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第23話 幕間~ ニコが去った後の食堂「まるいひつじ亭」の人々 その3
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~ ケイトとマスターと従業員 ~
「今、あの谷は狼型の魔獣が群れで住み着いているらしいです。おそらく迂回して山を越えた方が安全だと思います。大変ですけどね!」
「あ! あの廃墟ですか? 行ったんですね! やっぱり出ました? 私は嫌だなあ、死人系は!」
「やっぱり西の隣国は兵を増やしてますか……行くのならば南西の国を経由した方がいいですよ。あと数日したらあそこで座っている商人のノーンさんが向かうらしいから護衛の依頼を貰えば一石二鳥ですよ。ノーンさーん! 護衛請けてくれそうな人、いましたよ!」
「スープを少なめ? じゃ、肉を増やすね! え? 肉も少なめ? 根性ないなぁ」
「私と剣で勝負? 十年早い!」
ケイトは忙しい。
食事を求めて来る人は多いが情報と仕事を求めて来る人で客は途絶えない。
給仕をしているとケイトに頼る人は多い。普通におしゃべりをしたい人も多いが。話がしやすく、情報量も豊富だからだ。店の中で起きた喧嘩を何度も拳で沈めているので格闘の手合わせ願いも多いのが悩みだ。すべて一撃で終わっているが。
「ケイト、休憩!」
「はい! おとう……マスター!」
ケイトが調理場に戻ってきたところに声をかける。長身の上にかなりの細身で腕も筋力が乏しく見える、それなのに大盛り料理を作り続けているのは常連客達はいるも不思議に思っているが調理場は覗けない為、都市伝説の一つと化している。
「でも、ニコが復帰するのは喜ばしいね」
「そうだね。でも毎日顔を見に来なくても大丈夫、って言われたのはちょっと寂しかったなぁ」
「でも、まったく来なくなるって事でも無さそうでし。待ってあげようね」
「うん!」
「でも、ニコは毎日何をしているんだろうね? 見た感じは元気そうだったけれど」
大鍋を振るいながらケイトと話す。
「う~ん。ちょっとだけ聞いたけれど知識を付けている、って言ってたかな? 少し記憶喪失しているから、忘れている分を取り戻す、って言ってた。あの家にそれほど本とか見えないけどね。あ、一度窓から見えたのは何か必死に書き物していたかな? たまに何かニヤッて笑ったり叫んだりしていたけど……よく分からなかったな?」
「覗き見は駄目だからね……」
「鍵も預かっているからいいんだよ! いつもで来ていいって言われているし!」
「ニコが困った顔をしたら止めるようにね」
「はーい。でも何を勉強しているんだろう? ここに来れば大体の事は分かるのにね? 人も紹介できるし……そういえばたまにフッと光が射してたのは魔道具だったのかなぁ。たまに強い光が出ていて驚いたよ」
「うん。ケイト、覗きは厳禁ね……レイ!カーターさんの出来たよ!」
「ふぁーい」
眠そうな目つきの女性、レイが厨房に現れ、肉と野菜を炒めた大皿を持っていく。銀色の長い髪は飲食店だから結いてまとめているが所々ボサついており、貸与されたメイド風の制服も着崩している。
「いつも言っているけど、人増やさないの? レイとエミリとピムリの三人じゃ厳しいよ。あ、あと私の四人か。そしてたまにお母さん」
ケイトは私服にエプロンと三角巾だ。制服は常連の服飾屋のオーナーがデザインしたくれたが、背が低いと子供っぽくみえたのでケイトは数回で着るのを止めた。客には好評だったのだが。
「そうだね。増やしたいけれど情報も扱っているから信頼した人以外は難しいかな? 検討はするけどね」
「うん。ご検討宜しくお願い致します……なんて。休憩するね」
ケイトはペコリと頭を下げて奥の休憩室へ向かった。
「エミリ、今、ケイトが言っていた「光」ってなんだと思う?」
セミロングの赤毛の女性は眼鏡を指で摘みつつ考える。
「そうですね……ニコは魔法が使えなかったはず。故に魔道具の光、と考えるのが妥当かと」
「確かに妥当だ。でも書き物をしている途中で急に光ったってなんだか気になるんだよね。彼の魔道具の新作の可能性もあるし」
「調べてみますか?」
「そうだね……優先順位は「中」でいい」
「かしこまりました……マスター」
「ジョエルと組んで進めてくれて構わないからね」
「『パン屋』が使えるのはありがたいです。すぐに対応致します」
「よろしくね」
「私には何かないのか!?」
短い茶髪で猫のような雰囲気の女性が目を輝かせて厨房を覗きこんでいた。
「ピリムも着たのかい? そうだね。君は我が娘と一緒にいてくれ」
「遊べ……と?」
「……うん。それでもいいかな」
「ケイトは全てが常識外。でも天然ちゃん!」
「そうだね。だから気付く前に止めてもらえるかな?」
「……わかった!」
「そうだ。エミリ、ウチの奥さんの居場所は知っている?」
「シンディ様?北方に「旅行中」ですよ」
「そうか……ありがとう。報告しないとな」
エミリはマスターの側に寄り、
「剣聖様は北方の小国二つを平定させたそうです」
「了解。『つなぎ』も引き続きよろしくね」
