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朝のまどろみ ミラの場合
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艶っぽい夫の唇を私は寝起きのまま、ぼーっと眺めていた。朝のぼんやりとした明かりの中、私の隣には穏やかに寝入っている夫がいる。
結婚して以来、幸せで眠れない夜ができた。人生には悩みで眠れない夜だけでなく、幸せすぎて眠れない夜もあるのだと私は初めて知った。大人になったから。結婚したから。多分、その両方だ。
女王の仕事は思ったより大変だ。懸命に働く合間にワールドツアーのリハやコンサートの本番があり、大勢のファンに囲まれる日々を過ごしていた。華やかな舞台上とグレートバーデン宮殿の執務室の間には、素晴らしい夫との新婚生活が挟まっていて、日々は飛ぶように過ぎていくように感じた。
この日々の記憶を私は一生忘れまい。十八歳の私は新婚で新米女王で、世界的スターに駆け上がっているバンドの一員だ。一年前とは大違いだ。
――私にこんな素敵な夫ができるなんて信じられない。
家族のように大切な第八騎士団の仲間に加えて、バンドの仲間ができて、さらに最愛の夫までできた。
愛を表現するにはあまりに夫は照れ屋だったけれども、頬を赤くそめながら私に愛を表現する夫が新鮮で、毎日きゅんとくる瞬間が私はあった。お返しでもなんでもなく、私だって、夫にわかりやすく愛をささやく毎日だ。変わり者の夫かもしれなかったけれども、誠実で美しい顔立ちのまま心も美しく、凄まじい魔力を持ちながら魔力を上手にコントロールしている。
コンサートが終わると、私は会場の廊下を走りに走って夫の胸に飛び込む。金塊の契約中なので、夜はホテルで二人で過ごした。夫の家にも遊びに行ったりした。グレートバーデン宮殿での睡眠はまだおあずけだ。
私はまだ夫の本当の世界にはまだ行ったことがない。今、女王の国務に慣れない私は、毎日二つの世界を行き来するだけで精一杯だし、夫はいつか必ず私を連れて行ってくれるだろうと私は夫を信頼していた。
昨日から、ストックホルムのコンサートを控えて私たちはスウェーデンに移動していた。昨日は美しいユールゴーデン島でのんびり私は夫とデートを楽しんだ。旧市街の街並みを夫と手を繋いで歩くのは新婚旅行のようで楽しい。
女王としての国務の忙しさを、こうしたワールドツアーの方の都市巡りで心を癒すことができている。
他のメンバーも同じだろう。まるで二人だけの世界に入り込んだような、手をしっかりと繋ぎあったジョシュアとグレースにばったり遭遇したことは一度や二度ではない。騎士団の皆もメロンも、それぞれ金塊の契約を果たす旅の最終地が近づいてきていることを嬉しく思いながら、それぞれの旅路を満喫していた。
夫が起きたら、また夫を誘おう。美しい島に散歩に行こう。夫の肩に後ろから抱きついて腕を回しながらささやく。
「おはよう、愛しい旦那様」
目を瞑って、今日の朝の散歩の光景を心に描く。きっと夫は森の木陰のベンチに座る。美しい森が目の前に広がている。サウナに入るのも良いわ。そのあと水に入って泳ぐのもきっと楽しいわ。
夫と一緒にいると、これ以上何もいらないといった至上の喜びを与えてくれる。
夫は顔を振り向いて私の唇にキスをした。私の腕を軽く撫でて、夫もささやいた。
「おはよう。私の可愛い妻よ」
私は胸がキュンとした。
「ねぇ、金塊の契約を果たしても、時々はバンドの活動は続けられるのかしら?」
「皆が願えば可能だと思うけれど」
「そうなのねっ!?」
私はこの生活が名残惜しかった。もちろん、動物になるのは終わらせたかったけれども、二つの世界を行き来しながら生活するのは冒険が過ぎてむしろ楽しみなった。
「あなたは若い妻ですからね。女王の仕事だけでは力を持て余すのかもしれません」
「そういうことではないと思うのだけれども」
「他の方々の意見も聞きましょうか。あなただけの意見では決められないことですよ」
「えぇ、本当にそうね」
夫はまた不意打ちで私の唇にキスをした。
――さあ、朝ごはんを食べたら、美しい島を散歩しましょう!
