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第四章 幸せに

最後の交渉 フランSide(1)

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 朝を迎えた私は豪華なベッドの天井を見つめていた。ついに結婚して初夜も乗り越えた。昨晩のことを思うと恥ずかしさで顔が真っ赤になった。思わず布団の中に潜り込もうとして、くしゃくしゃのブロンドの髪が目に映ってハッとした。

 隣でジョージ王子がぐっすり眠っていた。私の夫は美形だ。柔らかい唇もスッと通った鼻筋も、長いまつ毛も美しかった。こちらを向いて寝入っている夫の顔をずっと見つめていたかった。

「あっおっぎゃっ」
 
 突然、何かの生き物の声がして私はハッと飛び起きた。素早く見渡すと、ベッド下に敷いてあるペルシャ絨毯の上に1歳ぐらいの赤ん坊がいた。私はギョッとして一瞬動きを止めたが、赤ん坊が泣き出しそうな気配を感じて慌ててベッドから降りて絨毯の上の赤ん坊に駆け寄った。

「あら、ルイスじゃないの!?」

 私は驚いて辺りを見渡した。赤ん坊はリサとミカエルの子だ。しかし、周りにリサもミカエルの姿が見えなかった。

「ここに一人できたの?あなたテレポートできるのかしら?」

 私は赤ん坊が瞬間移動できるのかと驚いた。赤ん坊は私に会ったことは何度もある。私の姉のリサの子だからだ。この子が勝手に私に会うためにテレポート能力を使ってやってきたということだろうか。

 私はルイスを抱き上げてあやしながら、ルイスの可愛らしい顔を見つめた。まだ1歳のルイスはちゃんと喋れない。

 この能力は実はリサにはあった。彼女が最初にペリ2世に会うために使った力だ。ただ、彼女はこの力を使うとひどく消耗したと言っていた。死ぬかと思うほどだったと教えてくれた。だから、二度と使うつもりはないとも言っていた。

「ママとパパに何か危険なことが起きたのね!?」

 私は理由に気づいて小さく叫んだ。
 
 ミカエルとリサに危険なことが起きたとすればスルエラしかない。二人ともスルエラを裏切った。私はジョージ王子を起こした。

「うわっ!その赤ん坊は?」

 ジョージ王子はいきなり私が腕に1歳の赤ん坊を抱いていたので、驚いて叫んだ。

「リサとミカエルのベビーよ。この子はルイスよ。何度か会ったでしょう」
「そうだな、確かにこの子はルイスだ。なぜここに?」

「リサとミカエルに何かあったのだと思うわ。二人の姿が見えず、突然ルイスが寝室の絨毯の上に現れたのよ」

「テレポートか」
「そうなるわ。リサの能力が引き継がれて、しかも強化しているわ。この子は瞬間移動しても特に疲れている様子がないように見えるわ」



 ◆◆◆
 時計台の鐘が聞こえる。私はハッとして目を開けた。私の手には剣を持っていて、私の息は荒い。幾何学模様に綺麗に刈り込まれた庭の中心に私は剣を持って立っていた。

 ロベールベルク公爵邸だ。

 ――なぜうちに?この剣は……?

 私は目をしばたいた。この状況には見覚えがある。私は今までリサの1歳の子供のルイスを抱いていたはずだ。私はジョージ王子のすぐそばにいたはずなのに、ルイスとジョージ王子の姿は見えなかった。

 ――これは、あの時!?あの時アネシュカがうちに訪ねてきた時と同じに見えるわ!?

 ――だとすると、すでにうちの財産は全て盗まれた後だわ。権利書が無いと気づいた日だわ。お母様が行方不明になって3日経った頃よ。

 私は肩を震わせて泣いた。なぜ、また元に戻るのか意味が分からない。

 私は泣いたが、やがて涙を拭った。

――私は本気を出す必要がある!泣くのはやめよ!私は本気でぶつかった時の自分の力を知る必要がある!

 私は覚悟を決めた。

 私はもう一度やり直すのはとても危険だと思った。リサの姿が見えないということは、これから「入れ替わってくださるかしら?」とリサがやってくる可能もある。しかし、リサと私は入れ替わらず、母が連れ去られて領地も全て他人の者になった未来がこのあと待っていて、この状態がずっと続くのかもしれない。

 私はゾッとした。恐怖を感じた。

 赤い鷲の船が我が国の船に完敗させられたことを快く思わずに、ペリ2世が仕掛けてきたのかもしれない。

 私は許さないと本気で剣を振り上げた。フラン・マルガレーテ・ロベールベルク公爵令嬢は16歳に戻った。しかし、決してこういった謀略に屈しない。

 私は呪文を唱えて剣で宙に大きな円を描いた。ヘンリード校で教わった呪文だ。今まで一度も効いたことはないが、私は本気だった。あの春に戻るのは絶対に嫌だ。

 私は前に進むのだ。何がなんでもこの謀略を乗り越えた先の未来に戻ろう。

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