上 下
52 / 75
第三章 囚われの身から幸せへ

囚われの身 ヴァイオレットSide

しおりを挟む
 ぐったりと倒れている私のそばに、誰かの気配を感じて、私はハッと目を開けた。聖女カトリーヌが顔色を真っ青にして倒れていた。私はどういうことか事態が把握できず、目をしばたいた。

 モートン伯爵の山小屋で落馬したヒュー王子が息を引き取った。それは1回目の人生では起きなかったことだ。1回目の人生では、私がヒュー王子の婚約破棄されて、その後断罪されて処刑された。その後もヒュー王子は生きていて、私を探しにニホンまでやってきたぐらいだ。

 私はヒュー王子が亡くなった瞬間を思うと、ぎゅっと心臓を鷲掴みにされたような強烈な痛みを感じた。ダメだ。だからと言って、力を失って良いわけではない。それなのに私は無力だ。


「カトリーヌ、カトリーヌ、起きて」

 私はそっとカトリーヌの体をゆすった。ここは一体どこなのだろう?地下のどこかに見える。

 蝋燭の灯ったランプが隅に置いてあった。いつもは褐色の顔で薔薇色の頬をした元気なカトリーヌは真っ青な顔をしてびくともしなかった。

 ――もしかして、息をしていない?

 私は心臓が止まりそうなぐらいの衝撃を受けて、そっとカトリーヌの口元まで耳を寄せた。微かな呼吸音が聞こえてほっとする。

「ステータスオープン」

 私は力強く言葉を言ってみた。しかし、頭上には何もスキルが出現せず、頭の中はしんと静まり返ったままだ。

 しかし、だ。

 私はふと、ジョセフが渡してくれた荷物を持っていることに気づいた。ジョセフになった純斗が持ってきて、レキュール辺境伯になった彼が私にくれたベスからの差し入れだ。チョコレートとコーヒーだ。
 
 私は少しほっとした。とにかくお腹に何か入れよう。

 その時突然、地下室の部屋の扉がギイっと音を立てて開いて私は飛び上がりそうなぐらいに驚いた。美しく高い位にありそうな貴族の女性が体を半分なかに入れて、私の様子をじっと見つめた。とても豪華な絹を使っているが、デザインは非常にシンプルなドレスを着ている。年齢は20代後半ぐらいだろうか。

「ヴァイオレット聖女なの?そちらはカトリーヌ聖女かしら?」

 彼女は小声で聞いてきた。私は戸惑いながらも頷いた。

「すぐにここから逃げましょう、間もなく彼らが来るわ」

 彼女の手には鍵が握られていて、彼女の表情は真剣で必死の様子だった。私は素早くカトリーヌを抱き抱えた。

「お願い、手伝ってくださる?」
「いいわ。私はジゼルよ」

 私はジゼルに手伝ってもらいながら、カトリーヌを起こした。

「カトリーヌ、起きて!」

 私は必死で呼びかけながらカトリーヌの腕を自分の首にかけて、彼女を持ち上げようとした。もう片方の腕はジゼルが持ってくれた。

「う……っ、な……何?」

 カトリーヌは体を立てようとした瞬間に目を開けてうめいた。

「私、ヴァイオレットよ。私たち囚われたわ。ジゼルが逃げるのを手伝ってくれるから逃げるわよ。いい?歩ける?」

 ゆっくりとカトリーヌは目を瞬いた。しかし、瞬時に何が起きたか悟ったようだ。聖女を欲しがる輩が他国にいると王立修道院で散々私たちは聞かされていた。気をつけるようと言い聞かされていたのだ。カトリーヌは、今その危機に陥ったと悟ったようだ。

