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第一部:10-2章:祭と友と恋と戦と(前編)
101話:親友の恋路
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午後になると人の数もピークになる。
それでいて、合奏団と騎士によるパレードが大通りで行われるとなれば、人口密度は場所によってはすさまじいことになる。そして、さすがにそこまで大変な思いをして見たいわけではないネルカたちと、何としてでも見たいと思う孤児院数人グループ、そしてハスディと歩きたい子供二人――別れることになった。
結局、元の二人行動ということである。
「師匠! こっちが近道です!」
「もう、そんな細い道行かなくてもいいじゃない…。」
今ならば人気店も空いているのではと思った二人は、大通りからそこそこ離れた店を目指すことに決めた。服がこすれてしまうかもしれないほど細い道、マリアンネの先導のもと移動を開始した。
そして、あと数メートルで通りに出るというところ、二人の動きはぴたりと止まった。
『アハハ~、もう冗談言わないでよぉ。』
『冗談なんかではないですって、ハハッ。』
細い道から一瞬だけであるが、見知った顔と声が通り過ぎて行ったのだ。
「あれって…エレナよね?」
「で、ですよね? むむむ……あっ、やっぱりあってますって!」
二人は顔だけ覗かせる形でその背中を見る。
親友だからこそ後ろ姿でも分かるエレナは、男の人の腕を掴みながら談笑して歩いていた。歴戦の猛者であるネルカはほんの数秒の間に高速の思考を働かせ、マリアンネは前世を含めた年の功による勘を働かせ――出した結論は……
「「あのエレナに恋人!?」」
甘い、背中越しでも分かる甘すぎる空間。
まともな恋愛をしてこなかった二人は、胸やけを起こしそうだった。背中越しでもコレなのだ、きっと直接関わった日にはあまりの尊さに体が浄化されてしまうだろう。
それに、親友の恋路を邪魔するわけにはいかない。
「あの、師匠…」
「えぇ、マリ…」
「「尾行しよう!」」
確かにかかわらない方がいいのかもしれないが、それよりも親友である自分たちに恋人の存在を黙っていたことへの怒りが勝ったのだ。ネルカはマリアンネの分の黒衣も用意すると、障害物から障害物へと移動して近づく。
しかしながら、会話が聞こえるほど近くとなると厳しい。
それならばと、ネルカは尾行している自分たち……をさらに尾行しているマリアンネの護衛騎士の力を借りることにした。自身に向けられる視線を頼りに、その場所を探り当てるとアイコンタクトと手招きをした。
来たのは五人のうちの一人、坊主頭の若い騎士だった。
「あの…ネルカ嬢? 場所がバレたことも驚きっスけど…まさか。」
「あなたなら顔バレもないでしょう? さぁ、盗み聞きしてきなさい。」
「いや…その…護衛が仕事なんスけど…。」
「あのねぇ、私とマリ、どういう存在か知ってる? あなたのとこの隊長や先輩といっしょに、デイン殿下の恋路を見守ったのよ? 聞いてない? つまり、そういうことよ。愛の伝道師って言われているのよ。」
「そのことはまぁ、アース隊長が酒飲みながら大きな声で自慢してたんで、知ってるっスけど…。いやでも、今回はわけが…違うっスよね。それに…陛下からの命令っスし…。」
なんとかしてこの場を去ろうとする坊主頭は、同じく護衛の任に就いている先輩騎士の方を見るが、隠れられたりサムズアップを受けたりで完全に見捨てられてしまっている。そして、ネルカは追い打ちと言わんばかりに、腕をまくって腕輪をトントンと指で突く。
「そ、その腕輪は…あっ…そういえばネルカ嬢って…そうだったっス。」
「一部の権限は、王家と同等なの。知ってる?」
「………………はい、行ってきますっス…。」
これを拒否できるだけの図太さを彼は持ち合わせていなかった。
噴水の近くのベンチで歓談しているエレナたちのもとへと歩き、その場の雰囲気に溶け込みつつも近くに立っていた。そして、しばらくするとネルカたちのもとへと帰って来る。
「どうやら恋人どころか…婚約者みたいっスね。」
「えぇ!?」
「シィー! 声がでかいわよ。それで? 他に何か分かった?」
「名前はマックス。僕は知らないとこっスけど、ハーロン商会の息子さんみたいっスね。それとあの訛り具合、北の方っスかねぇ。駆け回るタイプの商人なのか、市民としては筋肉はある部類。それと会話の端端から察するにこだわりが強くて、収集癖の片鱗があったっスけど、商人ってそういうの多いっスからねぇ。そうっスねぇ……基本的に感じ良さそうな青年だったっスよ?」
さすがは若手ながらに王命で護衛騎士を務めるだけのことはある――観察眼はネルカを以てして唸らせるものであった。しかし、今の彼女はエレナを心配して追跡しているわけではなく、むしろちょっかいをかけたくて追跡しているのだから、知りたい情報はそこではない。
「どこの誰かはどうでもいいわ。素行調査したいわけじゃないもの。」
「ですです! 大事なのはラブラブなのかどうかです!」
「良さそうな雰囲気になったら声かけてやるわ…。」
「アタシたちに内緒にしていたこと、後悔させましょう。」
「ハァ…そういうもんっスかね…。」
「ほら、じゃあ、あなたにも黒衣をあげるわ。」
「なんスか…これ?」
「私の魔法で作った、隠密アイテムよ。」
「それって俺も参加ってことじゃないっスか!? 普通こういうのって初対面の人にさせるものじゃないっスよ!? 正気スか!?」
「あなたに拒否権はないわ。さぁ、行くわよ!」
気が付けばエレナたちが移動を開始していたことに気付いた三人。
