71 / 132
夜の魔王
考え魔王
しおりを挟む
「やっと落ち着いたな」
皆の意を代表した魔王の言葉が医務室に染み渡る。
「やっぱり、ミルクは食いつきが違いましたね。2回分一気に飲んじゃいました」
疲れ切った魔王に反して、ヴィエルは嬉しそうだ。
「泣くだけ泣いて、用が済んだらまたおねんねかよ」
「まるで誰かさんみたいね。あっ、でも誰かさんのほうが大人なの分質が悪いわね」
セリアの言葉にわざとらしく口に手を当てて返すバンゼイン。
「ほんと誰だろうな? 良い機会だから、この場にいるんだったら言ってみたらどうだい」
「いいの? でも、やめておくわ。言ったらきっと泣いちゃうもの」
「誰が泣くか!」
「いやだわ、セリア。だれもあなただなんて言っていないのに」
「目がそう言ってるんだよ!」
「うーん。いつ見ても飽きないね。ここまでくると伝統芸ってやつ?」
「「だれが伝統芸だ(よ)」」
ユリユスの総括に二人が切り返す。ここまでが一連の流れだ。
口調は強いが、二人にはこれが最適なコミュニケーションの形であることをここにいる全員が知っている。
「やはり、赤ちゃんのお世話は大変なんですね。やってみないとわからないものです」
新しい赤ちゃん用の寝間着をベッド横のタンスにしまうパイン。
パイン達が人間界に出向いている間に、ヴィエルが作ってくれたものだ。
「しかし、これからどうすっかな。帰す前に赤ん坊のこと知らねえか聞いときゃあよかったな」
「聞いても無駄だったと思いますよ。知っていると言えば自分も攫われかねないと口を噤はずですから」
「そんなことねえだろ。この容姿端麗の魔王様のご質問だぞ? 嘘偽りなく答えるにきまってんだろ」
「また持病の発作ですか。かかりつけ医も暇ではないのですよ?」
「なにが発作だ! ……まあ、実際警戒するだろうな。とりあえず親探しするか」
「そうしましょう。一刻も早く同じ空間に人間がいるという状況を無くしたいですから」
ハリルはそう言って風切り音が聞こえてきそうなほど大きく首を縦に振る。
「……赤ん坊も、かあちゃんの腕の中が恋しいだろうしな」
魔王が言葉を選んでいることは、明白だった。
人間に対する思いはハリルと魔王は対極であり、どちらが歩み寄っても互いに傷ついてしまうジレンマのようなもの。
魔王にとって大きな悩みの種であり、周りの魔族にとっても、扱いが最も難しい関係である。
いずれは和解の糸口がつかめるだろうか。
先の見えぬ希望を抱き、魔王は親探しへと動き出す。
「爺! あれに声かけてくれ」
「かしこまりました。調査するよう依頼しておきます」
「みんなもなにかあてがあれば、探してくれ。時間もちょうどいいし、解散! あと4バッツ頑張ろう」
「「「はい!」」」
魔王の一声で皆それぞれの持ち場へ散った。
皆の意を代表した魔王の言葉が医務室に染み渡る。
「やっぱり、ミルクは食いつきが違いましたね。2回分一気に飲んじゃいました」
疲れ切った魔王に反して、ヴィエルは嬉しそうだ。
「泣くだけ泣いて、用が済んだらまたおねんねかよ」
「まるで誰かさんみたいね。あっ、でも誰かさんのほうが大人なの分質が悪いわね」
セリアの言葉にわざとらしく口に手を当てて返すバンゼイン。
「ほんと誰だろうな? 良い機会だから、この場にいるんだったら言ってみたらどうだい」
「いいの? でも、やめておくわ。言ったらきっと泣いちゃうもの」
「誰が泣くか!」
「いやだわ、セリア。だれもあなただなんて言っていないのに」
「目がそう言ってるんだよ!」
「うーん。いつ見ても飽きないね。ここまでくると伝統芸ってやつ?」
「「だれが伝統芸だ(よ)」」
ユリユスの総括に二人が切り返す。ここまでが一連の流れだ。
口調は強いが、二人にはこれが最適なコミュニケーションの形であることをここにいる全員が知っている。
「やはり、赤ちゃんのお世話は大変なんですね。やってみないとわからないものです」
新しい赤ちゃん用の寝間着をベッド横のタンスにしまうパイン。
パイン達が人間界に出向いている間に、ヴィエルが作ってくれたものだ。
「しかし、これからどうすっかな。帰す前に赤ん坊のこと知らねえか聞いときゃあよかったな」
「聞いても無駄だったと思いますよ。知っていると言えば自分も攫われかねないと口を噤はずですから」
「そんなことねえだろ。この容姿端麗の魔王様のご質問だぞ? 嘘偽りなく答えるにきまってんだろ」
「また持病の発作ですか。かかりつけ医も暇ではないのですよ?」
「なにが発作だ! ……まあ、実際警戒するだろうな。とりあえず親探しするか」
「そうしましょう。一刻も早く同じ空間に人間がいるという状況を無くしたいですから」
ハリルはそう言って風切り音が聞こえてきそうなほど大きく首を縦に振る。
「……赤ん坊も、かあちゃんの腕の中が恋しいだろうしな」
魔王が言葉を選んでいることは、明白だった。
人間に対する思いはハリルと魔王は対極であり、どちらが歩み寄っても互いに傷ついてしまうジレンマのようなもの。
魔王にとって大きな悩みの種であり、周りの魔族にとっても、扱いが最も難しい関係である。
いずれは和解の糸口がつかめるだろうか。
先の見えぬ希望を抱き、魔王は親探しへと動き出す。
「爺! あれに声かけてくれ」
「かしこまりました。調査するよう依頼しておきます」
「みんなもなにかあてがあれば、探してくれ。時間もちょうどいいし、解散! あと4バッツ頑張ろう」
「「「はい!」」」
魔王の一声で皆それぞれの持ち場へ散った。
0
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
月夜の猫屋
来条恵夢
ファンタジー
「あの世」と「この世」の仲介人たちの生と死の狭間での話。
「あるときは怪しい喫茶店 またあるときは不気味な雑貨屋 またまたあるときは謎の何でも屋しかしてその実態は――」
「その名も虚しい、幽霊たちの迷子センター」
「決め台詞を! おまけに、虚しいって何、虚しいって!」
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる