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 突然、わぁっと言う花が咲いたような歓声が沸き起こり、桜子は思わず読んでいた小説から顔を上げた。
 なにごとかと思って声がした方に目を向けると、一人の少女を囲むように、女子が数人キャアキャアとはしゃいでいる。
 囲まれている少女だけは椅子に座ったままで、机の上に得意気に雑誌を広げていた。

「やっぱり十代になったら、お洒落には気を使わなくちゃ。ファッション誌は当然チェックすべきよね。最新のトレンドを追いかけないと」

 ニ十分ある休み時間中。
 騒々しい教室の中でも、大人びたその声は、とびきり大きく響いた。
 トレンドなどと口にするだけあって、少女が身にまとっているのは十代に絶大な人気を誇るファッションブランドの最新作だ。
 彼女の言葉に賛成するように、他の女子たちも口々に「そうだよね」とうなずき合う。

「さすが紅楽々クララ。この四年二組で、誰よりも早く十歳になったもんね」
「うんうん、ホント紅楽々は私たちのお手本だよ。この雑誌も、センスの良い子が読むって感じ! 憧れちゃうなぁ」

 クララと呼ばれた少女は、褒められたことで上機嫌になり、ますます胸を反らせた。
 耳の上で結ばれたツインテールには黒いレースのリボンが付けられていて、クララが動くたびに活発に揺れる。

「まあね。私は四月生まれだから、大人なのは当り前よ。でも大丈夫、みんなも誕生日が来れば、私と同じ十歳だもの。あ、でも三月生まれの子はまだまだお誕生日が先ね。かわいそぉ」

 クララはわざとらしく悲しい表情をして、三月生まれの桜子をチラリと見た。桜子と目が合うと勝ち誇ったように笑い、プイッと目を逸らす。

――行動は幼稚ね。滑稽こっけいだわ。

 桜子はうんざりしたように息を吐き、再び読みかけの小説に視線を戻した。
 背中をすっぽり隠すほど長くてつややかな黒髪が、肩からさらさらと落ちてカーテンのように桜子の顔を隠してしまう。
 視界の邪魔になる髪を、細い指先で耳にかけた。長いまつげは伏せられて、黒曜石のような美しい瞳が文字を追う。
「大和撫子」という言葉がピッタリ当てはまる桜子が本を読む姿は、とても絵になっていた。
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