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その後
競馬場でのオートクチュール忍者ファッション
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熱気と興奮が渦巻き、地鳴りのような歓声があたりに響きわたる。
21世紀のニューヨーク州の競馬場はとても賑やかで混んでいて、素晴らしかった。
「若!目立ち過ぎます!」私は帝にささやいた。
「私(わたくし)は、お腹が空いてしまって何か食べたいのだ。」
帝はそう言い、ズンズン先を歩いて行った。
「若!この時代の禄を持ってきていますか?」
私は、袴姿で帝の後を追いながら、小声で言った。
「禄?持っていません。」
帝は平然と答えた。
私はため息をついた。
目の前の帝のオートクチュール忍者ファッションは、辺りの人の目を引いていた。とてつもなく美男子な上に、奇想天外な忍者ファッションで雅な雰囲気を醸し出して、人混みの間を練り歩いているのだ。
その隣にいる私は、文明開花の鐘がなるを体現したような、ハイカラな袴を着ていた。今日は、月一の奉行所の俸禄日だったのだ。習わしで、俸禄日はおしゃれな袴を着て、ブーツでばっちり決める忍者女子は多い。「ハイカラさんが通る」の21世紀アニメは、実は今の地球の忍者女子の間で流行っていた。
五右衛門さんは、普通の忍者ファッションに青のカラーをしていた。俸禄日は、やはり忍者男子も一律オシャレをしてキメるのが奉行所的習わしなのだ。
私たちは、ゲーム参加者の颯介やナディア一行がサバンナからニューヨークの競馬場に向かったので、秘密の言葉で「やった!」とささやき合いった。そして、重い参加者を乗せて、体に鞭打ってなんとか一行をニューヨークの競馬場に運んできたところだった。
ゲームの参加者が馬主席に向かったタイミングで、帝が根を上げて、さっさとコスプレをやめて元の姿に戻ってしまった。
「疲れました。彼女たちを運ぶのは重かったです。私(わたくし)は頑張りました。とてもお腹が空きました。」
帝は平然とそう言って、すぐにコスプレをやめてしまった。
ま、二十一世紀の競馬場にいきなり翼竜が現れたらとんでもない大騒ぎになるので、それはそれでありだったのだが。
問題は食べ物を買う禄だ。
誰も21世紀の地球の金を都合よく持ってなどいなかった。
しかし、最初は帝も競走馬を見て大興奮していた。私たちの地球には競馬というものはなかった。
「あれが競走馬というものですね!沙織!五右衛門!」
帝は大興奮だった。
「左様のようですね、若!」
五右衛門さんも私も大興奮だった。
「馬がゴールをきる瞬間は、本当に最高ですね・・・」
帝は長いまつげを震わせて、うっとりとそうつぶやいたくらいだ。
だが、結局すぐに、空腹に負けた。
「私わたくしは頑張りました。とてもお腹が空きました。」
そう、また帝が言い出して、帝は食べ物を探してズンズン歩き回り始めたというわけだ。
「ね、あなたたちは誰?」
小さな声に話しかけられて、帝はふと立ち止まった。
私と五右衛門さんも、声の主をまじまじと見おろした。
そこには麦わら帽子を被った9歳くらいの男の子が立っていた。黒い髪に茶色の瞳をしていて、肌はよく日にやけていた。片手に地球の歴史でしか私たちが見たことがなかった、ソフトクリームとやらを持っていた。
「お父さんは?お母さんは?」
五右衛門さんはすぐにしゃがみ込んで、辺りを見回しながら男の子に聞いた。
私も辺りを見回したが、その子の親らしき人が見当たらない。
「あのね、さっきから探しているんだけど、見つからないんだ。」その男の子は平然と言った。
どうやら迷い子らしい。
「お腹が空いたなら、僕が何か買ってあげようか?」
その子が、帝を見上げて突然言った。
「わ、わたくしに、何かこの時代の食べ物をくれるのですかっ?」
帝が興奮した声で、その男の子に聞いた。
「うん、いいよ。」
迷い子は、あっさり帝に食べ物を買ってくれることを快諾してくれた。
「おお!ありがたい!」帝は俄然元気になった。
「何が食べたいの?」
迷い子は自分の手に持ったソフトクリームを大口開けて美味しそうに食べながら帝に聞いた。
「君と同じものが良いぞ。」帝は言った。
「あ、ソフトクリームね。分かった。」
迷い子はそう言うと、うなずいて、近くのソフトクリームの売店まで歩いて行った。
「若!子供にねだるなんて。」私はたしなめた。
私たち3人は、迷い子がソフトクリーム売り場のおばさんに3本を指を示している様子を見た。
私たちは色めきたった!
