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第一部:4-3章:血の夜会(本番・後編)
28話:再会と遭遇、そして別れ
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王都は3つの層でできている。
一つ目は大きくそびえ立つ王城エリア、二つ目は王都エリア、三つ目はあまりの人口増加に仕方なく作られた都外エリアである。王城と王都の間は壁と堀で区切られている。しかし、王都と都外の間は予算の都合によって、防衛と言うには低すぎる壁が途中切れであるだけ。街そのものが壁となって王城を守るという結論に至ったのだ。
そんな王城は東側に山を背にしており、西に大門・北に貴族用出入り口・南に行商用出入り口といった配置になっている。しかし、東の山に隠し洞窟通路が存在することを知る者は少ない。
「こういう隠し洞窟って…ロマンあってワクワクするわね。」
彼女その洞窟を歩いている理由として、城の屋根伝いにどこに行くべきかウロウロしていたところ、彼女はトムスに会うことができたということがある。
正確に言えば、トムスが隠し部屋に避難したデインの守護をしていたところ、不審者と思わし人物を見つけたので仕留めに動いていたら、不審者じゃなくネルカだったということであったが。
『ベルナンドから話は聞いたと思うが、エルの死は相手に行動開始させるためのフェイクだ。きっと敵は王城を乗っ取るための準備をしていることだろう。ネルカ嬢にはアランドロ公爵家の屋敷に向かい、エルもしくはベルナンドと合流してもらいたい。』
二人とまともに会話したのがこんな状況かと思いながらも、ネルカはデインから洞窟の地図を受け取ると、そのまま隠し洞窟から北区へと出る道を目指していたのだ。少しでも道を間違えると出るのが困難になるように作られており、これは仮に洞窟の存在が知られても容易に攻め入れられないためなのだが、あまりに長い時間歩いたものだから道を間違えてしまったのではと不安になっていた。
しかし、そんな不安も偶然の遭遇により消え去る。
「あら、お義父様じゃないの。」
「ネ、ネルカか? ネルカだな! 無事だったか!?」
彼女が遭遇したのは宰相ドロエスを筆頭として、その補佐二人のアデルとモリヤ―、数人の騎士団員、そしてソルヴィとナハスであった。
ネルカに駆け寄ったアデルはガバッと彼女を抱きしめ、対する彼女は「ちょっと…恥ずかしいわ、お義父様。」と困惑しながらもどこか嬉しそうであった。義親子の感動的な出会いの余韻に浸りたい気持ちもあったが、そこには義父以外の人間もいることを思い出して彼女は佇まいを正す。
「こうして挨拶するのは初めましてですね。ドロエス宰相様。」
「あぁ、そうだね。互いに親子同士で縁があったのにねぇ。まぁ、堅苦しい挨拶は抜きにして、歩きながら話そうか?」
彼が語るには――最初は確かに相手の粗を探して攻撃する予定だったが、あまりにも相手が受けを期待するかのように動くものだから、何かカウンター的な一手があるのではと動けなくなってしまった。
そこで作戦変更である。
こちらが動けないならあちらを動かせばいい、ということで釣る作戦にしようとした。しかし、その作戦を実行する前に相手が先に行動を仕掛けきたため、協力者に連絡できないまま仮死薬を飲むことになってしまった。
「なるほどね…その成果はあったのかしら?」
「狙いが国盗りのためのクーデターであること、計画の肝がナスタ氏の結界魔法であることは分かった。どんな効果の物かまでは知らないが、呪具を使おうとしていることも予測が立っている。今頃は息子がその真実に辿り着いている頃だろう。」
「ということは…?」
「あぁ…今度はこちらが反撃する番だ。」
