16 / 68
第一章
皇帝の孫の昔の恋人
しおりを挟む
暖炉の前で炎を見つめていると、ラファエルがそっと部屋に入って来て、私を抱きしめてくれた。
「ジェラールはもう大丈夫だ。奴は今度こそ二度と君の前に姿を現せないよ」
ラファエルはそっと私にささやいた。
「ええ。わかっているわ」
私はうなずいた。口付けをして「今日の予定はまず、古代の言葉の学習のあとは……」と言いかけると、唇に人差し指を押されて「しーっ」とされた。
「騎士団のみんなも朝は早いから、朝一で武術の訓練をしよう。夜は言葉の学習と私と君の夫婦の時間にしよう」
ラファエルはイタズラっぽい瞳で私を見つめて甘く囁いた。最後の言葉を言いながら、ラファエルの指が私の背中をそっとさすり、私は飛び上がりそうになった。
「ええ」
恥ずかしさで真っ赤になりながら、私は同意した。
そのままベッドに二人で腰掛けて言葉の勉強をした。私の発音をいくつか訂正されながら、私が知っている隣国の言葉をベースに古代語を学ぶ。私はペンを持って書き留めていく。
言葉の発音を直されて、顎に手をかけられたと思ったら、ラファエルの唇が近づいてきて、私の唇をそっと温かく包んだ。ペンをそっと取りあげられた。
「そろそろ休もう。明日もたくさん移動するのだ」
ラファエルは低く落ち着いた声で私にささやき、私も眠りにつく前に幸せな思いでうなずき、宿屋のベッドで二人で眠りについた。
朝になって目が覚めると、窓辺に私はシーツを括りつけた。寝る前に本当は準備をしておきたかったのだけれども、昨晩はできなかったので、朝起きてから準備をしたのだ。
宿屋を抜け出して、馬で移動する時に乗る予定の馬を窓辺の下に連れてきた。白馬でとてもおとなしい馬で、エリーという名前だ。私は窓を伝って降りてきて、下で待っている馬に飛び乗る訓練をするつもりだった。
部屋に戻るとラファエルも目を覚まして身支度を整えていた。
「やるのか?」
「ええ。私は本気よ」
ラファエルは苦笑いをして階下に降りて行き、窓の外に繋がれたエリーの元に行った。ラファエルは馬の横に立ってこちらを見上げて、窓辺にいる私を見つめている。
この宿屋には花びらが丸く集まったボンザマーガレットがあちこちに咲いている。ラファエルの立つ足元のすぐ横にもストロベリーピンクと淡い黄色いマーガレットが咲いていた。上手く飛び降りて、それらを傷つけないようにしようと私は思った。
「行くわ」
私はシーツを使ってなんとか壁伝いに降りて、エリーに飛び乗った。エリーは驚いた様子だったけれども、私が背中に飛び乗るのを甘んじて受け入れてくれた。うまく行った。
ラファエルは私が落ちないように見守っていて、万が一に備えてそばに控えていてくれている。3回目の時は、思いっきりラファエルに抱き止められてしまった。エリーに飛び乗り損ねたのだ。私は恥ずかしさのあまりにラファエルの顔も見れないほどだった。
私はその動きを12回繰り返した。要は慣れだ。8回目でコツをつかみ、スピードがだいぶ上がった。私は一度死にかけているのだ。何が起きたのか知っているのは私だけだ。私は死を悟ってから戻って来ているので、自分の死を避けるためならなんでもするつもりだった。
「なんとかなりそうだわ」
「そうだな。見事だ。明日はもっと上達していそうだ」
ラファエルも認めてくれた。没落令嬢だった私は、食料を得るためにしょっちゅう森に入らなければならなかった。おかげで普通の令嬢よりはお転婆なことも得意だった。
やがて騎士たちも起き出してきて、私は騎士団と共に朝の鍛錬に励んだ。剣は上から叩き落とすように落とされる。それをいかに払うかを中心に私は練習を繰り返した。額から汗が飛び散り、頬が真っ赤になり、宿屋の主人が朝食ができたと呼びにくる頃には汗だくになった。私は熱心にラファエルから学んだ。
「皆様、朝食の支度ができましたよ」
「よーし、さあ今日も元気に食べて出発だ」
「そうだな、一汗かいて腹も減ったしな」
宿屋の主人の賑やかな掛け声で、騎士たちも朝食の席に向かうために鍛錬をやめた。
「奥様、どうぞ身支度をこちらで整えましょう」
「ありがとう」
ベアトリスとジュリアが声をかけてくれて、私もうなずいた。顔の汗を拭き取ってもらって、私は微笑んだ。朝から体を動かすととても気持ちが良い。