え?もしかして私の分も買ってくれるの?
「沙織さん、喜んじゃって。」
五右衛門さんが私の心の声を読んで言った。
「じゃあ、五右衛門さんは要らないですって断ってくれば?」
私は冷たく五右衛門さんに言った。
「いえ。はい、僕も地球の食べ物は初めてなので、買ってくれると言うのであれば、遠慮なくいただきたい!」
五右衛門さんはそう言った。
「沙織?さっきと言っている言葉が違うぞよ?」
帝がいたずらっぽく笑いながら私に言った。
「そんな、若。せっかくですから、私もいただきます!」
私は慌ててそう言った。
というわけで、私たちは9歳の迷い子からソフトクリームを3本買ってもらって食べた。
信じられないほど甘かった。これは体を壊すなと、正直私は思ったが、ありがたくいただいた。忍び食は人間の愚かさから学んで食生活を変えていっているので、ある程度甘さ控え目のスイーツが主流なのだ。
私たちは一瞬でソフトクリームを食べ終わるくらいの勢いで食べていた。ただ、その時だった。とんでもないことを迷い子に言われてソフトクリームを危うく落としそうになった。
「あのね、僕の名前ね。ザリガンコ・エクスロゲっていうんだ。」
突風が吹き、迷い子の被っていた麦わら帽子がコロコロと地面を転がっていった。
「帝、元気そうだね。」
帝と私、五右衛門さんは口をあんぐりと開けて、迷い子を見つめた。
「なんて名前?」
五右衛門さんがかすれた声で、迷い子に聞いた。
「だから、俺は元銀行投資家のザリガンコ・エクスロゲ。」
9歳くらいの迷い子はニヤッと笑いながら言った。
「な、な、な、なぜここに?」
「その姿はどうされたんですかっ!」
「数億年先の昔に飛ばされたって、二十一世紀のことですかっ!」
帝と私と五右衛門さんはほぼ同時に叫ぶように言った。
「あーあ、せっかくのソフトクリームがとけるぜ。早く食べなよ。」
ザリガンコと名乗った9歳の男の子は、私たちがあんぐり口を開けて固まっている間に、どんどんとけていっているソフトクリームを指さして言った。
「俺さ、学校もさ、行っているのさ。」
ザリガンコはすっかり可愛らしくなった9歳らしい顔を得意げな笑みでいっぱいにして言った。
「ナディアがさ、定期ミッションとかで過去にすっ飛ばしてお仕置きした奴らの様子を見に来てくれてんのさ。」
ザリガンコはぽつぽつと話し始めた。
「でさ、俺が反省したのを認めてくれて、今度は人間として二十一世紀に送り込んでくれたのさ。」
「そんな姿を変えることができるのは、忍びのなりきる術じゃないですか。」
五右衛門さんがそう指摘した。
「そうさ。ま、俺も帝をクーデーターで倒すために、自力で忍びのなりきる術を学んだことがあったのさ。当時はあんまし上手くいかなかった。」
ザリガンコは可愛らしい9歳らしいほっぺを膨らませながら、そう言った。
「でも、太古の昔なんてすごいんだぜ。文字も知らない、文明もない恐竜だらけの時代に行って俺は孤独だったのさ。それで、俺なりのなりきる術に精を出して仕上げたのさ。」
「俺も、忍びの寺小屋行きたかったんだぜ?本当は。」
ザリガンコはそう言って黙り込んだ。
「そ、そ、そうだったのか。それはすまぬ。」
帝は静かに言った。
「ただ、ここなら俺のことは誰も知らねー。でさ、この姿で頑張ってんのさ。」
ザリガンコはそう言ってにっこりした。
「親は、競馬好きの気の良いおじさんとおばさんだけど、悪い人たちじゃねー。」
ザリガンコは競馬場の観客席のある方向を指さして言った。
そこに、ザリガンコの面倒を見てくれている親がいるのだろう。
「ナディアが上手く世話してくれた。この恩は無駄にはできねってことさ。」
ザリガンコは笑顔になって、帝に言った。
「だからよ、俺はこの時代でハーバードかMITに行くつもりだぜ。俺に学がないとは言わせねえってわけよ。」
