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第一部:10-1章:祭と友と恋と戦と(準備編)
92話:ベルガンテ王国の建国祭
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気温も寒くなってきて、そろそろ一年が終わるという頃――
ネルカたちは昼飯を外ですることを諦め、学園食堂に通っている。彼女たちがいるのは平民も多くが使用する『一般食堂』の方なのだが、どういうわけかローラやベティンたちもその輪に入るようになっていた。しかし、身分が違うながらも話が合うため、気が付けばまるでかつてからそういうグループだったかのように和気藹々としていた。
「そう言えば、師匠は祭りの日はどうするんですか?」
何となし気に話を切り出したのはマリアンネだった。
「祭り…? あぁ、そう言えば、もうそんな時期なのね。」
ベルガンテ祭――それは言わば建国記念祭。
遥か昔、ここら一帯はいくつかの村があっただけで、特に広い地域としての支配者はいなかった。そこに目を付けた周囲の国から狙われて戦争の中心地になっていたところ、一人の英雄――ベルガーという青年によって死守することに成功したのだ。
それぞれの村はこのままではまた狙われると思い、一致団結して一つの国を作ろうという結論に至った。英雄であるベルガーの血を継ぐ者を国王に定め、彼とその妻の名前を合わせたものを国名にしたのであった。
そして、建国の日――この日こそが祝いの日であり、ベルガンテ王国の一年の終わりと始まりの境目となる日でもあるのだ。
「あの…私たち貴族はそれぞれの家で祝うけど…市民は町全体で祝うんです。」
「冬季休業もありますし、私は実家領地に帰りますわ。」
ローラやフェリアたちは貴族の例に漏れず実家で祝い、マリアンネとエレナは王都内で開かれる祭りに参加するとのことだった。しかし、エレナは商会関連で回らなくてはいけないため、マリアンネは一人になってしまうのだ。
いざとなったらヤマモト連合の面々と行くという選択肢があるわけだが、それでも学園の友達と行きたいというのが彼女の本心だ。これは市民としてのマリアンネではなく、前世の記憶があるマリアンネとしての意見である。
「いいわね、祭り。私も里にいたときは森から出て、近くの街に行ったものだわ。義父様の同僚の人だかを助けたのも……この祭りだったわね。王都の祭りねぇ、きっと華やかでしょう? 行けるなら、私も行きたいわ。」
「なら師匠! ぜひ! アタシと! 祭りを! 回りましょう!」
ネルカの両手を取って上下にブンブンと振るその姿に、ネルカに限らずそこにいる全ての者が暖かい目をマリアンネに向ける。しかし、ネルカだけは気付かない――そんなマリアンネに対してデレデレの表情をしている彼女自身のことも、それに対して温かい目が向けられていることも。
「まぁでも、私もこんなでも一応貴族だから、家に聞いてみないといけないわ。許可が出たらいっしょに祭り、回りましょう?」
帰り道のネルカの足取りは、誰の目から見ても軽かった。
― ― ― ― ― ―
寮室へと帰ったネルカは、メリーダに相談することにした。
しかし、その応えは相談をするまでもないものだった。
「お嬢様は王都に残ると伺っております。」
メリーダは調理済みの晩飯をテーブルに並べながら、ネルカの方を見ずに淡々と話す。初めこそ敷地内の食堂で食べていた彼女であったが、メリーダが(自分が作ったモノでネルカの身体を構成させたくて)料理を担当するようになったのだ。
「あら、どうしてかしら?」
「おそらく大奥様のことで色々あるのでしょう。お嬢様の祖母様のことでございます。」
「あぁ、父の家出で…大変なことになったんだったわね…。それなら確かに、私は帰るわけにはいかないわね。王都居残り組ってことね。」
父の家出を理由に祖母が体調を壊しており、向こう側の準備が整うまで遭遇しないようにしていたことを彼女は思い出した。いったいその日はいつになるのか分からないが、もしかしたら一生来ないかもしれない。
