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第一部:終章:おまけの後日譚
136話:素直になれないメンドクサい人たち(前編)
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アルマ学園は王都北部の貴族のタウンハウス地帯に近い位置にある。そして、ベルガンテ祭の日は貴族は実家に帰り、学園は休業中で誰もいないということもあり――襲撃の配置もほぼ無いに等しい状況だった。
巨大魔物が一体だけ配置こそされていたが、大きな被害と言えるようなものはデインやトムスが戦った際にできたものだけ。コールマン家のタウンハウスも同様に無事だったが、ダーデキシュおよびメリーダたち使用人はネルカとナハスを残して、領地に帰ることになってしまったのだった。
だが――
「学園は入学式まで休みですか…。」
「仕方ないわ。こんな状況だもの。」
「アイナ様の御卒業も、御祝いしたかったのに…。」
「殿下の婚約者だから、きっと会う機会もすぐよ。」
王都も落ち着いてきて暇になった二人は、王城内の庭園でお茶をしながら会話をしていた。今後はマーカスが暮らしている屋敷がマリアンネの帰る家になるわけだが、王城利用は顔パス――どころか、王妃は既に彼女の母気取り(祖母気取りではない)をしており、積極的に来てほしいと頼まれている。少し離れた位置に護衛がおり、茶のセッティングもすべてメイドに任せっきりながら、堂々と待つその姿は二人はもう貴族の一員だ。
そんな二人に声をかける者がいた。
「やぁ、ご歓談のところ、申し訳ないね。」
「あら? 殿下?」
その者はデイン第三王子だった。
彼の後ろには負傷から復帰したトムスも控えていた。
「ちょっとね、ネルカ嬢にお願いがあって来たんだ。」
「お願いねぇ…その言い方だと殿下個人の依頼かしら?」
「そうだね、個人的に気になっていることだから、騎士を使うわけにもいかなくてね。あぁ、もちろん、別に断っても良いけど……フフフッ……エルを尾行してくれって言われたら、ネルカ嬢なら断らないだろう?」
「エルを!? 尾行!? やるに決まってるじゃない!」
「うん、トムスも連れて行っていいよ。」
デインとネルカが関わることになって、そろそろ一年。
エルスターと違って、実は彼は初めこそ理解不能の存在としてネルカを避けていたのだが、さすがにもう扱いが分ってきていた。彼女は冷静かつ知的ではあるが、それは環境による後天的なもので――
本当はかなり――子供っぽいのだ。
悪ガキ少年のような性格をしていると気付いた。
現に今、トムスと並んで『尾行』に目を輝かせている。
― ― ― ― ― ―
次の日、マクラン家のタウンハウス前。
「あっ、出てきたっすよ!」
「静かにしなさい。バレるわよ。」
ネルカとトムスは朝早くから張り込みをおこなっており、そろそろ昼になるという頃、ついにエルスターが姿を現す。どうやら彼は家の馬車に乗ってどこかへ行くようだった。
「私が先行するわ。黒魔法で目印をつけておくから、後から来なさい。」
「了解っす。」
あんな惨劇があったものの王都はやはり人が多く、馬車も最大の速度で走れるわけでもないので、トムスは無理でもネルカなら追いかけることが可能だ。追跡していくと、馬車はどんどん西側へと進んでいく。貴族地区を抜け、商業地区へ入り、さらにさらに西へと。
「ここは…住宅地ね。」
ここら一帯はとにかく労働階級の住民を詰め込むことを優先とした土地で、飾りっ気のないノッペりした集合住宅が多かったりする。だからこそ、商業地区のように少しでも裏路地に入られると、追跡が困難になってしまうのだ。
そして、何も無いようなところで馬車が停車する。
馬車から降りたエルスターが路地裏に入って行くのを見たネルカは、見失ってしまうのを恐れて急いで後を追った。が、しかし、どうやら恐れた状態になってしまったようで、入り組んだ路地裏でエルスターを見失ってしまったのだった。
