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第一部:9章:アイドル系死神と推し活騒動記
90話:リーゼロッテの秘密
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「僭越ながら、ワタシの口から説明させていただきます。」
口を開いたのはリーゼロッテの付き人の女性だった。
ネルカは武闘大会の初日に会っているわけだが、どうやら侍女風にしているだけで、本職は別にあるようであった。彼女は、アリエッテと名乗っていると前置きをすると、リーゼロッテについてをコールマン父娘に話し出した。
「リーゼロッテ殿下は聖女…『破壊の運命を見通す黒色』…つまりは≪予言の力≫でございます。いえ、正確に言えば、聖女でございました。」
「で…し…た…? 今は違うということかしら。」
「……ネルカ様は聖女について、どこまでご存知で?」
「詳しくは知らないわ。破壊の運命に対抗できる力としか…。」
「なるほど。こちらの国では聖女の伝承はあまり伝わっていないようですね。ワタシたちの国では『未来に起きる危機を回避するために、神様が託した力である』と言われております。つまり、聖女が現れるということは、現れる理由に値するほどの危機が……未来で必ず起きるということになります。」
「だけど、今は聖女ではなくなったということは…もしかして、御姫様が聖女になった危機は、もう終わったということかしら?」
「はい、察する通りでございます。殿下は三年前に起きた火山噴火を予知し、民の多くを救ってからは、徐々にその力を失っていったのです。そうです、一度にすべてを失うというわけではなく、徐々に失っていったのです。」
逆に言えば、予言自体はまだ可能であるということ。
聖女であった時ならば力を使った後に眠ることもなく、もっと直接的な言葉表現であったが、それでも予言であることに変わりはない。影の一族の一件のお詫びとして、ジャナタ王国はその力を貸すことに決めたのだ。
「ふ~ん…。」
ネルカは机の上に置いてある予言をメモした紙に目を移す。
『狂信の蕾が花を咲かすとき、
それすなわち終焉に向かう一咲きなり。
急げ銀鷹よ、赤鴉が待っている。
終焉を枯らす、唯一であるのだから。』
予言から起きる事件のことは一切も予想できない。
しかし、予言から重要となるであろうモノだけは予想できた。
そして、同時に、予想できることがもう一つ――
「ねぇ、予言は他にあるんでしょう? 見せてほしいわ。そうね、二つか三つといったところかしら…どれにも私の事を示唆した単語が入っているんでしょ。だからこそ、私にこの腕輪をという結論に至った。どう? あってるかしら?」
「フッ、さすがネルカ嬢だな。正解も大正解だ!」
ガルドが自身の近くに立つ宰相へと手を出すと、そこには二枚の紙が置かれた。そして、それらを広げて机の上に並べた。先ほどのものを含めて三種類の予言が提示されたのでああった。
『不滅の運命は、破滅の運命と化した。
確定の未来は、不確定の未来と化した。
魔なる存在の侵攻、狂信者どもに見つかるな。
救いの手は桃の聖女か、それとも赤の狩人か。
彼女たちに自由を与えよ、縛れば動けないのだから。』
『亡霊が徘徊する王都、真の意味で生きる者は誰もいない。
赤を呼べ、赤を招け、何があっても赤を優先せよ。
さもなければ迎えるは終わりだけだ。
呪われることは罪ではない。呪われた後こそが罪なのだ。』
ネルカは前のめりになってそれぞれの内容をジッと見る。いずれも予言から起きる事件のことは一切も予想できないが、重要となるであろうモノだけは予想できた。
「これらの予言…いずれも『赤』という単語が重要となっている。これが示すこと…俺はネルカ嬢のことだと思っている。そして、騎士団の幹部たちも皆、同じ考えだったということだ。これが腕輪を渡した理由だ。」
