111 / 175
第一部:10-3章:祭と友と恋と戦と(後編)
110話:善意で塗りつぶされた悪行
しおりを挟む
カンザキ ミサキ――その名に反応したのはマリアンネだけだった。
別に面識があるわけではないが、人名でこの字並びといえば、彼女は前世で生きていた地域以外は知らない。もしかすると彼女は転生者だったのかもしれない。
しかし、他の者だって動揺はしている。千年以上も昔、一度文明がリセットされたなんて、あまりにもスケールが大きすぎる話だ。よくできた創作話だと思いたい気持ちがあるものの、ハスディの誠実そうな雰囲気が無理矢理に信じさせてくる。
そんな彼女たちの傍で、ネルカだけは別の思考だった。
「あなた…そのことを知ったうえで『多くの人々に幸福を与えようとしている』だなんてよく言えたわね。明らかに…あなたがやろうとしていること…カンザキさんとやらが望んだこと…正反対じゃないの。」
「おやおや、ネルカさんはそう思いますか? 確かに私たち幹部はこの過去を知らされてなお、それでもゼノン教に所属しているような者ばかりです。信仰心など存在しない利害の一致がほとんどですよ。それでも、断言しましょう! 私はカンザキさんを尊敬していますし、幸福のために行動しているのだと!」
「そんなこと信じろって言うのッ!?」
「聖職者として様々な人と過ごし、得た幸せ…見た幸せに偽りはないのです。ただ、それらを捨てたとしても、優先すべき幸せがあった…それだけに過ぎないのですよ。」
「優先すべき…幸せ? あなたの今の行いが、幸せだと、あなたはそう言うの! 王都に魔物を持ち込み、破壊の限りを尽くす、この行為を幸せだと言うの!」
ネルカは善行の為の悪意は仕方ないことと思っている。
しかし、ハスディがこれからやろうとしていると予想できることは、善行に向かうものであるとは微塵も思っていない。むしろ真反対と言えるようなもので、悪意がある者ですら悪行であると認めるような所業のはず。
例えば同じゼノン教の幹部だとしても、シュヒ―ヴルなら「だからどうした?」と宣い、金色の聖女ズァーレであれば「だとしても、しなくてはいけないこと」だと信念を貫くだろう。
だが――
「はい、そうです。」
だが、ハスディには善意しか存在しない。
善意に塗りつぶされた悪行。
そもそも悪いことだという認識が存在しない。
彼は自身の行動に迷いも疑問も持っていないのだ。
人間は歩く動作を、呼吸を、いちいち考えない。
筋肉をどう動かせばいいなど、考えたりしない。
何も考えなくても勝手に動いてしまうものだ。
それと同じように、彼は他人を幸福にする。
いちいちこれが善い悪いを考えたりしない。
何も考えなくても勝手に周囲は幸福になっているのだから。
今回の一件など、彼には疑問の欠片も抱くようなことではない。
「さて、そろそろ時間も良い感じになってきました。皆さんのご理解を頂けなかったのは残念でしたが、計画はこのまま押し進めていきましょう。」
「おい、アンタ…仮に幸せの為だとして…どこに行きつくつもりだ。」
「ナハスさん、そう険しい顔をしなくても大丈夫なのですよ? 私はただ、人類すべてを【楽園】へと送りたいと思っているだけですので。」
「あ? 楽園だぁ?」
「人は善行を積んで死ねば楽園に行きます。しかし、そうでなかった者でも行く方法があるのですよ。それが魔物に殺されること。だからこそ、ゼノン教の考え方は私にとってもちょうどよかったのです。偶然に…目指す先が一緒なのですから。」
「ケッ! だったらここでアンタを止めるだけだ!」
「ハァ…私を止めるだけでは…もう遅いのですが。」
ハスディは手を二度叩く。
すると、まるで地震でも発生したかのように王都全土が揺れた。しかしながら、それが天災ではなく人災によるものだと気付いたのは、四方八方から低くけたたましい獣の咆哮が聞こえたからだ。
ネルカとナハスはハッと互いに顔を見合わせる。そして、ネルカは両手を体の前に突き出すと、その上に足を掛けて跳躍するナハスに合わせて腕を振り上げた。その勢いのまま屋根へと着地したナハスは、王都に起きた異変を見て――
――数十ヶ所から漏れ出る黄色い粉。
――屋根を越す巨体の魔物五体。
――破壊音と土ぼこりが舞い上がる。
そして何より――人々の悲鳴。
「聞こえていますか皆さん…人々の歓喜を…嬉しそうでしょう? 素晴らしい…私はこんなに満たされている。…あぁ、神よ…私を祝福して下さるのですね。」
「……は?」
「ネルカさんは言いましたね? 他人に誇れる人間であれ…と。ならば私は断言しましょう…私は誇れます! 自分は正義だと、誇って言いましょうとも! これが善行であると!」
「黙れ黙れ黙れ…黙れ!」
ハスディは恍惚な表情で天を仰ぎ、両手を広げる。
彼は今、世界の幸せを感じ、そして神に感謝している。
怒り狂って黒魔法により茎根を刈り続けるネルカも、騎士に守られながら恐怖に怯えるエレナも、絶望のあまり地に膝を着け動かなくなってしまったマリアンネも―彼にとっては喜んでいるようにしか見えない。
