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第一部:5-2章:避暑地における休息的アレコレ(後編)
50話:一方その頃、デインサイド
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時間は少し遡って、デインサイド――
― ― ― ― ― ―
「なんだ? 霧か…? しかし、黒色?」
黒魔法の霧は森をはみ出て、彼らが待機している場所まで及んでいた。咄嗟に騎士たちは主を守るべく囲み、次に非戦闘の者たちを一カ所に集めて守れるようにする。
しかし、霧の異常性に気付いた誰かが、混乱を引き起こしていた。
「ま、魔力が…使えない!? ヒ、ヒィィィ!」
魔力膜も身体強化もできないというのは、騎士だからこそ致命的であるというのが理解できる。騎士たちはてんやわんやの状態となり、一部の者が上手く陣形を組めない状態となっていた。
「黙れ腰抜け共ッ!」
そんな状況に轟くはアースの叫び。
慌てていた者たちはビクリとその動きを止めた。
「護衛騎士ともあろう奴が、この程度で狼狽えんじゃねぇ! これは黒魔法だ、バカタレ! 何が来ても一人で戦うな! もっと固まれ、お前ら! 敵が来る前に俺が殺してやろうか!」
上司の一喝により何とか精神を取り戻した彼らは、訓練通りに陣形を組むべく動く。アースとベルナンドもまた離れることをせず、次に起こりうる事態に備えて剣を抜いていた。
「さてはて、鬼が出るか蛇が出るか。どちらでしょうかな?」
「構わん、何が来ても…たたっ切るだけだ。」
彼らの背後では退避のための準備が、着々と進められている。主を安全な場所まで送る者、そのための時間を足止めをする者、それこそが騎士としての職務である。
そして――
「敵影! 敵影! 数は目視で6人!」
伝令の声と共に森の中から黒色の人間が複数人現れた。
いずれの存在も手には武器を持ってはいない。そして、身長や体格、果ては走り方の癖すらも、ほぼ同じと言っても過言ではないほど似通っていた。
そんな非生物的集団に気味の悪さを感じつつも、それぞれは迎え撃つために身構える。その黒色人間たちは何を考えているのか、剣を持った騎士たちに対して素手で殴りかかってきた。
「ぬおぉ! やはり身体強化が使えないというのは…痛手だ!」
「ぐぐぬぬ! しかし、二人三人でなら止めれるということは…こやつらそこまで強くないですぞ。数と質でカバーできる範囲ですな!」
繰り出される拳を小盾で受けるアースと剣で受けるベルナンド。
二人が黒色人間の動きを止めている間、屈強な中年兵が二人の間から剣を突き刺した。ドンッという音と共に黒色人間の胸部にコブシ大の穴が開き、しばらくすると反対側が見えるほどの穴が修復されていく。
これは人ではない――黒魔法で作られた人形兵だ。
「作戦変更だ! こいつらは倒せん! 防ぐだけ防いで時間稼ぎをしろ! 殿下の退避を優先とする、最低でも黒魔法の霧範囲外まで退くぞ!」
驚愕の表情もほんの一瞬、隊長としての職務を全うするために隊員に命令を下す。優先行為は攻め――霧と人形兵の発生源を叩くことだ。そのためには護衛などしている場合ではなく、デインたちをとりあえず霧の外まで連れ出すことにしたのだ。
しかし、不測の事態は連なって発生する。
ドゥンッ!
