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馬行かば

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 大日本奇襲フェチ帝国with騎馬民族帝国軍団は、トムスクを灰に帰るとソ連にたいして、全戦線で猛烈な勢いで攻勢を仕掛けてきた。この攻勢の要は言わずもがなであるが騎兵である。



 騎兵。嘗ては戦場の花形であった決戦兵科は、この時代ではその役割を終えていた筈の存在である。ご存じの方はご存じであろうが、何故にこの兵科が役割を終えたと考えられる様になったか掻い摘んでお話しよう。



 端的に言えば変わりができたのだ。内燃機関を持ち、燃料の続く限り走れる上位互換が生まれた事で、御馬さんは前線ではお役御免となった。



 勿論、今でも各国で兵科として存在はしている。機械機械と五月蠅いドイツだって、機動部隊として前線に投入すらしている。



 だが決戦兵科ではない。逃げる相手を追いかけて、戦果を拡大する役目は、騎兵には最早望まれていないし、大機動して戦列の横っ腹を食い破る役目も期待なんぞされていない。



 あるから非常用として使う。その変で騎兵はお茶を濁されているのが各国での現状である。



 現在御馬さんに期待されるのは、荷馬車を引いて補給を維持する事、日増しに重くなっていく大砲をひーこらバヒンと引く事だけである。斥候も偶にはするが。その輸送でさえ、新参者に奪われつつあるのが現状である。



 新参者。ガソリンをがぶ飲みする機械のお化けは、第一次乱痴気騒ぎを経て、騎兵から全てを奪い取ろうとしている(馬からしたら、やっと虐待しか、してこない猿と縁を切れた思っているかもしれないが)



 馬から見れば、数千年にわたる奴隷労働からの解放者である新参者の名、それは自動車である。



 彼らは眠らない。病気にならない。山の様な飼葉も食べない、一日水を飲ませないでも良いし、都市問題になる程、馬糞をまき散らさないし、何より死なない。



 例え155mmの至近弾を受けても、根気さえあればバラバラになった部品を取り換えて彼らは動くことができる。馬は馬肉として食う事しか出来ないが、散らばる鉄屑は再利用する事さえ出来る。



 ブラッシングを求めてこないし、気性難な馬は居ても、どんな車も座席に座っただけの人間を空高く放り出したりはしない。真に機械の馬は便利な存在である。



 機械は弾雨鉄火の中に飛び込む事に文句は言わない。機械は毒ガスと鉄条網と地雷の花園を嫌がらない。乗っている愚かな猿が、悶えたり、穴だらけになったり、突如飛び込んで来た速射砲弾でゼリー状に混ざりあったりするだけだ。



 乗ったら早いと言う利点を見出されてしまった為、数千年に渡り、あらゆる戦場で望みもしないのに、猿と一緒に肥料に転生する羽目になった奇蹄目たちは、機械の後輩の登場により、戦争の歴史から漸く解放されようとしている。



 史実ではの話であるが。



 この世界では事情が異なる。前述した機械の利点を再度上げてみよう。病気にならない、補給するのはガソリンと部品と少々の水や油でだけ、そして死なない、壊れるだけだ。直そうと思えば修理は出来る。



 もう一つある。猿の中でも殺戮に関しては異様に知恵のある連中が思いつく限り、幾らでも頑丈に作れる。



 馬はそうは行かない。精々で馬鎧程度ある。そんな物で銃弾は防げないし、砲弾は許してくれない。だが自動車と言う物は違う。



 分厚い装甲に、避弾経始だ、空間装甲だ、未来に行けば爆発何とかとかチョバムが如何したとか、テクノロジーと妄想が許す限り彼らは装甲を盛りに盛る事ができる。



 その様な殺戮しか出来ない専用機械を戦車とか装甲車とか呼ぶ。彼れは「乱痴気泥レスリング!命をポロリ!天使が呼んでる!先進国様御一行挽肉劇場!」の最中に生まれた。(蒸気で動くのはボーア戦争からあるがガソリン駆動はこれが最初だろう)



 初期の彼らは、無様で鈍くて壊れ易くて、命を預けるには相応の覚悟と根性と神のご加護が必要であったが、現在では違う。彼らは戦争には無くてはならない存在にまで進化を果たした。



 彼れは銃弾を弾き、砲弾をいなし、塹壕を乗り越え、時に地雷を踏んだり、肉薄攻撃でサヨウナラしながら頑張っている。



 馬にはこれは出来ない(馬の方でも御免被りたいであろうが)



 馬は生き物だ。撃たれたら死ぬ、一日食わなければ病気になる、暑さにも寒さにも弱く、水を飲ませない等持ってのほかだ。



 さて、ここからが本題である。要するに馬は装甲化も出来ず、脆弱で、一度死んだらそれで御仕舞な生物兵器だ。その様な馬が何故に長らく決戦兵科であったのだろうか?



