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1. 標的の選別 時は数億年先の地球

第20話 帝行きつけの喫茶で(沙織)

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 私と帝の生きる時代の地球に戻ってきた。

 詳しくいうと、太古たいこの昔の中世ヨーロッパから、

 甘い菓子を美味しくいただき、暖かいお茶をすする。心の奥まで安堵感あんどかんに満ち足りて、体の緊張がやっと解けていくのを感じる。店の美しい毛並みの猫がのどをゴロゴロ鳴らして帝にすり寄っている。

 外はもう暗くなっている。初夏の空には星が上りかけていて、月も見えている。

 通りの喧騒けんそうも聞こえず、今いる奥の部屋にはわずかに他の客たちが談笑している気配が感じ取れるぐらいであり、静かで落ち着く部屋だった。 
 口の中で甘いお菓子の餡子あんこが溶けていくと、本当にまだ生きていてよかったと思えた。

「それは、大変だったわね。」

 店員にねぎらいの言葉を優しくかけられる。

 私と五右衛門さんは、帝と一緒に喫茶きっさのお店にいた。
 奥に、帝のかくのような部屋が用意されているとかで、ゲームから解放されたあとに、帝に連れられて一緒にやって来たのだ。

 珍しいほど短い髪で、色白で、着物に柑子(こうじ)色の前かけをした店員が、いそいそと帝のお世話を焼いている。

 店員は美人だ。
「私の名前はよ。」
 そう、彼女は明るく笑って言った。

 帝は、ゲームのことは一言も話さなかった。けれども、私がお妃候補であることと、命が狙われてしまったことだけはまさみに伝えていた。

 まさみは、「まあ!」とそれについては一言言っただけで、特にどうじる様子はなかった。

旦那様だんなさま、お顔が汚れていますよ。」

 まさみは、帝のことを旦那様と呼んでいた。
 帝も違和感がなく、それに平然へいぜんと応じていた。私は名ばかりのお妃候補という立場なので二人のやりとりにどうこう言えるわけがない。でも、少し胸のおくでちくっとするのはなぜか。

「とにかく無事で良かった。明日、奉行所ぶぎょうしょの仕事のあと、もう一度、城に参上さんじょうしてくれるか。」

 私は喫茶のお店を出る時に、帝にそう頼まれた。

「分かりました。」

 私は汚れてしまった身なりを整えてから奉行所に戻った。そして、いつものようにセグウェイで、実家の武家地主まで戻った。
 寄り道して高級デパートの鷹ホーで、大好きなマンゴリランを買って帰ろうと思う。姉の琴乃と一緒に食べようと思ったからだ。

 最近、セグウェイはレトロですごい人気だ。ちなみに、当たり前だけれども、今の地球のセグウェイは空が飛べる。

 早咲きのクチナシの花びらのほんの先を、香りを胸いっぱいに吸い込みながら飛ぶのは最高だ。

 帝から「初めてのデートみたいなものだ」と二人っきりの中世ヨーロッパのひとときで言われた言葉。それだけで、私の心も飛べそうだった。

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