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第一部:10-3章:祭と友と恋と戦と(後編)
121話:死神による魔王退治
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王都中央広場――ここは文字通りに王都の中心にある。
いつもなら巨大な噴水と人工芝を目当てピクニックする人で賑わい、ベルガンテ祭ではパレード時に音楽合奏団が催されるような場所である。しかし、今日の混沌の中、そこにいるのはネルカとハスディと魔物だけだった。
「うっとぉしいわね。」
ハスディの計画としては、それぞれの大型魔物に魔王の茎根を送り込む予定だったが、実際はすべてをネルカに差し向けなければならなくなってしまった。あまり新規情報が入らない彼は、彼女のようなイレギュラーを認知しにくいのだ。
ネルカからしてみれば、息を吐く暇のないほどの戦闘を強要されることになっているが、この戦力が他にも回されていれば戦況は大きく変わっていただろうがため、広い目で見てしまえば大きな事なことだった。
「ハッ!」
次々に現れる魔王を斬り飛ばす。
しかしながら、あまりの物量と再生速度に、ネルカは一定以上の距離を詰めれないでいる。それでも不思議と意識は落ち着いており、再びに無意識行動――謂わば『トランス状態』の前段階に入っていた。言葉も口から勝手に出てくる。
それに、今のところ、魔力の消費は少ない。
「随分と魔王様とやらも苦しそうね。」
「……。」
「マリの力、魔王に効いたのでしょう?」
「……。」
いくらマリアンネの聖女としての力が『修復』だとしても、そもそもの聖女の力が必要となった矛先が魔王であるのだから、何かしらの特効があったって不思議な話ではない。あくまでネルカの推測であるが、ハスディの沈黙を肯定と捉えた。
本来に魔王が持っている魔力を制する力が、明らかに弱まっているのだ。今なら同種の力である黒魔法なら、均衡状態で戦うことが出来る。この条件下で戦えるだけでも、ネルカにとってかなりありがたいことだった。
「聖なる力ってのが、本当はどんな力なのかは知らないわ。ちょっと調べてみても、いろんな説がいっぱいあるんだもの。だけど、一つだけ共通していることがあるわ……それは……『破壊の運命に立ち向かう力』ということよ。それが効くってんなら、あなたが向かう先は救済じゃない、破壊よ、ゴミ以下ね。」
「その言葉、まるで聖女こそが正義の基準であるかのようですね。」
「正義とか善とかクソどうでもいいわ。大事なのは、私がどうか、多数がどうかよ。そう考えたら…聖女の力ってきっと…人の願いなのかもしれないわね。私が望んだ、皆が望んだ、マリが望んだ…あなたをぶち殺す理由は、それだけで十分よ。」
次の瞬間、大量の魔物がネルカを囲う。
だが、地下室から出てきた魔物たちと比べたら少ないし、むしろサイズがある分だけ処理もしやすい。彼女は魔物の壁の一点をアスタリスク柄に斬り、黒衣のガードを信じて強引に抜け出す。
そして、抜け出した瞬間に仕掛けてきた魔王の攻撃を、しっかりと大鎌で防ぐと、鎌の形状を活かして引っ掛け移動する。あえて斬らずに引っ掛けて移動することで、ネルカはぐんぐんとハスディの元へと近づいて行った。
しかしながら、魔王が地面から生えてきてネルカを囲んだ。
彼女は憎々しげな表情を浮かべながらも、鎌を大振りに構えて腰を落とした。大きく円を描くように鎌を振るうと、囲んでいた魔王をすべてを斬り飛ばした。
ネルカは再びにハスディへと詰め寄ろうとした。
だが、
切断し、宙に飛ばしたはずの魔王が伸びた。
来るとしたら生えているやつ、そうタカをくくっていた彼女は避けられなかった。伸びて、伸びて、伸びて――そこには球体が出来上がっていた。
さらに、球体ごと潰さんとばかりに、魔王が攻撃を繰り出す。
「ハァッ!」
次の瞬間には球体は斬り開かれた。
中から現れたネルカは、振り下ろされている最中の、何重にも束ねて太くなった魔王を見た。別にネルカにとってこの場面を切り抜けることは造作でもない。
(造作もないけど……ッ!)