「なんだこの轟音は!?」
低木や細木をベキベキと破壊しながら、今度は4メートル強サイズの黒色球体が転がり現れた。球体は途中で跳ねると、そこから頭手足と思わしき部位が現れて着地する。
「次から次に…アース…こちらは人形兵で手一杯ですぞ。」
「クソが。影の一族がいったい何の用だってんだよ!」
数名の騎士が球体人間へと突撃していく姿に、アースは(そっち行くなら俺と交代しろ。)という悪態を心の中でつぶやく。そして、球体人間は地面を削りながら腕を振るうと、まるで箒で払われる落ち葉のように騎士たちが吹き飛ばされていった。
『ヒャッハァ! 止めれるもんなら止めてみろ! バルハの分身よりも先に敵将を討取るのは、この俺様・コルネクスだぁ!』
球体人間――もといコルネクスと名乗った男は再度球体モードへと変形し、ギュルギュル…という回転をしながら突撃を再開させる。
突撃の先にいるのは――デインだ。
彼は他の非戦闘員を逃がすことを優先し、自身は最後だと残っていたのだ。王家としてやるべきことだとの判断だったが、狙いが彼自身である今回ばかりはそれ裏目に出てしまった。
そうはさせまいと騎士たちが進行を止めようとするが、先ほど同様に身体強化が突けない現状では、何人の人間がいようが止めることはできない。無残に散っていく命を前に、デインは何もできずただ立ち尽くしてしまっていた。
『王子の命、もらっ……およ?』
しかし、その球体がデインに触れることはなかった。
なぜならば、彼の側近であり護衛役であるトムスが、回転する球体を両手で受け止めていたからだ。トムスはコルネクスを少しだけ浮かすと、轟音を鳴らして森側へと蹴り飛ばした。
「殿下、そのための…俺っすよ…ね?」
その肌は朱色に染まっており、黒色の線模様が至る所に表れていた。そして、その額には一本のツノが生えており、体が徐々に肥大化しつつあった。黒い球体を受け止めていた掌は、皮膚が剥がれ血が溢れ出ていたが、徐々にその傷もふさがっていく。
周囲の騎士たちが絶句している傍で、デインは知っていると言わんばかりに冷静に頷くと、その大きな背中をトンッと押す。トムスはそれに応えるように、飛ばしたコルネクスの方へと歩き出した。
「あぁ…トムス。このための君だ。行け。」
肥大化していく体は服が破れてズボンが裂き、彼専用に作られた伸縮性のあるパンツだけになる。それを見たデインは背を向け、馬に跨ってから騎士に移動を促す。
「ここが名誉を掴むチャンスだ、トムス。」
自身の側近に絶対の信頼を抱いて――。
― ― ― ― ― ―
「なんだ? 霧か…? しかし、黒色?」
黒魔法の霧は森をはみ出て、彼らが待機している場所まで及んでいた。咄嗟に騎士たちは主を守るべく囲み、次に非戦闘の者たちを一カ所に集めて守れるようにする。
しかし、霧の異常性に気付いた誰かが、混乱を引き起こしていた。
「ま、魔力が…使えない!? ヒ、ヒィィィ!」
魔力膜も身体強化もできないというのは、騎士だからこそ致命的であるというのが理解できる。騎士たちはてんやわんやの状態となり、一部の者が上手く陣形を組めない状態となっていた。
「黙れ腰抜け共ッ!」
そんな状況に轟くはアースの叫び。
慌てていた者たちはビクリとその動きを止めた。
「護衛騎士ともあろう奴が、この程度で狼狽えんじゃねぇ! これは黒魔法だ、バカタレ! 何が来ても一人で戦うな! もっと固まれ、お前ら! 敵が来る前に俺が殺してやろうか!」
上司の一喝により何とか精神を取り戻した彼らは、訓練通りに陣形を組むべく動く。アースとベルナンドもまた離れることをせず、次に起こりうる事態に備えて剣を抜いていた。
「さてはて、鬼が出るか蛇が出るか。どちらでしょうかな?」
「構わん、何が来ても…たたっ切るだけだ。」
彼らの背後では退避のための準備が、着々と進められている。主を安全な場所まで送る者、そのための時間を足止めをする者、それこそが騎士としての職務である。
そして――
「敵影! 敵影! 数は目視で6人!」
伝令の声と共に森の中から黒色の人間が複数人現れた。