9歳の男の子の姿でザリガンコは帝に宣言した。
「ほら、帝も沙織も五右衛門も、ソフトクリームをちゃんと食え。」
とけかかった私たちのソフトクリームをザリガンコは指さして言った。
「俺はこれからもこの甘ーいソフトクリームをいくらでも食えるけど、お前たちは忍びと恐竜の未来の地球にいたら、そうそう食えないだろ。ちゃんと食っとけ。」
9歳のザリガンコはそう言って、嬉しそうに笑った。
「会いたかったんだよ、帝。悪かったな。俺はここで頑張るから、お前も頑張れよ。じゃあな。」
それだけ言うと、9歳の男の子の姿のザリガンコはスタスタと歩いて私たちから遠ざかって言った。
「あ、ナディアに礼を言っておいてくれ!サンキュ!」
遠くから振り向いて、9歳の男の子はそういうと、帝と私と五右衛門さんに手を振って向こうに走って行った。
「あのやろ。」
ハッと我に返った帝はそう言いながら、ちょっと涙目になりながら、急いでソフトクリームを食べ終わった。
「よかったな、ザリガンコ。」
帝はしみじみとした声でそう言って、私と五右衛門さんの方を振り向いて晴れやかな笑顔を浮かべた。
「ですねえ。」
五右衛門さんもそういった。
私もうなずいた。
帝には言いにくかったが、心の片隅で気になっていたことが解消されて、私の心は少し軽くなった。おそらく、帝も五右衛門さんもそうであったのだろう。
私たちは、また翼竜になりきる術で戻るために、ナディアと颯介が待っている場所まで戻った。
そうか。ザリガンコも元気でやっているのか。それは、驚きだったが、一生忘れられないソフトクリームの味とセットで私たちの記憶に一生残るだろう。
21世紀のニューヨーク州の競馬場はとても賑やかで混んでいて、素晴らしかった。
「若!目立ち過ぎます!」私は帝にささやいた。
「私(わたくし)は、お腹が空いてしまって何か食べたいのだ。」
帝はそう言い、ズンズン先を歩いて行った。
「若!この時代の禄を持ってきていますか?」
私は、袴姿で帝の後を追いながら、小声で言った。
「禄?持っていません。」
帝は平然と答えた。
私はため息をついた。
目の前の帝のオートクチュール忍者ファッションは、辺りの人の目を引いていた。とてつもなく美男子な上に、奇想天外な忍者ファッションで雅な雰囲気を醸し出して、人混みの間を練り歩いているのだ。
その隣にいる私は、文明開花の鐘がなるを体現したような、ハイカラな袴を着ていた。今日は、月一の奉行所の俸禄日だったのだ。習わしで、俸禄日はおしゃれな袴を着て、ブーツでばっちり決める忍者女子は多い。「ハイカラさんが通る」の21世紀アニメは、実は今の地球の忍者女子の間で流行っていた。
五右衛門さんは、普通の忍者ファッションに青のカラーをしていた。俸禄日は、やはり忍者男子も一律オシャレをしてキメるのが奉行所的習わしなのだ。
私たちは、ゲーム参加者の颯介やナディア一行がサバンナからニューヨークの競馬場に向かったので、秘密の言葉で「やった!」とささやき合いった。そして、重い参加者を乗せて、体に鞭打ってなんとか一行をニューヨークの競馬場に運んできたところだった。
ゲームの参加者が馬主席に向かったタイミングで、帝が根を上げて、さっさとコスプレをやめて元の姿に戻ってしまった。
「疲れました。彼女たちを運ぶのは重かったです。私(わたくし)は頑張りました。とてもお腹が空きました。」
帝は平然とそう言って、すぐにコスプレをやめてしまった。
ま、二十一世紀の競馬場にいきなり翼竜が現れたらとんでもない大騒ぎになるので、それはそれでありだったのだが。
問題は食べ物を買う禄だ。
誰も21世紀の地球の金を都合よく持ってなどいなかった。
しかし、最初は帝も競走馬を見て大興奮していた。私たちの地球には競馬というものはなかった。
「あれが競走馬というものですね!沙織!五右衛門!」
