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第二部:2章:王宮騎士団第零部隊
171話:見えない存在と現れる存在
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聞き取り調査は中断とし、一般市民は封鎖地区から退避。
その通りには戦うことが出来る者しか残っていない。
封鎖区画の入り口で、彼らは作戦会議をおこなっていた。
「というわけで、原因は異空間にあると俺は踏んでいる。」
先ほど立てた仮説を述べるマーカスに、多くの者は本当にそんなことがありえるのかと訝しげだった。しかし、エルスターだけは心当たりがあるのか受け入れており、すでに仮説をベースに作戦を立て始めていた。
「ふむ……神隠しがそういった類のモノであるとするなら、この世界と異空間とを繋ぐための穴を開け閉めする瞬間があるでしょうねぇ。まぁ、手を繋いでいても人が消えるのですから、その穴が例えあったとしても、私たちが知覚できないほど一瞬でしょうけども。」
「じゃあ、どうするのよ。」
「おやおや、あなたがいるではないですか、ネルカ。どうせ魔力が関わっていることだけは確定事項なのです、つまり黒魔法の出番ですよ。神隠しの瞬間にネルカがいたとすると……穴が開きっぱなしになると思いませんか?」
「おい、穴が壊れて大惨事、ってことにはならねぇよなぁ?」
「それは結果論の話。私たちには分からないことですねぇ。」
「マジかよ…。」
何もかもの情報が不確定である今、最善も最悪も不確定。
ならば、最後に判断の材料となるのは『勘』に他ならない。
どちらかと言えば理論型のエルスターではあるが、彼は『勘』と『運』は別物として考えており、信じるに値する要素であるとしている。だからこそ、彼は黒魔法により空間の穴を壊すという作戦がに賭けることにしたのだ。
そして、ネルカはそんなエルスターを信じたのだった。
「そうとなれば、次は、神隠しの場所の特定ね。何もかもがランダムだから、待ちの作業にはなるかもしれないけど…ほら、部隊長さん、魔力に一番敏感なのはアナタでしょう? 今はどの辺にいるのかしら?」
「もう! 分かったよ! やればいいんだろ! やれば!」
そう言うと、マーカスは目を閉じて集中力を高めた。
大気中の魔力が渦巻くように彼に吸い込まれていく。
ネルカは自身の黒魔法が邪魔になってしまわぬように、その場からある程度に離れた場所へと移動した。急激に濃くなった有象無象の魔力に、周囲にいる者はどこか居心地が悪いのかソワソワし始めた。
そして、十秒ほどが経って、マーカスは濾過を止めたのだった。
「あー…ここだ。」
「「「え?」」」
「今、この場所が、神隠しの魔力が一番濃い。」
その言葉に、場に緊張が走る。
神隠しに遭った人間がどうなるのかは、完全に未知の領域である。
それがどの瞬間で訪れるのかも、予測不可能なことなのだ。
分からない――とは恐怖だ。
そして――
『わたしを、呼んだ? 誰? まぁいっか、あーそーぼ!』
声がした――幼い少女の声だった。
邪気が無いと分かるような声色だ。
出所がどこなのか分からず、静寂の路地に響き渡る。
次の瞬間――エルスターが消えた。
「「「「え?」」」」
彼が神隠しにあったのだと理解するのに十数秒、そこにいる全ての者が思考を停止してしまった。なぜ誰がどのようにと思考が忙しなく出ては消えを繰り返す中、彼らを現実へと引き戻したのは頭上からの男の声だった。
「なるほど、向こう側の存在に『呼びかけれる』のだな?」
見上げるとそこには、ノースリーブの武人と仮面を被った男の姿。
マックスとベルディゾの二人組が、機を狙って待っていたのだった。
「そうと分かれば、これ以上、泳がしておく必要もねぇな。」
「そうか、殲滅か。了解した。」
マックスが懐からおしゃぶりを取り出した。
彼がそれを口にくわえた瞬間、ネルカとベルディゾを除いた者の視界が傾き、よろめいたのだった。たった数度の角度で、しかもすぐに視界は元に戻ったとなれど、まっすぐに立つことは困難なのだ。
その瞬間をベルディゾは逃さなかった。
「ヌンッ!」
屋根から飛び降りて着地すると、近くにいた騎士に回し蹴りを放った。
頭部に蹴りを食らった騎士は、首があってはいけない方へと曲げられる。そこから剣を奪い取ったベルディゾは、さらに近くにいた別の騎士へと、技術もない力任せの一振りによって右肩を陥没させたのだった。
そこに、よろめきから回復したマーカスが迫った。
彼はベルディゾに向け、上段から剣を振り下ろし――
「オラァッ!」
「ふんっ!」
――交差した両手によって受け止められたのだった。
魔力膜が存在するにも関わらず、鈍器などではなく剣が多く使われるのは、『とは言え』だからだ。だがそれでも、マーカスの目の前にいるノースリーブの男は素手で受け止めたのだ。
(どれだけの魔力があれば…こんだけ硬くなんだよ!)