騎士団の人々の私に対する目線が微妙に変わって来たように思う。確実に変わったと思うのは、大国から志願してきた騎士たちからの目線だ。
「奥方は、ジークベインリードハルトの皇帝の孫の嫁として、俺たちと一緒に鍛錬をされるらしい」
「さすがだな」
「いやあ、昨晩いきなり古代語を話されたのには驚いた」
「まあ、まだ発音は変なところがあったけれども、それでも驚いたぜ」
昨晩、ジェラールをひっとらえるように古代語を使ったことで、私のラファエルの花嫁であろうとする覚悟を感じ取ってくれた騎士が多かったようだ。
――ええ、夫に恋をするだけの妻では役目を果たせないと分かったのよ。
私は心の中で独り言を言うと、身支度を整えるためにベアトリスとジュリアに付き添われて部屋に戻った。
――今日は強行軍になるはずだわ。森を抜けたところで追い剥ぎに会うはずだったわ。あの荒くれ集団を避けられれば良いのだけれども。
私はこれから何が起こるか知っている者として、思案していた。
――朝食の席で地図を見ながら、今日の進むべき進路についてさりげなく別の道を提案してみようかしら?
私は心の中で考え込んでいた。ここで、私は自分の行動が変わったことで、周りの動きが変わることに気づいていなかった。最初の時は私は朝から鍛錬などせずにすぐに朝食の席に降りて行っていた。今は鍛錬をしたので、少し遅れて朝食の席に参加することになってしまった。
私が部屋で身支度を整えて階下の食堂に降りていくと、先にラファエルが騎士たちと食べ始めていた。しかし、一人の女性がラファエルに近づいていくのが見えて、私は思わず食堂のドアの影で立ち止まった。
「ラファエル!?」
女性が驚いた様子で声をかけているのが見える。
とても美しい女性だ。私の髪はブロンドで瞳は青い。彼女の髪はプラチナブロンドで、色素が抜けるように肌が白く、頬は薔薇色だった。エメラルドのような瞳がきらきらと輝いている。
「レティシア?」
ラファエルも驚いた様子だけれども、満面の笑みになって彼女に挨拶をした。
――誰かしら?
私は周りの騎士たちの微妙な反応にすぐに気づいた。この反応はどこかの街でも見かけたわ。私が席を外していて戻ってきた時にちょうどラファエルの周りの騎士たちがやっぱりこんな反応をしていた記憶がある。もしかすると最初の時にもラファエルと彼女はこうしてどこかで出会っていたのかもしれない。
――ラファエルと彼女の間には何かあるのね。昔の恋人かしら?
私は二度目の死を回避するために朝から鍛錬をして気分が高揚していたにも関わらず、心の中に嫉妬と戸惑いが混ざったグレーな気持ちが差込むのを感じた。
――ラファエルは、私の前に明らかに女性経験があるようだったわ。私は初めてなのに、ラファエルはそんな感じがしなかった……
最初の時は感じなかったつまらない事をふと考えてしまい、自分で自分にがっかりした。
――没落令嬢の私が陛下のとりはからいでラファエルのような素敵な人と結婚できたのよ。今更何よ、ロザーラ。しっかりしなさい。私の目的は生き残ってリシェール伯爵の領地に辿り着くことでしょう。つまらない嫉妬など今すぐ捨てなさい。
私はドアの影で自分に言い聞かせて、深く息を吐いた。
「おはよう、みなさん」
私は明るい声で騎士団の皆に声をかけて食堂の中に入って行った。レティシアと呼ばれた美しい女性が鼻で笑うような表情をして一瞬私の方を見たのを私は見逃さなかった。
ラファエルの肩に手をかけた女性に私は表情も変えずにそのまま微笑んだ。
「初めまして。ラファエルの妻でございますわ」
「あら奥様。これは失礼しましたわ。私、ラファエルとは幼馴染のレティシアと申します。ジークベインリードハルトで幼い頃ずっと一緒に育ちましたの」
ラファエルが紹介する前に、レティシアというその美しい女性は私に自ら名乗った。
そのとき私の心の中では、死ぬ前に敵に言われた言葉がよぎっていた。
『皇帝の孫の花嫁』
その言葉を使う敵は、我が陛下の国の者ではない。
古代語を操ってラファエルの事を『皇帝の孫』と呼ぶのは大国ジークベインリードハルト出身の者だ。
私はにっこりと微笑んだ。
「まあ!こんな美しい幼馴染がいたなんて、あなた」
私はそう無邪気に驚いた表情でラファエルとレティシアに可愛らしく微笑んで見せた。しかし、私の心の中は荒れ狂っていた。
――私を殺したのは、もしかするとあなたのお仲間かしら?