 それは早いから、そして衝撃力と言う奴があるからだ。考えても見て欲しい。槍をやるから時速数十で迫る数百キロの物体の集団を数百人で止めろと言われて止められるか?その上、その物体の上は槍やら剣やらを振り回す二足歩行の巨大猿類が乗っているのだ。



 無理だろう?鉄条網と機関銃が無ければ嫌だろう?馬防柵や荷物を満載した馬車の壁か、足を繋いだラクダの群れが欲しいだろう?



 これらの対抗策は偏に騎兵が強力だから考え出されたのだ。火縄銃が生まれたからと言って重騎兵の時代が直ぐに終わった訳ではない。



 直ぐに終わる様なら、ポーランドはウィーンを救えなかった筈だ。騎兵は強いのだ。



 彼らが弱いと言うか直ぐに死ぬとか思われているのは



 「男だった度胸一番!鎧なんざ捨てて剣で突っ込め!」



 と近代騎兵戦術の基礎を気づいた北方の獅子さんのせいだろう。彼の時代から、騎兵と言うのは高価ではあるが凄い勢いで摩耗する消耗品だ。下手をすれば歩兵より死ぬ、馬もそして人も。



 そう死ぬ。人馬一体、白刃を振りかざして、銃弾と砲弾と銃剣の海に飛び込めば何時かは死ぬ。胸甲を付けていても至近では貫通する、弾いても勢いで振り落とされ後続に踏まれる。



 「陛下は我々の勇気を疑っておられる!」



 と胸甲の着用を拒否する馬鹿の気持ちも分かる。騎兵と言うのは度胸がなければ務まらないのだ。



 であるなら答えは簡単だ。問題は解決出来る。



 既に死んでいるならば何の問題もない。











 異様なる戦闘が繰り広げられている。何が異様かと言えば、本来であれば一方的に終わる筈であるその戦いは、一方的な勝者であるべき存在が次々と討ち取られ、無残ま屍を晒している事である。



 余りにも早いトムスク陥落の報を受け、猛烈な速さで戦線を広げる敵軍に対して、その先方を撃滅する為に派遣された快速戦車部隊と二個自動車化狙撃兵旅団が師団規模の「騎兵突撃」を受けて敗走しようとしている。



 敵。日本軍の先方集団は騎兵であった。これで負ける道理が無いのだ。陥落しつつあったトムスクからの悲鳴の様な報告にあった巨大兵器でも、万を超える死体の津波でもない騎兵に、そう騎兵に負けて良い筈はない!



 

 断続する銃声と砲声の中、混乱の渦中にある乱戦の最中、ドミトリー兵長はそう考える他は無かった。



 (なんでだ?なんでなんだ!なんで俺たちは騎兵如きに負けているんだよ!)



 ソ連とて死体の群れを持ってルーシの地を犯す魔の軍勢になんの対策もしていなかった訳ではなのだ。一連の衝突で効果のあった、機関砲、迫撃砲の大量配備。



 戦車定数を倍にし、徹甲弾を下して大量の榴弾を積み込んだ上に、出来うる限り装甲車を部隊に配置し、群れで襲い来る死者の津波に対抗しようとしていたのだ。



 (それが、、、それがなんで、、、)



 「兵長!後ろ!」



 誰が叫んだのだろうか?だが誰でも良い。渦巻く疑念を一時おいてドミトリー兵長は勢いよく横に転がり込む。頭の上を錆だらけのサーベルが掠めていく。



 「来やがれバケモン!」



 命を拾った彼は、急いで立ち上がると、彼を仕留めて損ねた騎兵、ボロボロの革鎧を纏った骨に向かい兵長は叫んだ。兵長の手にはスコップが握られている、この乱戦は既に兵士一人一人が自分の命を守る為の白兵戦へと移っているのだ。



 事は数時間前に遡る。偵察に出た観測機より、敵騎兵の大規模集団を発見した部隊は、これの撃滅を企図し、攻撃を行ったのだ。



 はっきり言って楽勝と言って良かった。敵はなんの空中援護を受けて居らず、空から叩かれ、部隊からの砲撃をこれでもかと浴びせれれ四散する筈であったのだ。

 

