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3ー愛の着地

78 祝福と恥ずかしさ

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  城門の前には多くの忍びや恐竜たちが集まり、皆で大歓声をあげて祝福してくれている。いやでも今日が婚姻の儀が執り行われる吉日であると、自覚せざるを得ない。

 身体が震えてしまう。お慕い申し上げている王子の正妻に、まもなくなるのだ。わたしは身体中から喜びが湧き上がるのを抑えきれない。

 ――信じられない。

 城門から離れた部屋で、豪華な婚礼衣装を身につけるのをお付きの者たちがテキパキと手伝ってくれた。お化粧を丁寧にされ、皆口々に誉めそやしてくれる。

「まあ、お美しい」「王子さまもさぞお慶びになるでしょう」などの言葉のオンパレードで、王子に会う前から顔が赤らんでしまう。城門で皆々が祝福の大歓声を上げているのも、ずっと聞こえている。

「おめでとうございます。沙織さま」

 城内の者たちからも大変な祝福のありように、わたしはまだ慣れない。恥ずかしくなってしまう。ついに貧しい家の娘であるわたしが王子の妻となり、やがては妃となってしまう。

 しかし、今晩からの問題を解決しなければならない。

 城の王子の自室で寝ると、令和側では多摩川河川敷で目が覚めてしまう。平成だった高校生の頃、顔が綺麗過ぎるという理由でバイト先でいじめにあったことのある23歳のわたしにとって、このまま多摩川河川敷で寝泊まりを続けて良いとは思えない。

 早急に寝泊まり場所を城内で確保する必要があった。婚礼の儀のあとも、今晩ですら自分の小さな部屋に戻らせて欲しいと言っても、王子も王子の母上もきっと許してはくれないだろう。

 ――今のうちに城内を探索して、何とか安全に眠れる場所を確保しなければ。
 
 王子と王子の母上が、ジャージとトレーナーに着替えてどこかに行ってしまったので、そのわずかな時間を利用して城内を散策してみよう。王子の母上の幸子さんは、きっとガッシュクロース侯爵夫人と落ち合って冒険をしているのだろう。

 ――今のうちだ。

 私が秘密のお妃候補だった頃から城内の者たちはよくしてくれていた。53年前も、53年ぶりに戻ってきてもそれは変わらない。わたしはお付きの者に声をかけた。 

「少し、緊張しているので歩いてきてみても良いかしら?」 
「はい、分かりました。」

 3人の侍女らしき者たちがうなずき、わたしが婚礼衣装のままで歩き回ることを了承してくれた。
 
 目ぼしい緯度と経度にはあたりがついている。Googleマップで令和側がマンションである所は調べがついていた。

 魔暦では広大な城の庭園の中にそれはあった。

「ここで今晩は星空を眺めながら王子と二人っきりでキャンプをしましょう。ねえ、ここにテントをはるというのはできるのかしら?」

 お付きの者たちは婚礼衣装を着込んだわたしを見つめた。

「まあ、ロマンティックでございますわね、お妃さまっ!」

 若い侍女の声がうわずった。

 ーーそう、初夜をここで迎えると言っているのよ。分かるわねっ?
 
「ランプなどをご用意して、星空の元、お二人だけでお過ごししたいということでございますわね?初めての夜をよりロマンティックにしたいというお望みですね?」

 もう一人の侍女もなるほど!と手を打って、満面の笑みだ。

「素晴らしい初夜になりますわっ!」
「まあ、あのー、その……。そうなります……」

 わたしは恥ずかしさのあまりに真っ赤になりながら、そう答えた。令和での安全確保を優先せねばならぬのですから、ここはそういうことで仕方あるまい。
 
 
 婚礼の儀の後のロマンティックな初夜に向けて、お付きの者たちが舞い上がって準備に走りまわり始めた頃だ。わたしは話しかけられた。ちょうど庭園には、来賓の方が何人か来ていたのだ。

「沙織さま。この度はおめでとうございます。王子は、初めて沙織さまを森で見かけた時から、恋焦がれていらっしゃったんですよ」

 突然、1人の学者のような方にわたしは話しかけられた。

 王子を震えるほどわたし自身がお慕い申し上げている今となっては、どちらが先に恋焦がれたかというのは無意味に思える。胸のうちを正直に見つめれば、わたしは最初から王子に恋をしていたのだろう。

 必死に釣り合わない相手だと自分に言い聞かせてきてはいたが、わたしは最初から王子に惹かれていた。

 ――先ほどは危なかった。欲望に溺れるところだったわ……!
 
 黄金刺繍が施された金糸雀色かなりあいろの羽織をお召しになり、祝いの儀のための帽子を被られた王子は、かつてないほど輝かしいお姿だった。わたしは一目見ただけでくらっときてしまった。

 ――この世にこんな魅力的なお方がいらっしゃるのかしら?

 お慕い申し上げると、こんな気持ちになるのだろうか。

 王子が近づいてきた時、幸子さんが扇子を王子の顔に押し付けて止めなければ、わたしはきっとどこまでも応じてしまった。

 消え入りそうな恥ずかしさを覚えてしまう。
 その時、御付きの者が息急いきせききって庭園に走り込んできた。

「沙織さまっ!王子と幸子さまがお戻りになりました!ご参列の皆さまの準備も整ったようでございますっ!もう、間もなく婚礼の儀が始まります!」

 ずっと走ってきたのか、激しい息遣いの従者はそうわたしにそう告げた。

「皆の者!婚礼の儀、いよいよ始まります!」

 合図の声が遠くから聞こえてきたのは、その時であった。

 ーーきゃあ、婚礼の儀だわっ!
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