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リジーフォード宮殿へ
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「じゃあ、行こうか」
ジョシュアは胸に抱き抱えた狐の私にささやき、私に軽く頬ずりをした。とても自然な頬ずりで私は思わず身がまえる。
――え……っ?
――今、ジョシュアが私に頬ずりをしたわっ?私が今は狐だからかしら?毛がふわふわだから……?
急に体中が熱くなってドギマギしてきた私は、とにかく慌てて自分の動揺をごまかすために早口で言ってみた。
「結界よ、リジーフォード宮殿の皇太子妃の部屋へお願い」
次の瞬間には、私は昨晩遅くまでいたリジーフォード宮殿の皇太子妃の部屋にいた。おそらくバリイエル王朝の者が私を捕えようと探し回ったのだろう。誰かが部屋に入ってきて荒らした形跡があった。
重大な危機的局面に私は立っている。バリイエルの誰かに見つかれば、私は殺されてしまう。
私はジョシュアの腕の中から飛び出して、クローゼットに走り寄った。人の姿になってドレスを数枚選んだ。後ろからジョシュアに声をかけられた。
「今夜はそのドレスではダメだ。こちらのドレスを着てくれないか」
私はジョシュアに優美で豪華なドレスを指定された。かつてまだ袖を通したことがない、王家への輿入れ時に公爵家から持ってきたドレスだ。フィッツクラレンス公爵家の富の力で準備した嫁荷の一つで真珠や宝石が散りばめてある。このドレスは母が張り切って準備してくれた大切なドレスだ。
私はうなずいて私は素早く裸になった。命が危ない今は、ジョシュアの前でもかまってはいられない。その優美なドレスを身につけた。どうせ今日は一刻半しかこの世界に入れないのだからコルセットなど無意味だ。
私はもう皇太子妃でもなく、この世界では命を狙われる身。
着替えながら、フィッツクラレンス公爵家の妹のアメリアと弟のアルフレッドのことを考えて胸が痛んだ。父と母のことも頭をよぎった。
――私が見つからなければ、アメリアとアルフレッドは尋問されるのではないかしら?
「僕が君を救おう。言葉の限りを尽くして民衆とバリイエル王朝の一門を説得する。それは僕を助けることにもなるはずだから」
ジョシュアの手が私の素肌に触れて、私は思わず頬を赤らめた。ジョシュアは私がドレスを着るのを手伝ってくれた。ジョシュアは私の首筋に口付けをしたので、私の心臓は跳ね上がった。
私たちは随分前にこうやって何度も愛を確かめあったことがある。けれども今はそんな感傷に浸っている猶予はない。
「行こう。封印し魔法を解くよ。僕らの魔力を解放しよう」
「え……?」
ジョシュアは私の手を握り、私はジョシュアの瞳をしっかりと見つめた。
――どうやって!?
ジョシュアの瞳に力がみなぎり、最悪の事態を避けようとしてくれていることが私には分かった。
ジョシュアは皇太子妃の部屋の扉をサッとあけて私の手を引いて廊下を歩き始めた。
ジョシュアは胸に抱き抱えた狐の私にささやき、私に軽く頬ずりをした。とても自然な頬ずりで私は思わず身がまえる。
――え……っ?
――今、ジョシュアが私に頬ずりをしたわっ?私が今は狐だからかしら?毛がふわふわだから……?
急に体中が熱くなってドギマギしてきた私は、とにかく慌てて自分の動揺をごまかすために早口で言ってみた。
「結界よ、リジーフォード宮殿の皇太子妃の部屋へお願い」
次の瞬間には、私は昨晩遅くまでいたリジーフォード宮殿の皇太子妃の部屋にいた。おそらくバリイエル王朝の者が私を捕えようと探し回ったのだろう。誰かが部屋に入ってきて荒らした形跡があった。
重大な危機的局面に私は立っている。バリイエルの誰かに見つかれば、私は殺されてしまう。
私はジョシュアの腕の中から飛び出して、クローゼットに走り寄った。人の姿になってドレスを数枚選んだ。後ろからジョシュアに声をかけられた。
「今夜はそのドレスではダメだ。こちらのドレスを着てくれないか」
私はジョシュアに優美で豪華なドレスを指定された。かつてまだ袖を通したことがない、王家への輿入れ時に公爵家から持ってきたドレスだ。フィッツクラレンス公爵家の富の力で準備した嫁荷の一つで真珠や宝石が散りばめてある。このドレスは母が張り切って準備してくれた大切なドレスだ。
私はうなずいて私は素早く裸になった。命が危ない今は、ジョシュアの前でもかまってはいられない。その優美なドレスを身につけた。どうせ今日は一刻半しかこの世界に入れないのだからコルセットなど無意味だ。
私はもう皇太子妃でもなく、この世界では命を狙われる身。
着替えながら、フィッツクラレンス公爵家の妹のアメリアと弟のアルフレッドのことを考えて胸が痛んだ。父と母のことも頭をよぎった。
――私が見つからなければ、アメリアとアルフレッドは尋問されるのではないかしら?
「僕が君を救おう。言葉の限りを尽くして民衆とバリイエル王朝の一門を説得する。それは僕を助けることにもなるはずだから」
ジョシュアの手が私の素肌に触れて、私は思わず頬を赤らめた。ジョシュアは私がドレスを着るのを手伝ってくれた。ジョシュアは私の首筋に口付けをしたので、私の心臓は跳ね上がった。
私たちは随分前にこうやって何度も愛を確かめあったことがある。けれども今はそんな感傷に浸っている猶予はない。
「行こう。封印し魔法を解くよ。僕らの魔力を解放しよう」
「え……?」
ジョシュアは私の手を握り、私はジョシュアの瞳をしっかりと見つめた。
――どうやって!?
ジョシュアの瞳に力がみなぎり、最悪の事態を避けようとしてくれていることが私には分かった。
ジョシュアは皇太子妃の部屋の扉をサッとあけて私の手を引いて廊下を歩き始めた。
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