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第二章 二度目の人生 リベンジスタート

再会と喪失 ヴァイオレットSide

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 3回目に戻った私はサミュエルの馬車でモートン伯爵領に急いでいた。17歳だ。ヒュー王子が落馬したので、聖女である私に至急救護の助けを魔導師ジーニンが求めて来たのだ。純斗になったジョセフもついてきてくれていた。

 ジョセフが前方を指差して叫んだ

「辺境伯だ!」

 私はハッとして馬車道の先を見た。確かに、私が知っているレキュール辺境伯のエリオットだ。ブロンドヘアも何もかも当時の印象のままだ。私はこの時、ジョセフこと純斗がなぜ彼に一早く気づいたのか分からなかったが、エリオットに出会えた懐かしさでそんなことはすぐに忘れた。

 私は馬車の窓から顔を出して、向こうから歩いてやってくるエリオットに呼びかけた。手を振る。

 私を見つけたエリオットの表情がパァっと光り輝くように明るくなった。彼は非常にリラックスはしているが、紳士的な格好をしている。前回はレキュールの地でしか彼にあったことがなかったはずだったのに、都の方まで足を伸ばしているようだ。

「ちょうどあなたの家を訪ねるところだった」

 エリオットは息を切らして走ってくると、そう馬車の外から声をかけた。私たちの乗るサミュエルが御者する馬車とエリオットが佇む道の端には、もう1台の馬車が通れるほどの隙間があった。

「乗ってもらおう」

 ジョセフが私にささやき、私もうなずいた。

「お乗りになって!モートン伯爵邸に急いで行くところなのだけれど」


 私はエリオットに大きな声で伝えた。エリオットはうなずいて、馬車道を渡ってこようとした。が、突然猛烈なスピードで馬車が走ってきた。レキュール辺境伯エリオットまっしぐらに猛突進してくる。ジョセフが叫んだ。

「ヴァイオレット!時を止めて!」

『Lvl349の時を停止するスキルを使いますか?』

 ジョセフが叫ぶと、私の頭の中で瞬時に声が鳴り響いた。

「使います!」

 時がピタッと止まった。エリオットが馬車を引く馬の蹴り上げた前足の下に入った瞬間に時が止まり、ジョセフの動きも止まった。私は馬車のドアを開けて、動きを止めているエリオットの腕を引っ張って馬車の中に引き入れようとしたが、次の攻撃がすぐにやってきた。矢のようなスピードで炎の弾丸のようなものがすぐそこまで飛んできた。

『Lvl421のスライディング力を使いますか?』
「使います!」

 私はエリオットの腕をつかんだまま、そのままサミュエルが御者をする馬車の真下を高速スライディングで潜り抜け、間一髪で炎の弾丸を交わした。そのまま反対側の馬車のドアを開けて、馬車の中にエリオットを連れて雪崩れ込んだ。

『Lvl1万56のバリアのスキルを使いますか?』


「使います!」

 サミュエルの馬車は馬も御者も含めて大きな丸い透明バリアが出現して包み込んだ。

 そのまま馬車は動き出した。私達を狙った魔術師の攻撃が止まったことに、私はホッとする思いだった。バリアは効果的だったようだ。

 周囲も一気に動きを開始した。

「お、お嬢様、私はなぜここに!?」

 隣にいたジョセフが突然私に聞き始めた。彼はなぜこんなところで私と馬車に乗っているのか分からない様子だ。

「え?」

 私はジョセフの顔を食い入るように見つめた。

 ――純斗が中に入っているのではなかったの?

「モートン伯爵の領地でヒュー王子が落馬された。急ぎ来て欲しいと魔導師ジーニンから依頼があったから、今から行くところだ。君はぼーっとしているのか?」

 突然、くしゃくしゃのブロンドの髪をした頭をあきれたように振りながら、レキュール辺境伯のエリオットがジョセフに話し始めた。明るい碧い瞳は笑っているようだ。

「あ……私、ちょっと混乱していたようです。ヴァイオレットお嬢様、大変申し訳ございません」

 ジョセフはオドオドとした様子で私とレキュール辺境伯に謝罪した。私は今の会話の意味が全く分からず、穴があくほどエリオットとジョセフの両方の顔を交互に見つめた。

「さっきの馬は僕を狙ったんだと思う」

 グッと身を乗り出してきて、小声でエリオットが私にささやいた。キスができるほど顔が近づいている。私は久しぶりに見た彼のとてつもないハンサムな顔を見つめた。碧い瞳にクラクラくる。

 ――なんだろう?この感覚は……?

 私は目をしばたいた。

 ――彼はヒュー王子が落馬したことをなぜ知っているのだろう?それに私が魔導師ジーニンに呼ばれたこともなぜ知っているのだろう?

 その両方を知っているのはジョセフの方だ。しかし、ジョセフはなぜここにいるのかさっぱり理解できない様子だ。

 ――いや、この状況を把握しているのは純斗の方だわ。

 ――純斗……?

