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第一章 波乱と契約婚の花嫁生活幕開け

ニーズベリー城でのフランソワーズつき侍女アガサSide

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 私はアガサだ。19歳だ。小さな村で生まれたが、豪華絢爛な宮殿の舞台裏は最高に面白いと思っている。ニーズベリー城の主役は私たち一人一人だ。

 ニーズベリー城は歴代の何人かの女王が所有した美しい城だ。王は女性にでもなれる、権威ある唯一の職業だ。国のてっぺんが女性によって牛耳られるということだけでもワクワクする。聖女も女性にできる最高の仕事だと常々思っていた。

 国家の命運は世継ぎの存在に左右されると言われる。つまり、女王や王妃となるお方が国の将来を左右することになる。だから私は女官を目指した。小さな村の裕福な商人の娘にとって狭き門だ。そして運よくニーズベリー城の侍女の仕事につくことができた。これは最大の幸運だったと思っている。

 女性がつける仕事は、肉屋、蝋燭屋、帽子屋、手袋屋、刺繍屋、財布屋……色々あるが、ギルドでは師弟関係は認められない。働くには肉屋と結婚するしかない。妻として手伝うだけだ。

 侍女仲間は、私の他は貴族の娘ばかりだ。いかに私が幸運なのか、神に感謝したいほどだ。

 ニーズベリー城の新しい女主人は、聖女でいらしたフランソワーズ嬢となった。私も何度かチラリとお見かけしたことがあったが、実際にお会いして印象がだいぶ違った。スティーブン王子に付き添っているお姿を一瞬だけ見たといった断片的な情報しかなかったフランソワーズ様は、間近でお会いすると褐色の美しい髪を持ち、輝くようなエメラルドの瞳でエクボを見せて笑うお方だ。

 ニーズベリー城は国王陛下の別邸だが、次期国王となられるスティーブン王子の主な住居として使用されている。広大で美しい庭をいくつも持ち、お堀に囲まれた城で、この城に住めることは私にとっても最高の幸せだった。

 昨日、急遽抱え込まれるように帰ってこられたスティーブン王子は、フランソワーズ様が薬草を使って解毒剤を処方されてからしばらくすると元気に回復された。そして、昨晩突然フランソワーズ様とご結婚を発表された。そして、明け方にはご自宅が火事に遭われたフランソワーズ様が、ロバート・クリフトン卿に付き添われてニーズベリー城にいらした。怒涛の展開だ。

 その後のスティーブン王子の様子を拝見する限り、王子はフランソワーズ様に恋をされているご様子だ。フランソワーズ様は控えめながら、王子の求愛を受け入れていらっしゃるようだった。

 湯を浴びた時に、お身体を拝見させていただいたが、大きな胸にくびれた腰をされていて、鍛え上げられたお身体をされている印象で、貴族令嬢のお身体とは違っているように思う。

 スティーブン王子がネックレスの贈り物をされた時は、見ているこちらが赤面してしまうほど、お二人のときめきが伝わってきた。こちらが幸せな気持ちになってしまうほどの、初々しいお二人だ。

 遅い昼食をお二人で召し上がられて、しばらく花々が咲いている庭園を散策されていたかと思うと、寝室にお二人で篭られた。スティーブン王子が多少性急なご様子でフランソワーズ様を口説き落としているように見受けられ、私たち侍女は状況を察してずっとお部屋の外で待機している。

 フランソワーズ様が愛されていらっしゃるお声が時折お部屋の外まで聞こえて、私たちは赤面していた。お二人が盛り上がってらっしゃるご様子に、体が熱くなってしまう。

 突然婚約破棄となられたヴィラ様の時はこのようなことは無かったと思い、私どもは顔を見合わせて喜んだ。

 お二人の熱烈なご様子からすると、この国の未来は明るいと思える。先の王の時代はお世継ぎがなかなか生まれず、混乱を極めた暗い時代があったと商人の父から聞いていたが、次代の治世は明るいのではないだろうか。私のような小娘に何が分かるとも思うが、新しい女主人のフランソワーズ様は何かが違うと思えた。

 ――それにしても、お二人のあまりの熱烈さにこちらが赤面してしまうほど……。

 そこへ、スティーブン王子への面会を求めてロバート・クリフトン卿がいらしたとの知らせが、私たち侍女に伝えられた。

 ――クリフトン卿にはお待ちいただくしかないわ。こんなに熱烈な状況に割って入るなんて誰にもできないわ。

 スティーブン王子の色っぽい求愛行動は、今まで一度も見たことがなかったニーズベリー城のおつきのものたちにとって、これは最高の出来事だと思えた。

 ――どうか、お二人が無事に結婚式を成功できますように。
 
 私は心から願った。


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