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第二部:1章:お騒がせ新学期
152話:聖女争奪戦⓪
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聖女争奪戦、当日。
今回の大会は突発的だったにもかかわらず、コロシアム会場には騎士科の半分ほどが集まっており、さらには学園外の同年代の者たちも複数名集まる始末だった。
聖女マリアンネとの縁を死神直々に結んでもらうというのは、それほどまでに魅力的なことなのだ。
「ガハハハ!集まっておるな!」
そんな会場を観客席からガドラクは見下ろしていた。今回のネルカの無茶振りは、騎士団長である彼の監視のもとで、という条件で許されたことだった。
そして――
「ハァ…。」
豪快に笑う彼の横では、渋い顔をして眉間に手を当てているデインも座っていた。彼は深い溜め息を吐くと、ガドラクへと向き直る。
「団長殿、笑い事ではないよ…。」
「殿下は心配性ですなぁ。」
「いや、心配性だとか…そういう話ではなく…。今回の件、肝心のマリアンネ嬢には知らされてないんだ。ならば、勝手に押し進めてはいけないだろう。」
「まっ、そこは死神との仲というものじゃろう。ワシは特には気にしていないがな。そんなことよりも、ワシが気になるのは乱闘ルールじゃな。騎士団含め初めてのルール…もし良さそうであれば、コチラでも採用してみるかのぉ…。」
そう言って闘技場の脇をチラリと見たガドラクの視界には、多くの騎士たちが控えていた。初めてのことだからこそ、すぐに駆けつけれるようにという配慮である。
「っと…おや?」
そうこうしている内に、入場口からピリリとした気配が漂って来る。空気を悟ったのはガドラクだけでなく、その場にいる者すべてだった。
ガドラクはニヤリと笑った。
「優勝候補…と言ったところですかな?」
現れたのは長身の戦士。
企画者であるネルカ――もといコルネル。
手には模擬剣が握られている。
そして、その背後には四人の人影。
――トムス・ダッカール
――コルナール・ガダック
――ウェイグ・ハーランド
――オーバル・グレイソン
まるで彼女の部下であるかのように歩く四人。
いや、ようにではない。
試合の間だけ四人は協力者であり、部下でもあるのだ。ちなみに、彼らは別に聖女と婚姻を結ぼうなどとは考えておらず、ネルカに対する恩義だけで参加していた。
また、ガドラクやデインの反対側の観客席にて、マルシャが「おい! どうしてあの相談から、このような結果に至るんだ! 絶対にコレは違うだろう! 考え直したまえ!」と叫んでいるが、ネルカは聞かないふりをしていた。
「お、おい! なんだよあの集団!」
「あれを突破しろとか無理な話だろうがッ!」
「チクショウ!勝たせる気ねぇだろ!」
多くはコルネルの正体を知らない。
ゆえに、その実力も未知数。
だが、あの死神の兄――油断はできない。
それに加えてあの集団だ。
彼らは決して団結するということはなかったが、自然とその思考は近いものへと寄っていく。すべての注目はネルカたちに集められていた。
勝つためには、まずは――
(((先に狙うべきか?)))
