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~ 最終章 されど御曹司は ~
Bon Voyage③
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「社長の理解を得られる前は、玲旺に後ろめたい思いはさせたくないから躊躇ったけど。でも、今ならこの選択肢も可能だと思って」
ずっと夢に見ていた。
ついに望みは叶うだろうか。
請い願うような目で、玲旺は久我をじっと見つめる。
久我はその想いに応えるように、玲旺の手を握り締め、言葉をつづけた。
「隣り合った二つの部屋を借りようと思ってる。玲旺、お前は俺の部屋の隣に住所を移さないか。同じマンションに住んでいるなら、マスコミの目を今ほど気にしなくていいし、堂々と一緒に帰ることだってできるだろ」
「えっ……」
想像していた言葉とは少し違った提案に、玲旺は悲し気に眉を下げる。
「一緒の部屋に住むわけじゃないの? お隣さんってこと?」
「あっ、違う違う。えっと、ごめんな。上手く説明できなくて」
しゅんっと風船がしぼむように、見るからにしょぼくれた玲旺に対し、久我は慌てて齟齬が無いように丁寧に自分の考えを語り始めた。
「同じ住所にするのは、何かと危険が高いだろ。運転免許証や保険証、会社の社員情報。住所変更する際に、第三者の目に触れる機会は意外と多い。だから、住所は別にした方が良いと思うんだ」
久我の言うことは理解できるので、玲旺も頷きながら静かに耳を傾ける。
玲旺の両肩に手を置いた久我が、一番伝えたかったことをようやく口にした。
「だけど、生活するのは同じ部屋にしよう。毎晩同じベッドで寝て、毎朝一緒に目を覚ましたい。二人で笑ったり悩んだり喜んだり悔しがったり、そんなことを死ぬまで繰り返したい。たくさんの感情を、玲旺と分け合いたい」
久我は玲旺の頬を愛おしそうに包み、これから訪れるであろう未来を想像したのか、眩しそうに目を細める。
「一緒に暮らそう、玲旺。二人で同じ鍵を持とう」
玲旺は目の前にいる久我が涙でぼやけてしまわないように、ぐっと奥歯を噛みしめた。
頬に触れる手は温かく、自分を見つめる瞳はどこまでも優しい。
今かもしれない、と思った。
自分の中でケジメがつかず、ずっと言えなかった三文字。
それでも胸の中で温め続けてきた三文字を、伝えるなら、きっと今だ。
「かなめ……」
触れたら割れてしまうガラス細工の淵をそっと撫でるように、玲旺が恐る恐る久我の名を呼んだ。
久我は不意を突かれたように大きく目を見開いたが、次の瞬間、顔一面に喜びの色が満ちる。
久我が両手を広げたので、玲旺は迷わず腕の中に飛び込んだ。
「この先どんな壁が立ちはだかっても、要がいれば怖くない。飛び越えるのか、壊すのか、迂回するのか。その度、一緒に迷えるのが嬉しいよ」
生涯を共にする半身と巡り会えた。
これを運命と呼ばずして、何を運命と呼ぶのだろう。
玲旺は奇跡の化身の胸の中で、心の底から歓喜する。
「明日も明後日もその次の日も、二人で同じ景色を見ながら一緒に年を取ろう。要、愛してる。この気持ちが死んでも変わらないって、今ここで誓うよ」
fin
ずっと夢に見ていた。
ついに望みは叶うだろうか。
請い願うような目で、玲旺は久我をじっと見つめる。
久我はその想いに応えるように、玲旺の手を握り締め、言葉をつづけた。
「隣り合った二つの部屋を借りようと思ってる。玲旺、お前は俺の部屋の隣に住所を移さないか。同じマンションに住んでいるなら、マスコミの目を今ほど気にしなくていいし、堂々と一緒に帰ることだってできるだろ」
「えっ……」
想像していた言葉とは少し違った提案に、玲旺は悲し気に眉を下げる。
「一緒の部屋に住むわけじゃないの? お隣さんってこと?」
「あっ、違う違う。えっと、ごめんな。上手く説明できなくて」
しゅんっと風船がしぼむように、見るからにしょぼくれた玲旺に対し、久我は慌てて齟齬が無いように丁寧に自分の考えを語り始めた。
「同じ住所にするのは、何かと危険が高いだろ。運転免許証や保険証、会社の社員情報。住所変更する際に、第三者の目に触れる機会は意外と多い。だから、住所は別にした方が良いと思うんだ」
久我の言うことは理解できるので、玲旺も頷きながら静かに耳を傾ける。
玲旺の両肩に手を置いた久我が、一番伝えたかったことをようやく口にした。
「だけど、生活するのは同じ部屋にしよう。毎晩同じベッドで寝て、毎朝一緒に目を覚ましたい。二人で笑ったり悩んだり喜んだり悔しがったり、そんなことを死ぬまで繰り返したい。たくさんの感情を、玲旺と分け合いたい」
久我は玲旺の頬を愛おしそうに包み、これから訪れるであろう未来を想像したのか、眩しそうに目を細める。
「一緒に暮らそう、玲旺。二人で同じ鍵を持とう」
玲旺は目の前にいる久我が涙でぼやけてしまわないように、ぐっと奥歯を噛みしめた。
頬に触れる手は温かく、自分を見つめる瞳はどこまでも優しい。
今かもしれない、と思った。
自分の中でケジメがつかず、ずっと言えなかった三文字。
それでも胸の中で温め続けてきた三文字を、伝えるなら、きっと今だ。
「かなめ……」
触れたら割れてしまうガラス細工の淵をそっと撫でるように、玲旺が恐る恐る久我の名を呼んだ。
久我は不意を突かれたように大きく目を見開いたが、次の瞬間、顔一面に喜びの色が満ちる。
久我が両手を広げたので、玲旺は迷わず腕の中に飛び込んだ。
「この先どんな壁が立ちはだかっても、要がいれば怖くない。飛び越えるのか、壊すのか、迂回するのか。その度、一緒に迷えるのが嬉しいよ」
生涯を共にする半身と巡り会えた。
これを運命と呼ばずして、何を運命と呼ぶのだろう。
玲旺は奇跡の化身の胸の中で、心の底から歓喜する。
「明日も明後日もその次の日も、二人で同じ景色を見ながら一緒に年を取ろう。要、愛してる。この気持ちが死んでも変わらないって、今ここで誓うよ」
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