その言葉にネルカがニヤリと笑うと、彼女のことを知る人たちは頼もしいと笑う。ナスタの結界魔法の突破に関して策がないわけではなかったが、国にとっての最終兵器を出す必要があり――それは確実に多くの犠牲を必要とする。
ならば、一番の安牌は彼女が結界をどうにかすることだけだ。
そうして会話していると、ついに洞窟を抜ける。
そこは山の中腹であり、木々の隙間からは街が見えた。
いる場所自体は平らになっているが、下山するには獣道を通る必要がある。
「ふむ…半信半疑であったが流石リーネット様。確かに現れた。」
そこには赤黒い全身鎧を着た男があぐら座りで佇んでいた。
目の前の男が醸し出すピリリとした雰囲気に、ネルカとナハスは身構える。彼女はこの騎士の実力をベルナンドと最低でも同等・高確率でそれ以上であると見立てた。
「やれやれ…黒血卿か。側妃様の護衛をしていると踏んでいたが…こっちを止めるために動いていたか。」
【黒血卿】――名をバルドロ――側妃が幼少の頃からの彼女の私兵。
その男が歩けばそこには血だまりができると言われており、その二つ名の由来も鎧にこびりついた返り血によるものである。彼にタイマンで敵う者は王宮騎士団第一部隊長にして総団長でもあるガドラク・ワマイアぐらいしかいないと言われている。
「さ、宰相様…あの方とやりあうには、最低でもベルナンド様が必要です。その…我々だけでは数が多くても焼け石に水で…。」
「ふむ…どうしたものか。」
「いいわよ。私が相手するわ。というか、私しかいないでしょう?」
敵の計画阻止にはネルカがいると楽ではあるが、必要というわけではない。ならば、自分がこの男に足止めされても問題はないと判断し、彼女が名乗りを上げる。
「ネルカ、助太刀しようか?」
「ナハスお義兄様。ちょっと私でもどうか分からなそうな相手だし、確かにその方がありがたい……けれど……私一人でやるわ。だって――。」
チラリと流す視線の先は周囲の木の上、ナハスがその方向を見ると何かがいる気配がした。つまり、自分の役目はドロエスご一行を目的地まで守り運ぶこと、返事こそしないが頷いてその意思を示す。
ドロエスはその様子を見て移動することに決めるが、その前に彼女に伝えておくべきことを伝えておく。
「あぁ、ネルカ嬢。」
「はい?」
「終わったら息子の元へ向かってやってくれないか? どうせ今回も単独で行動しているだろうしね。まったく…そこまで強くないのに無茶をする。」
「ふふっ、分かったわ。エルの手綱はしっかりと握っておくわ。」
そう言うとネルカは黒血卿の元へと歩き出し、別方向へ移動を開始する背の集団を感じながら、詠唱も魔導具も使うことなく魔法【黒魔法】を発動させる。彼女の指先から黒い何かが現れ、次第に彼女の体を覆っていき最後は全身を包む。その姿はあの日、ナハスを救出した時と同じ姿だった。
黒いローブ――黒いマスク――黒い手袋――黒い大鎌。
黒魔法を纏ったその姿――【黒衣】――そう彼女は呼んでいる。
「そうか…黒魔法…か。俺も初めて見るな。しかしまぁ、なんと幸運なことか。その魔法を最初から使われていたら、今回の計画も破綻していたというもの。無駄な警戒ご苦労様というとこか。」
「そうなのよ。奥の手が結界魔法だってんなら、私にとってはカモもいいとこだったのにねね。次からは初手全力で行くように気を付けておくわ。」
「安心しろ…貴様に次はない。」
バルドロが剣を抜き、ネルカは大鎌を肩に担ぐ。
「ねぇ、戦う前に聞いていいかしら?」
「いいだろう…なんだ?」
「あなたの主の目的は?」
「ふっ、リーネット様…否、俺とリーネット様の目的なら単純だ。渇きを潤すためだ。俺らは達成感がほしいだけなのかもしれぬな。そこに…特別な理由などありはしない。リーネット様の周囲は野心で動いているようだがな。」
その言葉に彼女は話にならないと言わんばかりに肩をすくめ、そしてただ無言のまま殺気を膨らませていく。分かり合えない対立ならば、そこには血以外の解決方法などありはしない。
「行くわ。」「参る。」
戦いの火ぶたが切られた。
一つ目は大きくそびえ立つ王城エリア、二つ目は王都エリア、三つ目はあまりの人口増加に仕方なく作られた都外エリアである。王城と王都の間は壁と堀で区切られている。しかし、王都と都外の間は予算の都合によって、防衛と言うには低すぎる壁が途中切れであるだけ。街そのものが壁となって王城を守るという結論に至ったのだ。
そんな王城は東側に山を背にしており、西に大門・北に貴族用出入り口・南に行商用出入り口といった配置になっている。しかし、東の山に隠し洞窟通路が存在することを知る者は少ない。
「こういう隠し洞窟って…ロマンあってワクワクするわね。」
彼女その洞窟を歩いている理由として、城の屋根伝いにどこに行くべきかウロウロしていたところ、彼女はトムスに会うことができたということがある。
正確に言えば、トムスが隠し部屋に避難したデインの守護をしていたところ、不審者と思わし人物を見つけたので仕留めに動いていたら、不審者じゃなくネルカだったということであったが。
『ベルナンドから話は聞いたと思うが、エルの死は相手に行動開始させるためのフェイクだ。きっと敵は王城を乗っ取るための準備をしていることだろう。ネルカ嬢にはアランドロ公爵家の屋敷に向かい、エルもしくはベルナンドと合流してもらいたい。』
二人とまともに会話したのがこんな状況かと思いながらも、ネルカはデインから洞窟の地図を受け取ると、そのまま隠し洞窟から北区へと出る道を目指していたのだ。少しでも道を間違えると出るのが困難になるように作られており、これは仮に洞窟の存在が知られても容易に攻め入れられないためなのだが、あまりに長い時間歩いたものだから道を間違えてしまったのではと不安になっていた。
しかし、そんな不安も偶然の遭遇により消え去る。
「あら、お義父様じゃないの。」
「ネ、ネルカか? ネルカだな! 無事だったか!?」
彼女が遭遇したのは宰相ドロエスを筆頭として、その補佐二人のアデルとモリヤ―、数人の騎士団員、そしてソルヴィとナハスであった。
ネルカに駆け寄ったアデルはガバッと彼女を抱きしめ、対する彼女は「ちょっと…恥ずかしいわ、お義父様。」と困惑しながらもどこか嬉しそうであった。義親子の感動的な出会いの余韻に浸りたい気持ちもあったが、そこには義父以外の人間もいることを思い出して彼女は佇まいを正す。
「こうして挨拶するのは初めましてですね。ドロエス宰相様。」
「あぁ、そうだね。互いに親子同士で縁があったのにねぇ。まぁ、堅苦しい挨拶は抜きにして、歩きながら話そうか?」
彼が語るには――最初は確かに相手の粗を探して攻撃する予定だったが、あまりにも相手が受けを期待するかのように動くものだから、何かカウンター的な一手があるのではと動けなくなってしまった。
そこで作戦変更である。
こちらが動けないならあちらを動かせばいい、ということで釣る作戦にしようとした。しかし、その作戦を実行する前に相手が先に行動を仕掛けきたため、協力者に連絡できないまま仮死薬を飲むことになってしまった。
「なるほどね…その成果はあったのかしら?」
「狙いが国盗りのためのクーデターであること、計画の肝がナスタ氏の結界魔法であることは分かった。どんな効果の物かまでは知らないが、呪具を使おうとしていることも予測が立っている。今頃は息子がその真実に辿り着いている頃だろう。」
「ということは…?」
「あぁ…今度はこちらが反撃する番だ。」
その言葉にネルカがニヤリと笑うと、彼女のことを知る人たちは頼もしいと笑う。ナスタの結界魔法の突破に関して策がないわけではなかったが、国にとっての最終兵器を出す必要があり――それは確実に多くの犠牲を必要とする。
ならば、一番の安牌は彼女が結界をどうにかすることだけだ。
そうして会話していると、ついに洞窟を抜ける。
そこは山の中腹であり、木々の隙間からは街が見えた。
いる場所自体は平らになっているが、下山するには獣道を通る必要がある。
「ふむ…半信半疑であったが流石リーネット様。確かに現れた。」
そこには赤黒い全身鎧を着た男があぐら座りで佇んでいた。
目の前の男が醸し出すピリリとした雰囲気に、ネルカとナハスは身構える。彼女はこの騎士の実力をベルナンドと最低でも同等・高確率でそれ以上であると見立てた。
「やれやれ…黒血卿か。側妃様の護衛をしていると踏んでいたが…こっちを止めるために動いていたか。」
【黒血卿】――名をバルドロ――側妃が幼少の頃からの彼女の私兵。
その男が歩けばそこには血だまりができると言われており、その二つ名の由来も鎧にこびりついた返り血によるものである。彼にタイマンで敵う者は王宮騎士団第一部隊長にして総団長でもあるガドラク・ワマイアぐらいしかいないと言われている。
「さ、宰相様…あの方とやりあうには、最低でもベルナンド様が必要です。その…我々だけでは数が多くても焼け石に水で…。」
「ふむ…どうしたものか。」
「いいわよ。私が相手するわ。というか、私しかいないでしょう?」
敵の計画阻止にはネルカがいると楽ではあるが、必要というわけではない。ならば、自分がこの男に足止めされても問題はないと判断し、彼女が名乗りを上げる。
「ネルカ、助太刀しようか?」
「ナハスお義兄様。ちょっと私でもどうか分からなそうな相手だし、確かにその方がありがたい……けれど……私一人でやるわ。だって――。」
チラリと流す視線の先は周囲の木の上、ナハスがその方向を見ると何かがいる気配がした。つまり、自分の役目はドロエスご一行を目的地まで守り運ぶこと、返事こそしないが頷いてその意思を示す。
ドロエスはその様子を見て移動することに決めるが、その前に彼女に伝えておくべきことを伝えておく。
「あぁ、ネルカ嬢。」
「はい?」
「終わったら息子の元へ向かってやってくれないか? どうせ今回も単独で行動しているだろうしね。まったく…そこまで強くないのに無茶をする。」
「ふふっ、分かったわ。エルの手綱はしっかりと握っておくわ。」
そう言うとネルカは黒血卿の元へと歩き出し、別方向へ移動を開始する背の集団を感じながら、詠唱も魔導具も使うことなく魔法【黒魔法】を発動させる。彼女の指先から黒い何かが現れ、次第に彼女の体を覆っていき最後は全身を包む。その姿はあの日、ナハスを救出した時と同じ姿だった。
黒いローブ――黒いマスク――黒い手袋――黒い大鎌。
黒魔法を纏ったその姿――【黒衣】――そう彼女は呼んでいる。
「そうか…黒魔法…か。俺も初めて見るな。しかしまぁ、なんと幸運なことか。その魔法を最初から使われていたら、今回の計画も破綻していたというもの。無駄な警戒ご苦労様というとこか。」
「そうなのよ。奥の手が結界魔法だってんなら、私にとってはカモもいいとこだったのにねね。次からは初手全力で行くように気を付けておくわ。」
「安心しろ…貴様に次はない。」
バルドロが剣を抜き、ネルカは大鎌を肩に担ぐ。
「ねぇ、戦う前に聞いていいかしら?」
「いいだろう…なんだ?」
「あなたの主の目的は?」
「ふっ、リーネット様…否、俺とリーネット様の目的なら単純だ。渇きを潤すためだ。俺らは達成感がほしいだけなのかもしれぬな。そこに…特別な理由などありはしない。リーネット様の周囲は野心で動いているようだがな。」
その言葉に彼女は話にならないと言わんばかりに肩をすくめ、そしてただ無言のまま殺気を膨らませていく。分かり合えない対立ならば、そこには血以外の解決方法などありはしない。
「行くわ。」「参る。」
戦いの火ぶたが切られた。
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