みんな嬉しそう。ハスディに感謝している。
彼はいつだって善意の塊である。
「もっともっともっと! 幸せな世界を!」
再び魔王の茎根が騎士たちへと襲い掛かった。
対するネルカは剣に黒魔法を纏わせる。
魔王を斬れるほど多くの魔力を使っているのだ。
たった八振り分を消費したころには、魔力は量は底を尽く。
そう、底を尽いたのだ。
しかし、底は限界ではなかった。
今の彼女は黒血卿を殺した時と同じように、意識というものが完全に無くなり、ハスディを殺すという無意識のみで行動している。どんな傷を負おうとも、どれだけの魔力を消費しようとも、どれほどの茎根を斬る必要があろうとも――何も感じない。
あと数秒で、剣は辿り着く。
ゴリ押し勝負ならネルカに分がある。
「ッ!?」
だが唯一、ネルカの意識を戻す事態が存在していた。
彼女の背後で魔王が蕾を開花させたのだ。
黄色く染まった景色に騎士たちは動きを一瞬だけ止め、その隙を突くように全員の口元を根茎が掠め伸びる。魔王にとっては殺すことなど容易であったのだろうが、ハスディが出した命令はそうではない――魔物化だ。
マスクに込めた魔力など、たかが知れている。
魔王の蔦根の前では存在していないようなものなのだ。
見てしまった、見えてしまった、意識が戻ってしまった。
「ダメッ!」
粉のせいでシルエットしか見えないけれど、ただ一人だけ藻搔き苦しむ姿があった。その輪郭が、その位置が、誰なのかネルカは知っている。彼女に生まれた一瞬の隙を魔王は叩き、剣で防いだものの彼女は後方へと吹っ飛ばされた。
「おぉ! どうやら、一人だけ!」
粉が散り、視界が晴れる。
彼女はその人物へと駆け寄り、肩を抱いて揺らした。
周囲にいた者たちは何も変わらず、たった一人だけが変化する。
牙が、角が、爪が――生えようと変化している最中だった。
ネルカはその名を叫んだ。
「エレナッ!」
エレナ・ディードルラ――魔物化の適合者。
別に面識があるわけではないが、人名でこの字並びといえば、彼女は前世で生きていた地域以外は知らない。もしかすると彼女は転生者だったのかもしれない。
しかし、他の者だって動揺はしている。千年以上も昔、一度文明がリセットされたなんて、あまりにもスケールが大きすぎる話だ。よくできた創作話だと思いたい気持ちがあるものの、ハスディの誠実そうな雰囲気が無理矢理に信じさせてくる。
そんな彼女たちの傍で、ネルカだけは別の思考だった。
「あなた…そのことを知ったうえで『多くの人々に幸福を与えようとしている』だなんてよく言えたわね。明らかに…あなたがやろうとしていること…カンザキさんとやらが望んだこと…正反対じゃないの。」
「おやおや、ネルカさんはそう思いますか? 確かに私たち幹部はこの過去を知らされてなお、それでもゼノン教に所属しているような者ばかりです。信仰心など存在しない利害の一致がほとんどですよ。それでも、断言しましょう! 私はカンザキさんを尊敬していますし、幸福のために行動しているのだと!」
「そんなこと信じろって言うのッ!?」
「聖職者として様々な人と過ごし、得た幸せ…見た幸せに偽りはないのです。ただ、それらを捨てたとしても、優先すべき幸せがあった…それだけに過ぎないのですよ。」
「優先すべき…幸せ? あなたの今の行いが、幸せだと、あなたはそう言うの! 王都に魔物を持ち込み、破壊の限りを尽くす、この行為を幸せだと言うの!」
ネルカは善行の為の悪意は仕方ないことと思っている。
しかし、ハスディがこれからやろうとしていると予想できることは、善行に向かうものであるとは微塵も思っていない。むしろ真反対と言えるようなもので、悪意がある者ですら悪行であると認めるような所業のはず。
例えば同じゼノン教の幹部だとしても、シュヒ―ヴルなら「だからどうした?」と宣い、金色の聖女ズァーレであれば「だとしても、しなくてはいけないこと」だと信念を貫くだろう。
だが――
「はい、そうです。」
だが、ハスディには善意しか存在しない。
善意に塗りつぶされた悪行。
そもそも悪いことだという認識が存在しない。
彼は自身の行動に迷いも疑問も持っていないのだ。
人間は歩く動作を、呼吸を、いちいち考えない。
筋肉をどう動かせばいいなど、考えたりしない。
何も考えなくても勝手に動いてしまうものだ。
それと同じように、彼は他人を幸福にする。
いちいちこれが善い悪いを考えたりしない。
何も考えなくても勝手に周囲は幸福になっているのだから。
今回の一件など、彼には疑問の欠片も抱くようなことではない。
「さて、そろそろ時間も良い感じになってきました。皆さんのご理解を頂けなかったのは残念でしたが、計画はこのまま押し進めていきましょう。」
「おい、アンタ…仮に幸せの為だとして…どこに行きつくつもりだ。」
「ナハスさん、そう険しい顔をしなくても大丈夫なのですよ? 私はただ、人類すべてを【楽園】へと送りたいと思っているだけですので。」
