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全世界の諸君に告ぐ

50_ゴムドリ舞い上がる

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 ゴムドリは、自分たちがやってしまったことに対する騒ぎの大きさを噛みしめていた。興奮を抑えるのが大変だった。
 新聞の朝刊を見ても、お昼のニュースを見ても、巨大ネットワークのイブニングニュースを見ても、職場でも、一日中この話題で持ちきりだった。

 コーヒーを片手に、ゴムドリはさりげなく同僚たちの会話の和に入り込んだ。自分だけこの話題に不自然に解けこんでいない感を出してしまわないよう、それとなく相槌を打ったり、驚いて見せたり、演技をした。

 演技に関しては全くの素人なので、あくまでさりげなくだ。
だが、ガールズバンド「ミッチェリアル」もまた大きな話題の一つだった。何せアメリカ公演を大成功におさめたばかりだったのだから。二つのビッグニュースが、どちらもゴムドリとは関係があった。
 で、うっかりやってしまったのだ。

「トオルがねえ・・・」
 その日、ゴムドリがランチをとっている席からすると、右側に座っているグループが話していたのは、ミッチェリアルの話題だ。

「そもそも前代未聞の天候が、武器倉庫の上だけで発生して、誰一人傷つけずに武器だけ狙い撃ちして全滅させるなんて、あり得るか?あり得ないね。」
 熱く語っていたのは、左側に座っているグループの若きエンジニアだ。オックスフォード卒で自分を賢いと思い込んでいる輩だ。ああ、賢いだろうよ、とゴムドリは内心思った。

 どっちを向いても、自分が秘密にしなければならない話題を話していて、ゴムドリは気持ちが散り散りになりそうだった。

「俺は、この前ミッチェリアルメンバーに会ったぜ。」
 うっかり口を滑らした。
 思わずバシッと自分の頬を自分で引っ叩いたが、もう遅かった。

「ええ?コンサートに行ったの?」
 右側のグループの女性がすぐさまゴムドリの言葉に反応した。

「いや、そのっ」
 ゴムドリはコンサートに行ったわけではないので、言いよどんだ。
「えっ?もしかしてプライベートで偶然遭遇とか?」
 さっきの女性の隣の女性が、色めきたった。

「まあ。そうだ。」
 ゴムドリは思わず言ってしまった。自分の口と自分の考えがまとまらない。口が勝手に自慢げに動いてしまう。

 ゴムドリは両手のヒラをきつく握りしめた。
 踏ん張れ。俺の口は何を勝手に言っているんだ?

「ゴムドリさんっ!どこで?一体どこで彼女たちに会ったの?」
 かつて仕事以外でこれほどゴムドリが皆の関心を引いたことがあったであろうか。
 
 ランチスペースのカフェテリアで、ゴムドリは一気に注目の人となり、ゴムドリは冷や汗が出るような、心が舞い上がるようなそんな忙しい気持ちを味わった。
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