魔王の子育て日記

教祖

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ここら辺で魔王を見ませんでしたか?

母は偉大なり その15

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 「佐伯さん!? 佐伯さんも見たでしょ? こういうこと・・・・・・は佐伯さんの方がよく知ってるんじゃないの!」
 こういうこと――――? 佐伯は魔術に造詣が深いとでもいうのか?
 やはり、ただ者ではなかったらしい。
 やはり詠唱を――――
 「そう言ってくれるなら、私を信用してトヨさん。人の体って意外とすごいのよ? 力の入れ方とか場所によって普通の何倍も力を発揮するんだから。第一、まだちゃんと話も聞いてないのに、可哀想じゃない。もしかしかしたら言いづらい事情があるのかもしれないし、ね?」
 佐伯は言い聞かせるように笑みを浮かべる。
 「――――そうだね」
 どこか憂いを感じるその表情に、女店主も戸惑いながらも気を静めた。
 その姿を見届けたパインの口からは、詠唱用に留めていた空気が安堵ともに吐き戻される。
 「ごめんなさいね。 トヨさんは魔術――――とかあんまり好きじゃないのよ。まあ、好きな人なんてごく少数でしょうけど、いろいろ……ね?」
 女店主に気を配りながら言葉を選んでいるのが、明らかだった。
 おそらくは、実際に何かあったのだろう。
 パインは、奥歯がわずかに軋んだのを感じた。それが何の感情からくるものなのか、わからない。
 「お客さんの旦那さんは、ザンムで何をやってるの? もし言えるのなら教えてくれないかい?」
 「それは――――」
 「軍事機密なんじゃない? ザンムってものすごく平和なところだけど、昔の名残で遺物とかがいまだに眠ってるって話、聞いたことあるわ。その遺物自体も極秘だけど、そこにかかわる関係者には厳しい緘口令かんこうれいが敷かれてるそうよ。軍事関連なら部署によっては特殊な訓練を受けることもあるし、さっきの説明も付くでしょ? だから、様子を見る限りそうかもしれないと思っていたんだけど」
 ――どうかしら?
 無言で向けられた瞳は、言葉以上に雄弁に語りかけてきた。
 女店主の視線もパインに重なる。
 不自然な割り込み方ではあったが、予想外の助け舟だ。奇跡的な誤解から話の終着点が見えてきた。
 ここで頷けば丸く収まる。パインは首を重力に任せ……
 
 「なんて、ここで反応しようがないわよね! ごめんなさいね!」
 
 「「は……?」」
 
 重力に任せて落ちたのは、パインと女店主の下顎。
 「トヨさんもこれで納得でしょ? 話に乗っただけなら首振ってるはずなのに、彼女は微動だにしなかった。この反応が何よりの証拠よよ! 私が保証するわ。この二人は魔族とは無関係よ」
 自身に満ち溢れた笑みを浮かべて、佐伯は女店主と魔族二人に頷いて見せた。
 タイミングが良かっただけだが、魔族二人にとってはまたとない好機だ。
 このまま話が転べば、この場を切り抜けられる。
 問題は女店主の反応だが

 「そうね……。ごめんなさい、気が動転してたみたい。悪かったね二人とも。昔のことを思い出して勝手に疑っちゃったね。この通りさ」
 魔族二人に深々と頭を下げる女店主を前に、元の姿勢に戻そうと声をかけながら安堵するパインと、手持無沙汰で行く末を見守ることしかできていなかったが、ようやく解決したことを感じ取った魔王。
 その二人を笑みを絶やさずに眺める佐伯の額には、不思議と涼しげな室温とは対照的な滴が滲んでいた。
 
 その後、ようやく支払いを終えたパインは、佐伯と女店主に見送られながら、魔王とともに帰路に就いた。
 もちろん、魔王に荷車を引かせて。
 人語がわからないとはいえ、修羅場を乗り切ったのは自分なのだから当然のことだ。
 元はと言えば、人前でむやみに魔術を使った魔王が今までの状況を作り出したのだから。
 まあ、それ以外にも理由はあるが。
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