魔王の子育て日記

教祖

文字の大きさ
上 下
105 / 132
波乱

来訪者への極意~魔王監修~

しおりを挟む
 刻盤が白の十二を差し、裏返ったまさにその時、
 「魔王様! 奴らが参ります!」
 二度のノックの後、返事を待たず爺が執務室へ飛び込んできた。もはや日常風景と化しており、中の二人が驚くことはない。
 「早いな。場所の目星はついてんのか?」
 「それが……魔王様の開いた門を再現し、城の医務室に直接やってくると思われます」
 「「!?」」
 爺の発言には二人も驚きを隠せなかった。
 「門の再現って、魔法は完全に解いただろ。どうやったんだ」
 「どんな手を使ったのかは分かりかねます。の観測した限りは、門を出現させこちらへの進行のため備えている、と」
 「――――っ。ひとまず爺は城の全員に情報共有を。私は赤ちゃんを安全な場所へ移しますので」
 最初は驚いていたパインだったが、一度深呼吸をするといつも以上に冷静に指示を飛ばした。
 「分かりました!」 
 「じゃあ俺は一足先に医務室で奴らを待ち伏せて――――」
 「魔王様はこの部屋から出たら、しばらく二足歩行ができなりますのでそのつもりで」
 「俺どうなっちゃうの!?」
 混乱に乗じて再び訪れた人間との接触の好機に動き出そうとした魔王であったが、それを見過ごすようなパインではなかった。
 再度部屋から出ないように釘を差すと、爺と共に執務室を飛び出した。
 二人で階段を下り二階へ。爺は一階から館内を巡るべく階段を下へ、パインはそのまま医務室へ向かう。
 医務室の扉を開けると薬品棚の対面、五台並んだベッドの左端のカーテンだけが閉まっていた。
 音を立てぬように近づいてカーテンを開ければ、こんな状況など知る由もない赤子は無垢な寝顔をしていた。
 「もっと静かなところに行こうね」
 起こさぬように細心の注意を払いつつ赤子を抱き上げ、パインは医務室を出た。
 すると廊下の奥からこちらに駆けてくるヴィエルの姿が見えた。爺から現状を聞いて一番に駆け付けたのであろう。
 パインに抱きかかえられた赤子の姿を確認すると、速度を落とし息を整えながら合流した。
 「パインさん、ありがとうございます。どこに移動しましょう?」
 「候補が一つ。審判の間の奥なら」
 「あそこ・・・って――――」
 「ヴィエル、お願いできますか。私は魔王様の元へ戻らなければいけないので」
 「分かりました」
 二人は階段を上がり3階で別れた。パインは執務室へ戻り、ヴィエルはさらに階段を上がる。
 階段の先には他の部屋とは明らかに素材が異なる重厚な扉。
 そこには上半身が体毛に覆われ恐ろしい顔をした生物と美しい女性が一輪の花を互いに持っている姿があった。
 巧妙な細工が施され、二人の姿が浮かび上がるように周りが掘り下げられている。
 その年季の入った青紫色の扉は見た目にそぐわずすんなりと開いた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...