 だがその勢いは衰えなかった。それどころか獲物を見つけたと言わんばかりに一直線にこちらに向かってきたのだ。これまでの戦訓では、如何な雲霞の如き死体の群れであれ、ある程度の砲撃を受ければ、数を減らせた筈なのにである。



 それでも彼らには余裕があった。所詮は剣と弓しか持ち合わない骨の群れである。戦車と装甲車を前に立てて蹂躙はできるであろうと考えたのだ。だが違った。ソ連軍は忘れていたのだ。相手の後ろには本格的に日本がいると言う事を。



 あらゆる妨害を受け遂に盾となる装甲部隊に肉薄した騎兵の一部、それは手にしていた。騎兵が無謀としか言えない突撃を戦車にした時それは爆発した。



 爆発は次々と各所と連鎖し、死体がその様な事をしてくるとは夢にも思っていなかった為、壁として立ちはだかっていた装甲部隊を混乱に陥れる。



 骨の騎兵は手にしていた物。その名は刺突爆雷と言う。史実であれば末期も末期に投入された自殺兵器は既に死んでいる兵士にとっては最高の対戦車兵器なのだ。



 考えれば簡単だ。別に使う者の事など考えなくとも良いのだ。そこに騎兵と言う勢いがあって素早く敵に肉薄できる使い捨てがいるのだから、大日本人権無視帝国の誰かが思いつくのも無理はない。



 次々と戦車に突撃する誘導爆弾たち、そして仲間の死等(すでに死んでいるので)気にもしない騎兵たちが煙を上げる戦車の間から飛び込んで来る。



 群れ成す死体への効果的対処として古のゴウリャイ-ゴゥロト戦法、所謂ところのウォーワゴン戦法を装甲部隊を持って取っていたのが仇となった。次々と飛び込んでくる騎兵の群れに纏まっていた部隊は大混乱に陥ってしまったのだ。



 



 「ちくしょう、、、いてぇ、、なんなんだよアレは、、」

 

 黒煙を上げる累々たる屍の中で、ドミトリー兵長は意識を取り戻した。あの後、戻ってきた骨をスコップで粉々にしてやった所までは覚えている。



 だが此方の車両にやたら目ったら、あの爆雷で突撃する骨共のせいで爆風に飛ばされ自分は意識をうしなったらしい。

 

 既に夕闇が迫りつつあり、不気味な霧がそれと共に彼の体に纏わりついてくる。そして気づいた自分は何かに引きずられているのだ。



 「なんだてめぇ!離せ!離しやがれ!オイ!誰か!ボイコ!ワシリ!誰か居ないのか!」



 先ほどまで自分と共にスコップを振るって忌々しい骨と渡り合っていた戦友を呼ぶが応える者はいない。

恐ろしい程の静寂、パチパチと燃える車両の音と無言で辺りをうろつく骨の騎兵の足音と蹄の音だけが響いている。



 暫くすると、自分と同じように、死体となった戦友たちを引きずる骨がそこかしこの廃車の間から這い出してくる。猛烈に嫌な予感のした兵長は今度こそ大声を上げて喚き始めた。



 風に乗り呻き声が聞こえる。どうやら負傷者や死体はどこかに集められているようだ。兵長の体に纏わりつく霧は更に濃くなり、呻き声と共に物悲しいとしか聞こえない声が耳に聞こえてくる。



 日本語を解さない兵長には分からないが、その詞は大伴家持の詞であった。その唄は段々と近づいて、そして、その唄に合わせて、運ばれて行く戦友たちの亡骸はピクリピクリと動きを見せているのを兵長は見た。



 霧は更に深くなり、夜の闇が全てを飲み込む様に静かに彼の体に染み込んでいく。その時兵長は直観した。



 (俺たちは、こいつ等に変えられる為に集められている!)



 兵長の喚き声は遂に叫びに変わった。



 「嫌だ!てめぇらの仲間になるなんて嫌だ!」



 だが無常な時は近づいて来ている。物言わぬ戦友たちは積み上げられ、その周りを爛々と目を光らせた悍ましい者たちが囲んでいるではないか。



 「助けて!誰か!助けてくれ!いやだぁ!」



 叫ぶ兵長をチラリと見た悍ましい者たちは笑いながら彼を死体の山にくべる様に骨に顎をしゃくる。そして血と糞尿そして臓物に塗れた死体の山はモゾモゾと動き泣き喚く彼を優しくそしてガッチリと掴みその奥へ奥へと引き込んでいく。



 最後の時、必死に藻掻く彼の耳に「大君の 辺にこそ死なめ」と言う唄が確かに聞こえた。

 

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