「それに桃の聖女ねぇ。それで…最近、マリアンネに護衛が配置されているのね。だけど、あの子はまだ聖女じゃないわ。これからは知らないけど。」
「そうだとしても、破壊の運命を回避する鍵は…ネルカ嬢、マリアンネ嬢、そして俺ら王族のうちの誰か…これは間違いのない情報だ。何か…他に思いつくことはねぇか?」
自身の立ち位置を理解したネルカとしては、その役割をまっとうすることは何も問題はない。しかし、具体的に何をしたらいいのかとなってしまえば、少なくとも予言の解読が終わるまでは、敵を蹴散らす以外にできることは何も無い。
改めて予言を見るが、やはり分からない。
そこで口を開いたのはデインだった。
「運命が変わったこと、未来が変わったという内容は……きっと『聖マリ』とかいう物語のことを示しているのだろうね。」
「ん? 転生したとかどうとかってやつか?」
「いえ父上、これがマリアンネ嬢が転生したことで変わったとは私は思っていないのです。物語と現実の違いの部分は……明らかに彼女が関わっていないことですので。」
「転生者は他にいる可能性がある…ということか。となれば、気になるのは『狂信』って言葉か…これはゼノン教のことか? そっちの方はどうなっている。」
ガルドは部屋の壁に控えている騎士団長ガドラクに目を向けると、彼は自身の髭をなぞりながら思案し、しばらくすると口を開いた。
「王都内で信者は割と見つけた…が、見つけただけじゃな。もしかしたらただの信者ってだけかもしれんが…じゃとしても話を聞いたとおりの組織なら、安心はできんぞ。」
「そうか、ならば…騎士団は引き続きゼノン教を探れ。こちらは予言についてを調べておこう。ネルカ嬢は…そうだな…どうするか…。」
正式な騎士団でないネルカは動かしにくいが、手を余らせるにはもったいないほどの存在だ。何か役割を持たせようと思案する国王に、他の面々も同じようにネルカのことを考えた。
そして、何を思いついたのか、ベルナンドがガルドに近づいた。
「それでは―――――はいかがですかな?」
「ほう、おぉ、悪くないな。」
ガルドは国王らしからぬ子供じみた笑みを浮かべると――
「ネルカ・コールマン、今日を以って遊撃騎士に任命する!」
口を開いたのはリーゼロッテの付き人の女性だった。
ネルカは武闘大会の初日に会っているわけだが、どうやら侍女風にしているだけで、本職は別にあるようであった。彼女は、アリエッテと名乗っていると前置きをすると、リーゼロッテについてをコールマン父娘に話し出した。
「リーゼロッテ殿下は聖女…『破壊の運命を見通す黒色』…つまりは≪予言の力≫でございます。いえ、正確に言えば、聖女でございました。」
「で…し…た…? 今は違うということかしら。」
「……ネルカ様は聖女について、どこまでご存知で?」
「詳しくは知らないわ。破壊の運命に対抗できる力としか…。」
「なるほど。こちらの国では聖女の伝承はあまり伝わっていないようですね。ワタシたちの国では『未来に起きる危機を回避するために、神様が託した力である』と言われております。つまり、聖女が現れるということは、現れる理由に値するほどの危機が……未来で必ず起きるということになります。」
「だけど、今は聖女ではなくなったということは…もしかして、御姫様が聖女になった危機は、もう終わったということかしら?」
「はい、察する通りでございます。殿下は三年前に起きた火山噴火を予知し、民の多くを救ってからは、徐々にその力を失っていったのです。そうです、一度にすべてを失うというわけではなく、徐々に失っていったのです。」
逆に言えば、予言自体はまだ可能であるということ。
聖女であった時ならば力を使った後に眠ることもなく、もっと直接的な言葉表現であったが、それでも予言であることに変わりはない。影の一族の一件のお詫びとして、ジャナタ王国はその力を貸すことに決めたのだ。
「ふ~ん…。」
ネルカは机の上に置いてある予言をメモした紙に目を移す。
『狂信の蕾が花を咲かすとき、
それすなわち終焉に向かう一咲きなり。
急げ銀鷹よ、赤鴉が待っている。