視界の端、チラリと見えるのは距離を取られたハスディの姿。
切り抜けるのは造作もないが、やってられない。
そう、切り抜けた先がないのだ。
どうしてもハスディに辿り着くビジョンが見えない。
魔王は魔力を吸収するだけあって、魔力総量が考えるのも馬鹿馬鹿しくなるほど多い。魔物の数は有限としても、魔王が生えてくるのは無限じゃないかと思ってしまうほどだ。
何度やっても戦況をリセットされる。
詰めれば、物量で押され――距離を取られる。
何度も何度も何度も何度も何度も――似た展開に戻される。
肉体的なダメージも、精神的なダメージも蓄積されていく。
ジリ貧に対する絶望度合いは、バルドロとの戦いを越える。
(何か…打開する方法は…。ん?)
彼女は魔王の攻撃を避ける選択肢を取ろうとしたが、何か違和感を覚えてその場に留まった。しかしながら、魔王がネルカに辿り着くことは一切なかった。決してネルカが動いていたわけではない。
魔王がピタリと止まっていた。
「え?」
ネルカには理由が分からなった。
しかし、ハスディはどうやら違うようだった。
「おぉ! 来たというのですね! さすが――」
ハスディが恍惚な表情で見つめる先、ネルカの背後。
彼女が振り向くと、そこには三人の人影があった。
一人目は、壮年の戦士。
ナハスと初めて会った日、同じくこの男にも彼女は会っている。
名前はダスラ、コールマン家の騎士隊の副隊長だったはずだ。
二人目は、つい先ほどまで一緒にいた、坊主頭の騎士だ。
そして、彼がここにいるということは、護衛対象は――
「――さすが、聖女様だ。」
護衛対象が三人目の人影ということである。
夜であると言える暗闇、それでも三人目は光り輝いていた。
「師匠! アタシだって――主人公です!」
そこに立つは聖女マリアンネだった。
いつもなら巨大な噴水と人工芝を目当てピクニックする人で賑わい、ベルガンテ祭ではパレード時に音楽合奏団が催されるような場所である。しかし、今日の混沌の中、そこにいるのはネルカとハスディと魔物だけだった。
「うっとぉしいわね。」
ハスディの計画としては、それぞれの大型魔物に魔王の茎根を送り込む予定だったが、実際はすべてをネルカに差し向けなければならなくなってしまった。あまり新規情報が入らない彼は、彼女のようなイレギュラーを認知しにくいのだ。
ネルカからしてみれば、息を吐く暇のないほどの戦闘を強要されることになっているが、この戦力が他にも回されていれば戦況は大きく変わっていただろうがため、広い目で見てしまえば大きな事なことだった。
「ハッ!」
次々に現れる魔王を斬り飛ばす。
しかしながら、あまりの物量と再生速度に、ネルカは一定以上の距離を詰めれないでいる。それでも不思議と意識は落ち着いており、再びに無意識行動――謂わば『トランス状態』の前段階に入っていた。言葉も口から勝手に出てくる。
それに、今のところ、魔力の消費は少ない。
「随分と魔王様とやらも苦しそうね。」
「……。」
「マリの力、魔王に効いたのでしょう?」
「……。」
いくらマリアンネの聖女としての力が『修復』だとしても、そもそもの聖女の力が必要となった矛先が魔王であるのだから、何かしらの特効があったって不思議な話ではない。あくまでネルカの推測であるが、ハスディの沈黙を肯定と捉えた。
本来に魔王が持っている魔力を制する力が、明らかに弱まっているのだ。今なら同種の力である黒魔法なら、均衡状態で戦うことが出来る。この条件下で戦えるだけでも、ネルカにとってかなりありがたいことだった。
「聖なる力ってのが、本当はどんな力なのかは知らないわ。ちょっと調べてみても、いろんな説がいっぱいあるんだもの。だけど、一つだけ共通していることがあるわ……それは……『破壊の運命に立ち向かう力』ということよ。それが効くってんなら、あなたが向かう先は救済じゃない、破壊よ、ゴミ以下ね。」