 私はエリオットの煌めく碧い瞳をじっと見つめた。そして茶色いジョセフの瞳をじっと見つめた。

「アパートの名前はなんですか?最近地球滅亡の危機にあったのは、何が起きたからですか?」

 私のいきなりの質問にジョセフは動揺した様子で、「お嬢様、その質問はなんでしょうか」と聞き返してきた。

「アパートはヴィラ・ヒルデガルドで、最近地球が滅亡しそうになったのは、隕石が地球に衝突しそうになったから。でも、一巻の終わりかというところで、君が地球を救った。そして、うちの大学で一番厳しいフラ語の教授は大塚教授だと思う」

 私が聞いてもいないことも答えたのは、くしゃくしゃのブロンドヘアの奥から煌めく碧い瞳がイタズラっぽく輝く、レキュール辺境伯エリオットだ。

 私はじっとエリオットの顔を見つめた。

「純斗……!?」

「いかにも。君のことが好きだと告白した純斗だ」

 私はその言葉に青くなって次にカッと身体中が熱くなった。告白されたことを思い出したから。

「な……なんで!?」

 私は叫んで思わず馬車の中で立ちあがろうとして、馬車の天井に思いきり頭をぶつけた。

「ダメだよ、この馬車は天井が意外と低い。僕らが最初に出会ったのは、君がレキュール辺境伯爵領で迷子になった時だ。なぜか聖女の力を発揮できなかったあの夜のことだ。僕らは焚き火を囲んで、星空の元、たくさんの話をした。それから前回ヒューが婚約破棄を言い渡した時、少なくとも僕の方は君に恋をしていたんだ。あの夜からずっと僕は君に恋をしているんだ」

 私は意味がわからないと頭を振った。ものすごく混乱する。彼はエリオットの話をしている。エリオットと私しか知らない話だ。でも、純斗しか分からない話もしている。

「ジョセフに耳を塞ぐように言ってくれるかな?」

 純斗はまたもや私の耳元にそっとささやいた。

 ――顔が近い!

 ささやいた後にキスができそうなぐらいに顔が近づいていて、私の目をのぞき込んでいる。その優しい瞳に私はドギマギした。

『Lvl121の音遮断スキルを使いますか?』
「使います」

 ジョセフの耳には薄ピンクのヘッドフォンが出現した。私はそのヘッドフォンの片方を少し上げて、ジョセフに言った。

「少しだけ、この素敵な音楽を聴いていてくれるかしら?」
「はい、お嬢様っ!」

 ジョセフは驚きのあまりによく分からないといった表情をしたまま私のお願いに従った。耳から聞こえてくる音楽に呆然としているようで、また初めての体験にうっとりしているような、そんな様子でもあった。

「さあ、どうぞ」

 私がエリオットに先を続けるように促すと、彼が腕組みをしたまま人差し指を私の目の前に掲げた。

「いいか?俺は純斗でレキュール辺境伯のエリオットでもある。この前戻った時に、それが初めて分かったんだ。俺は前世でレキュール辺境伯だった。魔導師ジーニンが言っていただろう?君は亡くなったから戻れるって。俺も前回君が亡くなった後に死んだ。僕を殺したは、隣国のカール大帝の弟のルノーだ。今、急にジョセフから僕はレキュール辺境伯の体に戻った」

「エリオットは殺されたの!?今みたいな攻撃を受けたの?」

「いや、見てはいけないものを見てしまったから殺されたんだ。君が亡くなった後、マルグリッドとルノーは逢瀬を重ねていたんだ。マルグリッドとヒュー王子は、君が亡くなった後には婚約していた。結局ルノーは君を欲しがっていたんだ。君を殺す必要はなかったんだとルノーはマルグリッドに激怒していた。君が亡くなった後、レキュール辺境伯の領地はマルグリッドの謀でルノーに取られた」

 私の知らない話がたくさん出てくる。サミュエルの馬車は何事もなかったかのように進んでいた。私は圧倒されるような思いで、状況を飲み込もうと窓の外の並木道に目をやった。馬車道は、両橋に人が歩けるスペースが作られていて、ピンク色の花が咲いていた。

 ――あの花は……。

「お……お嬢様、これは何でしょう?」

 突然、ヘッドフォンで音楽を聴いていたはずの隣に座っているジョセフが叫んだ。ジョセフの手が赤く染まっていた。

「え?」

 私はハッとして目の前の席に座っているエリオットに目を向けた。彼の胸に短剣が刺さっていた。

「エリオット!嘘でしょうっ!純斗!何か言ってよ」

 私は叫んだ。でも、彼は絶命していた。


 ――ジョセフの中に入っていた純斗が抜けたから、ジョセフの体に誰かが一瞬入り込めたの?そして目的のエリオットを殺した?

 私は衝撃のあまりに震えが止まらなかった。動揺してジョセフの瞳を確認した。

 ――純斗は?純斗はどこに行ったの?もしかしてエリオットの体に戻ったままで彼も死んだの?

 そんなっ!
 
 頭の中でスキルの声がしない。何も音がせずにシーンと静まり帰っている。

「ステータスオープン!」

 ――だめだダメだ。落ち着くのよ。同じ過ちをしてはならない。私は聖女だ。動揺して力を出せないようでは、誰一人救えやしないのよ。自分自身ですら救えない。

 頭上にスキルが見えない。

 私は目を閉じて深く深呼吸をした。私は以前のヴァイオレットではない。

 ――集中しなさい。




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