終焉を枯らす、唯一であるのだから。』
予言から起きる事件のことは一切も予想できない。
しかし、予言から重要となるであろうモノだけは予想できた。
そして、同時に、予想できることがもう一つ――
「ねぇ、予言は他にあるんでしょう? 見せてほしいわ。そうね、二つか三つといったところかしら…どれにも私の事を示唆した単語が入っているんでしょ。だからこそ、私にこの腕輪をという結論に至った。どう? あってるかしら?」
「フッ、さすがネルカ嬢だな。正解も大正解だ!」
ガルドが自身の近くに立つ宰相へと手を出すと、そこには二枚の紙が置かれた。そして、それらを広げて机の上に並べた。先ほどのものを含めて三種類の予言が提示されたのでああった。
『不滅の運命は、破滅の運命と化した。
確定の未来は、不確定の未来と化した。
魔なる存在の侵攻、狂信者どもに見つかるな。
救いの手は桃の聖女か、それとも赤の狩人か。
彼女たちに自由を与えよ、縛れば動けないのだから。』
『亡霊が徘徊する王都、真の意味で生きる者は誰もいない。
赤を呼べ、赤を招け、何があっても赤を優先せよ。
さもなければ迎えるは終わりだけだ。
呪われることは罪ではない。呪われた後こそが罪なのだ。』
ネルカは前のめりになってそれぞれの内容をジッと見る。いずれも予言から起きる事件のことは一切も予想できないが、重要となるであろうモノだけは予想できた。
「これらの予言…いずれも『赤』という単語が重要となっている。これが示すこと…俺はネルカ嬢のことだと思っている。そして、騎士団の幹部たちも皆、同じ考えだったということだ。これが腕輪を渡した理由だ。」
「それに桃の聖女ねぇ。それで…最近、マリアンネに護衛が配置されているのね。だけど、あの子はまだ聖女じゃないわ。これからは知らないけど。」
「そうだとしても、破壊の運命を回避する鍵は…ネルカ嬢、マリアンネ嬢、そして俺ら王族のうちの誰か…これは間違いのない情報だ。何か…他に思いつくことはねぇか?」
自身の立ち位置を理解したネルカとしては、その役割をまっとうすることは何も問題はない。しかし、具体的に何をしたらいいのかとなってしまえば、少なくとも予言の解読が終わるまでは、敵を蹴散らす以外にできることは何も無い。
改めて予言を見るが、やはり分からない。
そこで口を開いたのはデインだった。
「運命が変わったこと、未来が変わったという内容は……きっと『聖マリ』とかいう物語のことを示しているのだろうね。」
「ん? 転生したとかどうとかってやつか?」
「いえ父上、これがマリアンネ嬢が転生したことで変わったとは私は思っていないのです。物語と現実の違いの部分は……明らかに彼女が関わっていないことですので。」
「転生者は他にいる可能性がある…ということか。となれば、気になるのは『狂信』って言葉か…これはゼノン教のことか? そっちの方はどうなっている。」
ガルドは部屋の壁に控えている騎士団長ガドラクに目を向けると、彼は自身の髭をなぞりながら思案し、しばらくすると口を開いた。
「王都内で信者は割と見つけた…が、見つけただけじゃな。もしかしたらただの信者ってだけかもしれんが…じゃとしても話を聞いたとおりの組織なら、安心はできんぞ。」
「そうか、ならば…騎士団は引き続きゼノン教を探れ。こちらは予言についてを調べておこう。ネルカ嬢は…そうだな…どうするか…。」
正式な騎士団でないネルカは動かしにくいが、手を余らせるにはもったいないほどの存在だ。何か役割を持たせようと思案する国王に、他の面々も同じようにネルカのことを考えた。
そして、何を思いついたのか、ベルナンドがガルドに近づいた。
「それでは―――――はいかがですかな?」
「ほう、おぉ、悪くないな。」
ガルドは国王らしからぬ子供じみた笑みを浮かべると――
「ネルカ・コールマン、今日を以って遊撃騎士に任命する!」
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