「でも、そう言えば、メリーダは実家に帰るの?」
「いえ、私はお嬢様と年を越したいので、残ることにしました。」
「あら嬉しいこと言ってくれるじゃないの。そうねそうね、だったらそうね…。じゃあ、あなたも一緒に祭りに来る? メリーダならきっとマリアンネとも気が合うわ。」
「それはさすがに…ご学友に迷惑をかけるわけにいきません。祭が終わられましたらハウスに帰って来て、共に年を過ごしていただければ…我々使用人としましては満足でございますので。(それに、私だけ着いて行ったら…他の皆に恨まれそうですし…)。」
「まぁ、私は構わないけれど。」
ネルカはすでにメリーダの話への興味は失せており、当日は何を着て行こうかと考えている状態だった。そもそも、冬季休業ですら一週間ほど先の話であるのだが、浮かれている彼女にとっては気にしないことなのであった。
「お嬢様、そのお顔は服装についてでございますね?」
「……私ってそんなに表情に出やすいかしら?」
「いえ、お嬢様がスーパーお嬢様であるなら、その侍女である私もスーパー侍女でなければと…日々精進しております。そして、こんなこともあろうかと、服なら既にご用意しております。」
メリーダは晩飯をすべて準備し終えると、部屋にあるクローゼットへと向かうと開けた。そこにはヤマモト連合とメンシニカ夫人が共同制作した服の数々が並べられており、いずれもこの世界なら『異端風』で――マリアンネの前世なら『現代風』――と呼べるような服だった。
「これは…?」
「私たちコールマン家使用人の幾人か、すでに計画に参加しております。ヤマモト連合、メンシニカ夫人、ディードルラ商会……これだけ揃えば、計画遂行も夢ではございません。」
「え? 計画って何?」
「お嬢様は知らなくても良いことでございます。」
「えぇっと…どうして私の周りには…勝手に人をメインに仕立てて、勝手に何かをするのかしら? とにかくメリーダ? 計画ってどういうこと? メリーダ? 無視しないで!?」
結局、メリーダから何も聞きだすことができないネルカであった。
参加する側も、催す側も、祭りへの準備は進んでいく。
ネルカたちは昼飯を外ですることを諦め、学園食堂に通っている。彼女たちがいるのは平民も多くが使用する『一般食堂』の方なのだが、どういうわけかローラやベティンたちもその輪に入るようになっていた。しかし、身分が違うながらも話が合うため、気が付けばまるでかつてからそういうグループだったかのように和気藹々としていた。
「そう言えば、師匠は祭りの日はどうするんですか?」
何となし気に話を切り出したのはマリアンネだった。
「祭り…? あぁ、そう言えば、もうそんな時期なのね。」
ベルガンテ祭――それは言わば建国記念祭。
遥か昔、ここら一帯はいくつかの村があっただけで、特に広い地域としての支配者はいなかった。そこに目を付けた周囲の国から狙われて戦争の中心地になっていたところ、一人の英雄――ベルガーという青年によって死守することに成功したのだ。
それぞれの村はこのままではまた狙われると思い、一致団結して一つの国を作ろうという結論に至った。英雄であるベルガーの血を継ぐ者を国王に定め、彼とその妻の名前を合わせたものを国名にしたのであった。
そして、建国の日――この日こそが祝いの日であり、ベルガンテ王国の一年の終わりと始まりの境目となる日でもあるのだ。
「あの…私たち貴族はそれぞれの家で祝うけど…市民は町全体で祝うんです。」
「冬季休業もありますし、私は実家領地に帰りますわ。」
ローラやフェリアたちは貴族の例に漏れず実家で祝い、マリアンネとエレナは王都内で開かれる祭りに参加するとのことだった。しかし、エレナは商会関連で回らなくてはいけないため、マリアンネは一人になってしまうのだ。
いざとなったらヤマモト連合の面々と行くという選択肢があるわけだが、それでも学園の友達と行きたいというのが彼女の本心だ。これは市民としてのマリアンネではなく、前世の記憶があるマリアンネとしての意見である。