朝の光の中で私は最愛の夫の腕を引っ張って、ベッドから外に飛び出した。
結婚して以来、幸せで眠れない夜ができた。人生には悩みで眠れない夜だけでなく、幸せすぎて眠れない夜もあるのだと私は初めて知った。大人になったから。結婚したから。多分、その両方だ。
女王の仕事は思ったより大変だ。懸命に働く合間にワールドツアーのリハやコンサートの本番があり、大勢のファンに囲まれる日々を過ごしていた。華やかな舞台上とグレートバーデン宮殿の執務室の間には、素晴らしい夫との新婚生活が挟まっていて、日々は飛ぶように過ぎていくように感じた。
この日々の記憶を私は一生忘れまい。十八歳の私は新婚で新米女王で、世界的スターに駆け上がっているバンドの一員だ。一年前とは大違いだ。
――私にこんな素敵な夫ができるなんて信じられない。
家族のように大切な第八騎士団の仲間に加えて、バンドの仲間ができて、さらに最愛の夫までできた。
愛を表現するにはあまりに夫は照れ屋だったけれども、頬を赤くそめながら私に愛を表現する夫が新鮮で、毎日きゅんとくる瞬間が私はあった。お返しでもなんでもなく、私だって、夫にわかりやすく愛をささやく毎日だ。変わり者の夫かもしれなかったけれども、誠実で美しい顔立ちのまま心も美しく、凄まじい魔力を持ちながら魔力を上手にコントロールしている。
コンサートが終わると、私は会場の廊下を走りに走って夫の胸に飛び込む。金塊の契約中なので、夜はホテルで二人で過ごした。夫の家にも遊びに行ったりした。グレートバーデン宮殿での睡眠はまだおあずけだ。
私はまだ夫の本当の世界にはまだ行ったことがない。今、女王の国務に慣れない私は、毎日二つの世界を行き来するだけで精一杯だし、夫はいつか必ず私を連れて行ってくれるだろうと私は夫を信頼していた。
昨日から、ストックホルムのコンサートを控えて私たちはスウェーデンに移動していた。昨日は美しいユールゴーデン島でのんびり私は夫とデートを楽しんだ。旧市街の街並みを夫と手を繋いで歩くのは新婚旅行のようで楽しい。
女王としての国務の忙しさを、こうしたワールドツアーの方の都市巡りで心を癒すことができている。
他のメンバーも同じだろう。まるで二人だけの世界に入り込んだような、手をしっかりと繋ぎあったジョシュアとグレースにばったり遭遇したことは一度や二度ではない。騎士団の皆もメロンも、それぞれ金塊の契約を果たす旅の最終地が近づいてきていることを嬉しく思いながら、それぞれの旅路を満喫していた。
夫が起きたら、また夫を誘おう。美しい島に散歩に行こう。夫の肩に後ろから抱きついて腕を回しながらささやく。
「おはよう、愛しい旦那様」
目を瞑って、今日の朝の散歩の光景を心に描く。きっと夫は森の木陰のベンチに座る。美しい森が目の前に広がている。サウナに入るのも良いわ。そのあと水に入って泳ぐのもきっと楽しいわ。
夫と一緒にいると、これ以上何もいらないといった至上の喜びを与えてくれる。
夫は顔を振り向いて私の唇にキスをした。私の腕を軽く撫でて、夫もささやいた。
「おはよう。私の可愛い妻よ」
私は胸がキュンとした。
「ねぇ、金塊の契約を果たしても、時々はバンドの活動は続けられるのかしら?」
「皆が願えば可能だと思うけれど」
「そうなのねっ!?」
私はこの生活が名残惜しかった。もちろん、動物になるのは終わらせたかったけれども、二つの世界を行き来しながら生活するのは冒険が過ぎてむしろ楽しみなった。
「あなたは若い妻ですからね。女王の仕事だけでは力を持て余すのかもしれません」
「そういうことではないと思うのだけれども」
「他の方々の意見も聞きましょうか。あなただけの意見では決められないことですよ」
「えぇ、本当にそうね」
夫はまた不意打ちで私の唇にキスをした。
――さあ、朝ごはんを食べたら、美しい島を散歩しましょう!
朝の光の中で私は最愛の夫の腕を引っ張って、ベッドから外に飛び出した。
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