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食われゆく赤い熊さん、サメ台風陸を行く

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 燃える、燃える、燃える、大公国の昔から築き上げて来た全てが燃えている。逃げ惑う人々と襲い来る死者、生と死は混ざり会い、絶対であった筈の垣根が壊れて行く。



 唯物主義と科学的合理性を標榜する国家の中心で、世界が割れる音が高らかに鳴り響く。邪悪なる死霊術師に師事した者共はそれを確かに聞いた。



 そして見た。本流の如き腐敗の力が噴出していくのを。場所はレーニン廟、赤き帝国の信仰の中心地であり、この世界では儚く消える定めになる社会主義の大本尊のある場所だ。



 社会主義と共産主義の夢。それは生者による平等な社会の実現。人類が目指すべき大いなる夢は悪夢にとって代わられる。

 

 死者の支配する世界、生ある物は彼らに屈し彼らの元で平等に奴隷となる。この世に真に平等なのは死だけなのだ。



 ここモスクワで必死に生にしがみ付く者はそれを否が応でも理解せざるを得ない。何故ならば「死」その具現が屹立している。砲火を振りまき、生者の人生を永遠の隷属に落とし込まんとしている。



 「死」の具現。崩れ落ちたモスクワの尖塔を踏みしだいた姉妹の名を大和型戦艦と言った。



 揺ら揺らと揺らめく火災の陽炎と、此処まで聞こえる絶叫の心地よい響きを聞きながら、本作戦の主力であるモスクワ殴り込み艦隊の司令に任じられた男は、姉妹から離れた位置、赤の広場に陣取る空母赤城の艦橋で口角を上げながら指示した。



 「本国に打電しろ。我、ルビコン川の渡河に成功、我らこれよりローマを略奪せん」



 そう言った指示したのち。やや今のセリフに恥ずかしくなったのか、隣で戦場音楽に耳を傾けているもう一人の男、邪悪なる死霊術師に司令、南雲忠一は話しかけた。



 「しかし誰だい、この呼称考えたの?詩的に過ぎるよ。言う方は恥ずかしくて敵わん。第一ここロシアだろ?どこがローマなんだい?」



 軍帽を脱ぎつつ頭を掻く南雲。隣の男、死霊術師永山はバツが悪そう答えた。



 「陛下です。あの方ノリノリでして。ロシアは第三のローマを名乗っていたからピッタリだって言ってました。」



 「あっ、そうなの?それなら仕方ないか。陛下のお考えには逆らえんもんなぁ。それなら山本さんが簡単に登る山を撤回する訳だ。」



 永山の答えに暫しの沈黙が艦橋を支配する。そこに勢ぞろいしていた参謀連中もバツが悪そうである。自分達海軍は政府も陛下も引きずり回していた手前、そこに乗っかってサーフィンされると何も言えない。



 何だか脳内に大波に乗った陛下が笑いながら連合艦隊を押し流して行く姿が溢れる、海岸には逃げ惑う陸軍の姿も見えた気がした。石原と東条が仲良く溺れ、辻を含む惨暴連中がゾンビサメ台風に食われている。



 「ゴホン。そうであるなら文句は言うまい。それよりもこれからだ。スターリンは此処から逃げていないんだろう?陸戦隊を下して捕縛せんとな。腹も空いたし、、、安田参謀!志願者を募れ!防空に当たる者以外は出して構わん。それと私も後で参加する、全部食うなよ。降伏する者は許してやれ、後から来るモンゴル軍の連中に無暗に奴隷を殺すなと言われているからな」



 一瞬流れた白けた空気。それを振り払う様に南雲提督は指示を下した。彼もまた悪鬼なのである。これから楽しいパーティなのだ。何だかどーしてこ-なったかなーと言う空気は宜しくない士気に関わる。



 「永山くんもだ。行くんだろう?頼むから皆殺しは止めてくれよ。死体兵のを制御してくれんと困るよホントに。スターリンにはせめて降伏文書に署名するまで生きたままでいて貰わんといけないからな」



 「人の事を快楽殺人鬼みたいに言わんでくださいよ南雲さん!楽しんで殺すのはあなた達だけです!」



 「それもそうか。しかしわからん物だなぁ。人であった頃は、此処まで儂残酷ではなかった気がするんだが、、まっ良いか、兵も腹ペコだし」



 「そうですよ。深く考えると長生きできませんよ南雲さん」



 「儂らもう死んでるけどね」



 小粋な冗句に思わずダッ~ㇵッㇵッハと笑う一同。結構暗性格だった南雲さん明るくなったものである。





 さてここで、彼らはどこから来たのかご説明しよう。現在モスクワを襲っている連合艦隊は第一機動艦隊に大和・武蔵・信濃・紀伊を主力とし多数の重巡洋艦を含む打撃艦隊である。



 彼らはハルピンを出発し、遥か極北のツンドラ地帯を北極圏ギリギリの航路をとってやってきたのだ。概ね史実のハワイ奇襲作戦と同じくらいの距離だ。



 これにソ連は気づけなかった。それはそうだ。戦線はグチゃグチゃで、敵も味方も入り乱れ、上がってくる報告は巨大な陸上兵器が暴れまわっているとしか伝えてこない。



 考えても見て欲しい。ここは陸上なのだ海ではない。専門の教育も受けていない兵士に陸上で、大和型と特設巡洋艦の区別が付くはずもない。



 陸で見ればどれも途轍もないデカさの巨大兵器だ。通常、陸で動く巨大兵器とは最大でも列車砲位な物が普通なのだから見分けが付かない。



 それにである。長門も陸奥も扶桑も山城も暴れている。金剛級などは姉妹揃って高速で大陸をウロウロしている。補給の事など考えなくて良い。町を襲えば幾らでも血と肉で補給できるし、戦場に赴けば、幾らでも弾も資材も向こうからくる。燃料は気にしなくて良い、漆黒のタービンには時空を超えて魂が幾らでも注がれいる。



 鋼鉄の姉妹たちは戦場を支配するカーミラの姉妹だ。彼女らの船体には機銃座に交じり、血に濡れた捕鯨砲の様な物が幾つも備え付けられてる。それらが火を拭けば、目刺しにされた哀れな犠牲者が引き上げられ血と肉を姉妹に捧げる事になる。



 吐き気を抑えて乗艦する生者の兵には歩く補給船が後ろから付いてくる。必要なのは食糧だけなのだから補給線に掛かる負担も少ない。



 かくして殴り込み艦隊はチョーシ湾付近から直線でモスクワを直撃した。ソ連も迎撃はした。出せる航空機は全て出し、迫る巨人を押しとどめようとした。



 だが全てが無駄だった。第一機動艦隊は全ての艦載機を戦闘機に載せ替え防空に徹していたし、そも陸用爆弾で戦艦を止められる筈もない。陸上で魚雷をどう使えと言うのだ?沈められない船、血と肉さえあればあっと言う間に補修される巨人をどう止めろと?ドイツだってスモレンクス付近にまで迫っている現状でだ。



 1941年12月8日未明、46サンチ砲の一撃がモスクワの尖塔を吹き飛ばした。そして虐殺が始まったのである。 



 蠢く死者に内臓を生きたまま貪られる熊は断末魔の悲鳴を上げた。
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