夫である伯爵に裏切られましたが、王家に輿入れすることになりました

涙（１）

　霧雨が降り注ぐハイベリー宮殿の向こうに、虹が見えた。二重に虹がかかっていて、とても素敵な眺めだ。私は自分の身が無事だったことに深く感謝した。「何年も何年も必死で俺に抱かれたかったんだろ？」というイーサンの言葉には深く傷ついた。惨めで辛かった以前の自分を思い出してしまった。

　虹を見ながら、私はマリアに隠れてこっそり涙を拭った。
　
　私が長年恋していた男の本性は最悪な男だった。長年の間、彼は巧妙に自分の本性を隠していたのであろう。私は十四歳から二十歳までの六年間、彼を見つめていた。結婚生活三年間のうちも、彼は本性を見せなかった。裏切りのことだって、アーニャが癇癪を起こさなければ私は気づかなかったぐらいだ。

　――アーニャにはこのことは言えないわ。イーサンはアーニャにはあれほど酷いことはしないと思うし。

　二度もピンチを救ってくれた会長には感謝しかない。

　――あの状態でイーサンから逃れられる会長には脱帽するわ。馬車に轢かれそうになった時も、イーサンに襲われた時も、状況としては絶体絶命だったわ。あの状態から無事に生還できるなんて信じられないわ……会長は一体何者なのかしら？