魔王の子育て日記

教祖

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ここら辺で魔王を見ませんでしたか?

母は偉大なり その9

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 「久しぶり~! 元気してた? ちなみにあたしはこの通り元気いっぱいよ~」
 店から出てきた男は、女店主の両手を小動物を抱き上げるように包み込んだ。
 左右の脚手はあらん限りにぴったりと密着し、より強烈に筋肉を誇示する。
 しかしそこには漢らしさは微塵も感じられず、むしろ生娘という方が腑に落ちる。
 すると、ほらほら~――――男は見せつけるように女店主の目の前で飛び跳ねて見せた。
 その飛び方は両手を折りたたみそれぞれ方の位置まで上げ、足も同様に折りたたみ腰骨のあたりまで上げるという、いわゆる女の子飛びというものであった。
 魔族二人にはこの光景が理解できなかった。
 魔族にはあまり性別に対する隔たりがない。
 種族が多く、種族においての区別はあるものの、性別はさしたる問題ではないのだ。
 さらに言えば、性別の概念がない種族もおり、気にしたところで時間の無駄である。
 しかしながら、目の前の男と思われる人間の行動は明らかに雄のそれではない。
 いくら隔たりがないとはいえ、外見と内面の性別が異なるなど考えられない。
 二人は人の目も忘れて、通行人にだらしなく開けた口内を晒す。
 もはや、魔力をためていた右手はだらりと重力に身を任せ、魔力は粒子となって跡形もなく消え去っていた。
 「ほんとに元気だねえ、あんたは」
 一方、女店主は、あっはっは、と軽快に笑い飛ばして見せた。
 「そりゃそうよ。人間いつ死ぬかわからないんだもの。楽しまなきゃ!」
 「それもそうね!」
 今度の笑い声は大きさも快活さも倍だ。
 ひとしきり笑い終わるまでの間、爆乳女と巨体男が笑いあう姿を、なかなかの暑さの中、旅人用のローブを羽織った二人が目をむいてだらしなく口を開けたまま見つめる、という異様な光景が続いたのだった。
 「ふう。それで? 今日の用は何? この二人はあんたんとこのお客さん?」
 一息つきながら、男は二人に目を向けながら女店主に問うた。
 「そう! 粉ミルクを買いに来てくれたんだけどうちに在庫が一つしかなくて。おまけにそれをおつかいで来てた吉喜に譲ってくれてさ。私の不手際でほんとに申し訳ないんだけど、在庫確認してくれない?」
 「そういうこと。わかった、ちょっと待っててね」
 この状況が腑に落ちたのか、すっきりした顔で腰を折りながら再び店の中へ戻っていった。
 「っは! いまの男はいったいなんだ!?」
 ようやく正気に戻った魔王は、この暑さでローブという出で立ちでありながら、暖を求めて二の腕を掌でこすりながらパインに疑問を投げかける。
 「私にもわかりかねますが……、私たちはまだまだ人間というものの本質を理解できていなかったようです」
 二人そろってまだまだ未知の生き物「人間」に戦慄し、そこからくる寒気を紛らわそうと奮闘するのであった。
 その姿を見て女店主は
 「あんたらそんな格好してまだ寒いのかい!?」病気を疑われるのであった。
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