帝は大興奮だった。
「左様のようですね、若!」
五右衛門さんも私も大興奮だった。
「馬がゴールをきる瞬間は、本当に最高ですね・・・」
帝は長いまつげを震わせて、うっとりとそうつぶやいたくらいだ。
だが、結局すぐに、空腹に負けた。
「私わたくしは頑張りました。とてもお腹が空きました。」
そう、また帝が言い出して、帝は食べ物を探してズンズン歩き回り始めたというわけだ。
「ね、あなたたちは誰?」
小さな声に話しかけられて、帝はふと立ち止まった。
私と五右衛門さんも、声の主をまじまじと見おろした。
そこには麦わら帽子を被った9歳くらいの男の子が立っていた。黒い髪に茶色の瞳をしていて、肌はよく日にやけていた。片手に地球の歴史でしか私たちが見たことがなかった、ソフトクリームとやらを持っていた。
「お父さんは?お母さんは?」
五右衛門さんはすぐにしゃがみ込んで、辺りを見回しながら男の子に聞いた。
私も辺りを見回したが、その子の親らしき人が見当たらない。
「あのね、さっきから探しているんだけど、見つからないんだ。」その男の子は平然と言った。
どうやら迷い子らしい。
「お腹が空いたなら、僕が何か買ってあげようか?」
その子が、帝を見上げて突然言った。
「わ、わたくしに、何かこの時代の食べ物をくれるのですかっ?」
帝が興奮した声で、その男の子に聞いた。
「うん、いいよ。」
迷い子は、あっさり帝に食べ物を買ってくれることを快諾してくれた。
「おお!ありがたい!」帝は俄然元気になった。
「何が食べたいの?」
迷い子は自分の手に持ったソフトクリームを大口開けて美味しそうに食べながら帝に聞いた。
「君と同じものが良いぞ。」帝は言った。
「あ、ソフトクリームね。分かった。」
迷い子はそう言うと、うなずいて、近くのソフトクリームの売店まで歩いて行った。
「若!子供にねだるなんて。」私はたしなめた。
私たち3人は、迷い子がソフトクリーム売り場のおばさんに3本を指を示している様子を見た。
私たちは色めきたった!
え?もしかして私の分も買ってくれるの?
「沙織さん、喜んじゃって。」
五右衛門さんが私の心の声を読んで言った。
「じゃあ、五右衛門さんは要らないですって断ってくれば?」
私は冷たく五右衛門さんに言った。
「いえ。はい、僕も地球の食べ物は初めてなので、買ってくれると言うのであれば、遠慮なくいただきたい!」
五右衛門さんはそう言った。
「沙織?さっきと言っている言葉が違うぞよ?」
帝がいたずらっぽく笑いながら私に言った。
「そんな、若。せっかくですから、私もいただきます!」
私は慌ててそう言った。
というわけで、私たちは9歳の迷い子からソフトクリームを3本買ってもらって食べた。
信じられないほど甘かった。これは体を壊すなと、正直私は思ったが、ありがたくいただいた。忍び食は人間の愚かさから学んで食生活を変えていっているので、ある程度甘さ控え目のスイーツが主流なのだ。
私たちは一瞬でソフトクリームを食べ終わるくらいの勢いで食べていた。ただ、その時だった。とんでもないことを迷い子に言われてソフトクリームを危うく落としそうになった。
「あのね、僕の名前ね。ザリガンコ・エクスロゲっていうんだ。」
突風が吹き、迷い子の被っていた麦わら帽子がコロコロと地面を転がっていった。
「帝、元気そうだね。」
帝と私、五右衛門さんは口をあんぐりと開けて、迷い子を見つめた。
「なんて名前?」
五右衛門さんがかすれた声で、迷い子に聞いた。
「だから、俺は元銀行投資家のザリガンコ・エクスロゲ。」
9歳くらいの迷い子はニヤッと笑いながら言った。
「な、な、な、なぜここに?」
「その姿はどうされたんですかっ!」
「数億年先の昔に飛ばされたって、二十一世紀のことですかっ!」
帝と私と五右衛門さんはほぼ同時に叫ぶように言った。