「では、皆、よろしく頼むね」
三人は恭しく立礼を返す。
「承知致しました……我が君」
この国の王は……食堂にいる。
「今、あの谷は狼型の魔獣が群れで住み着いているらしいです。おそらく迂回して山を越えた方が安全だと思います。大変ですけどね!」
「あ! あの廃墟ですか? 行ったんですね! やっぱり出ました? 私は嫌だなあ、死人系は!」
「やっぱり西の隣国は兵を増やしてますか……行くのならば南西の国を経由した方がいいですよ。あと数日したらあそこで座っている商人のノーンさんが向かうらしいから護衛の依頼を貰えば一石二鳥ですよ。ノーンさーん! 護衛請けてくれそうな人、いましたよ!」
「スープを少なめ? じゃ、肉を増やすね! え? 肉も少なめ? 根性ないなぁ」
「私と剣で勝負? 十年早い!」
ケイトは忙しい。
食事を求めて来る人は多いが情報と仕事を求めて来る人で客は途絶えない。
給仕をしているとケイトに頼る人は多い。普通におしゃべりをしたい人も多いが。話がしやすく、情報量も豊富だからだ。店の中で起きた喧嘩を何度も拳で沈めているので格闘の手合わせ願いも多いのが悩みだ。すべて一撃で終わっているが。
「ケイト、休憩!」
「はい! おとう……マスター!」
ケイトが調理場に戻ってきたところに声をかける。長身の上にかなりの細身で腕も筋力が乏しく見える、それなのに大盛り料理を作り続けているのは常連客達はいるも不思議に思っているが調理場は覗けない為、都市伝説の一つと化している。
「でも、ニコが復帰するのは喜ばしいね」
「そうだね。でも毎日顔を見に来なくても大丈夫、って言われたのはちょっと寂しかったなぁ」
「でも、まったく来なくなるって事でも無さそうでし。待ってあげようね」
「うん!」
「でも、ニコは毎日何をしているんだろうね? 見た感じは元気そうだったけれど」
大鍋を振るいながらケイトと話す。
「う~ん。ちょっとだけ聞いたけれど知識を付けている、って言ってたかな? 少し記憶喪失しているから、忘れている分を取り戻す、って言ってた。あの家にそれほど本とか見えないけどね。あ、一度窓から見えたのは何か必死に書き物していたかな? たまに何かニヤッて笑ったり叫んだりしていたけど……よく分からなかったな?」
「覗き見は駄目だからね……」
「鍵も預かっているからいいんだよ! いつもで来ていいって言われているし!」
「ニコが困った顔をしたら止めるようにね」
「はーい。でも何を勉強しているんだろう? ここに来れば大体の事は分かるのにね? 人も紹介できるし……そういえばたまにフッと光が射してたのは魔道具だったのかなぁ。たまに強い光が出ていて驚いたよ」
「うん。ケイト、覗きは厳禁ね……レイ!カーターさんの出来たよ!」
「ふぁーい」
眠そうな目つきの女性、レイが厨房に現れ、肉と野菜を炒めた大皿を持っていく。銀色の長い髪は飲食店だから結いてまとめているが所々ボサついており、貸与されたメイド風の制服も着崩している。
「いつも言っているけど、人増やさないの? レイとエミリとピムリの三人じゃ厳しいよ。あ、あと私の四人か。そしてたまにお母さん」
ケイトは私服にエプロンと三角巾だ。制服は常連の服飾屋のオーナーがデザインしたくれたが、背が低いと子供っぽくみえたのでケイトは数回で着るのを止めた。客には好評だったのだが。
「そうだね。増やしたいけれど情報も扱っているから信頼した人以外は難しいかな? 検討はするけどね」
「うん。ご検討宜しくお願い致します……なんて。休憩するね」
ケイトはペコリと頭を下げて奥の休憩室へ向かった。
「エミリ、今、ケイトが言っていた「光」ってなんだと思う?」
セミロングの赤毛の女性は眼鏡を指で摘みつつ考える。
「そうですね……ニコは魔法が使えなかったはず。故に魔道具の光、と考えるのが妥当かと」
「確かに妥当だ。でも書き物をしている途中で急に光ったってなんだか気になるんだよね。彼の魔道具の新作の可能性もあるし」
「調べてみますか?」
「そうだね……優先順位は「中」でいい」
「かしこまりました……マスター」
「ジョエルと組んで進めてくれて構わないからね」
「『パン屋』が使えるのはありがたいです。すぐに対応致します」
「よろしくね」
「私には何かないのか!?」
短い茶髪で猫のような雰囲気の女性が目を輝かせて厨房を覗きこんでいた。
「ピリムも着たのかい? そうだね。君は我が娘と一緒にいてくれ」
「遊べ……と?」
「……うん。それでもいいかな」
「ケイトは全てが常識外。でも天然ちゃん!」
「そうだね。だから気付く前に止めてもらえるかな?」
「……わかった!」
「そうだ。エミリ、ウチの奥さんの居場所は知っている?」
「シンディ様?北方に「旅行中」ですよ」
「そうか……ありがとう。報告しないとな」
エミリはマスターの側に寄り、
「剣聖様は北方の小国二つを平定させたそうです」
「了解。『つなぎ』も引き続きよろしくね」
「では、皆、よろしく頼むね」
三人は恭しく立礼を返す。
「承知致しました……我が君」
この国の王は……食堂にいる。
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