対するネルカ一行は結界内へと入って行く。
周囲を見渡した彼女は不敵に笑っていた。
「これはまぁ、一種の――面接試験みたいなものだよ。」
口から出る言葉ではなく、肉体言語による面接。
そして、戦いの火ぶたが切られた――。
― ― ― ― ― ―
一方その頃、アルマ学園では――
「今日、師匠は休み…?」
「そうなんだよ。せっかくボクが戻って来る日だってのに、も~、ネルちゃんは薄情だよ! むむむっ!」
何も知らないマリアンネとエレナは二人で過ごしていた。
いつもの昼休憩、いつもの屋外――だがネルカはいない。
王都は未だに復興作業が継続こそされているが、エレナができることはもうないということで通学を再開したのだった。そんな久しぶりの学園だというのに、ネルカはいない。
そんなプンスカと怒っているところ――
『……いへ……で…わ~!』
女性の大声が聞こえた。
驚いた二人が振り向いた先には、豪勢な格好をした見覚えのある金髪の女性が、手を振りながらこちら側に向かってきていた。その人物の背後では従者と思わしき人たちが追いかけている。
「たいへんですわ~!」
豪勢な格好の金髪――アイナ・デーレンだった。
「た、大変、で、ですわ…ゼェゼェ…ハァ…」
二人の前まで辿り着いた彼女は、全力疾走に息を切らしていた。そして、ガバッと顔を上げると、オロオロしているマリアンネの肩を掴んで激しく揺さぶった。アイナの顔はアイシャドウが汗により流れており、もはや恐怖の対象以外の何者でもない。
「ア、アイナ様! どうなされましたか!」
「寝取り大作戦が! 崩壊しそうですわ! コルネル様の手によって!」
「えぇッ!?」
ちなみに、隣ではエレナが「ねぇ、ボクがいない間、何があったの…。寝取りって……それに、コルネルってネルちゃんの男装姿だよね確か…。ワケわかんないよ…。」と頭を抱えていた。
アイナは目をグルグルさせながら言葉を続けた。
「コ、コルネル様が! 乱闘大会をお開きになりましたの! 優勝者には、あの方の大事な女性と、婚姻する権利が与えられるって! 大変なことになりましたわ!」
パニック状態に陥っている彼女からは、前置きなどが省略された突飛的な説明が放たれる。エレナとマリアンネは納得こそできないが、これだけの説明でも理解までなら可能である。
しかし、理解できるのはコルネル=ネルカと知っているから。
では、知らない人がアイナの説明を聞いたらどうなるか?
答えは――
「なにッ!? 『ネルカとの』婚姻権だと!?」
――勘違いする。
偶然に近くを通った男は――ギウスレア・パラナン・ガリッド。
よりによって、この厄介な男に知られてしまったのだった。
そう、彼はアイナの言葉を勘違いしてしまった。
コルネル主催の乱闘大会の趣旨を、勘違いしてしまった。
妹であるネルカの婚姻権利を賭けた戦い、と勘違いを――。
今回の大会は突発的だったにもかかわらず、コロシアム会場には騎士科の半分ほどが集まっており、さらには学園外の同年代の者たちも複数名集まる始末だった。
聖女マリアンネとの縁を死神直々に結んでもらうというのは、それほどまでに魅力的なことなのだ。
「ガハハハ!集まっておるな!」
そんな会場を観客席からガドラクは見下ろしていた。今回のネルカの無茶振りは、騎士団長である彼の監視のもとで、という条件で許されたことだった。
そして――
「ハァ…。」
豪快に笑う彼の横では、渋い顔をして眉間に手を当てているデインも座っていた。彼は深い溜め息を吐くと、ガドラクへと向き直る。
「団長殿、笑い事ではないよ…。」
「殿下は心配性ですなぁ。」
「いや、心配性だとか…そういう話ではなく…。今回の件、肝心のマリアンネ嬢には知らされてないんだ。ならば、勝手に押し進めてはいけないだろう。」
「まっ、そこは死神との仲というものじゃろう。ワシは特には気にしていないがな。そんなことよりも、ワシが気になるのは乱闘ルールじゃな。騎士団含め初めてのルール…もし良さそうであれば、コチラでも採用してみるかのぉ…。」
そう言って闘技場の脇をチラリと見たガドラクの視界には、多くの騎士たちが控えていた。初めてのことだからこそ、すぐに駆けつけれるようにという配慮である。
「っと…おや?」
そうこうしている内に、入場口からピリリとした気配が漂って来る。空気を悟ったのはガドラクだけでなく、その場にいる者すべてだった。
ガドラクはニヤリと笑った。
「優勝候補…と言ったところですかな?」
現れたのは長身の戦士。
企画者であるネルカ――もといコルネル。
手には模擬剣が握られている。
そして、その背後には四人の人影。
――トムス・ダッカール
――コルナール・ガダック
――ウェイグ・ハーランド
――オーバル・グレイソン
まるで彼女の部下であるかのように歩く四人。
いや、ようにではない。
試合の間だけ四人は協力者であり、部下でもあるのだ。ちなみに、彼らは別に聖女と婚姻を結ぼうなどとは考えておらず、ネルカに対する恩義だけで参加していた。
また、ガドラクやデインの反対側の観客席にて、マルシャが「おい! どうしてあの相談から、このような結果に至るんだ! 絶対にコレは違うだろう! 考え直したまえ!」と叫んでいるが、ネルカは聞かないふりをしていた。
「お、おい! なんだよあの集団!」
「あれを突破しろとか無理な話だろうがッ!」
「チクショウ!勝たせる気ねぇだろ!」
多くはコルネルの正体を知らない。
ゆえに、その実力も未知数。
だが、あの死神の兄――油断はできない。
それに加えてあの集団だ。
彼らは決して団結するということはなかったが、自然とその思考は近いものへと寄っていく。すべての注目はネルカたちに集められていた。
勝つためには、まずは――
(((先に狙うべきか?)))