慌ててその背中を隠れ隠れに追跡するのであった。
肌は寒いが、心は熱い――祭りは終わりへ向かおうとしているけれど。
それでいて、合奏団と騎士によるパレードが大通りで行われるとなれば、人口密度は場所によってはすさまじいことになる。そして、さすがにそこまで大変な思いをして見たいわけではないネルカたちと、何としてでも見たいと思う孤児院数人グループ、そしてハスディと歩きたい子供二人――別れることになった。
結局、元の二人行動ということである。
「師匠! こっちが近道です!」
「もう、そんな細い道行かなくてもいいじゃない…。」
今ならば人気店も空いているのではと思った二人は、大通りからそこそこ離れた店を目指すことに決めた。服がこすれてしまうかもしれないほど細い道、マリアンネの先導のもと移動を開始した。
そして、あと数メートルで通りに出るというところ、二人の動きはぴたりと止まった。
『アハハ~、もう冗談言わないでよぉ。』
『冗談なんかではないですって、ハハッ。』
細い道から一瞬だけであるが、見知った顔と声が通り過ぎて行ったのだ。
「あれって…エレナよね?」
「で、ですよね? むむむ……あっ、やっぱりあってますって!」
二人は顔だけ覗かせる形でその背中を見る。
親友だからこそ後ろ姿でも分かるエレナは、男の人の腕を掴みながら談笑して歩いていた。歴戦の猛者であるネルカはほんの数秒の間に高速の思考を働かせ、マリアンネは前世を含めた年の功による勘を働かせ――出した結論は……
「「あのエレナに恋人!?」」
甘い、背中越しでも分かる甘すぎる空間。
まともな恋愛をしてこなかった二人は、胸やけを起こしそうだった。背中越しでもコレなのだ、きっと直接関わった日にはあまりの尊さに体が浄化されてしまうだろう。
それに、親友の恋路を邪魔するわけにはいかない。
「あの、師匠…」
「えぇ、マリ…」
「「尾行しよう!」」
確かにかかわらない方がいいのかもしれないが、それよりも親友である自分たちに恋人の存在を黙っていたことへの怒りが勝ったのだ。ネルカはマリアンネの分の黒衣も用意すると、障害物から障害物へと移動して近づく。
しかしながら、会話が聞こえるほど近くとなると厳しい。
それならばと、ネルカは尾行している自分たち……をさらに尾行しているマリアンネの護衛騎士の力を借りることにした。自身に向けられる視線を頼りに、その場所を探り当てるとアイコンタクトと手招きをした。
来たのは五人のうちの一人、坊主頭の若い騎士だった。
「あの…ネルカ嬢? 場所がバレたことも驚きっスけど…まさか。」
「あなたなら顔バレもないでしょう? さぁ、盗み聞きしてきなさい。」
「いや…その…護衛が仕事なんスけど…。」
「あのねぇ、私とマリ、どういう存在か知ってる? あなたのとこの隊長や先輩といっしょに、デイン殿下の恋路を見守ったのよ? 聞いてない? つまり、そういうことよ。愛の伝道師って言われているのよ。」
「そのことはまぁ、アース隊長が酒飲みながら大きな声で自慢してたんで、知ってるっスけど…。いやでも、今回はわけが…違うっスよね。それに…陛下からの命令っスし…。」
なんとかしてこの場を去ろうとする坊主頭は、同じく護衛の任に就いている先輩騎士の方を見るが、隠れられたりサムズアップを受けたりで完全に見捨てられてしまっている。そして、ネルカは追い打ちと言わんばかりに、腕をまくって腕輪をトントンと指で突く。
「そ、その腕輪は…あっ…そういえばネルカ嬢って…そうだったっス。」
「一部の権限は、王家と同等なの。知ってる?」
「………………はい、行ってきますっス…。」
これを拒否できるだけの図太さを彼は持ち合わせていなかった。
噴水の近くのベンチで歓談しているエレナたちのもとへと歩き、その場の雰囲気に溶け込みつつも近くに立っていた。そして、しばらくするとネルカたちのもとへと帰って来る。
「どうやら恋人どころか…婚約者みたいっスね。」
「えぇ!?」
「シィー! 声がでかいわよ。それで? 他に何か分かった?」
「名前はマックス。僕は知らないとこっスけど、ハーロン商会の息子さんみたいっスね。それとあの訛り具合、北の方っスかねぇ。駆け回るタイプの商人なのか、市民としては筋肉はある部類。それと会話の端端から察するにこだわりが強くて、収集癖の片鱗があったっスけど、商人ってそういうの多いっスからねぇ。そうっスねぇ……基本的に感じ良さそうな青年だったっスよ?」
さすがは若手ながらに王命で護衛騎士を務めるだけのことはある――観察眼はネルカを以てして唸らせるものであった。しかし、今の彼女はエレナを心配して追跡しているわけではなく、むしろちょっかいをかけたくて追跡しているのだから、知りたい情報はそこではない。
「どこの誰かはどうでもいいわ。素行調査したいわけじゃないもの。」
「ですです! 大事なのはラブラブなのかどうかです!」
「良さそうな雰囲気になったら声かけてやるわ…。」
「アタシたちに内緒にしていたこと、後悔させましょう。」
「ハァ…そういうもんっスかね…。」
「ほら、じゃあ、あなたにも黒衣をあげるわ。」
「なんスか…これ?」
「私の魔法で作った、隠密アイテムよ。」
「それって俺も参加ってことじゃないっスか!? 普通こういうのって初対面の人にさせるものじゃないっスよ!? 正気スか!?」
「あなたに拒否権はないわ。さぁ、行くわよ!」
気が付けばエレナたちが移動を開始していたことに気付いた三人。
慌ててその背中を隠れ隠れに追跡するのであった。
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