68 / 71
第四章 幸せに
最後の交渉 フランSide(1)
しおりを挟む
朝を迎えた私は豪華なベッドの天井を見つめていた。ついに結婚して初夜も乗り越えた。昨晩のことを思うと恥ずかしさで顔が真っ赤になった。思わず布団の中に潜り込もうとして、くしゃくしゃのブロンドの髪が目に映ってハッとした。
隣でジョージ王子がぐっすり眠っていた。私の夫は美形だ。柔らかい唇もスッと通った鼻筋も、長いまつ毛も美しかった。こちらを向いて寝入っている夫の顔をずっと見つめていたかった。
「あっおっぎゃっ」
突然、何かの生き物の声がして私はハッと飛び起きた。素早く見渡すと、ベッド下に敷いてあるペルシャ絨毯の上に1歳ぐらいの赤ん坊がいた。私はギョッとして一瞬動きを止めたが、赤ん坊が泣き出しそうな気配を感じて慌ててベッドから降りて絨毯の上の赤ん坊に駆け寄った。
「あら、ルイスじゃないの!?」
私は驚いて辺りを見渡した。赤ん坊はリサとミカエルの子だ。しかし、周りにリサもミカエルの姿が見えなかった。
「ここに一人できたの?あなたテレポートできるのかしら?」
私は赤ん坊が瞬間移動できるのかと驚いた。赤ん坊は私に会ったことは何度もある。私の姉のリサの子だからだ。この子が勝手に私に会うためにテレポート能力を使ってやってきたということだろうか。
私はルイスを抱き上げてあやしながら、ルイスの可愛らしい顔を見つめた。まだ1歳のルイスはちゃんと喋れない。
この能力は実はリサにはあった。彼女が最初にペリ2世に会うために使った力だ。ただ、彼女はこの力を使うとひどく消耗したと言っていた。死ぬかと思うほどだったと教えてくれた。だから、二度と使うつもりはないとも言っていた。
「ママとパパに何か危険なことが起きたのね!?」
私は理由に気づいて小さく叫んだ。
ミカエルとリサに危険なことが起きたとすればスルエラしかない。二人ともスルエラを裏切った。私はジョージ王子を起こした。
「うわっ!その赤ん坊は?」
ジョージ王子はいきなり私が腕に1歳の赤ん坊を抱いていたので、驚いて叫んだ。
「リサとミカエルのベビーよ。この子はルイスよ。何度か会ったでしょう」
「そうだな、確かにこの子はルイスだ。なぜここに?」
「リサとミカエルに何かあったのだと思うわ。二人の姿が見えず、突然ルイスが寝室の絨毯の上に現れたのよ」
「テレポートか」
「そうなるわ。リサの能力が引き継がれて、しかも強化しているわ。この子は瞬間移動しても特に疲れている様子がないように見えるわ」
◆◆◆
時計台の鐘が聞こえる。私はハッとして目を開けた。私の手には剣を持っていて、私の息は荒い。幾何学模様に綺麗に刈り込まれた庭の中心に私は剣を持って立っていた。
ロベールベルク公爵邸だ。
――なぜうちに?この剣は……?
私は目をしばたいた。この状況には見覚えがある。私は今までリサの1歳の子供のルイスを抱いていたはずだ。私はジョージ王子のすぐそばにいたはずなのに、ルイスとジョージ王子の姿は見えなかった。
――これは、あの時!?あの時アネシュカがうちに訪ねてきた時と同じに見えるわ!?
――だとすると、すでにうちの財産は全て盗まれた後だわ。権利書が無いと気づいた日だわ。お母様が行方不明になって3日経った頃よ。
私は肩を震わせて泣いた。なぜ、また元に戻るのか意味が分からない。
私は泣いたが、やがて涙を拭った。
――私は本気を出す必要がある!泣くのはやめよ!私は本気でぶつかった時の自分の力を知る必要がある!