「あ? 楽園だぁ?」
「人は善行を積んで死ねば楽園に行きます。しかし、そうでなかった者でも行く方法があるのですよ。それが魔物に殺されること。だからこそ、ゼノン教の考え方は私にとってもちょうどよかったのです。偶然に…目指す先が一緒なのですから。」
「ケッ! だったらここでアンタを止めるだけだ!」
「ハァ…私を止めるだけでは…もう遅いのですが。」
ハスディは手を二度叩く。
すると、まるで地震でも発生したかのように王都全土が揺れた。しかしながら、それが天災ではなく人災によるものだと気付いたのは、四方八方から低くけたたましい獣の咆哮が聞こえたからだ。
ネルカとナハスはハッと互いに顔を見合わせる。そして、ネルカは両手を体の前に突き出すと、その上に足を掛けて跳躍するナハスに合わせて腕を振り上げた。その勢いのまま屋根へと着地したナハスは、王都に起きた異変を見て――
――数十ヶ所から漏れ出る黄色い粉。
――屋根を越す巨体の魔物五体。
――破壊音と土ぼこりが舞い上がる。
そして何より――人々の悲鳴。
「聞こえていますか皆さん…人々の歓喜を…嬉しそうでしょう? 素晴らしい…私はこんなに満たされている。…あぁ、神よ…私を祝福して下さるのですね。」
「……は?」
「ネルカさんは言いましたね? 他人に誇れる人間であれ…と。ならば私は断言しましょう…私は誇れます! 自分は正義だと、誇って言いましょうとも! これが善行であると!」
「黙れ黙れ黙れ…黙れ!」
ハスディは恍惚な表情で天を仰ぎ、両手を広げる。
彼は今、世界の幸せを感じ、そして神に感謝している。
怒り狂って黒魔法により茎根を刈り続けるネルカも、騎士に守られながら恐怖に怯えるエレナも、絶望のあまり地に膝を着け動かなくなってしまったマリアンネも―彼にとっては喜んでいるようにしか見えない。
みんな嬉しそう。ハスディに感謝している。
彼はいつだって善意の塊である。
「もっともっともっと! 幸せな世界を!」
再び魔王の茎根が騎士たちへと襲い掛かった。
対するネルカは剣に黒魔法を纏わせる。
魔王を斬れるほど多くの魔力を使っているのだ。
たった八振り分を消費したころには、魔力は量は底を尽く。
そう、底を尽いたのだ。
しかし、底は限界ではなかった。
今の彼女は黒血卿を殺した時と同じように、意識というものが完全に無くなり、ハスディを殺すという無意識のみで行動している。どんな傷を負おうとも、どれだけの魔力を消費しようとも、どれほどの茎根を斬る必要があろうとも――何も感じない。
あと数秒で、剣は辿り着く。
ゴリ押し勝負ならネルカに分がある。
「ッ!?」
だが唯一、ネルカの意識を戻す事態が存在していた。
彼女の背後で魔王が蕾を開花させたのだ。
黄色く染まった景色に騎士たちは動きを一瞬だけ止め、その隙を突くように全員の口元を根茎が掠め伸びる。魔王にとっては殺すことなど容易であったのだろうが、ハスディが出した命令はそうではない――魔物化だ。
マスクに込めた魔力など、たかが知れている。
魔王の蔦根の前では存在していないようなものなのだ。
見てしまった、見えてしまった、意識が戻ってしまった。
「ダメッ!」
粉のせいでシルエットしか見えないけれど、ただ一人だけ藻搔き苦しむ姿があった。その輪郭が、その位置が、誰なのかネルカは知っている。彼女に生まれた一瞬の隙を魔王は叩き、剣で防いだものの彼女は後方へと吹っ飛ばされた。
「おぉ! どうやら、一人だけ!」
粉が散り、視界が晴れる。
彼女はその人物へと駆け寄り、肩を抱いて揺らした。
周囲にいた者たちは何も変わらず、たった一人だけが変化する。
牙が、角が、爪が――生えようと変化している最中だった。
ネルカはその名を叫んだ。
「エレナッ!」
エレナ・ディードルラ――魔物化の適合者。
0
お気に入りに追加
108
あなたにおすすめの小説
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。
夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。
陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。
「お父様!助けてください!
私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません!
お父様ッ!!!!!」
ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。
ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。
しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…?
娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる