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第5話 パッション
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竜也と美鶴との熱の入ったダンスと、その後のやりとりを、じっと見ている人物がいた。それは、このダンス教室での実力が一番か二番かを争う慎二だった。彼は、新人の彩香のレッスンを数日前にしていた男である。
自分が彩香を始めて教えた時には、決して彼女には優しくはしなかった。しかし、今、美鶴が踊り終えた相手の竜也に対して、慎二は彩香にはあれほど高飛車で横柄な態度はとらなかったつもりだった。そんな美鶴に対して、慎二は少し腹が立っていた。
(美鶴って、少し自惚れていないか?)
少しばかり、上手いからと言ってそんな美鶴をみるのは、慎二にとっては我慢が出来なかった。それは、美鶴が奇しくも自分と同じような性格だからである。誰よりも、気位やプライドが高い人間というものは、それに近づき台頭してくる人間を快くは思っていない。
それは自分を見ているような気持ちになるからである。ダンサーにとって、ダンスというのは、美を競い、誰よりも 己おのれを美しいと言われたい競技でもある。
その為に厳しいレッスンを自らに課しながら、日々を努力している。そういう観点から、男と女との違いはあるが、慎二は美鶴にある種のライバル意識を持っていた。美鶴が新人の竜也とのダンシングを終わり、汗を拭こうと自分の居場所へ戻ってきた時である。慎二が美鶴に声をかけた。
「美鶴さん、良かったら今度は僕の相手をしてくれないかな?」
「えっ?」
一瞬、美鶴は自分に声をかけたのが誰だか分からずに、周りを見渡した。そこには、自分に声をかける人など見当たらない。
(この人じゃ無いわよね? ) そう言いながら、そこに立っていた慎二を見た。
「僕だよ、美鶴さん」
「えっ……」
「僕じゃ、不足かな?」
慎二はにやけた顔をしていたが、目は笑っていない。むしろ、どこか自分を見下している気がするのだ。
(何であたしと?)
そんな美鶴の心を見透かしたような慎二の目が気になる。
「いえ、そんなことないわ」
気位が高い美鶴は決めた。
(それほど言うのなら、やってやろうじゃないの!)
「では……」
この二人のやり取りをみていた人達は、にわかに注目をしていた。何故なら、この二人ともダンスのレベルは相当に高いが、それ以上にプライドが高い。
ダンス仲間達は、その二人が組んで踊ると、どのような展開になるのか興味深く見守っていた。竜也と踊って掻いた汗を拭き、美鶴はフロアの中央にゆっくりと歩いていった。その歩き方は、チラリと見た相手の慎二をを見下すように……。
そこには手ぐすねを引いて慎二が待っている。
「お待たせしました、何を踊りましょうか?」
「そうだね、タンゴからいきますか?」
「あ、はい、分かりました」
美鶴はタンゴが好きだった。タンゴが持つ情熱的なものが自分に合っていると思うからである。それを上手く踊るのには相手による。いつもは、およそ気心がしれた相手と踊っていたが、今は違う。今までに美鶴はずっと前に、慎二と踊ったことがある。その時は、二人とも今ほどのレベルには達していなかった。慎二もその時には初心者らしく、初々しくダンシングは素直だった。
基本に忠実であり、踊り易かったと言う記憶がある。しかし、今の彼はその当時とまったく、そのダンスが変化している。言うなれば、洗練された身のこなしと技術の高さをマスターし、それ以上に、音楽が持つ感性を身につけ、彼独特の振り付けの要素が加わっている。
それは、妙に見る人を意識した仕草であり、言葉を変えればオーバーアクションとも言える。美鶴はその要素を自分でも持っている為に、他人の動きが余計に気になるのだ。
その機会を待っていたように、タンゴの音楽がかかり、イントロが始まった。慎二は左手を目の高さに掲げ、タンゴのポーズを取って美鶴が来るのを待っていた。
周りの人達は、そんな二人を見守るように、自分達のダンスをやめて注目をしている。この教室では、誰もがこの異質な二人がどう踊るのか興味の眼差しで見つめていた。その中には新人の彩香と、さきほど美鶴と踊り終えた竜也が固唾を飲んで見守っている。
そして、グループレッスン担当の友梨もそれに気がつき、このカップルを見つめた。彼女は慎二とは別のダンス・スタジオでカッブルを組んでいる。そこでは、人知れずに、慎二と友梨でマンツーマンによる厳しいハイルベルのレッスンを受けていたのだ。友梨としては、ゆくゆく先は、カップルとして更なる上位を目指すつもりでいる。しかし、その思いも最近では慎二の気持ちが掴めずに落ち着かない友梨だった。
この教室では、好きなダンスを楽しもうと、二人は周りを意識しないで別々の行動をしている。これが新鮮だと二人で出した結論だったが、正直に言うと女性会員にもてる慎二に友梨は少なからず嫉妬することもある。
今、自分の前で慎二が美鶴に対して、自分とは違うどんなダンスをするのか、ドキドキしながら見つめていた。
自分が彩香を始めて教えた時には、決して彼女には優しくはしなかった。しかし、今、美鶴が踊り終えた相手の竜也に対して、慎二は彩香にはあれほど高飛車で横柄な態度はとらなかったつもりだった。そんな美鶴に対して、慎二は少し腹が立っていた。
(美鶴って、少し自惚れていないか?)