彼は歯を食いしばりながら、握る剣へと力を込めた。
「おいネルカ嬢! こっち来い!」
「分かっているわよ!」
その様子を少し遠い位置にいたネルカも黙って見ていたわけではない。
ただ、彼女にしては珍しく、数ある選択肢を決めかねていたのだ。
――屋根の上のマックスを殺すか。
――マーカスと交戦中のベルディゾを殺すか。
――神隠しに遭ったエルスターを探すか。
本能の殺意こそ一番近いベルディゾに向けられているが、それでも思考の迷いが動きに影響しないというわけではない。彼女の真横にある建物から発生した急な魔力の気配に、対応することができなかったのである。
破壊される壁。
そこから現れたのは魔物だった。
「ッ!? ガッ!」
大鎌の柄を差し込む暇もなく、魔物の突進がネルカに直撃してしまう。
ダンゴムシをただひたすらに大きくしたような魔物が、縦回転しながらネルカを吹き飛ばしたのだった。彼女は反対側の建物へと叩きつけられると、そこに魔物が追撃をかます。壁を破壊し、さらに奥へとネルカを押し込んでいった。
「あら、出遅れちゃったじゃないのォ。」
魔物が出現した建物から、スィレンとその部下が現れた。
彼女が手を前に突き出すと、空中に黒い穴が発生し、中から犬の魔物数匹が出現するのだった。そして、ネルカとダンゴムシの魔物が消えていった方へと、犬の魔物は駆け出して行くのだった。
「チィッ! 敵の援軍か!」
「安心しろ、俺らから見ても敵だ。」
「くっ! 安心要素じゃねぇっつうの!」
王宮騎士団第零部隊とガッベの街の騎士。
リーネットの配下であるマックスとベルディゾ。
ゼノン教幹部スィランとその部下たち。
三つ巴の乱戦が始まったのだった――。
その通りには戦うことが出来る者しか残っていない。
封鎖区画の入り口で、彼らは作戦会議をおこなっていた。
「というわけで、原因は異空間にあると俺は踏んでいる。」
先ほど立てた仮説を述べるマーカスに、多くの者は本当にそんなことがありえるのかと訝しげだった。しかし、エルスターだけは心当たりがあるのか受け入れており、すでに仮説をベースに作戦を立て始めていた。
「ふむ……神隠しがそういった類のモノであるとするなら、この世界と異空間とを繋ぐための穴を開け閉めする瞬間があるでしょうねぇ。まぁ、手を繋いでいても人が消えるのですから、その穴が例えあったとしても、私たちが知覚できないほど一瞬でしょうけども。」
「じゃあ、どうするのよ。」
「おやおや、あなたがいるではないですか、ネルカ。どうせ魔力が関わっていることだけは確定事項なのです、つまり黒魔法の出番ですよ。神隠しの瞬間にネルカがいたとすると……穴が開きっぱなしになると思いませんか?」
「おい、穴が壊れて大惨事、ってことにはならねぇよなぁ?」
「それは結果論の話。私たちには分からないことですねぇ。」
「マジかよ…。」
何もかもの情報が不確定である今、最善も最悪も不確定。
ならば、最後に判断の材料となるのは『勘』に他ならない。
どちらかと言えば理論型のエルスターではあるが、彼は『勘』と『運』は別物として考えており、信じるに値する要素であるとしている。だからこそ、彼は黒魔法により空間の穴を壊すという作戦がに賭けることにしたのだ。
そして、ネルカはそんなエルスターを信じたのだった。
「そうとなれば、次は、神隠しの場所の特定ね。何もかもがランダムだから、待ちの作業にはなるかもしれないけど…ほら、部隊長さん、魔力に一番敏感なのはアナタでしょう? 今はどの辺にいるのかしら?」
「もう! 分かったよ! やればいいんだろ! やれば!」
そう言うと、マーカスは目を閉じて集中力を高めた。
大気中の魔力が渦巻くように彼に吸い込まれていく。
ネルカは自身の黒魔法が邪魔になってしまわぬように、その場からある程度に離れた場所へと移動した。急激に濃くなった有象無象の魔力に、周囲にいる者はどこか居心地が悪いのかソワソワし始めた。
そして、十秒ほどが経って、マーカスは濾過を止めたのだった。
「あー…ここだ。」
「「「え?」」」
「今、この場所が、神隠しの魔力が一番濃い。」
その言葉に、場に緊張が走る。
神隠しに遭った人間がどうなるのかは、完全に未知の領域である。
それがどの瞬間で訪れるのかも、予測不可能なことなのだ。
分からない――とは恐怖だ。
そして――
『わたしを、呼んだ? 誰? まぁいっか、あーそーぼ!』
声がした――幼い少女の声だった。
邪気が無いと分かるような声色だ。
出所がどこなのか分からず、静寂の路地に響き渡る。
次の瞬間――エルスターが消えた。
「「「「え?」」」」
彼が神隠しにあったのだと理解するのに十数秒、そこにいる全ての者が思考を停止してしまった。なぜ誰がどのようにと思考が忙しなく出ては消えを繰り返す中、彼らを現実へと引き戻したのは頭上からの男の声だった。
「なるほど、向こう側の存在に『呼びかけれる』のだな?」
見上げるとそこには、ノースリーブの武人と仮面を被った男の姿。
マックスとベルディゾの二人組が、機を狙って待っていたのだった。
「そうと分かれば、これ以上、泳がしておく必要もねぇな。」
「そうか、殲滅か。了解した。」
マックスが懐からおしゃぶりを取り出した。
彼がそれを口にくわえた瞬間、ネルカとベルディゾを除いた者の視界が傾き、よろめいたのだった。たった数度の角度で、しかもすぐに視界は元に戻ったとなれど、まっすぐに立つことは困難なのだ。
その瞬間をベルディゾは逃さなかった。
「ヌンッ!」
屋根から飛び降りて着地すると、近くにいた騎士に回し蹴りを放った。
頭部に蹴りを食らった騎士は、首があってはいけない方へと曲げられる。そこから剣を奪い取ったベルディゾは、さらに近くにいた別の騎士へと、技術もない力任せの一振りによって右肩を陥没させたのだった。
そこに、よろめきから回復したマーカスが迫った。
彼はベルディゾに向け、上段から剣を振り下ろし――
「オラァッ!」
「ふんっ!」
――交差した両手によって受け止められたのだった。
魔力膜が存在するにも関わらず、鈍器などではなく剣が多く使われるのは、『とは言え』だからだ。だがそれでも、マーカスの目の前にいるノースリーブの男は素手で受け止めたのだ。
(どれだけの魔力があれば…こんだけ硬くなんだよ!)
彼は歯を食いしばりながら、握る剣へと力を込めた。
「おいネルカ嬢! こっち来い!」
「分かっているわよ!」
その様子を少し遠い位置にいたネルカも黙って見ていたわけではない。
ただ、彼女にしては珍しく、数ある選択肢を決めかねていたのだ。
――屋根の上のマックスを殺すか。
――マーカスと交戦中のベルディゾを殺すか。
――神隠しに遭ったエルスターを探すか。
本能の殺意こそ一番近いベルディゾに向けられているが、それでも思考の迷いが動きに影響しないというわけではない。彼女の真横にある建物から発生した急な魔力の気配に、対応することができなかったのである。
破壊される壁。
そこから現れたのは魔物だった。
「ッ!? ガッ!」
大鎌の柄を差し込む暇もなく、魔物の突進がネルカに直撃してしまう。
ダンゴムシをただひたすらに大きくしたような魔物が、縦回転しながらネルカを吹き飛ばしたのだった。彼女は反対側の建物へと叩きつけられると、そこに魔物が追撃をかます。壁を破壊し、さらに奥へとネルカを押し込んでいった。
「あら、出遅れちゃったじゃないのォ。」
魔物が出現した建物から、スィレンとその部下が現れた。
彼女が手を前に突き出すと、空中に黒い穴が発生し、中から犬の魔物数匹が出現するのだった。そして、ネルカとダンゴムシの魔物が消えていった方へと、犬の魔物は駆け出して行くのだった。
「チィッ! 敵の援軍か!」
「安心しろ、俺らから見ても敵だ。」
「くっ! 安心要素じゃねぇっつうの!」
王宮騎士団第零部隊とガッベの街の騎士。
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