いずれの存在も手には武器を持ってはいない。そして、身長や体格、果ては走り方の癖すらも、ほぼ同じと言っても過言ではないほど似通っていた。
そんな非生物的集団に気味の悪さを感じつつも、それぞれは迎え撃つために身構える。その黒色人間たちは何を考えているのか、剣を持った騎士たちに対して素手で殴りかかってきた。
「ぬおぉ! やはり身体強化が使えないというのは…痛手だ!」
「ぐぐぬぬ! しかし、二人三人でなら止めれるということは…こやつらそこまで強くないですぞ。数と質でカバーできる範囲ですな!」
繰り出される拳を小盾で受けるアースと剣で受けるベルナンド。
二人が黒色人間の動きを止めている間、屈強な中年兵が二人の間から剣を突き刺した。ドンッという音と共に黒色人間の胸部にコブシ大の穴が開き、しばらくすると反対側が見えるほどの穴が修復されていく。
これは人ではない――黒魔法で作られた人形兵だ。
「作戦変更だ! こいつらは倒せん! 防ぐだけ防いで時間稼ぎをしろ! 殿下の退避を優先とする、最低でも黒魔法の霧範囲外まで退くぞ!」
驚愕の表情もほんの一瞬、隊長としての職務を全うするために隊員に命令を下す。優先行為は攻め――霧と人形兵の発生源を叩くことだ。そのためには護衛などしている場合ではなく、デインたちをとりあえず霧の外まで連れ出すことにしたのだ。
しかし、不測の事態は連なって発生する。
ドゥンッ!
「なんだこの轟音は!?」
低木や細木をベキベキと破壊しながら、今度は4メートル強サイズの黒色球体が転がり現れた。球体は途中で跳ねると、そこから頭手足と思わしき部位が現れて着地する。
「次から次に…アース…こちらは人形兵で手一杯ですぞ。」
「クソが。影の一族がいったい何の用だってんだよ!」
数名の騎士が球体人間へと突撃していく姿に、アースは(そっち行くなら俺と交代しろ。)という悪態を心の中でつぶやく。そして、球体人間は地面を削りながら腕を振るうと、まるで箒で払われる落ち葉のように騎士たちが吹き飛ばされていった。
『ヒャッハァ! 止めれるもんなら止めてみろ! バルハの分身よりも先に敵将を討取るのは、この俺様・コルネクスだぁ!』
球体人間――もといコルネクスと名乗った男は再度球体モードへと変形し、ギュルギュル…という回転をしながら突撃を再開させる。
突撃の先にいるのは――デインだ。
彼は他の非戦闘員を逃がすことを優先し、自身は最後だと残っていたのだ。王家としてやるべきことだとの判断だったが、狙いが彼自身である今回ばかりはそれ裏目に出てしまった。
そうはさせまいと騎士たちが進行を止めようとするが、先ほど同様に身体強化が突けない現状では、何人の人間がいようが止めることはできない。無残に散っていく命を前に、デインは何もできずただ立ち尽くしてしまっていた。
『王子の命、もらっ……およ?』
しかし、その球体がデインに触れることはなかった。
なぜならば、彼の側近であり護衛役であるトムスが、回転する球体を両手で受け止めていたからだ。トムスはコルネクスを少しだけ浮かすと、轟音を鳴らして森側へと蹴り飛ばした。
「殿下、そのための…俺っすよ…ね?」
その肌は朱色に染まっており、黒色の線模様が至る所に表れていた。そして、その額には一本のツノが生えており、体が徐々に肥大化しつつあった。黒い球体を受け止めていた掌は、皮膚が剥がれ血が溢れ出ていたが、徐々にその傷もふさがっていく。
周囲の騎士たちが絶句している傍で、デインは知っていると言わんばかりに冷静に頷くと、その大きな背中をトンッと押す。トムスはそれに応えるように、飛ばしたコルネクスの方へと歩き出した。
「あぁ…トムス。このための君だ。行け。」
肥大化していく体は服が破れてズボンが裂き、彼専用に作られた伸縮性のあるパンツだけになる。それを見たデインは背を向け、馬に跨ってから騎士に移動を促す。
「ここが名誉を掴むチャンスだ、トムス。」
自身の側近に絶対の信頼を抱いて――。
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