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YESかNOか!お返事は?

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 ソ連運命の日。それは突然に訪れた。



 裏切者で卑怯者、人倫なんぞ芥子粒程も持っていないドイツが殴り込んでくることは、諦観と共に受け入れていた。



 それほどまでにソヴィエトは弱い国だと思われているのは重々承知している。承知したくはないが知っている。



 「くそ!てめぇらも死体の群れと一度でいいから格闘してみろ!」とも思っている。



 だから嫌々ではあるが受け入れた、非科学的で非人道的で苦恥辱的でホントだったら、技術者と名乗る猿の群れ事、凍土に捨てるか、コリマに埋めてしまいたい、死霊術とか言うペテンさえ受け入れたのだ。



 独ソの国境には、人民の非難を雨霰と受けながらも、骨と死体を積み上げ、科学の徒である筈のNKVDは、墓荒らしに鞍替えしてまで、国内にある遺跡と言う遺跡で、黴臭い骨を収集しているのだ。



 





 「そこまで努力した言うのにこれだ、、、、、」



 モスクワの赤き宮殿にて、鉄の男は嘆息する他はなかった。もう怒る気力すらない。主治医からは「粛清を覚悟で申します同志。これ以上血圧を上げますと。何時倒れても可笑しくはありません。何卒、飲酒と激昂を御控え下さい」とすら言われてしまった程、自分はこの所、心労を抱えている。



 「ペテン師共等、初めから信じるべきではなかったのだ、、、、、」



 呻くように言った彼の手には、ある報告書が握られていた。それは、肉を徹底的なまでに切り刻まれ、骨の馬に乗せれてサマルカンドから帰ってきた、ミハイル・ゲラシモフと彼の率いていた調査団が携えていた、「降伏勧告文書」の訳文であった。



 形振り構わず戦力を補充しようとしたソ連は、特に当てに出来そうな補充さきとして、ソビエト構成国の英雄英傑の墓所を暴いていたのだが、その最大の当てが蘇った途端に反旗を翻すなど誰が考えようか?



 「朕は王の中の王、草原と大地の支配者、信仰と人民の擁護者として、蛮地の長に告げる。そちは不遜にも朕の眠りを妨げ、朕の財、朕の民、朕の国を汚した。これは本来であれば許されざる罪である。だが朕は寛大であり、先にこの地に戻った父祖たちもまた寛大である。馬を降り、剣を捨てよ。大ハーンと、その正当なる子孫の支配に再度服すが良い。これは慈悲である、二度はない。敢えて手向かうとあらば、そなたらの父祖たちと同じ運命が、そちを見舞う。此度は慈悲は掛けぬ、そちらをを含め、全ての神を信じぬ愚か者たちは、永久に朕と父祖らの元、奴婢として跪く事になるであろう。長くは待たぬぞ」



 「なんなんだこれは」



 流石に、命を懸けてまで「お前このままだと死ぬぞ」と言われているので、激昂はしないが、文書の余りの内容に、鉄の男の冷たい怒りは室内を震わせ、その場にいた者たちを、氷付かせた。



 「なんだと聞いている」



 再度の質問に、だれもが応えない、答えたくない。粛清ならまだ良い。今のソ連には「永久労働刑」等と言う最悪を通り越した刑罰が存在するのだ。



 「死体に自我ですか?在りますよ。そりゃ、ありますとも、何しろ魂が入ってますからね。おや?何を青くなってるんですか?当たり前じゃないですか、だから言う事を聞くんですよ。安心してください。逆らったりしませんよ」



 にやけ面でそう言った、マカクの技術者の言葉は、ソ連上層部以外には、緘口令が敷かれているが、大体の人間が薄々は気づいている事実だ。鉄の男の支配が度重なる失態に会っても盤石な正体は、この法律を彼がいつでも執行できる立場に居るからに他ならない。



 誰だって永遠に労働(それも奴隷的な)に服したくはない。神を信じぬ唯物主義者だとは言えど、永遠の言葉は軽くはない。

 

 しばし(お前が応えろ!)(お前が言え!)(何か言え)の視線が飛び交い、最後にはメガネの禿に集中する(NKVD!責任を取れ!答えろベリヤ!)



