魔王の子育て日記

教祖

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波乱

誰がために鐘は鳴る その10

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 総雲は肩を上下させ立ち上る黒煙に鼻腔を焦がす。その嗅ぎ馴れた・・・・・臭いにあの日の地獄を重ね見る。
 その場所は平原であった。しかし目の前には隆起した地面。見ればそれは亡骸が堆積し山となっていた。刹那、山を灼熱の炎が包み地面の煤となれ果てた。
 煤の後ろに佇む影。背負う夕暮れが霞むほどに紅の燃え盛る炎の髪。しかし、その瞳には冷たい光が宿っている。その姿を本能に焼き付けろと言わんばかりに鼻腔を差す生物を焼く臭い。
 総雲は意識を目の前に戻した。
 周囲には黒煙が立ち込めている。形の無い残骸が煙り、有機物としての遺言を残す。
 それが生物でなかったことに総雲は安堵する。もっとも、この空間にいる生物など総雲以外には目の前の異形だけ。
 大地を焦がし、地に立つ者を灰燼に帰す――――火鬼かき
 北方方面軍で謳われた忌まわしきその名を総雲は思い出す。炎髪を有し無尽蔵の炎を放つ、形を持った災い。
 先の大戦では骨はおろか、世界で最高の耐熱性を誇る金属で作られた認識票でさえも、この異形の前で姿を留めることはなかった。
 彼の墓は無い。玄武の中心地、安理あんりに建てられた慰霊碑。そこに刻まれた彼の名だけが残された唯一の軌跡なのだ。
 目の前の異形は総雲がこの地に赴いた唯一の理由だ。此奴の首を碑の前に供えることができて初めて彼に報いることができる。
 異形はこちらを見据え次を待っている。仕掛けてこないのは、こちらをそれに足る存在と思っていないのか。
 圧倒的な力の差。今までの僅かな剣戟の最中であっても、確かな事実としてそれは突きつけられた。
 それでも、立ち止まることはできない。這いつくばり地を掻くことさえできなくなるまで剣を振るうことが己に許された唯一の贖罪なのだから。
 総雲は問う。
 「貴様は、貴様らはなぜ人間を殺す?人間が魔族に仕掛けたことなどないはずだろう」
 「貴方は羽虫はお好きですか?」
 唐突な問い。しかし総雲には続く言葉が分かる気がした。
 「……何が言いたい」
 「私は嫌いです。集ってくるならもちろんのこと、視界に入ったのなら叩き潰したくなる。そこに恨みも怒りもない。ただ煩わしいのです。羽虫にんげん
 「――――そうか。よくわかった」
 総雲の声は無機質なものに変わっていた。
 「それは何よりです。まだ集ってくるのですか?」
 「――――ね」
 総雲はその巨躯は奔らせた。
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