「ありがとう、歩けるわ」

 カトリーヌはそういうと、自力でなんとか立った。

「さあ、こちらへ。この部屋から一刻も脱出するのよ」

 私たちはジゼルに促されるままに暗い地下室の外に出た。そのままジゼルの肩に捕まり、カトリーヌの手を私は引き、私たち3人は狭い地下の廊下を急ぎ足で歩いた。

「しぃっ!」


 彼女がささやき、私たちは動きを止めた。向こうから誰かがやってくる。しかし狭い通路で、どこにも曲がり角がなく、逃げ場がない。

 私は頭の中で必死にステータスオープンと唱えた。カトリーヌの囁きが微かに聞こえた。彼女も同じ言葉を言っている。私たちの体に緊張が走った。

 絶対絶命なのか。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

結婚式をやり直したい辺境伯

C t R
恋愛
若き辺境伯カークは新妻に言い放った。 「――お前を愛する事は無いぞ」 帝国北西の辺境地、通称「世界の果て」に隣国の貴族家から花嫁がやって来た。 誰からも期待されていなかった花嫁ラルカは、美貌と知性を兼ね備える活発で明るい女性だった。 予想を裏切るハイスペックな花嫁を得た事を辺境の人々は歓び、彼女を歓迎する。 ラルカを放置し続けていたカークもまた、彼女を知るようになる。 彼女への仕打ちを後悔したカークは、やり直しに努める――――のだが。 ※シリアスなラブコメ ■作品転載、盗作、明らかな設定の類似・盗用、オマージュ、全て禁止致します。

魂レベルでビッチです~ヤンデレ彼氏に殺されて悪役令嬢に転生したらしいので、処刑上等で自由な異世界ライフを楽しみます!~

KUMANOMORI(くまのもり)
恋愛
 舞日楽華(まいにち らっか)は恋愛経験に落差のあるヤンデレ彼氏に殺され、クソゲーと名高い乙女ゲーム【聖女のキスと祝福と耳飾りと約束の地と】の悪役令嬢・シュシュ・リーブルに転生した。  乙女ゲームを知らないシュシュは、「今世ではビッチと言わせない!」と処女を護るルールを設け、「断罪処刑大歓迎~」の軽いノリで悪役令嬢ライフを開始する。  乙女ゲーム内でシュシュは自分を殺した彼氏にそっくりな、ランス・リルージュ王子に出会う。  自由気ままなシュシュは、伯爵家の嫡男・クラド・ルイドランからの婚約破棄の提案はコイントスで賭けにして、公爵家の次期当主、兄ギリアン・リーブルからの禁断愛には、柔術で対応。さらにランス王子と遊びまわり、一目ぼれしたタフガイのジョーをナンパして、と乙女ゲームの世界を楽しんでいたけれど――――  乙女ゲームの主人公、リーミア・ミルクリンが悪役令嬢シュシュのルートに入ったことで、事態は急変する――――  現世と前世が交錯する悪ノリビッチファンタジー♡  ※第一部を不定期更新します♡

追放された薬師は騎士と王子に溺愛される 薬を作るしか能がないのに、騎士団の皆さんが離してくれません!

沙寺絃
ファンタジー
唯一の肉親の母と死に別れ、田舎から王都にやってきて2年半。これまで薬師としてパーティーに尽くしてきた16歳の少女リゼットは、ある日突然追放を言い渡される。 「リゼット、お前はクビだ。お前がいるせいで俺たちはSランクパーティーになれないんだ。明日から俺たちに近付くんじゃないぞ、このお荷物が!」 Sランクパーティーを目指す仲間から、薬作りしかできないリゼットは疫病神扱いされ追放されてしまう。 さらにタイミングの悪いことに、下宿先の宿代が値上がりする。節約の為ダンジョンへ採取に出ると、魔物討伐任務中の王国騎士団と出くわした。 毒を受けた騎士団はリゼットの作る解毒薬に助けられる。そして最新の解析装置によると、リゼットは冒険者としてはFランクだが【調合師】としてはSSSランクだったと判明。騎士団はリゼットに感謝して、専属薬師として雇うことに決める。 騎士団で認められ、才能を開花させていくリゼット。一方でリゼットを追放したパーティーでは、クエストが失敗続き。連携も取りにくくなり、雲行きが怪しくなり始めていた――。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

自衛官、異世界に墜落する

フレカレディカ
ファンタジー
ある日、航空自衛隊特殊任務部隊所属の元陸上自衛隊特殊作戦部隊所属の『暁神楽(あかつきかぐら)』が、乗っていた輸送機にどこからか飛んできたミサイルが当たり墜落してしまった。だが、墜落した先は異世界だった!暁はそこから新しくできた仲間と共に生活していくこととなった・・・ 現代軍隊×異世界ファンタジー!!! ※この作品は、長年デスクワークの私が現役の頃の記憶をひねり、思い出して趣味で制作しております。至らない点などがございましたら、教えて頂ければ嬉しいです。

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

処理中です...