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第一部:3章:とある侯爵令嬢の苦悩
13話:作戦会議
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ローラを医務室へ運んだあと、午後の授業は休むこととなってしまった。
三人は彼女の付き添いで医務室に留まることになったのだが、その本人であるローラは安心からかグッスリ眠っている。
そして、もう帰るというような時間になったころ、ある荷物を持った来訪者が部屋に入ってきた。
「「マクラン様からの『御手紙』ですわ。」」
それは彼女がエルスターに頼んでいたとある情報だったが、持ってきたのはマルシャの取り巻き令嬢二人だった。
仲間への悪態をプリプリと垂れ流しているであろう麗蝶を思い浮かべながら、ネルカはその手紙を受け取った。
「あんな優しい目をしたマクラン様なんて初めて見ましたのよ!」
「やっぱり愛は偉大ですのね! きっとラブレターに違いないですの!」
――この二人は何か勘違いをしている。
いくら対象が嫌いなエルスターと言えども、見る側に回っての恋愛事になると盛り上がるのが人間というもの。そして、ネルカに手紙を渡すと「きゃ~すてき~」「がんばってくださいね~」とそそくさと去って行ってしまった。
「ハァ…もう…どうでもいいわ。」
彼女は諦め半分で手紙を開けるが、どうやら知りたかった情報とは関係ない紙が入っているようだった。なんだろうと思いその中身を読んでみたのだが、その内容に彼女はギョッとしてしまう。
【この問題は『エルが関わると荒れる』と殿下から止められていたので助かります。
しかし、パートナーなどと言っていますが、やはり殿下の派閥に入りたいのでは?
そうじゃないのなら何でしょうか?
あっ、私の事が好きなのですか?
どっちが理由なのか気になって昼寝もできないです。夜は寝ます。
まぁでも、どちらが真相にせよ貴女がイジラしい性格であることに変わ――】
「キィィ! 誰があんなやつ好きになるか!」
ビリビリに破いて地面に叩きつけ、その上をダンダンッと踏みつける。
そして、医務室担当教諭に怒られて掃除をすることとなってしまった。
― ― ― ― ― ―
三日後に一同は会議を行うことにした。
集まったメンツはネルカ、エレナ、マリアンネ、そして復帰したローラ。
場所はサロン――は利用されていたので、夜にエレナの寮部屋に集合。
「それでは『殿下とっとと婚約しろ作戦』の会議を始めるわ。いいわね?」
会議の内容は名前の通りにデイン王子の婚約問題に関する事である。
というのも被害者がローラだけなら彼女だけを守ればいいのだが、エルスターの情報によるとそれは氷山の一角のようだった。直接的なイジメこそローラしか被ってはいないが、間接的なものや牽制のし合いのバチバチ空間、さらには学園外のことを含めると紙一枚では収まりきらない情報量だった。
ならば一ヵ所に固めてしまおう――ネルカはそう判断した。
「で、具体的には何をするんですか?」
「エルスター様から殿下についての情報を貰ったわ。これを読んで合いそうな人を選んでほしいのよ。大丈夫、全部の責任は私が取るから。」
情報は紙面10枚の裏表にビッシリと書かれており、そこにいる一同全員が読むことを諦めていた。ちなみに立案者であるネルカも途中で読むのをやめており、6枚目ぐらいから先の情報は知らなかったりする。
「合うって言ってもねぇ…立場的にも絞られるでしょ。」
「そ、そう言えばアイナ様は? アタシはてっきり今回のイジメも彼女が主導とばかり…。」
「う~ん、ボクが見る限りそういう人には見えないけどねぇ。」
「え、えぇ、私も…『いつまで勘違いされているの! 下位貴族程度ハッキリ言いなさい!』…と怒られたことがありますし、アイナ先輩じゃないと思います…。」
マリアンネの中ではアイナは殿下ルートの壁であり、どうしても悪役というイメージが定着してしまっている。逆に偏見がない者からすると彼女は無害であるイメージがあったりする。
またエルスター情報に書かれていることも《真正面から受けて立つ性格》とあり、裏工作するようなタイプではないことが知れる。そして、彼女を後押ししようものなら『バカにしないでくださる! 私は自分の力でやりたいのですわ!』と怒られること間違いなしだろう。
「じゃあ、マルシャ様は?」
「う~ん、何を考えているのか分からない人よね。エルスターの情報には『殿下とはビジネスライクの関係』としか書かれていなかったし、候補には入らないんじゃないかしら。」
「ねぇ、そもそも…最大の関門って相手がいない事じゃなくて――」
エレナの言葉に一同が思い浮かべたのはエルスター。