「その言葉、まるで聖女こそが正義の基準であるかのようですね。」
「正義とか善とかクソどうでもいいわ。大事なのは、私がどうか、多数がどうかよ。そう考えたら…聖女の力ってきっと…人の願いなのかもしれないわね。私が望んだ、皆が望んだ、マリが望んだ…あなたをぶち殺す理由は、それだけで十分よ。」
次の瞬間、大量の魔物がネルカを囲う。
だが、地下室から出てきた魔物たちと比べたら少ないし、むしろサイズがある分だけ処理もしやすい。彼女は魔物の壁の一点をアスタリスク柄に斬り、黒衣のガードを信じて強引に抜け出す。
そして、抜け出した瞬間に仕掛けてきた魔王の攻撃を、しっかりと大鎌で防ぐと、鎌の形状を活かして引っ掛け移動する。あえて斬らずに引っ掛けて移動することで、ネルカはぐんぐんとハスディの元へと近づいて行った。
しかしながら、魔王が地面から生えてきてネルカを囲んだ。
彼女は憎々しげな表情を浮かべながらも、鎌を大振りに構えて腰を落とした。大きく円を描くように鎌を振るうと、囲んでいた魔王をすべてを斬り飛ばした。
ネルカは再びにハスディへと詰め寄ろうとした。
だが、
切断し、宙に飛ばしたはずの魔王が伸びた。
来るとしたら生えているやつ、そうタカをくくっていた彼女は避けられなかった。伸びて、伸びて、伸びて――そこには球体が出来上がっていた。
さらに、球体ごと潰さんとばかりに、魔王が攻撃を繰り出す。
「ハァッ!」
次の瞬間には球体は斬り開かれた。
中から現れたネルカは、振り下ろされている最中の、何重にも束ねて太くなった魔王を見た。別にネルカにとってこの場面を切り抜けることは造作でもない。
(造作もないけど……ッ!)
視界の端、チラリと見えるのは距離を取られたハスディの姿。
切り抜けるのは造作もないが、やってられない。
そう、切り抜けた先がないのだ。
どうしてもハスディに辿り着くビジョンが見えない。
魔王は魔力を吸収するだけあって、魔力総量が考えるのも馬鹿馬鹿しくなるほど多い。魔物の数は有限としても、魔王が生えてくるのは無限じゃないかと思ってしまうほどだ。
何度やっても戦況をリセットされる。
詰めれば、物量で押され――距離を取られる。
何度も何度も何度も何度も何度も――似た展開に戻される。
肉体的なダメージも、精神的なダメージも蓄積されていく。
ジリ貧に対する絶望度合いは、バルドロとの戦いを越える。
(何か…打開する方法は…。ん?)
彼女は魔王の攻撃を避ける選択肢を取ろうとしたが、何か違和感を覚えてその場に留まった。しかしながら、魔王がネルカに辿り着くことは一切なかった。決してネルカが動いていたわけではない。
魔王がピタリと止まっていた。
「え?」
ネルカには理由が分からなった。
しかし、ハスディはどうやら違うようだった。
「おぉ! 来たというのですね! さすが――」
ハスディが恍惚な表情で見つめる先、ネルカの背後。
彼女が振り向くと、そこには三人の人影があった。
一人目は、壮年の戦士。
ナハスと初めて会った日、同じくこの男にも彼女は会っている。
名前はダスラ、コールマン家の騎士隊の副隊長だったはずだ。
二人目は、つい先ほどまで一緒にいた、坊主頭の騎士だ。
そして、彼がここにいるということは、護衛対象は――
「――さすが、聖女様だ。」
護衛対象が三人目の人影ということである。
夜であると言える暗闇、それでも三人目は光り輝いていた。
「師匠! アタシだって――主人公です!」
そこに立つは聖女マリアンネだった。
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