「いいわね、祭り。私も里にいたときは森から出て、近くの街に行ったものだわ。義父様の同僚の人だかを助けたのも……この祭りだったわね。王都の祭りねぇ、きっと華やかでしょう? 行けるなら、私も行きたいわ。」
「なら師匠! ぜひ! アタシと! 祭りを! 回りましょう!」
ネルカの両手を取って上下にブンブンと振るその姿に、ネルカに限らずそこにいる全ての者が暖かい目をマリアンネに向ける。しかし、ネルカだけは気付かない――そんなマリアンネに対してデレデレの表情をしている彼女自身のことも、それに対して温かい目が向けられていることも。
「まぁでも、私もこんなでも一応貴族だから、家に聞いてみないといけないわ。許可が出たらいっしょに祭り、回りましょう?」
帰り道のネルカの足取りは、誰の目から見ても軽かった。
― ― ― ― ― ―
寮室へと帰ったネルカは、メリーダに相談することにした。
しかし、その応えは相談をするまでもないものだった。
「お嬢様は王都に残ると伺っております。」
メリーダは調理済みの晩飯をテーブルに並べながら、ネルカの方を見ずに淡々と話す。初めこそ敷地内の食堂で食べていた彼女であったが、メリーダが(自分が作ったモノでネルカの身体を構成させたくて)料理を担当するようになったのだ。
「あら、どうしてかしら?」
「おそらく大奥様のことで色々あるのでしょう。お嬢様の祖母様のことでございます。」
「あぁ、父の家出で…大変なことになったんだったわね…。それなら確かに、私は帰るわけにはいかないわね。王都居残り組ってことね。」
父の家出を理由に祖母が体調を壊しており、向こう側の準備が整うまで遭遇しないようにしていたことを彼女は思い出した。いったいその日はいつになるのか分からないが、もしかしたら一生来ないかもしれない。
「でも、そう言えば、メリーダは実家に帰るの?」
「いえ、私はお嬢様と年を越したいので、残ることにしました。」
「あら嬉しいこと言ってくれるじゃないの。そうねそうね、だったらそうね…。じゃあ、あなたも一緒に祭りに来る? メリーダならきっとマリアンネとも気が合うわ。」
「それはさすがに…ご学友に迷惑をかけるわけにいきません。祭が終わられましたらハウスに帰って来て、共に年を過ごしていただければ…我々使用人としましては満足でございますので。(それに、私だけ着いて行ったら…他の皆に恨まれそうですし…)。」
「まぁ、私は構わないけれど。」
ネルカはすでにメリーダの話への興味は失せており、当日は何を着て行こうかと考えている状態だった。そもそも、冬季休業ですら一週間ほど先の話であるのだが、浮かれている彼女にとっては気にしないことなのであった。
「お嬢様、そのお顔は服装についてでございますね?」
「……私ってそんなに表情に出やすいかしら?」
「いえ、お嬢様がスーパーお嬢様であるなら、その侍女である私もスーパー侍女でなければと…日々精進しております。そして、こんなこともあろうかと、服なら既にご用意しております。」
メリーダは晩飯をすべて準備し終えると、部屋にあるクローゼットへと向かうと開けた。そこにはヤマモト連合とメンシニカ夫人が共同制作した服の数々が並べられており、いずれもこの世界なら『異端風』で――マリアンネの前世なら『現代風』――と呼べるような服だった。
「これは…?」
「私たちコールマン家使用人の幾人か、すでに計画に参加しております。ヤマモト連合、メンシニカ夫人、ディードルラ商会……これだけ揃えば、計画遂行も夢ではございません。」
「え? 計画って何?」
「お嬢様は知らなくても良いことでございます。」
「えぇっと…どうして私の周りには…勝手に人をメインに仕立てて、勝手に何かをするのかしら? とにかくメリーダ? 計画ってどういうこと? メリーダ? 無視しないで!?」
結局、メリーダから何も聞きだすことができないネルカであった。
参加する側も、催す側も、祭りへの準備は進んでいく。
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