いくら本人から止められていると言えど、その抑えが効くのもあいまいな状態である内だろう。もしも、本格的に婚約者が決まりそうというような雰囲気になれば、デイン王子大好き人間な彼が行動しないわけがない。
「師匠が相手なら納得するのでは?」
「マリ、私が一番に避けていた案を提示するのはやめなさい。」
厄介事を避けたいだけで別に王子のことは嫌いではない彼女は、養父や本人から打診があったなら受けていただろう。しかし、そうでないのなら王妃など荷が重いので、できる限り避けておきたい事態である。
そうなるとデイン殿下の婚約者問題は――八方塞がりということである。
「ねぇ、ボク思うんだけどローラ様だけを見るなら、別に殿下をどうこうする必要はないよね。それこそ、ローラ様の婚約者を作っちゃえばいいんだから。」
「ふ、ふえぇ…私ですかぁ。」
「まぁ、そうね…殿下を狙ってないって見せつければいいわけだし。理想は問題解決だけど…それは私とエルスター様で何とかするわ。予定変更よ、ローラ様だけなんとかしましょう!」
「えぇ…で、でもぉ…私なんかと婚約なんて誰が…。」
「しょうがない公爵令嬢ね、そんなのだから周囲から舐められるのよ。
①殿下に婚約者をあてる。
②ローラ様に婚約者をあてる。
③ローラ様に危害を加える者を殺害する。
④エルスター様を殺害する。
⑤殿下を殺害する。
……ほら、選びなさい。執行者的には③が一番簡単よ。」
「究極の選択肢だね。不敬罪の域だよ。」
「なんというか…師匠らしいです。」
「じゃあ②でぇ…。」
ネルカならやりかねないということはローラも感じているらしく、それならば自分が変わるしかないという結論になった。ということで会議の方針は決まったのだ、全員の視線はそのローラに集まっていた。その視線は『早く好み言えよ』と言った感じである。
「私はその…恥ずかしいです…言えないです。」
「じゃあ、殿下を殺すわ。」
「ヒ、ヒィィィ! 言います!」
「死神ってよりは鬼ですよ師匠。」
彼女はローラのようなタイプの人間を見ると、喜んで追い詰めてしまいたくなる時がある。今の自分はそれが出ているのだと反省した彼女は、目じりを揉んで柔らかい表情へと戻す。しかし、その動作が逆にローラから見たら怖いのか、観念したかのように口を開く。
「そのネルカ様が…好みです。この前、助けてくれた時、カッコ良かったです。」
ピシッとその場にいる他の者たちが固まり、眼だけを動かしてお互いを見合う。
さしものネルカも嬉し恥ずかしの気持ちなのか、頬を染めて口を開きかけては閉じるを繰り返している。どう話を切り出そうかと思っていた矢先、エレナが何かを思いついたかのように大きな声を出す。
「あっ!」
「急に大声出さないでエレナ。びっくりしたじゃない。」
「いるんだよ!」
「何が?」
「ボクたちに協力的で、フリーな状態で、貴族だけど調査されてもバレにくくて、殿下に負けず劣らずのイケメンで、問題が起きても自己解決できる強さを持ってて、一連の事件が起きた後に婚約解消できる立ち位置で、ローラ様の好みであるネルカちゃんみたいな人がいるんだよ!」
「なんと! そんな好物件がいるんですか!?」
「いるんだよぉ、それがぁ。完璧な相手がぁ。」
そう言うエレナはまるで面白いことを思い付いたと言わんばかりに、ニヤニヤとした笑みを浮かべている。そして、なぜかマリアンネだけを引いて連れて行き、部屋から退出していったのであった。
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そして、もう帰るというような時間になったころ、ある荷物を持った来訪者が部屋に入ってきた。
「「マクラン様からの『御手紙』ですわ。」」
それは彼女がエルスターに頼んでいたとある情報だったが、持ってきたのはマルシャの取り巻き令嬢二人だった。
仲間への悪態をプリプリと垂れ流しているであろう麗蝶を思い浮かべながら、ネルカはその手紙を受け取った。
「あんな優しい目をしたマクラン様なんて初めて見ましたのよ!」
「やっぱり愛は偉大ですのね! きっとラブレターに違いないですの!」
――この二人は何か勘違いをしている。
いくら対象が嫌いなエルスターと言えども、見る側に回っての恋愛事になると盛り上がるのが人間というもの。そして、ネルカに手紙を渡すと「きゃ~すてき~」「がんばってくださいね~」とそそくさと去って行ってしまった。
「ハァ…もう…どうでもいいわ。」
彼女は諦め半分で手紙を開けるが、どうやら知りたかった情報とは関係ない紙が入っているようだった。なんだろうと思いその中身を読んでみたのだが、その内容に彼女はギョッとしてしまう。
【この問題は『エルが関わると荒れる』と殿下から止められていたので助かります。
しかし、パートナーなどと言っていますが、やはり殿下の派閥に入りたいのでは?
そうじゃないのなら何でしょうか?
あっ、私の事が好きなのですか?