 その視線に押される様に、NKVD長官ラヴレンチー・ベリヤは恐る恐ると言った風に発言をする他はなかった。全国に広がるNKVDの支部を使った死体集めは、彼の仕事でもある。



 (私のせいじゃねぇ!マカクが悪いんだ!資本主義の猿共!帝国主義の猿が悪い!地獄に落ちろネクロフィリア共!)と思った所で責任の所在は明らかである。



 「あのぅ、同志スターリン?」



 「ベリヤ。これはどういう事だ?なぜ私は、原始人からこんな物を突き付けられているんだね?」



 「ひっ!そ、、、それはですね。技術者が言う所によりますと。儀式が甘かったそうで、あれですよ。死んだゲラシモフの奴が、止めるのも聞かずに、石棺を開けたそうでして、、、そうです!ゲラシモフ!あいつと学者連中が悪いんです!我がNKVDの技術者は適切な対応を用意しておりました!同席した日本人の方もです!」



 恐怖の余り一息に喋るベリヤ。冷酷なかれでさえ、永久の労働は御免被りたいのだ。他人は嬉々として送り込むが、、、



 「それで?ゲラシモフは死んだぞ?彼は責任を取って永久に労働中だが?君はどう責任を取ってくれるのかね?」



 (こっ!殺される!嫌だ!なんで私がこんな目に!)



 蛇に睨まれたカエルである。ベリヤに残された道はどれだけあるだろうか?



 「どうした?私に教えてくれないか?君はどうして責任を取ってくれると聞いているんだが?」



 地獄の圧迫面接は続く。だがそんな彼に助け船がきた、、、、泥船ではあるが助け舟である事は確かな船だ。



 「失礼いたします同志スターリン!緊急事態です!」 



 飛び込んで来た船は凶報であった。その時が来たのである。つまりは、、、、



 「ドイツが攻め込んできたのか?」



 ふぅーと言った感じで息を吐き、驚きもせずに鉄の男は答えた。彼として、これは八つ当たりでしかない事は知っている。胸の内にある怒りを吐き出さない事には、自分でも先に行けないと思って、無能な部下に当たっていただけだ。部下の方は死にそうだが、、、、



 「はっ!その通りであります。前線より至急の指示を求める報告が届いております」



 「どいつもこいつも、、、自分の頭で考えらんのか?計画は変わらん、どうせあの三流絵描きは凝りもせず死体を先頭に攻め込んできたのだろう!ベリヤ!」

 

 「はい!同志!なんでしょうか!私、なんでも致します!ですから永久労働は何卒部下に!」



 限界を迎えそうになっていたベリヤは、思わず本音を口走る。それを無視してスターリンは指示を飛ばした。



 「君を死体に変えても事態は変わらん!さっさと部下に死体を起こす様に指示しろ!こうなれば根競べだ!一人でも多く死体を前線に送れ!行け!他の者も何をしている!仕事に戻れ!それとも前線に行くか?」



 飛び上がる一同が役目を果たすべく走り出す。それを見送ると、鉄の男は手にしていた文書をくしゃくしゃにして放り捨てた。



 「良いだろう!原始人ども!何時までも中世だと思っている様なら、こちらにも考えがある!人民の力を侮るなよ!纏めて地獄に叩き返してやる!」



 放り捨て文書を踏みつけつつ。遂に怒りを爆発させたスターリンは、長くなるであろう戦いに決意を固めるのであった。彼もまた王なのだ。主義や主張に関わらず、王たるものがそう簡単の首を垂れて許しを請う筈もない。



 「かかってこい!相手になってやる!」

 

 ソヴィエト連邦のツァーは、燃え上がる瞳で雄叫びを上げた。









 

 アメリカ合衆国 ハワイ

 

 ところ変わって、ここは常夏の国であるハワイ準州。そこでは常闇の国の住人が、自由と信仰の国の住人と会談を行っていた。



 急遽、大日本魍魎帝国から秘密会談を行いとの連絡に、合衆国は答えた。海軍力はゼロに等しく、頼みの死体も海を渡れないのであれば、大物が出張る必要もない相手に成り下がった帝国に、国務長官を送り込んできている。