私は自分の中の暗い疑心暗鬼の気持ちに翻弄されそうになり、思わず後ずさった。
――彼女の挑発に乗ってたまるものですか。十分に朝食を取って、今日も第二の死を回避するために備えることにしましょう。
私は心の中でそう思いながら、にこやかに朝食の席についた。レティシアは何故かラファエルの隣の席に陣取っていた。ラファエルに密着しすぎている。私はイライラとしたけれども、表向きは気にしないふりをした。
――敵情視察にはもってこいの距離だわね。美しい幼馴染さん。
私はレティシアをじっくりと観察することに決めたのだ。
食卓の上には私が結婚式当日に宮殿でラファエルにもらったマーガレットの花を思い出すような、赤いパンジービオラが飾ってあった。
花言葉は「物思い」だ。私はイライラとする気持ちをおさめようとした。
「ジェラールはもう大丈夫だ。奴は今度こそ二度と君の前に姿を現せないよ」
ラファエルはそっと私にささやいた。
「ええ。わかっているわ」
私はうなずいた。口付けをして「今日の予定はまず、古代の言葉の学習のあとは……」と言いかけると、唇に人差し指を押されて「しーっ」とされた。
「騎士団のみんなも朝は早いから、朝一で武術の訓練をしよう。夜は言葉の学習と私と君の夫婦の時間にしよう」
ラファエルはイタズラっぽい瞳で私を見つめて甘く囁いた。最後の言葉を言いながら、ラファエルの指が私の背中をそっとさすり、私は飛び上がりそうになった。
「ええ」
恥ずかしさで真っ赤になりながら、私は同意した。
そのままベッドに二人で腰掛けて言葉の勉強をした。私の発音をいくつか訂正されながら、私が知っている隣国の言葉をベースに古代語を学ぶ。私はペンを持って書き留めていく。
言葉の発音を直されて、顎に手をかけられたと思ったら、ラファエルの唇が近づいてきて、私の唇をそっと温かく包んだ。ペンをそっと取りあげられた。
「そろそろ休もう。明日もたくさん移動するのだ」
ラファエルは低く落ち着いた声で私にささやき、私も眠りにつく前に幸せな思いでうなずき、宿屋のベッドで二人で眠りについた。
朝になって目が覚めると、窓辺に私はシーツを括りつけた。寝る前に本当は準備をしておきたかったのだけれども、昨晩はできなかったので、朝起きてから準備をしたのだ。
宿屋を抜け出して、馬で移動する時に乗る予定の馬を窓辺の下に連れてきた。白馬でとてもおとなしい馬で、エリーという名前だ。私は窓を伝って降りてきて、下で待っている馬に飛び乗る訓練をするつもりだった。
部屋に戻るとラファエルも目を覚まして身支度を整えていた。
「やるのか?」
「ええ。私は本気よ」
ラファエルは苦笑いをして階下に降りて行き、窓の外に繋がれたエリーの元に行った。ラファエルは馬の横に立ってこちらを見上げて、窓辺にいる私を見つめている。
この宿屋には花びらが丸く集まったボンザマーガレットがあちこちに咲いている。ラファエルの立つ足元のすぐ横にもストロベリーピンクと淡い黄色いマーガレットが咲いていた。上手く飛び降りて、それらを傷つけないようにしようと私は思った。
「行くわ」
私はシーツを使ってなんとか壁伝いに降りて、エリーに飛び乗った。エリーは驚いた様子だったけれども、私が背中に飛び乗るのを甘んじて受け入れてくれた。うまく行った。
ラファエルは私が落ちないように見守っていて、万が一に備えてそばに控えていてくれている。3回目の時は、思いっきりラファエルに抱き止められてしまった。エリーに飛び乗り損ねたのだ。私は恥ずかしさのあまりにラファエルの顔も見れないほどだった。
