その令嬢、危険にて

ペン銀太郎

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第一部:10-1章:祭と友と恋と戦と(準備編)

94話:王宮騎士団第四部隊

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王宮騎士団第四部隊の南地区待機棟。
そこにある会議室にて第四部隊の重鎮が集まっており、それぞれが眉間に皺を寄せ重苦しい表情を浮かべていた。しばらくの沈黙の後、最初に口を開いたのはルーベルト部隊長だった。

「きな臭ぇな……個人的見解としては…例の…ゼノン教だと思っている。」

彼らを悩ます原因は――騎士の行方不明の続出であった。

あまり統率が取れていない部隊ゆえに発見が遅れてしまったが、流石に消えた人数が二桁になると報告が上がってくるというもの。そして、ついには騎士の死体が発見されると、会議をこのように開かざるをえなくなったのだ。

問題は、ベルガンテ祭の前日だということ――中止などできない。

「隊長、他の部隊に協力要請を出しましょう。」

「今日明日の急遽で怒られるだろうが、背に腹は変えられない…か。」

その言葉を受けて副隊長であるアッシュが立ちあがる。
ルーベルトはその目を見て頷くと、アッシュは早歩きで部屋を出て行った。こういう時に迅速に動けるのがアッシュである。彼ならば一日もかからずに他部隊に連絡を通すことが可能だろう。

「ハァ…胃が痛い…。誰か役職代わってくれない?」

ルーベルトとアッシュは40代とは言いつつも、部隊長・副部隊長の中では若い部類だ。彼らより年上は同じ第四部隊の中でもいるし、もっと言えばより強い人だって存在する。それでも彼らがこの役職に立っているのは――押し付けられたからである。

「ハッハッハ! 小隊の管理だけでも死にそうなのに、部隊長などなおさらできませんよ。ルーベルト殿だからこそ隊長ってことです!」

「同意ですな。」

「だよなぁ…やっぱこの部隊、貧乏くじだよ…。」

ルーベルトはふと窓の外の景色を見る。
待ちが忙しいのは祭り当日だけではなく、準備の段階から忙しい。
通りは多くの人で溢れかえっており、彼らはきっと裏で何かが起きていることなど露知らないのであろう。しかし、ルーベルトは彼らには知らないままで過ごして欲しいという気持ちがあり、どんなに苦しい思いをしてでも頑張ろうという意欲が沸き上がってた。

そんな時であった――

「ん…? あいつは…。」

彼は人だかりの中に目立つ赤色を見つけた。
死神と呼ばれる少女を思い出したルーベルトであったが、よくよく見てみると似ているだけの別人であり――彼は一度だけ会ったことのある青年だった。

彼は窓を開けると、通りへと飛び降りた。


 ― ― ― ― ― ―


「おい! ナハス・コールマン!」

赤色の青年――ナハスは街中を歩いていると、急に空からおっさんが降ってきた。彼は驚きのあまり情けない声を出したが、そのおっさんが夜会のアランドロ邸襲撃の際に会った人物だと分かると、姿勢を正した。

「え、えっと…第四部隊の…隊長様…ですよね?」

「今、暇か? 暇だよな? 騎士団の仕事、手伝え!」

「ええ!? いやいやいや! こっちも仕事だ、いえ、仕事なんです! なんでも密入国したヤツがいて、僕らの領も経由したんで…追っているn…追っているところなんです!」

ナハスはあまり格式ばった物言いが不得意であるため、どこかたどたどしく答える。普段の社交は父や兄の翻訳、もとい協力でやり過ごしているだけに過ぎないのだ。

「あ? 自領で何かをされたってなら話は別だが…通られただけなら…わざわざ王都まで追いかけることはないはずだろ。」

「それが――奴らは『魔物』を運搬していて…。」

「はぁ!? んん、ゴホン…ちょっとここじゃ人目が多い。こっち来い。」

ルーベルトはナハスの手を掴むと、無理矢理に引っ張って待機棟の会議室まで連れて行く。そこでは第四部隊の各重鎮たちが呆気にとられた表情をしていたが、この王都に魔物が連れ込まれている可能性があると知ると、表情を引き締めた。

「それで? どうして魔物を運搬しているって分かったんだ?」

「えぇっと、密入国してきた馬車数台のうち、一台だけは…僕が引き留めたん、のです。そこで積み荷の中から植物型の魔物と…蛸型の…あぁ、蛸って言うのは海に棲む動物なんですけど…その魔物が現れて…何とか死人は無しで倒したけど…。」

「そうか、運んでた奴らはどうした?」

「爆弾を使って、特攻自爆してきた、してきました。」

「……何も分からずか…。」

それを聞いたルーベルトは顎に手を当てて考える。王都で起きている騎士の行方不明と、ナハスの一件はおそらく関係している――根拠などないが、彼の勘がそう告げていた。

「なぁ、ナハス・コールマンよ。多分だが、あんたが追っている奴らと、俺らが協力してほしかったことは……同じ案件だ。騎士十数名が行方不明…そして死体発見…どう思う?」

「えぇ!? 騎士が!? それは確かに…怪しい、ですね。」

「だろ? ここは一つ、手を組まねぇか?」

「まぁ、そう、ですね。ネルカにも相談してみます。」

「おぉ! あの死神も手伝ってくれんなら、ありがてぇ!」

こうしてルーベルトとナハスが握手を交わすと、そこにいる一同は少しでも戦力が増えたことに安堵していた。彼らは夜会のときにナハスの炎弓を見ており、その出力とセンスを知っている。それにネルカも加わるかもしれないとなれば、なおさらのことだった。

しかし、そんな空気の中でも張り詰めた表情を解かなかったナハスは、自身の左手に付けられた魔導具の指輪をじっと見つめる。そして、意を決した彼は必ず伝えなければならない情報を、その口から零すのであった――



「気を付けてください。植物の魔物は――魔力を無効化します。」



そして、彼らは知らない。

ネルカと会うことなく祭りの日を迎える、ということを。


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