「あーあ、せっかくのソフトクリームがとけるぜ。早く食べなよ。」
ザリガンコと名乗った9歳の男の子は、私たちがあんぐり口を開けて固まっている間に、どんどんとけていっているソフトクリームを指さして言った。
「俺さ、学校もさ、行っているのさ。」
ザリガンコはすっかり可愛らしくなった9歳らしい顔を得意げな笑みでいっぱいにして言った。
「ナディアがさ、定期ミッションとかで過去にすっ飛ばしてお仕置きした奴らの様子を見に来てくれてんのさ。」
ザリガンコはぽつぽつと話し始めた。
「でさ、俺が反省したのを認めてくれて、今度は人間として二十一世紀に送り込んでくれたのさ。」
「そんな姿を変えることができるのは、忍びのなりきる術じゃないですか。」
五右衛門さんがそう指摘した。
「そうさ。ま、俺も帝をクーデーターで倒すために、自力で忍びのなりきる術を学んだことがあったのさ。当時はあんまし上手くいかなかった。」
ザリガンコは可愛らしい9歳らしいほっぺを膨らませながら、そう言った。
「でも、太古の昔なんてすごいんだぜ。文字も知らない、文明もない恐竜だらけの時代に行って俺は孤独だったのさ。それで、俺なりのなりきる術に精を出して仕上げたのさ。」
「俺も、忍びの寺小屋行きたかったんだぜ?本当は。」
ザリガンコはそう言って黙り込んだ。
「そ、そ、そうだったのか。それはすまぬ。」
帝は静かに言った。
「ただ、ここなら俺のことは誰も知らねー。でさ、この姿で頑張ってんのさ。」
ザリガンコはそう言ってにっこりした。
「親は、競馬好きの気の良いおじさんとおばさんだけど、悪い人たちじゃねー。」
ザリガンコは競馬場の観客席のある方向を指さして言った。
そこに、ザリガンコの面倒を見てくれている親がいるのだろう。
「ナディアが上手く世話してくれた。この恩は無駄にはできねってことさ。」
ザリガンコは笑顔になって、帝に言った。
「だからよ、俺はこの時代でハーバードかMITに行くつもりだぜ。俺に学がないとは言わせねえってわけよ。」
9歳の男の子の姿でザリガンコは帝に宣言した。
「ほら、帝も沙織も五右衛門も、ソフトクリームをちゃんと食え。」
とけかかった私たちのソフトクリームをザリガンコは指さして言った。
「俺はこれからもこの甘ーいソフトクリームをいくらでも食えるけど、お前たちは忍びと恐竜の未来の地球にいたら、そうそう食えないだろ。ちゃんと食っとけ。」
9歳のザリガンコはそう言って、嬉しそうに笑った。
「会いたかったんだよ、帝。悪かったな。俺はここで頑張るから、お前も頑張れよ。じゃあな。」
それだけ言うと、9歳の男の子の姿のザリガンコはスタスタと歩いて私たちから遠ざかって言った。
「あ、ナディアに礼を言っておいてくれ!サンキュ!」
遠くから振り向いて、9歳の男の子はそういうと、帝と私と五右衛門さんに手を振って向こうに走って行った。
「あのやろ。」
ハッと我に返った帝はそう言いながら、ちょっと涙目になりながら、急いでソフトクリームを食べ終わった。
「よかったな、ザリガンコ。」
帝はしみじみとした声でそう言って、私と五右衛門さんの方を振り向いて晴れやかな笑顔を浮かべた。
「ですねえ。」
五右衛門さんもそういった。
私もうなずいた。
帝には言いにくかったが、心の片隅で気になっていたことが解消されて、私の心は少し軽くなった。おそらく、帝も五右衛門さんもそうであったのだろう。
私たちは、また翼竜になりきる術で戻るために、ナディアと颯介が待っている場所まで戻った。
そうか。ザリガンコも元気でやっているのか。それは、驚きだったが、一生忘れられないソフトクリームの味とセットで私たちの記憶に一生残るだろう。
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