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垣間見る地獄
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「もう、もうやめます。やめますから記憶を掘り起こさないでください! もう忘れた、なかったことにした記憶ですから。どうか、どうか……」
「うん、だからね、なかったことにはならないんだよ? 君はどこにいても、どれだけ偉くなっても、この姿で、この声で、部屋の中で一人引きこもっていたという事実は決して覆らないんだ。だからさ、受け入れようよ。いいじゃないか、今の君はこのお城で聖騎士? 様としてかわいい女の子たちとよろしくやってるんだろう?」
賢司はそう言って、膝をつきうなだれる豪華な鎧姿の男の眼前に映像を映し出す。そこには、暗い寝室のベッドの上でうずくまる少年の姿があった。
手に持ったスマホの青い光が肉付きが良い体には不釣り合いな小さめの寝間着を照らし出す。甲高い声が部屋中に木霊し、追いかけるように種類の違う甲高い笑い声が小さく聞こえる。それがスマホからの声と少年の声であることは明らかだった。
青い光は少年の薄ら笑いを照らし、不気味な影を作り出す。なんとも目に毒な光景だった。その光景を鎧姿の男は顔を背けながら横目で眺める。まるで、見たくもないものを見せられているように。
「どうしてこんなことを……?」
「どうしてって、仕事だから。僕も好きでこんなことやらないよ」
そう言う賢司だったが、満面の笑みを浮かべていた。
「明日からまたあの子たちと世界の警備に向かいます。それで許してもらえませんか?」
「明日からじゃだめだね。今すぐお願いできるかな? ほら、言われてすぐ行動しない人ってさ、結局何もかも後回しにしちゃうんだよね。口だけの人ですねって君言われたことあるでしょ? 僕そういうのわかっちゃうんだよね」
「……そんなことないですけど」
あまりの言われように男は賢司の言葉を否定する。
「うん、それはきっと君の耳の届く所ではってことだと思うな。きっと、いや断言してもいいよ。君が席を立った後、女の子たちはどうせ行動には起こさないんだから、って言ってたよ。だって僕なら言うもん」
「いや、そんなこと」
「信じたくない気持ちはわかるけど、現実逃避は良くないよ。少なくとも街の人はそう思ってるよ。僕聞いてきたんだ。聖騎士様ってどんな人ですか? 直して欲しいところってあったりしますか? って。最初はそんなところありませんって気を使ってたけどね。最後にはぽろっと愚痴をこぼしてくれたよ。『貧困問題もどうにかしますって言ってたのに、何も変わってないんだよね。奴隷解放とか娼館の解体とかはすごいけど若い女の子に関わることばっかりで、下心が見えすいてるんだよね』だってさ。見抜かれちゃってるね」
「そんなこと……ないです」
「その割には歯切れが悪かったね。まあ、同じ男だから僕も気持ちはわかる。でも、最初に大見栄切ったなら私情を挟むにしてもばれないようにしないとね。男が上に立つときは性欲はばれないように発散しなきゃ」
「そんなことないって言ってんだろ! そのババアが適当言ってるだけだろうが。俺はこの街の為に動いただけだ。それがたまたまそういう女の子たち絡みが多かっただけの話だ。決めつけで語ってんじゃねーよ!」
男は立ち上がると賢司とお互いの顔が振れそうな距離まで兜に包まれた顔を近づける。怒りに震えた兜がカチャカチャと金属音を鳴らす。
「お? 化けの皮はがれちゃったね。僕はそっちの方が好きだよ。まあでも、敬語のままの方がいいと思うよ。年上の人間には敬語さえ使っておけば最低限温情が貰えるけど、逆に言えば敬語も使えないと助けてくれないからね」
「ここはあんたのいた世界とは違えんだよ。ここでは力があるやつが上なんだよ。今までの敬語だってただのキャラ作りってだけだ。あんたを敬ってたわけじゃねえよ。俺が本気出したら、あんたなんか消し炭だ。自分の立場分かるか? 勘違いすんなよ雑魚が」
「うん、粋がるのも良いけどね。自分の立場は分かってるつもりだよ――――君よりもね」
「そうかよ。じゃあ、あんたが分かってるつもりの立場を正してやるよ」
男はおもむろに後退すると背負った大剣を抜き放ち、切っ先を賢司の喉元へ突きつける。
「…‥これどうするつもり?」
「このまま突き刺すだけだが? 安心しろよ。アリシアは超級治癒魔法が使える。切られてすぐなら全身バラバラになっても元通りだ。ちょっと痛い臨死体験だと思ってくれよ」
「困るなあ。痛いのは嫌いなんだよね」