少しばかり、上手いからと言ってそんな美鶴をみるのは、慎二にとっては我慢が出来なかった。それは、美鶴が奇しくも自分と同じような性格だからである。誰よりも、気位やプライドが高い人間というものは、それに近づき台頭してくる人間を快くは思っていない。
それは自分を見ているような気持ちになるからである。ダンサーにとって、ダンスというのは、美を競い、誰よりも 己おのれを美しいと言われたい競技でもある。
その為に厳しいレッスンを自らに課しながら、日々を努力している。そういう観点から、男と女との違いはあるが、慎二は美鶴にある種のライバル意識を持っていた。美鶴が新人の竜也とのダンシングを終わり、汗を拭こうと自分の居場所へ戻ってきた時である。慎二が美鶴に声をかけた。
「美鶴さん、良かったら今度は僕の相手をしてくれないかな?」
「えっ?」
一瞬、美鶴は自分に声をかけたのが誰だか分からずに、周りを見渡した。そこには、自分に声をかける人など見当たらない。
(この人じゃ無いわよね? ) そう言いながら、そこに立っていた慎二を見た。
「僕だよ、美鶴さん」
「えっ……」
「僕じゃ、不足かな?」
慎二はにやけた顔をしていたが、目は笑っていない。むしろ、どこか自分を見下している気がするのだ。
(何であたしと?)
そんな美鶴の心を見透かしたような慎二の目が気になる。
「いえ、そんなことないわ」
気位が高い美鶴は決めた。
(それほど言うのなら、やってやろうじゃないの!)
「では……」
この二人のやり取りをみていた人達は、にわかに注目をしていた。何故なら、この二人ともダンスのレベルは相当に高いが、それ以上にプライドが高い。
ダンス仲間達は、その二人が組んで踊ると、どのような展開になるのか興味深く見守っていた。竜也と踊って掻いた汗を拭き、美鶴はフロアの中央にゆっくりと歩いていった。その歩き方は、チラリと見た相手の慎二をを見下すように……。
そこには手ぐすねを引いて慎二が待っている。
「お待たせしました、何を踊りましょうか?」
「そうだね、タンゴからいきますか?」
「あ、はい、分かりました」
美鶴はタンゴが好きだった。タンゴが持つ情熱的なものが自分に合っていると思うからである。それを上手く踊るのには相手による。いつもは、およそ気心がしれた相手と踊っていたが、今は違う。今までに美鶴はずっと前に、慎二と踊ったことがある。その時は、二人とも今ほどのレベルには達していなかった。慎二もその時には初心者らしく、初々しくダンシングは素直だった。
基本に忠実であり、踊り易かったと言う記憶がある。しかし、今の彼はその当時とまったく、そのダンスが変化している。言うなれば、洗練された身のこなしと技術の高さをマスターし、それ以上に、音楽が持つ感性を身につけ、彼独特の振り付けの要素が加わっている。
それは、妙に見る人を意識した仕草であり、言葉を変えればオーバーアクションとも言える。美鶴はその要素を自分でも持っている為に、他人の動きが余計に気になるのだ。
その機会を待っていたように、タンゴの音楽がかかり、イントロが始まった。慎二は左手を目の高さに掲げ、タンゴのポーズを取って美鶴が来るのを待っていた。
周りの人達は、そんな二人を見守るように、自分達のダンスをやめて注目をしている。この教室では、誰もがこの異質な二人がどう踊るのか興味の眼差しで見つめていた。その中には新人の彩香と、さきほど美鶴と踊り終えた竜也が固唾を飲んで見守っている。
そして、グループレッスン担当の友梨もそれに気がつき、このカップルを見つめた。彼女は慎二とは別のダンス・スタジオでカッブルを組んでいる。そこでは、人知れずに、慎二と友梨でマンツーマンによる厳しいハイルベルのレッスンを受けていたのだ。友梨としては、ゆくゆく先は、カップルとして更なる上位を目指すつもりでいる。しかし、その思いも最近では慎二の気持ちが掴めずに落ち着かない友梨だった。
この教室では、好きなダンスを楽しもうと、二人は周りを意識しないで別々の行動をしている。これが新鮮だと二人で出した結論だったが、正直に言うと女性会員にもてる慎二に友梨は少なからず嫉妬することもある。
今、自分の前で慎二が美鶴に対して、自分とは違うどんなダンスをするのか、ドキドキしながら見つめていた。
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