「しまったわ…とりあえず、大通りまで戻るしかないわね…。」
ネルカが馬車の位置まで戻ると、そこにはもうすでに馬車はなかったが、代わりに肩で呼吸をしているトムスの姿があった。浮かない顔をしている彼女を察したのだろう、彼は恐る恐るといった風にネルカに近づいた。
「ネルカ嬢、どうしたっすか?」
「見失ったわ。困ったわね。」
「そうっすか。まぁ、聞き込んでみるっす!」
「あっ、ちょっと待ちなさい!」
ネルカの制止を待たずしてトムスは、近くを歩いていた住人へと駆け寄る。ここらは王都の外側ということもあり、襲撃の被害もほぼゼロに等しく余裕もあるとは言え、それでもトムスに対してなんてことないように接していた。
そもそも、エルスターを友人認定する弟と、ダーデキシュを友人認定するような兄であるのだから、ダッカール家兄弟はコミュケーション能力が天井突破しているのだろう。トムスはきっちりと必要な情報をきっちりと得てネルカの元へと帰ってきた。
「近くの公園にいるらしいっすよ!」
「とんでもないわね…あなた…。」
「え? 何がっすか?」
「いえ、なんでもないわ。さ、行きましょう。」
二人は例の公園へと向かうことにした。
元はただの裏路地に存在する空き地だったのだが、地元の者たちが子供用に手を加えた結果、公園と言えるような場所になってしまった。最近は子供たちがこの朝の時間に集まっているようで、大人たちは特に気にしてもいないので理由までは知らないとのことだった。
(そもそも私に隠すことはあっても、殿下に隠すような人じゃないわよね。ということは…殿下には知られたくない…もしくは殿下なら嫌がること…? エルが? いや、待て、一つだけあるじゃない! エルが好きで、殿下が嫌がることが!)
デインが最推しのエルスター。
できれば派手は避けたいデイン。
つまり、布教活動だ。
しかし、ネルカの予想は裏切られることになる。
公園には確かにエルスターがいた。
なぜか、近くには影の一族のトーハまでもいる。
周囲には子供たちが群がっている。
彼らの手には――鍛錬用の木剣が握られていた。
巨大魔物が一体だけ配置こそされていたが、大きな被害と言えるようなものはデインやトムスが戦った際にできたものだけ。コールマン家のタウンハウスも同様に無事だったが、ダーデキシュおよびメリーダたち使用人はネルカとナハスを残して、領地に帰ることになってしまったのだった。
だが――
「学園は入学式まで休みですか…。」
「仕方ないわ。こんな状況だもの。」
「アイナ様の御卒業も、御祝いしたかったのに…。」
「殿下の婚約者だから、きっと会う機会もすぐよ。」
王都も落ち着いてきて暇になった二人は、王城内の庭園でお茶をしながら会話をしていた。今後はマーカスが暮らしている屋敷がマリアンネの帰る家になるわけだが、王城利用は顔パス――どころか、王妃は既に彼女の母気取り(祖母気取りではない)をしており、積極的に来てほしいと頼まれている。少し離れた位置に護衛がおり、茶のセッティングもすべてメイドに任せっきりながら、堂々と待つその姿は二人はもう貴族の一員だ。
そんな二人に声をかける者がいた。
「やぁ、ご歓談のところ、申し訳ないね。」
「あら? 殿下?」
その者はデイン第三王子だった。
彼の後ろには負傷から復帰したトムスも控えていた。
「ちょっとね、ネルカ嬢にお願いがあって来たんだ。」
「お願いねぇ…その言い方だと殿下個人の依頼かしら?」
「そうだね、個人的に気になっていることだから、騎士を使うわけにもいかなくてね。あぁ、もちろん、別に断っても良いけど……フフフッ……エルを尾行してくれって言われたら、ネルカ嬢なら断らないだろう?」
「エルを!? 尾行!? やるに決まってるじゃない!」
「うん、トムスも連れて行っていいよ。」
