑定』はできる!

>フレイア・フェルディアス:フェルディアス侯爵家長女。城壁警備隊隊長。規律に厳格。

 うん。やはりこの人も止事無い人だ。

「ニコ、もう体調に問題無いのか? 無理はしていないか?」

 背が高い女性に両肩を押さえられた。頭の先から爪先まで覗き込んでいる顔は影が差しているけれど、制帽に収められた長い金色の髪が外の光でまばゆく光って見える……そのコントラストに凄みを感じる。

「うん。何事も無さそうだな!」
「はい。心配をおかけして申し訳ございませんでした!」

 心配し過ぎて思いがけず僕の肩に手を乗せていたのだろう。気がついてパッと手を離して僕から離れた。 

「心配なんてしていないぞ。仕事を依頼している相手先ってだけなのだからな!」

 ……ツンデレっているんだなぁ。

「でも、ありがとうございます」
「ニコがいないと困るからな!いろいろと……な!」

 背を向けて言わなくても、可愛がられていたのは分かりますよ。


「さて、本日はだな……私の執務室で書類整理をお願いする。おい、持って来い!」

 文官と思われる人が書類の束を持ってきた。束といっても羊皮紙だから多くは無いと思う。

 文官さんが隊長さんの机の前に置かれたテーブルに書類を載せると説明をしてくれた。

「金額のチェックだ。たしかニコは計算できたよな? 時間はかけていいから合っているか確認してほしい」
「僕が見ても大丈夫ですか? 機密情報とか無いですか?」

 内容を知って逮捕、とかないですよね?

「ん? 第三者からの目で確認した方が良いって提案して実行してたのはニコ自身だっただろ? 休んでいて忘れたのかな?」

 この世界観で先進的な考えをしていたのか……ニコ、恐るべし!

「すいません。怪我した時に記憶が曖昧になっている事がまだ多くて……」

 誤魔化しの定番ワード。

「そうか……まだ大変なんだな。じゃ、ゆっくりやってね」

 文官さんは去っていった。


 さて、書類に挑もうかな……「ニコ!」……はい?

「ニコ! 記憶が曖昧になっているって本当か!?」

 隊長さん、真後ろに立っていないで!

「そうなんです。一部ですけどね」

 名前と簡単な情報は分かるし。

「では、私との仲は!? 忘れているのか!?」

「仲? ……雇い主と請負業者?的な? ですよね?」

 違うのですか!? 貴族との付き合いは食堂での話し相手だけと思っていた……。

「……二人だけの時は姉と弟として接する約束だっただろうが!」

 ……はい? 何かヤバくないですか?

「すいません。隊長さんのお名前とかは覚えているのですがそれ以外がぼんやりで……」

 『侯爵令嬢』とまでしか分かってないからね!

「『フレ姉とニコ』って呼び合っていたのに!」

 これは本当なのか……どうしよう。

 迷った時は『思考加速』と『並列思考』で脳内会議!

『どうしようもないスキルの使い方だな。呑気な僕』
「しょうがないでしょ! クールな僕、どうしたらいいと思う?」
『多分、本当にそうしていたのだろう。あの人が冗談で言っているとは思えない』
「そうだよね……軍の隊長で侯爵令嬢、生真面目な性格だからねぇ」
『そう。だから乗ってあげるのが正解だ。多分、敬語も無しだろう』
「だよね……間違っていても捕まる事も無いか」
『最悪、逃げればいいさ。僕はもうそれだけの力がある』  
「わかった。ありがとう。クールな僕」
『あぁ。言葉のチョイスだけは気をつけてな。僕なのに間違いが多いから。でじゃ、呑気な僕』 


 脳内会議終了。

「フレ姉! 少しだけ思い出してきた! 心配かけてごめんね?」 

 隊長さんが頬を真っ赤にして涙目? 間違えた? せっかくクールな僕が忠告してくれたのに!?

 そう、思っていたらぎゅう!って音がなるくらい抱きしめられた。

「よかった! ニコ、思い出してくれたか!」

 正解だった! ありがとう。クールな僕! でも、

「まだ、少しですよ? 思い出せるよう、色々教えてくれる?」
「……小首を傾げて……色々と話してやる! お姉に任せろ! 仕事はもう止めだ!」
「いやいや! 僕は仕事するからね!」

 甘やかす人、本当に多いなぁ。

「隊長権限で……でも、そうだな……先ずは書類仕事を頼む」

 さて、書類に取りかかりますか! 通貨単位はケイトに教えてもらっているので分かっている。


 因みに高額順に白金貨・大金貨・小金貨・大銀貨・小銀貨・大銅貨・小銅貨だ。
 すべて10枚単位で桁が上がる。とても分かりやすい。
 小さなパン一個で小銅貨5枚くらいらしい。前世で50円くらいな感覚だ。


 請求書と各仕入先へ支払う金額が記載された計算書類だ。

 この世界は基本的に現金取引きだけれど、国が関連する施設は一ヶ月から三ヶ月まとめて払う「掛け払い」、との事。

 請求書の金額をチェックをして問題が無ければ隅にサインを入れる。
 そして、仕入先ごとに別の紙に集計していく。改めて表計算ソフトは偉大だ。
 集計が終わった段階で経理担当?の作成した計算書類と照らし合せて確認をする予定だ。

 チェックと言っても商品単価が分からないので金額が合っているかだけになりそうだ。
 こういう事は王城の経理部門とかに任せられればいいのにね!これだから縦割り組織は……あれ?

「隊ちょフレ姉……って。わぁ!」

 デスクに戻っていたと思っていたのに後ろから覗き込んでいた。

「どうした? ずっといたぞ?」
「気配を感じなかった……流石だけど。あ、この請求書の剣の金額が他にある3枚とも違うのだけれど」
「あぁ、普通の剣と魔導石を練り込だ剣の違いだな。記載が両方とも『剣』じゃ分かりにくいな」
「あぁ、そういう事か。でも、請求書自体の計算間違い三件、計算書の集計ミス四箇所あるのでやり直しだね」
「……だれのチェックだ……ニクラウスとフレンダか!」

 書類を持ってフレ姉は出ていった。

 それにしても、すぐに終わったってしまった。
 元々の僕はこれほど早かったとは思えない。これもドリルのおかげだろう。

 そんな事を思って仕事のおかわりをもらいに大きな声が聞こえる部屋に向かった。

 案の定、二人が怒られていた。止めてあげるか。

「隊長さん、それくらいにしてあげて下さい。チェックは僕の仕事ですし」
「ニコ……」

 二人は安心した顔しないで! 仕事としては駄目だったんですからね!!

「ニコが言うなら……以後、気を付けるように」
「「はっ!」」

 収まってよかった。

「そして、思ったより早く終わったので他にもお仕事は無いですか?」

 五人ほどが僕の目の前に走り込んできてババっとお辞儀をするように背を曲げて書類を突き出してきた。


 ボリューム的には問題なさそうだけど……フレ姉、そんな怖い顔しないで!! 
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