私はその動きを12回繰り返した。要は慣れだ。8回目でコツをつかみ、スピードがだいぶ上がった。私は一度死にかけているのだ。何が起きたのか知っているのは私だけだ。私は死を悟ってから戻って来ているので、自分の死を避けるためならなんでもするつもりだった。
「なんとかなりそうだわ」
「そうだな。見事だ。明日はもっと上達していそうだ」
ラファエルも認めてくれた。没落令嬢だった私は、食料を得るためにしょっちゅう森に入らなければならなかった。おかげで普通の令嬢よりはお転婆なことも得意だった。
やがて騎士たちも起き出してきて、私は騎士団と共に朝の鍛錬に励んだ。剣は上から叩き落とすように落とされる。それをいかに払うかを中心に私は練習を繰り返した。額から汗が飛び散り、頬が真っ赤になり、宿屋の主人が朝食ができたと呼びにくる頃には汗だくになった。私は熱心にラファエルから学んだ。
「皆様、朝食の支度ができましたよ」
「よーし、さあ今日も元気に食べて出発だ」
「そうだな、一汗かいて腹も減ったしな」
宿屋の主人の賑やかな掛け声で、騎士たちも朝食の席に向かうために鍛錬をやめた。
「奥様、どうぞ身支度をこちらで整えましょう」
「ありがとう」
ベアトリスとジュリアが声をかけてくれて、私もうなずいた。顔の汗を拭き取ってもらって、私は微笑んだ。朝から体を動かすととても気持ちが良い。
騎士団の人々の私に対する目線が微妙に変わって来たように思う。確実に変わったと思うのは、大国から志願してきた騎士たちからの目線だ。
「奥方は、ジークベインリードハルトの皇帝の孫の嫁として、俺たちと一緒に鍛錬をされるらしい」
「さすがだな」
「いやあ、昨晩いきなり古代語を話されたのには驚いた」
「まあ、まだ発音は変なところがあったけれども、それでも驚いたぜ」
昨晩、ジェラールをひっとらえるように古代語を使ったことで、私のラファエルの花嫁であろうとする覚悟を感じ取ってくれた騎士が多かったようだ。
――ええ、夫に恋をするだけの妻では役目を果たせないと分かったのよ。
私は心の中で独り言を言うと、身支度を整えるためにベアトリスとジュリアに付き添われて部屋に戻った。
――今日は強行軍になるはずだわ。森を抜けたところで追い剥ぎに会うはずだったわ。あの荒くれ集団を避けられれば良いのだけれども。
私はこれから何が起こるか知っている者として、思案していた。
――朝食の席で地図を見ながら、今日の進むべき進路についてさりげなく別の道を提案してみようかしら?
私は心の中で考え込んでいた。ここで、私は自分の行動が変わったことで、周りの動きが変わることに気づいていなかった。最初の時は私は朝から鍛錬などせずにすぐに朝食の席に降りて行っていた。今は鍛錬をしたので、少し遅れて朝食の席に参加することになってしまった。
私が部屋で身支度を整えて階下の食堂に降りていくと、先にラファエルが騎士たちと食べ始めていた。しかし、一人の女性がラファエルに近づいていくのが見えて、私は思わず食堂のドアの影で立ち止まった。
「ラファエル!?」
女性が驚いた様子で声をかけているのが見える。
とても美しい女性だ。私の髪はブロンドで瞳は青い。彼女の髪はプラチナブロンドで、色素が抜けるように肌が白く、頬は薔薇色だった。エメラルドのような瞳がきらきらと輝いている。
「レティシア?」
ラファエルも驚いた様子だけれども、満面の笑みになって彼女に挨拶をした。
――誰かしら?
私は周りの騎士たちの微妙な反応にすぐに気づいた。この反応はどこかの街でも見かけたわ。私が席を外していて戻ってきた時にちょうどラファエルの周りの騎士たちがやっぱりこんな反応をしていた記憶がある。もしかすると最初の時にもラファエルと彼女はこうしてどこかで出会っていたのかもしれない。
――ラファエルと彼女の間には何かあるのね。昔の恋人かしら?