デインとネルカが関わることになって、そろそろ一年。
エルスターと違って、実は彼は初めこそ理解不能の存在としてネルカを避けていたのだが、さすがにもう扱いが分ってきていた。彼女は冷静かつ知的ではあるが、それは環境による後天的なもので――
本当はかなり――子供っぽいのだ。
悪ガキ少年のような性格をしていると気付いた。
現に今、トムスと並んで『尾行』に目を輝かせている。
― ― ― ― ― ―
次の日、マクラン家のタウンハウス前。
「あっ、出てきたっすよ!」
「静かにしなさい。バレるわよ。」
ネルカとトムスは朝早くから張り込みをおこなっており、そろそろ昼になるという頃、ついにエルスターが姿を現す。どうやら彼は家の馬車に乗ってどこかへ行くようだった。
「私が先行するわ。黒魔法で目印をつけておくから、後から来なさい。」
「了解っす。」
あんな惨劇があったものの王都はやはり人が多く、馬車も最大の速度で走れるわけでもないので、トムスは無理でもネルカなら追いかけることが可能だ。追跡していくと、馬車はどんどん西側へと進んでいく。貴族地区を抜け、商業地区へ入り、さらにさらに西へと。
「ここは…住宅地ね。」
ここら一帯はとにかく労働階級の住民を詰め込むことを優先とした土地で、飾りっ気のないノッペりした集合住宅が多かったりする。だからこそ、商業地区のように少しでも裏路地に入られると、追跡が困難になってしまうのだ。
そして、何も無いようなところで馬車が停車する。
馬車から降りたエルスターが路地裏に入って行くのを見たネルカは、見失ってしまうのを恐れて急いで後を追った。が、しかし、どうやら恐れた状態になってしまったようで、入り組んだ路地裏でエルスターを見失ってしまったのだった。
「しまったわ…とりあえず、大通りまで戻るしかないわね…。」
ネルカが馬車の位置まで戻ると、そこにはもうすでに馬車はなかったが、代わりに肩で呼吸をしているトムスの姿があった。浮かない顔をしている彼女を察したのだろう、彼は恐る恐るといった風にネルカに近づいた。
「ネルカ嬢、どうしたっすか?」
「見失ったわ。困ったわね。」
「そうっすか。まぁ、聞き込んでみるっす!」
「あっ、ちょっと待ちなさい!」
ネルカの制止を待たずしてトムスは、近くを歩いていた住人へと駆け寄る。ここらは王都の外側ということもあり、襲撃の被害もほぼゼロに等しく余裕もあるとは言え、それでもトムスに対してなんてことないように接していた。
そもそも、エルスターを友人認定する弟と、ダーデキシュを友人認定するような兄であるのだから、ダッカール家兄弟はコミュケーション能力が天井突破しているのだろう。トムスはきっちりと必要な情報をきっちりと得てネルカの元へと帰ってきた。
「近くの公園にいるらしいっすよ!」
「とんでもないわね…あなた…。」
「え? 何がっすか?」
「いえ、なんでもないわ。さ、行きましょう。」
二人は例の公園へと向かうことにした。
元はただの裏路地に存在する空き地だったのだが、地元の者たちが子供用に手を加えた結果、公園と言えるような場所になってしまった。最近は子供たちがこの朝の時間に集まっているようで、大人たちは特に気にしてもいないので理由までは知らないとのことだった。
(そもそも私に隠すことはあっても、殿下に隠すような人じゃないわよね。ということは…殿下には知られたくない…もしくは殿下なら嫌がること…? エルが? いや、待て、一つだけあるじゃない! エルが好きで、殿下が嫌がることが!)
デインが最推しのエルスター。
できれば派手は避けたいデイン。
つまり、布教活動だ。
しかし、ネルカの予想は裏切られることになる。
公園には確かにエルスターがいた。
なぜか、近くには影の一族のトーハまでもいる。
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