どっちが理由なのか気になって昼寝もできないです。夜は寝ます。
まぁでも、どちらが真相にせよ貴女がイジラしい性格であることに変わ――】
「キィィ! 誰があんなやつ好きになるか!」
ビリビリに破いて地面に叩きつけ、その上をダンダンッと踏みつける。
そして、医務室担当教諭に怒られて掃除をすることとなってしまった。
― ― ― ― ― ―
三日後に一同は会議を行うことにした。
集まったメンツはネルカ、エレナ、マリアンネ、そして復帰したローラ。
場所はサロン――は利用されていたので、夜にエレナの寮部屋に集合。
「それでは『殿下とっとと婚約しろ作戦』の会議を始めるわ。いいわね?」
会議の内容は名前の通りにデイン王子の婚約問題に関する事である。
というのも被害者がローラだけなら彼女だけを守ればいいのだが、エルスターの情報によるとそれは氷山の一角のようだった。直接的なイジメこそローラしか被ってはいないが、間接的なものや牽制のし合いのバチバチ空間、さらには学園外のことを含めると紙一枚では収まりきらない情報量だった。
ならば一ヵ所に固めてしまおう――ネルカはそう判断した。
「で、具体的には何をするんですか?」
「エルスター様から殿下についての情報を貰ったわ。これを読んで合いそうな人を選んでほしいのよ。大丈夫、全部の責任は私が取るから。」
情報は紙面10枚の裏表にビッシリと書かれており、そこにいる一同全員が読むことを諦めていた。ちなみに立案者であるネルカも途中で読むのをやめており、6枚目ぐらいから先の情報は知らなかったりする。
「合うって言ってもねぇ…立場的にも絞られるでしょ。」
「そ、そう言えばアイナ様は? アタシはてっきり今回のイジメも彼女が主導とばかり…。」
「う~ん、ボクが見る限りそういう人には見えないけどねぇ。」
「え、えぇ、私も…『いつまで勘違いされているの! 下位貴族程度ハッキリ言いなさい!』…と怒られたことがありますし、アイナ先輩じゃないと思います…。」
マリアンネの中ではアイナは殿下ルートの壁であり、どうしても悪役というイメージが定着してしまっている。逆に偏見がない者からすると彼女は無害であるイメージがあったりする。
またエルスター情報に書かれていることも《真正面から受けて立つ性格》とあり、裏工作するようなタイプではないことが知れる。そして、彼女を後押ししようものなら『バカにしないでくださる! 私は自分の力でやりたいのですわ!』と怒られること間違いなしだろう。
「じゃあ、マルシャ様は?」
「う~ん、何を考えているのか分からない人よね。エルスターの情報には『殿下とはビジネスライクの関係』としか書かれていなかったし、候補には入らないんじゃないかしら。」
「ねぇ、そもそも…最大の関門って相手がいない事じゃなくて――」
エレナの言葉に一同が思い浮かべたのはエルスター。
いくら本人から止められていると言えど、その抑えが効くのもあいまいな状態である内だろう。もしも、本格的に婚約者が決まりそうというような雰囲気になれば、デイン王子大好き人間な彼が行動しないわけがない。
「師匠が相手なら納得するのでは?」
「マリ、私が一番に避けていた案を提示するのはやめなさい。」
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そうなるとデイン殿下の婚約者問題は――八方塞がりということである。
「ねぇ、ボク思うんだけどローラ様だけを見るなら、別に殿下をどうこうする必要はないよね。それこそ、ローラ様の婚約者を作っちゃえばいいんだから。」
「ふ、ふえぇ…私ですかぁ。」
「まぁ、そうね…殿下を狙ってないって見せつければいいわけだし。理想は問題解決だけど…それは私とエルスター様で何とかするわ。予定変更よ、ローラ様だけなんとかしましょう!」
「えぇ…で、でもぉ…私なんかと婚約なんて誰が…。」
「しょうがない公爵令嬢ね、そんなのだから周囲から舐められるのよ。
①殿下に婚約者をあてる。
②ローラ様に婚約者をあてる。
③ローラ様に危害を加える者を殺害する。
④エルスター様を殺害する。
⑤殿下を殺害する。
……ほら、選びなさい。執行者的には③が一番簡単よ。」
「究極の選択肢だね。不敬罪の域だよ。」
「なんというか…師匠らしいです。」
「じゃあ②でぇ…。」
ネルカならやりかねないということはローラも感じているらしく、それならば自分が変わるしかないという結論になった。ということで会議の方針は決まったのだ、全員の視線はそのローラに集まっていた。その視線は『早く好み言えよ』と言った感じである。
「私はその…恥ずかしいです…言えないです。」
「じゃあ、殿下を殺すわ。」
「ヒ、ヒィィィ! 言います!」
「死神ってよりは鬼ですよ師匠。」
彼女はローラのようなタイプの人間を見ると、喜んで追い詰めてしまいたくなる時がある。今の自分はそれが出ているのだと反省した彼女は、目じりを揉んで柔らかい表情へと戻す。しかし、その動作が逆にローラから見たら怖いのか、観念したかのように口を開く。
「そのネルカ様が…好みです。この前、助けてくれた時、カッコ良かったです。」
ピシッとその場にいる他の者たちが固まり、眼だけを動かしてお互いを見合う。
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「あっ!」
「急に大声出さないでエレナ。びっくりしたじゃない。」
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「何が?」
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「なんと! そんな好物件がいるんですか!?」
「いるんだよぉ、それがぁ。完璧な相手がぁ。」
そう言うエレナはまるで面白いことを思い付いたと言わんばかりに、ニヤニヤとした笑みを浮かべている。そして、なぜかマリアンネだけを引いて連れて行き、部屋から退出していったのであった。
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