私は二度目の死を回避するために朝から鍛錬をして気分が高揚していたにも関わらず、心の中に嫉妬と戸惑いが混ざったグレーな気持ちが差込むのを感じた。
――ラファエルは、私の前に明らかに女性経験があるようだったわ。私は初めてなのに、ラファエルはそんな感じがしなかった……
最初の時は感じなかったつまらない事をふと考えてしまい、自分で自分にがっかりした。
――没落令嬢の私が陛下のとりはからいでラファエルのような素敵な人と結婚できたのよ。今更何よ、ロザーラ。しっかりしなさい。私の目的は生き残ってリシェール伯爵の領地に辿り着くことでしょう。つまらない嫉妬など今すぐ捨てなさい。
私はドアの影で自分に言い聞かせて、深く息を吐いた。
「おはよう、みなさん」
私は明るい声で騎士団の皆に声をかけて食堂の中に入って行った。レティシアと呼ばれた美しい女性が鼻で笑うような表情をして一瞬私の方を見たのを私は見逃さなかった。
ラファエルの肩に手をかけた女性に私は表情も変えずにそのまま微笑んだ。
「初めまして。ラファエルの妻でございますわ」
「あら奥様。これは失礼しましたわ。私、ラファエルとは幼馴染のレティシアと申します。ジークベインリードハルトで幼い頃ずっと一緒に育ちましたの」
ラファエルが紹介する前に、レティシアというその美しい女性は私に自ら名乗った。
そのとき私の心の中では、死ぬ前に敵に言われた言葉がよぎっていた。
『皇帝の孫の花嫁』
その言葉を使う敵は、我が陛下の国の者ではない。
古代語を操ってラファエルの事を『皇帝の孫』と呼ぶのは大国ジークベインリードハルト出身の者だ。
私はにっこりと微笑んだ。
「まあ!こんな美しい幼馴染がいたなんて、あなた」
私はそう無邪気に驚いた表情でラファエルとレティシアに可愛らしく微笑んで見せた。しかし、私の心の中は荒れ狂っていた。
――私を殺したのは、もしかするとあなたのお仲間かしら?
私は自分の中の暗い疑心暗鬼の気持ちに翻弄されそうになり、思わず後ずさった。
――彼女の挑発に乗ってたまるものですか。十分に朝食を取って、今日も第二の死を回避するために備えることにしましょう。
私は心の中でそう思いながら、にこやかに朝食の席についた。レティシアは何故かラファエルの隣の席に陣取っていた。ラファエルに密着しすぎている。私はイライラとしたけれども、表向きは気にしないふりをした。
――敵情視察にはもってこいの距離だわね。美しい幼馴染さん。
私はレティシアをじっくりと観察することに決めたのだ。
食卓の上には私が結婚式当日に宮殿でラファエルにもらったマーガレットの花を思い出すような、赤いパンジービオラが飾ってあった。
花言葉は「物思い」だ。私はイライラとする気持ちをおさめようとした。
13
お気に入りに追加
157
あなたにおすすめの小説
公爵家のご令嬢は婚約者に裏切られて~愛と溺愛のrequiem~
一ノ瀬 彩音
恋愛
婚約者に裏切られた貴族令嬢。
貴族令嬢はどうするのか?