「なら、さっきの言葉を撤回して謝罪してくれよ。一応聖騎士様だからさ、靴舐めろなんて言わねえから、ただの土下座でいいよ。ほら早くしろ!」
「はぁ。仕方ないな。――――所詮は脱落者だね」
「っ!? もういい。一旦死んどけ」
一瞬のうちに引き寄せた大剣を男は賢司の喉元目掛けて突き出す。神速と称されるそのひと振りは容赦なく賢司の命を刈り取る――――には至らなかった。
「うん、だからね、なかったことにはならないんだよ? 君はどこにいても、どれだけ偉くなっても、この姿で、この声で、部屋の中で一人引きこもっていたという事実は決して覆らないんだ。だからさ、受け入れようよ。いいじゃないか、今の君はこのお城で聖騎士? 様としてかわいい女の子たちとよろしくやってるんだろう?」
賢司はそう言って、膝をつきうなだれる豪華な鎧姿の男の眼前に映像を映し出す。そこには、暗い寝室のベッドの上でうずくまる少年の姿があった。
手に持ったスマホの青い光が肉付きが良い体には不釣り合いな小さめの寝間着を照らし出す。甲高い声が部屋中に木霊し、追いかけるように種類の違う甲高い笑い声が小さく聞こえる。それがスマホからの声と少年の声であることは明らかだった。
青い光は少年の薄ら笑いを照らし、不気味な影を作り出す。なんとも目に毒な光景だった。その光景を鎧姿の男は顔を背けながら横目で眺める。まるで、見たくもないものを見せられているように。
「どうしてこんなことを……?」
「どうしてって、仕事だから。僕も好きでこんなことやらないよ」
そう言う賢司だったが、満面の笑みを浮かべていた。
「明日からまたあの子たちと世界の警備に向かいます。それで許してもらえませんか?」
「明日からじゃだめだね。今すぐお願いできるかな? ほら、言われてすぐ行動しない人ってさ、結局何もかも後回しにしちゃうんだよね。口だけの人ですねって君言われたことあるでしょ? 僕そういうのわかっちゃうんだよね」
「……そんなことないですけど」
あまりの言われように男は賢司の言葉を否定する。
「うん、それはきっと君の耳の届く所ではってことだと思うな。きっと、いや断言してもいいよ。君が席を立った後、女の子たちはどうせ行動には起こさないんだから、って言ってたよ。だって僕なら言うもん」
「いや、そんなこと」
「信じたくない気持ちはわかるけど、現実逃避は良くないよ。少なくとも街の人はそう思ってるよ。僕聞いてきたんだ。聖騎士様ってどんな人ですか? 直して欲しいところってあったりしますか? って。最初はそんなところありませんって気を使ってたけどね。最後にはぽろっと愚痴をこぼしてくれたよ。『貧困問題もどうにかしますって言ってたのに、何も変わってないんだよね。奴隷解放とか娼館の解体とかはすごいけど若い女の子に関わることばっかりで、下心が見えすいてるんだよね』だってさ。見抜かれちゃってるね」
「そんなこと……ないです」
「その割には歯切れが悪かったね。まあ、同じ男だから僕も気持ちはわかる。でも、最初に大見栄切ったなら私情を挟むにしてもばれないようにしないとね。男が上に立つときは性欲はばれないように発散しなきゃ」
「そんなことないって言ってんだろ! そのババアが適当言ってるだけだろうが。俺はこの街の為に動いただけだ。それがたまたまそういう女の子たち絡みが多かっただけの話だ。決めつけで語ってんじゃねーよ!」
男は立ち上がると賢司とお互いの顔が振れそうな距離まで兜に包まれた顔を近づける。怒りに震えた兜がカチャカチャと金属音を鳴らす。
「お? 化けの皮はがれちゃったね。僕はそっちの方が好きだよ。まあでも、敬語のままの方がいいと思うよ。年上の人間には敬語さえ使っておけば最低限温情が貰えるけど、逆に言えば敬語も使えないと助けてくれないからね」
「ここはあんたのいた世界とは違えんだよ。ここでは力があるやつが上なんだよ。今までの敬語だってただのキャラ作りってだけだ。あんたを敬ってたわけじゃねえよ。俺が本気出したら、あんたなんか消し炭だ。自分の立場分かるか? 勘違いすんなよ雑魚が」
「うん、粋がるのも良いけどね。自分の立場は分かってるつもりだよ――――君よりもね」
「そうかよ。じゃあ、あんたが分かってるつもりの立場を正してやるよ」
男はおもむろに後退すると背負った大剣を抜き放ち、切っ先を賢司の喉元へ突きつける。
「…‥これどうするつもり?」
「このまま突き刺すだけだが? 安心しろよ。アリシアは超級治癒魔法が使える。切られてすぐなら全身バラバラになっても元通りだ。ちょっと痛い臨死体験だと思ってくれよ」
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