対するネルカ一行は結界内へと入って行く。
周囲を見渡した彼女は不敵に笑っていた。
「これはまぁ、一種の――面接試験みたいなものだよ。」
口から出る言葉ではなく、肉体言語による面接。
そして、戦いの火ぶたが切られた――。
― ― ― ― ― ―
一方その頃、アルマ学園では――
「今日、師匠は休み…?」
「そうなんだよ。せっかくボクが戻って来る日だってのに、も~、ネルちゃんは薄情だよ! むむむっ!」
何も知らないマリアンネとエレナは二人で過ごしていた。
いつもの昼休憩、いつもの屋外――だがネルカはいない。
王都は未だに復興作業が継続こそされているが、エレナができることはもうないということで通学を再開したのだった。そんな久しぶりの学園だというのに、ネルカはいない。
そんなプンスカと怒っているところ――
『……いへ……で…わ~!』
女性の大声が聞こえた。
驚いた二人が振り向いた先には、豪勢な格好をした見覚えのある金髪の女性が、手を振りながらこちら側に向かってきていた。その人物の背後では従者と思わしき人たちが追いかけている。
「たいへんですわ~!」
豪勢な格好の金髪――アイナ・デーレンだった。
「た、大変、で、ですわ…ゼェゼェ…ハァ…」
二人の前まで辿り着いた彼女は、全力疾走に息を切らしていた。そして、ガバッと顔を上げると、オロオロしているマリアンネの肩を掴んで激しく揺さぶった。アイナの顔はアイシャドウが汗により流れており、もはや恐怖の対象以外の何者でもない。
「ア、アイナ様! どうなされましたか!」
「寝取り大作戦が! 崩壊しそうですわ! コルネル様の手によって!」
「えぇッ!?」
ちなみに、隣ではエレナが「ねぇ、ボクがいない間、何があったの…。寝取りって……それに、コルネルってネルちゃんの男装姿だよね確か…。ワケわかんないよ…。」と頭を抱えていた。
アイナは目をグルグルさせながら言葉を続けた。
「コ、コルネル様が! 乱闘大会をお開きになりましたの! 優勝者には、あの方の大事な女性と、婚姻する権利が与えられるって! 大変なことになりましたわ!」
パニック状態に陥っている彼女からは、前置きなどが省略された突飛的な説明が放たれる。エレナとマリアンネは納得こそできないが、これだけの説明でも理解までなら可能である。
しかし、理解できるのはコルネル=ネルカと知っているから。
では、知らない人がアイナの説明を聞いたらどうなるか?
答えは――
「なにッ!? 『ネルカとの』婚姻権だと!?」
――勘違いする。
偶然に近くを通った男は――ギウスレア・パラナン・ガリッド。
よりによって、この厄介な男に知られてしまったのだった。
そう、彼はアイナの言葉を勘違いしてしまった。
コルネル主催の乱闘大会の趣旨を、勘違いしてしまった。
妹であるネルカの婚姻権利を賭けた戦い、と勘違いを――。
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