※この物語はフィクションです。
本文内の事は決してマネしてはいけません。
「公爵家のご令嬢は婚約者に裏切られて~愛と復讐のrequiem~」のタイトルを変更いたしました。
この作品はHOTランキング9位をお取りしたのですが、
作者(著者)が未熟なのに誠に有難う御座います。
公爵夫人は国王陛下の愛妾を目指す
友鳥ことり
恋愛
カルサティ侯爵令嬢ベルティーユ・ガスタルディは、ラルジュ王国の若き国王アントワーヌ五世の王妃候補として有力視されていた。
ところが、アントワーヌ五世はロザージュ王国の王女と政略結婚することになる。
王妃になる道を閉ざされたベルは、王の愛妾を目指すことを決意を固めた。
ラルジュ王国では王の愛妾は既婚者であることが暗黙の了解となっているため、兄の親友であるダンビエール公爵オリヴィエール・デュフィの求婚に応え、公爵夫人になって王宮に上がる計画を立てる。
一方、以前からベルに執心していたオリヴィエールは半年の婚約期間を経て無事結婚すると、将来愛妾になるための稽古だと言いくるめて夫婦の親密さを深めようとして――。
国王の愛妾を目指すために公爵と結婚した令嬢と、彼女を溺愛する公爵の微妙にちぐはぐな新婚生活の物語。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
金の騎士の蕩ける花嫁教育 - ティアの冒険は束縛求愛つき -
藤谷藍
恋愛
ソフィラティア・シアンは幼い頃亡命した元貴族の姫。祖国の戦火は収まらず、目立たないよう海を越えた王国の小さな村で元側近の二人と元気に暮らしている。水の精霊の加護持ちのティアは森での狩の日々に、すっかり板についた村娘の暮らし、が、ある日突然、騎士の案内人に、と頼まれた。最初の出会いが最悪で、失礼な奴だと思っていた男、レイを渋々魔の森に案内する事になったティア。彼はどうやら王国の騎士らしく、魔の森に万能薬草ルナドロップを取りに来たらしい。案内人が必要なレイを、ティアが案内する事になったのだけど、旅を続けるうちにレイの態度が変わってきて・・・・
ティアの恋と冒険の恋愛ファンタジーです。
責任を取らなくていいので溺愛しないでください
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
漆黒騎士団の女騎士であるシャンテルは任務の途中で一人の男にまんまと美味しくいただかれてしまった。どうやらその男は以前から彼女を狙っていたらしい。
だが任務のため、そんなことにはお構いなしのシャンテル。むしろ邪魔。その男から逃げながら任務をこなす日々。だが、その男の正体に気づいたとき――。
※2023.6.14:アルファポリスノーチェブックスより書籍化されました。
※ノーチェ作品の何かをレンタルしますと特別番外編(鍵付き)がお読みいただけます。
身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~
椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」
私を脅して、別れを決断させた彼の両親。
彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。
私とは住む世界が違った……
別れを命じられ、私の恋が終わった。
叶わない身分差の恋だったはずが――
※R-15くらいなので※マークはありません。
※視点切り替えあり。
※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。
【完結】婚約破棄された令嬢の毒はいかがでしょうか
まさかの
恋愛
皇太子の未来の王妃だったカナリアは突如として、父親の罪によって婚約破棄をされてしまった。
己の命が助かる方法は、友好国の悪評のある第二王子と婚約すること。
カナリアはその提案をのんだが、最初の夜会で毒を盛られてしまった。
誰も味方がいない状況で心がすり減っていくが、婚約者のシリウスだけは他の者たちとは違った。
ある時、シリウスの悪評の原因に気付いたカナリアの手でシリウスは穏やかな性格を取り戻したのだった。
シリウスはカナリアへ愛を囁き、カナリアもまた少しずつ彼の愛を受け入れていく。
そんな時に、義姉のヒルダがカナリアへ多くの嫌がらせを行い、女の戦いが始まる。
嫁いできただけの女と甘く見ている者たちに分からせよう。
カナリア・ノートメアシュトラーセがどんな女かを──。
小説家になろう、エブリスタ、アルファポリス、カクヨムで投稿しています。
令嬢だったディオンヌは溜め息をついて幼なじみの侯爵を見つめる
monaca
恋愛
大公爵と呼ばれていたブランドン家は滅びました。
母親は亡くなり、父親は行方知れず。
令嬢ディオンヌは、ライバルだった侯爵、ジョーデン家に引き取られました。
ひとりの使用人として。
ジョーデン家の嫡男ジョサイアは、ディオンヌの幼なじみです。
幼なじみの屋敷で働くこととなった彼女は、すっかり距離を置いて冷たい目で見下してくる彼のことを、憎みながら暮しました。
ブランドン家を陥れたのがジョーデン家だというのは、公然と語られる噂だったからです。
やがて、ジョサイアが当主となります。
先代の病死によって。
ジョサイアと、彼の婚約者であるエレノアは、ディオンヌに毒殺の嫌疑をかけました。
恨みと憎しみと……古い古い、結婚の約束。
今のふたりの間にあるのは、いったい何なのでしょう。
屋敷の廊下にある骨董品の仮面が、ディオンヌを見つめていました。
彼女の秘密を知っているとでも言わんばかりに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる