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第一部:4-2章:血の夜会(本番・前編)
24話:賑やかさが増していく会場で
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それからネルカはフランとローラを連れて、無事に庭まで出ることができた。そこでは大人貴族のギスギスした空気はなく、あるのは若者の歓談によるワイワイとした空気――良い相手がいないか探すのに必死なメラメラとした空気だけだった。
そして、ネルカとローラもメラメラの視線に狙われていたのだが――
「ローラさま、これ、おいしい!」
「クスクス、フランちゃん…ほっぺに付いちゃってますよ。」
「かりうどのねーちゃも!」
「えぇそうね、王家主催なだけあって本当美味しいわ。」
ローラ――その名前は現在の貴族では公爵家令嬢しかいない。
こうして爵位が足りない男性の大半が撃沈した。
ねーちゃ――その呼ばれ方は女性以外ありえないし、声質もその性の寄り。
こうしてイケメンを狙っていた女性の少しが撃沈した。
さらにフランという純粋無邪気な子供が近くにいることもあって、この二人に対してアプローチを仕掛けることに罪悪感を覚させられ、誰にも構わられることなく食事や監視を行うことができていた。
「それにしても驚いたわローラ様。変わられたのね。」
「は、はい! あの日から…まだ足りないとは思いますが…その…強い人間になりたいと思いまして。まずは型から入ろうと。」
「ローラさま、つよくなりたい? ねーちゃみたいに?」
「はい! ネルカ様みたいになりたいんです!」
「フランもつよくなりたい! クマ、すででたおす!」
笑顔でシャドーボクシングを始めたフランに、ローラは「そういう意味では…」と苦笑いを浮かべる。そうしてあまりにも楽しい時間だったためか、ネルカ含めた一同は近くに人がいることに気が付かなかった。
「おぉっと!?」
フランが後ろを歩いていた給仕の男性にぶつかってしまい、その手に持っていたトレイを落とすことこそなかったがふらつく。ローラが慌てて近づくと、フランの手を取って給仕に謝りを入れる。
「あぁ! ごめんなさい! ほら、フランちゃん、謝って。」
「おじちゃん…ごめんなさい…。」
「いえいえ、ボクは問題ありませんよ。むしろご貴族様に謝りの言葉をいただけるなんて、光栄なほどですから。あぁ、お嬢様方、ついでと言ってはなんですけども、こちらの御料理はいかがでしょうか?」
にこやかに許しの言葉を入れる給仕が運んでいた料理は、それぞれが見たことないようなものばかりで、特にフランは目を輝かせてどれを食べようかと悩んでいた。それらの料理を解説している給仕の姿に、ネルカはどこか見たことがあるようで――
「ッ!」
それは今回の計画仲間であるセオザだった。
会議の時に見たときは無精ひげを生やしていたため、どうにもオッサン気なところがあったのだが、今彼女の目の前にいる男はそうは見えない風体だった。ネルカの反応に気付いたセオザは目配せをして、解説の言葉を喉から出しながら口の動きは彼女だけに伝わるようにする。
『へんじ なくていい しずかに』
(な、なんて器用な方なのかしら…。)
こういったことは彼の得意分野だとデインが言っていたが、なるほど確かに普通の給仕ではないとネルカは感心した。また、この腹話術を不覚にもカッコイイと感じてしまい、今度こっそり練習をしてみようと決心した。
『ぼっちゃん てがみ ひだりて』
その口の動きに彼女はセオザの左手を見ると、服の袖から少しだけ紙がはみ出ており、そこにはデインからの指示が書かれていた。そして、彼女の反応を見てその紙を再び服の中に隠す。
《どんな手段を取っても構わない。
ジェイレンという男から情報を聞き出せ。
もしかしたら狙いは私ではないかもしれない。》
― ― ― ― ― ―
一方その頃、デインの方では――
「そろそろ、ダンスの時間かな?」
「殿下はどなたか踊られる方が?」
今日はもしものことがあってはいけないと、ネルカに会いに来たローラ以外の婚約者候補は不在としている。そんなことは知る由もなく偶然の欠席と判断している周囲の者たちは、デインがどのように動くのか興味津々で聞き耳を立てていた。
「それがね、妹から頼られてしまったんだよ。」
「イアラ王女ですか…夜会に出られるのも珍しいですね。しかし、御姿はまだ見かけしていないのですが…まさか…?」
「あぁ、また『出番まで部屋にいます』だってさ。いい加減に人見知り癖も治すべきだとは思うんだけどね。」
本来はイザコザを起こさないためにデインがお願いした側ではあるのだが、妹の引きこもり気味なところを改善してほしいという気持ちもないわけではなく、ついでということで誘ったのだがこれでは意味がない。
「で? エルは踊る相手がいるのかい?」
「私は殿下をお守りする立場ですよ。」
「ふ~ん…じゃあ、あそこにいるネルカ嬢のことは良いんだね?」
その方を見るとジェイレン・ファーガソンと仲良さげに談笑するネルカの姿があった。デインからの指示についてはもちろんエルスターも知っているため、それがどうしたと言わんばかりの表情をしていたが、彼女がジェイレンの手を取って移動するのを見ると、ただでさえの細目さらに狭めて口をへの字にする。
「ククッ、エルもそういう表情をする相手ができて、主として嬉しいね。」
「……お戯れを。」
彼にしては珍しく主に対して不満気な態度を取ったのであった。
そして、ネルカとローラもメラメラの視線に狙われていたのだが――
「ローラさま、これ、おいしい!」
「クスクス、フランちゃん…ほっぺに付いちゃってますよ。」
「かりうどのねーちゃも!」
「えぇそうね、王家主催なだけあって本当美味しいわ。」
ローラ――その名前は現在の貴族では公爵家令嬢しかいない。
こうして爵位が足りない男性の大半が撃沈した。
ねーちゃ――その呼ばれ方は女性以外ありえないし、声質もその性の寄り。
こうしてイケメンを狙っていた女性の少しが撃沈した。
さらにフランという純粋無邪気な子供が近くにいることもあって、この二人に対してアプローチを仕掛けることに罪悪感を覚させられ、誰にも構わられることなく食事や監視を行うことができていた。
「それにしても驚いたわローラ様。変わられたのね。」
「は、はい! あの日から…まだ足りないとは思いますが…その…強い人間になりたいと思いまして。まずは型から入ろうと。」
「ローラさま、つよくなりたい? ねーちゃみたいに?」
「はい! ネルカ様みたいになりたいんです!」
「フランもつよくなりたい! クマ、すででたおす!」
笑顔でシャドーボクシングを始めたフランに、ローラは「そういう意味では…」と苦笑いを浮かべる。そうしてあまりにも楽しい時間だったためか、ネルカ含めた一同は近くに人がいることに気が付かなかった。
「おぉっと!?」
フランが後ろを歩いていた給仕の男性にぶつかってしまい、その手に持っていたトレイを落とすことこそなかったがふらつく。ローラが慌てて近づくと、フランの手を取って給仕に謝りを入れる。
「あぁ! ごめんなさい! ほら、フランちゃん、謝って。」
「おじちゃん…ごめんなさい…。」
「いえいえ、ボクは問題ありませんよ。むしろご貴族様に謝りの言葉をいただけるなんて、光栄なほどですから。あぁ、お嬢様方、ついでと言ってはなんですけども、こちらの御料理はいかがでしょうか?」
にこやかに許しの言葉を入れる給仕が運んでいた料理は、それぞれが見たことないようなものばかりで、特にフランは目を輝かせてどれを食べようかと悩んでいた。それらの料理を解説している給仕の姿に、ネルカはどこか見たことがあるようで――
「ッ!」
それは今回の計画仲間であるセオザだった。
会議の時に見たときは無精ひげを生やしていたため、どうにもオッサン気なところがあったのだが、今彼女の目の前にいる男はそうは見えない風体だった。ネルカの反応に気付いたセオザは目配せをして、解説の言葉を喉から出しながら口の動きは彼女だけに伝わるようにする。
『へんじ なくていい しずかに』
(な、なんて器用な方なのかしら…。)
こういったことは彼の得意分野だとデインが言っていたが、なるほど確かに普通の給仕ではないとネルカは感心した。また、この腹話術を不覚にもカッコイイと感じてしまい、今度こっそり練習をしてみようと決心した。
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その口の動きに彼女はセオザの左手を見ると、服の袖から少しだけ紙がはみ出ており、そこにはデインからの指示が書かれていた。そして、彼女の反応を見てその紙を再び服の中に隠す。
《どんな手段を取っても構わない。
ジェイレンという男から情報を聞き出せ。
もしかしたら狙いは私ではないかもしれない。》
― ― ― ― ― ―
一方その頃、デインの方では――
「そろそろ、ダンスの時間かな?」
「殿下はどなたか踊られる方が?」
今日はもしものことがあってはいけないと、ネルカに会いに来たローラ以外の婚約者候補は不在としている。そんなことは知る由もなく偶然の欠席と判断している周囲の者たちは、デインがどのように動くのか興味津々で聞き耳を立てていた。
「それがね、妹から頼られてしまったんだよ。」
「イアラ王女ですか…夜会に出られるのも珍しいですね。しかし、御姿はまだ見かけしていないのですが…まさか…?」
「あぁ、また『出番まで部屋にいます』だってさ。いい加減に人見知り癖も治すべきだとは思うんだけどね。」
本来はイザコザを起こさないためにデインがお願いした側ではあるのだが、妹の引きこもり気味なところを改善してほしいという気持ちもないわけではなく、ついでということで誘ったのだがこれでは意味がない。
「で? エルは踊る相手がいるのかい?」
「私は殿下をお守りする立場ですよ。」
「ふ~ん…じゃあ、あそこにいるネルカ嬢のことは良いんだね?」
その方を見るとジェイレン・ファーガソンと仲良さげに談笑するネルカの姿があった。デインからの指示についてはもちろんエルスターも知っているため、それがどうしたと言わんばかりの表情をしていたが、彼女がジェイレンの手を取って移動するのを見ると、ただでさえの細目さらに狭めて口をへの字にする。
「ククッ、エルもそういう表情をする相手ができて、主として嬉しいね。」
「……お戯れを。」
彼にしては珍しく主に対して不満気な態度を取ったのであった。
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