 それほどの話なのだ。下手をすれば合衆国を揺るがしかねない程の。





 「ソ連を売って下さい」



 会談開始後、開口一番でたのは、顔色の悪い男、帝国顧問魔術師等と言う胡乱な肩書の男の声であった。



 「何を言っとるんだね君?私は大統領閣下から、貴国から大変な提案があったと言われたから、ここに来たんだぞ?それをいきなりなんだね?ソ連を売れ?どう言う意味だ?」



 藪から棒にすぎる。何故か緘口令まで引かれて極秘会談を指示された彼、国務長官コーデル・ハルに取って無礼千万なこの男は、理解の出来ない存在であった。



 「こら永山君!それでは訳が分からんだろうが!もっと段階を踏んでだな」



 「いゃぁ、御免んなさい。何時も僕の周りにいるお偉方はぶっ飛んでるもんでつい」



 「それは君の性だ。失礼しました長官。この度の会談はですな、貴国に対しても大変にメリットがあるものでして、、、、」



 (なんだこのノリ、、、こいつこんな性格だったか?日本人はもっと陰気というか物堅い感じだったはずだが?)



 永山を窘めた日本国外相、松岡洋右の軽いノリに訝しがるハル長官。そうであろう、サングラスも外さずに会談に臨む(光線過敏症だと言っていたが)この男はヘラヘラしている。居酒屋談議に来たようだ。



 「昨晩は常夏の国を満喫しましてねぇ!」



 とか何とか、人を馬鹿にしたように言ってさえいる。



 「でっ?何が言いたいのですかな?御ふざけ止めにして貰いたい。私も大統領からは何も聞いて居ないのです。正直な話、この会談について、絶対秘密とまで言われて送り込まれた物でしてね」



 いらいらするが席を立つ訳にも行かない。



 「訳は言えないが、絶対に纏めて来い!絶対だぞ!繰り返すが絶対に、この事は漏らすな!特に共和党にはだ!」



 と言われて送り込まれたからだ。ホワイ?皆こいつ等の様に、頭緩くなったのか?



 「単刀直入に申しましょう。我が国は友邦であるモンゴル帝国、満州帝国と共にソ連に攻め込みます。で・す・の・で邪魔しないで下さい」



 「はっ?今何と?」



 「はっはっは!長官らしくもない。ですからソ連をぶっ殺します。ギタンギタンにしてボロボロにして、血を抜いて剥製にしようと我が国は思っております。勿論、領土出来野心ではありません!」



 頭が痛い。こいつらが異次元人に見える、、、戦争しますからじゃましないで?うんと言えるか普通?なに考えてるんだ?



 「なんですかな?我が国に侵略戦争に目を瞑れと?私の耳がおかしくなった訳ではないとすれば、その様に聞こえるのですが?」



 「「はい!」」



 同時に返事をする馬鹿なジャップ、こいつ等猿だ猿だとは思っていたが、本気で退化しているのか?



 「なぜその様な事に合意しないといけないのか、理解に苦しみますが、本気でお言いになっているなら、帰らせて頂きたいのですが?」



 そうだ帰ろう。大統領が何を言っても帰ろう。こんな事に時間は使えない。それこそこんな会談してると共和党にバレれば政治生命も危ない。



 「良いのかなぁ~、そんな事言って~」



 更に挑発する猿。魔術師がなんだモンキー。あまり人間様を馬鹿にするなよ類人猿。



 「何が言いたいのですかな?時間も在りませんし、率直にもうして頂きたい」



 帰りたい、凄く帰りたい、そして大統領に対日全面戦争を具申したい。



 「長官もご承知の通り、我が国は貴国に凄ーい薬を輸出しております」



 その話か。禁輸するぞと脅すつもりか?馬鹿な!そんな脅しのるか!太平洋艦隊を送り付けてやろか

エテ公!



 「実はそれ、新薬の開発に成功しましてね」



 「ほう、お聞きししましょう」



 やっと取引らしくなった。聞いてやろうではないか。



 「今度のは廉価版の方にも、若返りの効果があります。それと閣下も、それに大統領閣下もご使用の高級品ですが、、、、」



 なんだなんだ!何を言う気だ?廉価版にも若返りだと?もしそんな物が流通したら、、、、その上にまだあるのか?



 「不・老・長・寿」



 (まてなんと言った?まさか!)



 「ええ寿命を大幅に伸ばせます。ラットでの実験では凡そ五十年、二本飲めば百年、これを御譲りしても良い。それも三分の一の値段で」



 「それは、、、だからと言って!戦争に目を瞑るなど!」



 (そうだ!若さにつられて道義を曲げる事など合衆国にはできん!)



 「あれ~こんな事言ってますよ、松岡さーん」



 「それは困ったねぇ永山く~ん」



 (こいつら!人をどこまで馬鹿に!もういい!)



 「失礼する!合衆国はその様な脅迫には載らん!」



 

 席を立とうとするハル長官。だがそこにチャランポラン、二名の言葉が追いかけて来る。



 「我が国のだーいじな顧客について話なしましたっけ松岡さ~ん」



 「してないなぁ、永山く~ん」



 「モルガン、スタンレー、GM、フォード、あ~共和党の人もいた様な気がするな~」



 (そうか!それで閣下は秘密にしろと!もしこれが共和党の連中に漏れたら!)



 「そう言う事ですよ閣下。良いんですよ我々は、「民主党を相手にせず」と言っても、我が国は共和党が政権を取った時だけ、薬を下させてもらいます」



 「そっ!そんな無茶苦茶な!第一、それでは我が国も覚悟があります!国民が納得しません!力に訴えろと世論が成ろうとも我が党は責任を持てませんぞ!貴国の海軍力は御存じな筈だ!」



 「結構!薬が手に入らないから戦争する大いに結構!アヘン戦争以来ではないですか?その様な開戦理由!ですが貴国が我が国を締め上げるのに何年掛かりますかな?五年?十年?殺せば宜しい!幾らでも蘇らせましょう!忘れて貰っては困りますが、私が本家本元の死霊術師ですよ?七千万の死体の詰まった列島を征服して御覧なさい!反乱は心配ございません!死ねば死ぬほど味方は増えるのです!究極的に言えば、私と陛下さえいれば我らは負けない!」



 思わず気圧される長官。



 (こいつ等狂ってる!)



 「考えて御覧んなさいよ閣下。百年寿命が延びた連中はもう百年欲しがるでしょう。彼らの投票権奪えますか?彼らは誰に投票します?金持ちは永遠に金持ち、特に御国の様な資本主義国家ではそうでしょう?若返った貧乏人もです。不老と長寿を永久にもたらした党が、政権を追われます?飲んでくれれば、我が国は優先的に民主党政権に薬を下すと正式に契約しましょう」



 (どうする?どうしたら良い?矜持か不老長寿か?永遠の政権与党が目の前にあるんだぞハル!)



 「もっと言いますか?廉価版もですが、基本的に既知の病は治せますよ?疑問に思うのでした試供品をお渡ししますから試したらどうですか?ホラ黒人は一杯いますからねぇ、あ~あ、医療費も年金も何処かに行く気がするなぁ~。ねぇ松岡さ~ん、ハルさんお嫌みたいだからハーストさんの所行きましょうか?」



 「いいねぇ~!外務省予算でどーんと広告打つか!」



 「待て!待ちなさい!待ってプリーズ!」



 新聞王の名が出た時、ハル長官は折れた。何を書かれる物だかわかった物ではない。



 「一度だけ、大統領と話をしたい。流石にこの件は私でも即断は出来ない。全権委任された身としては情けない限りだが待って欲しい」



 「良いですよ。ねっ松岡さん」



 「良いですとも!それまで我々はハワイの夜を楽しんでおります」



 こうしてチャランポランで頓智気でどーしょーもない会談はひとまず終わった。



 結果?それはお楽しみ。
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