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襲撃(始まる前に、襲われた)
16_クジャクさまあ!?
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「やあ、姉ちゃん。久しぶり。」
振り向くと、弟がいた。
「いーけないんだ、いけないんだ。ボースに言いつけよう♪」
そばかすだらけの顔をニヤッと歪めながら、わたしの弟は嫌味な調子で歌った。
「裏切り者。一族を裏切ってはならない掟を忘れたのか!」
わたしは弟に思わず言った。声が裏返ってしまった。
「いやあ。最初に裏切ったのはそっちっしょ。伊賀一族鉄の掟。第一条。決して一族を裏切るなかれ。」
弟はニタニタと顔を歪め。金髪のサラサラヘアが揺れるぐらいに肩を震わして笑って言った。
「ねえ、トオルさん?この人、雇い主から給料もらいながらも、雇い主を裏切ったんすよ。」
「しかも、伊賀一族の実の弟が同じ雇い主に仕えている状態で裏切ったのだから、一族も裏切ったことになりますよね?」
弟は、トオルの肩に右手をかけて、トオルの顔をのぞきこむように言った。
「気安くクジャクさまに触るでないっ!」
わたしは思わず弟の手をトオルの肩から振り払った。
「クジャクさまあ!?」
弟はワザとらしく言った。
「姉ちゃん、人を動物と同一視するのはいいかげんやめなよ。」
弟は一瞬だけ真剣な顔をしてわたしに言った。
「あんた、そんなことより大学はどうしたの?ハーバードを放り出してボスの下で働いているようだけど、いつからそんなことになったのよ。」
わたしは弟につめよった。弟もハーバード大生だったはずなのだ。
「姉ちゃんこそ、NASAを辞めてまで転がり込んだ先が、あんなボスの元とはあきれるぜ。ったくよ。」
「俺は大学は休学中。金稼ぎに姉ちゃんの後を追ったまでさ。とーころがどっこい、今、びっくりする光景を見たわけ。姉ちゃん、何してんの。ボスに殺されたいの?」
弟はわたしに言った。金髪サラサラヘアの前髪の奥で、弟の目が一瞬鋭く光った。弟は怒っている。
「トオルさんはどう思う?こういう裏切り方をする人。」
弟は隣に立って、どいうことか分からないと困惑しているトオルに聞いた。
「トオルさんを巻きこむでないっ!」
わたしは弟に思わず、震える声で怒鳴った。
「シー、静かに、姉ちゃん。姉ちゃんがもう巻き込んでるんでしょ。」
弟はわたしに向かってムカつく口調で、口をすぼめて言った。
わたしは素早く辺りを見渡した。ファーストクラスエリアの端っこで、兄弟喧嘩をしている体ならいいが、内容は他人に聞かれてはならない内容だ。
今日のフライトのファーストクラスは、バンドで貸切状態だった。ミッチェリアルメンバーか、その関係者しかいない。さっきのガタイのいい連中はどうやってミカナの席までやってこれたのか、理解に苦しむ。
弟まですり抜けてやってきた。ただ、雇い主がボスならば、そのくらいは平気でできる連中ではあるのだが。
「本気で、ミカナがただの創業者一族の後継者争いに巻き込まれているだけだって思っている?」
動物たちは耳をダンボにしているだろう。トオルも、私の隣で呆気に取られている。
当のミカナに聞かれて良い話では決してない。
私は禁句を言って、弟のおしゃべりを止める必要がある。
「デス丸、弁当抜きな。」
わたしは一言だけ、ボソッと弟に言った。奥の奥の手だ。禁じ手だ。
弟の目が一瞬、信じられないといった表情になり、目から涙が滲み出てきた。
「ごめん、ごめん。悪かった。」
私は弟に駆け寄り、「姉ちゃんが悪い。」と小声でささやいた。
「席に戻ろう。あんたの席をビジネスにアップグレードしてもらおう。」
わたしは力無くうなだれた弟をそっとファーストクラスエリアから引き離そうと、弟をトオルから遠ざけた。そのまま優しく肩を抱き、エコノミークラスの方へ連れ出した。
「ビジネスクラスで、買収成立?」
トオルから弟を引き離すと、わたしはそっと弟に聞いた。
「まあ、ビジネスクラスならいっか。あと、秘密は共有すること。いいか?」
弟はわたしに小さな声で言った。
わたしはうなずいた。
どこまで話すかは別として、弟と争う気はない。
わたしはテキパキと客室乗務員と交渉し、アップグレード手続きをとった。多少の貯金はある。ここはケチる所ではない。マイルもある。
ガールズバンドの名前を語って、メンバーが襲われたので警備強化のため、ビジネスクラスにもボディーガードを置く必要性を訴えた。わたしの訴えはあっさり認められた。
弟は満足気にビジネスクラスでお酒を頼み、わたしにささやいた。
「ミカナはロシア皇帝の末裔だったんだ。隠し財宝が転がり込んだらしい。このことを本人はまだよく知らない。ボスはミカナに知らせるつもりは、今のところない。」
そしてささやいた。
「ボスを裏切ったことがバレたら、姉ちゃん殺されるぜ。ボスはヤバい奴だ。」
「ボスの本当の職業は武器商人だ。世界中に敵がいるぜ。だから、年がら年中あちこち移動しまくっているだろ。」
わたしはゾッとして、手が震えた。
わたしは飛んで火にいる夏の虫かもしれない。自らの手で、ヤバい雇い主の所に飛び込んだ。挙句の果てに、弟まで後を追わせてしまった。