私は覚悟を決めた。
私はもう一度やり直すのはとても危険だと思った。リサの姿が見えないということは、これから「入れ替わってくださるかしら?」とリサがやってくる可能もある。しかし、リサと私は入れ替わらず、母が連れ去られて領地も全て他人の者になった未来がこのあと待っていて、この状態がずっと続くのかもしれない。
私はゾッとした。恐怖を感じた。
赤い鷲の船が我が国の船に完敗させられたことを快く思わずに、ペリ2世が仕掛けてきたのかもしれない。
私は許さないと本気で剣を振り上げた。フラン・マルガレーテ・ロベールベルク公爵令嬢は16歳に戻った。しかし、決してこういった謀略に屈しない。
私は呪文を唱えて剣で宙に大きな円を描いた。ヘンリード校で教わった呪文だ。今まで一度も効いたことはないが、私は本気だった。あの春に戻るのは絶対に嫌だ。
私は前に進むのだ。何がなんでもこの謀略を乗り越えた先の未来に戻ろう。
隣でジョージ王子がぐっすり眠っていた。私の夫は美形だ。柔らかい唇もスッと通った鼻筋も、長いまつ毛も美しかった。こちらを向いて寝入っている夫の顔をずっと見つめていたかった。
「あっおっぎゃっ」
突然、何かの生き物の声がして私はハッと飛び起きた。素早く見渡すと、ベッド下に敷いてあるペルシャ絨毯の上に1歳ぐらいの赤ん坊がいた。私はギョッとして一瞬動きを止めたが、赤ん坊が泣き出しそうな気配を感じて慌ててベッドから降りて絨毯の上の赤ん坊に駆け寄った。
「あら、ルイスじゃないの!?」
私は驚いて辺りを見渡した。赤ん坊はリサとミカエルの子だ。しかし、周りにリサもミカエルの姿が見えなかった。
「ここに一人できたの?あなたテレポートできるのかしら?」
私は赤ん坊が瞬間移動できるのかと驚いた。赤ん坊は私に会ったことは何度もある。私の姉のリサの子だからだ。この子が勝手に私に会うためにテレポート能力を使ってやってきたということだろうか。
私はルイスを抱き上げてあやしながら、ルイスの可愛らしい顔を見つめた。まだ1歳のルイスはちゃんと喋れない。
この能力は実はリサにはあった。彼女が最初にペリ2世に会うために使った力だ。ただ、彼女はこの力を使うとひどく消耗したと言っていた。死ぬかと思うほどだったと教えてくれた。だから、二度と使うつもりはないとも言っていた。
「ママとパパに何か危険なことが起きたのね!?」
私は理由に気づいて小さく叫んだ。
ミカエルとリサに危険なことが起きたとすればスルエラしかない。二人ともスルエラを裏切った。私はジョージ王子を起こした。
「うわっ!その赤ん坊は?」
ジョージ王子はいきなり私が腕に1歳の赤ん坊を抱いていたので、驚いて叫んだ。
「リサとミカエルのベビーよ。この子はルイスよ。何度か会ったでしょう」
「そうだな、確かにこの子はルイスだ。なぜここに?」
「リサとミカエルに何かあったのだと思うわ。二人の姿が見えず、突然ルイスが寝室の絨毯の上に現れたのよ」
「テレポートか」
「そうなるわ。リサの能力が引き継がれて、しかも強化しているわ。この子は瞬間移動しても特に疲れている様子がないように見えるわ」
◆◆◆
時計台の鐘が聞こえる。私はハッとして目を開けた。私の手には剣を持っていて、私の息は荒い。幾何学模様に綺麗に刈り込まれた庭の中心に私は剣を持って立っていた。
ロベールベルク公爵邸だ。
――なぜうちに?この剣は……?
私は目をしばたいた。この状況には見覚えがある。私は今までリサの1歳の子供のルイスを抱いていたはずだ。私はジョージ王子のすぐそばにいたはずなのに、ルイスとジョージ王子の姿は見えなかった。
――これは、あの時!?あの時アネシュカがうちに訪ねてきた時と同じに見えるわ!?
――だとすると、すでにうちの財産は全て盗まれた後だわ。権利書が無いと気づいた日だわ。お母様が行方不明になって3日経った頃よ。
私は肩を震わせて泣いた。なぜ、また元に戻るのか意味が分からない。
私は泣いたが、やがて涙を拭った。
――私は本気を出す必要がある!泣くのはやめよ!私は本気でぶつかった時の自分の力を知る必要がある!
私は覚悟を決めた。
私はもう一度やり直すのはとても危険だと思った。リサの姿が見えないということは、これから「入れ替わってくださるかしら?」とリサがやってくる可能もある。しかし、リサと私は入れ替わらず、母が連れ去られて領地も全て他人の者になった未来がこのあと待っていて、この状態がずっと続くのかもしれない。
私はゾッとした。恐怖を感じた。
赤い鷲の船が我が国の船に完敗させられたことを快く思わずに、ペリ2世が仕掛けてきたのかもしれない。
私は許さないと本気で剣を振り上げた。フラン・マルガレーテ・ロベールベルク公爵令嬢は16歳に戻った。しかし、決してこういった謀略に屈しない。
私は呪文を唱えて剣で宙に大きな円を描いた。ヘンリード校で教わった呪文だ。今まで一度も効いたことはないが、私は本気だった。あの春に戻るのは絶対に嫌だ。
私は前に進むのだ。何がなんでもこの謀略を乗り越えた先の未来に戻ろう。
4
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説
赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
【完結】氷の令嬢は王子様の熱で溶かされる
花草青依
恋愛
"氷の令嬢"と揶揄されているイザベラは学園の卒業パーティで婚約者から婚約破棄を言い渡された。それを受け入れて帰ろうとした矢先、エドワード王太子からの求婚を受ける。エドワードに対して関心を持っていなかったイザベラだが、彼の恋人として振る舞ううちに、イザベラは少しずつ変わっていく。/拙作『捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る』と同じ世界の話ですが、続編ではないです。王道の恋愛物(のつもり)/第17回恋愛小説大賞にエントリーしています/番外編連載中
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる