その令嬢、危険にて

ペン銀太郎

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第二部:1章:お騒がせ新学期

155話:聖女争奪戦③

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コルネル、もといネルカは参戦を決定した。
今の四人ではまだ、ギウスレアを相手取れないと判断したのだ。

(おそらく、彼は魔法が使える。私のような準備のいらない魔法なのか、それとも呪具や魔導具によるものかは知らないけど…。どちらにせよ、そういった強引を押し通せる力があるのは確かね。)

ギウスレアを帝国最強たらしめている何か。

「フハッハ~! コルネル、ようやくお出ましか!」

「殿下が出るなら、私もでないと、ね。」

「ほう…そう口にするだけの力量、見せてみよ!」

ギウスレアは他を無視してネルカへと突撃する。
速度としてはかなりのもの、だが、避暑地で戦った影の一族のセグほどではない。彼女は繰り出された右手の突き攻撃を模擬剣で受け、旋棍を回転させた彼の左手をチラリと見ながら、勢いを右側へと逸らしていく。

そして、身をひねって、攻撃を仕掛けた。

だが――

「避けられた?」

模擬剣は数ミリで届いていない。

しかし、ギウスレアは回避の動作はおこなっていなかった。
そもそも回避の動作が取れる状態ではなかった。
先ほどのウェイグの攻撃を回避した時と同じだ。

だが、推理している暇はない。

「ゆくぞ!」

ギウスレアは腰を落とし、ネルカの懐へと潜り込む。
そして、その空いた腹へと一撃を繰り出すのだった。

「クハッ!」

胃の中をぶちまけたくなるような不快感。
彼の一撃がネルカの急所に入った証拠だった。
彼女の体は吹き飛ばされ、結界に衝突する。

そして、視界の端ではギウスレアが動く。
だが、ネルカへの追撃ではなかった。

「「「「ハァッ!」」」」

ウェイグたち四人がギウスレアに肉薄していた。
彼はまず初めにコルナールの脇腹を長棒の部分で叩く。そして、トムスの模擬剣に対して殴り弾くと、跳躍したのちに回転蹴りを顔面に放ち、その勢いを使ってウェイグにも蹴りを当てる。最後に、斬りかかってきたオーバルの剣を掴むと、グイッと引き寄せ、よろめいた彼の顔に手を置いてそのまま――地面へと叩きつけたのだった。

この間、およそ数秒。

――ネルカは戦場へと復帰していた。

その身に黒衣をまとって。

「むっ、戻るのが早いな!」

「タフなのが取り柄なので、ね。」

ネルカの手にはいつもの大鎌はなかった。
それは棒、なんの変哲もない黒魔法の棒だった。
彼女を知る者なら柄だけの大鎌と言うかもしれない。

ギウスレアは彼女に近接すると、旋棍によるラッシュを仕掛けた。右からも、左から、上からも、下からも――だがすべての攻撃をネルカは難なく捌いていた。何もない状態なら無理でも、黒衣操作中なら対応できる速さだ。

不自然な力には、不自然な力で対抗する。

今や結界内に立っているのは二人だけ、皆が脱落者として回収されてしまっていた。そして、皆は二人の攻防を見ているわけだが――どっちにしろコルネル単体に勝てる者がいなかったのだと悟っていた。

「ハッ!」

守り一偏だったネルカが動きを変えた。
ギウスレアの隙こそ一瞬だったが、その一瞬をネルカは見逃さない。
彼女は突きの一撃を彼の横腹に入れると、追撃として棒を薙ぎ払う。(ギリギリ間に合う!)と判断したギウスレアは、力を使って後方へと跳び避けようとした。

実際、彼の目算は間違いではなかった。

黒魔法の棒を避けることには成功する速度だった。

そう――棒なら――

――大鎌へと変形する。

「なにッ!」

伸びたリーチがギウスレアの右腕を捕らえる。
黒魔法の前では魔力による防御など皆無に等しい、そして、彼女が放ったのはギウスレアに追いつける速度の攻撃だ――自身の腕から鳴る嫌な破壊音を聞きながら、彼は吹き飛ばされ地面に倒れた。

(これが黒魔法…噂通り…魔力による防御は不能…。)

ギウスレアが空を見上げる中、ネルカはオロオロしていた。
勢いでやってしまった、と言わんばかりの表情だ。

コルネルとして繕っていた目じりも上がり、それでいて涙目で慌てた様子はどこか柔らかさを感じる。今の彼女は死神鴉でも、英雄でも、コルネルでもない――ただのネルカという一人の女性になっている。

だが、ギウスレアは空を見上げている。
ネルカの様子など確認していなかった。

(あぁ…王国に来て正解だった。すごく楽しい。)

コルネルもといネルカ…の本気は、先ほどの攻防でよく分かった。
人の強さを数値化できるなら、総合力は自身と変わらないだろう。
机上の空論ならば、ほぼ互角に等しいと言える。

しかし、黒魔法――アレは数値外の強さ。

常識的な人の肉体で勝負する限り、すべてが不利対面となる。
格上だろうと命に届きうるようなインチキじみた力。
黒魔法と本気で戦うには、専用の対策を用意するべき。

今のギウスレアでは勝てるはずもない相手だ。

「フハッハ~! 第二ラウンドだ!」

だが、ギウスレアは立ち上がった。
体の内に埋め込まれた『呪い』が、進み続けろと囁く。
勝てない戦いなど関係ない、進むしかないのだ。

進めなくなるまで、止まらない。

次の瞬間、ギウスレアの背後が爆発した。
ゴウゴウと音を鳴らしながら、今か今かと待ちわびる魔力の奔流。早く背を押させろと、主人である彼を叱りつける暴れん坊の力。彼自身、ここまでの出力は初めての事だったが、それでも制御権を握るは主人だった。

「ゆくぞ、コルネルよ!」

何でもできるかのような高揚感が彼を支配する。

呪いなどなくとも、ギウスレアは進み続ける。
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