わたしは恐怖で心臓がバクバクするのを抑えられなかった。
振り向くと、弟がいた。
「いーけないんだ、いけないんだ。ボースに言いつけよう♪」
そばかすだらけの顔をニヤッと歪めながら、わたしの弟は嫌味な調子で歌った。
「裏切り者。一族を裏切ってはならない掟を忘れたのか!」
わたしは弟に思わず言った。声が裏返ってしまった。
「いやあ。最初に裏切ったのはそっちっしょ。伊賀一族鉄の掟。第一条。決して一族を裏切るなかれ。」
弟はニタニタと顔を歪め。金髪のサラサラヘアが揺れるぐらいに肩を震わして笑って言った。
「ねえ、トオルさん?この人、雇い主から給料もらいながらも、雇い主を裏切ったんすよ。」
「しかも、伊賀一族の実の弟が同じ雇い主に仕えている状態で裏切ったのだから、一族も裏切ったことになりますよね?」
弟は、トオルの肩に右手をかけて、トオルの顔をのぞきこむように言った。
「気安くクジャクさまに触るでないっ!」
わたしは思わず弟の手をトオルの肩から振り払った。
「クジャクさまあ!?」
弟はワザとらしく言った。
「姉ちゃん、人を動物と同一視するのはいいかげんやめなよ。」
弟は一瞬だけ真剣な顔をしてわたしに言った。
「あんた、そんなことより大学はどうしたの?ハーバードを放り出してボスの下で働いているようだけど、いつからそんなことになったのよ。」
わたしは弟につめよった。弟もハーバード大生だったはずなのだ。
「姉ちゃんこそ、NASAを辞めてまで転がり込んだ先が、あんなボスの元とはあきれるぜ。ったくよ。」
「俺は大学は休学中。金稼ぎに姉ちゃんの後を追ったまでさ。とーころがどっこい、今、びっくりする光景を見たわけ。姉ちゃん、何してんの。ボスに殺されたいの?」
弟はわたしに言った。金髪サラサラヘアの前髪の奥で、弟の目が一瞬鋭く光った。弟は怒っている。
「トオルさんはどう思う?こういう裏切り方をする人。」
弟は隣に立って、どいうことか分からないと困惑しているトオルに聞いた。
「トオルさんを巻きこむでないっ!」
わたしは弟に思わず、震える声で怒鳴った。
「シー、静かに、姉ちゃん。姉ちゃんがもう巻き込んでるんでしょ。」
弟はわたしに向かってムカつく口調で、口をすぼめて言った。
わたしは素早く辺りを見渡した。ファーストクラスエリアの端っこで、兄弟喧嘩をしている体ならいいが、内容は他人に聞かれてはならない内容だ。
今日のフライトのファーストクラスは、バンドで貸切状態だった。ミッチェリアルメンバーか、その関係者しかいない。さっきのガタイのいい連中はどうやってミカナの席までやってこれたのか、理解に苦しむ。
弟まですり抜けてやってきた。ただ、雇い主がボスならば、そのくらいは平気でできる連中ではあるのだが。
「本気で、ミカナがただの創業者一族の後継者争いに巻き込まれているだけだって思っている?」
動物たちは耳をダンボにしているだろう。トオルも、私の隣で呆気に取られている。
当のミカナに聞かれて良い話では決してない。
私は禁句を言って、弟のおしゃべりを止める必要がある。
「デス丸、弁当抜きな。」
わたしは一言だけ、ボソッと弟に言った。奥の奥の手だ。禁じ手だ。
弟の目が一瞬、信じられないといった表情になり、目から涙が滲み出てきた。
「ごめん、ごめん。悪かった。」
私は弟に駆け寄り、「姉ちゃんが悪い。」と小声でささやいた。
「席に戻ろう。あんたの席をビジネスにアップグレードしてもらおう。」
わたしは力無くうなだれた弟をそっとファーストクラスエリアから引き離そうと、弟をトオルから遠ざけた。そのまま優しく肩を抱き、エコノミークラスの方へ連れ出した。
「ビジネスクラスで、買収成立?」
トオルから弟を引き離すと、わたしはそっと弟に聞いた。
「まあ、ビジネスクラスならいっか。あと、秘密は共有すること。いいか?」
弟はわたしに小さな声で言った。
わたしはうなずいた。
どこまで話すかは別として、弟と争う気はない。
わたしはテキパキと客室乗務員と交渉し、アップグレード手続きをとった。多少の貯金はある。ここはケチる所ではない。マイルもある。
ガールズバンドの名前を語って、メンバーが襲われたので警備強化のため、ビジネスクラスにもボディーガードを置く必要性を訴えた。わたしの訴えはあっさり認められた。
弟は満足気にビジネスクラスでお酒を頼み、わたしにささやいた。
「ミカナはロシア皇帝の末裔だったんだ。隠し財宝が転がり込んだらしい。このことを本人はまだよく知らない。ボスはミカナに知らせるつもりは、今のところない。」
そしてささやいた。
「ボスを裏切ったことがバレたら、姉ちゃん殺されるぜ。ボスはヤバい奴だ。」
「ボスの本当の職業は武器商人だ。世界中に敵がいるぜ。だから、年がら年中あちこち移動しまくっているだろ。」
わたしはゾッとして、手が震えた。
わたしは飛んで火にいる夏の虫かもしれない。自らの手で、ヤバい雇い主の所に飛び込んだ。挙句の果てに、弟まで後を追わせてしまった。
わたしは恐怖で心臓がバクバクするのを抑えられなかった。
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