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~ 最終章 されど御曹司は ~
SAIL AWAY⑥
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「なるほど、ナイショか。それは余計、気になるなぁ」
あからさまに除け者にされた玲旺は、不満そうに腕組みをし、氷雨ではなく久我の方を睨む。
氷雨は悪戯っ子の顔でクスクス笑い、久我は気まずそうに目を逸らした。
もし氷雨が本気で秘密にしたいのなら、もっと上手く立ち回るだろう。そもそも、玲旺の目の前で書類のやり取りを行うはずがない。
このタイミングで渡したということは、恐らく玲旺が知っても構わない内容だが、氷雨の口から伝える事は出来ないと言うことだ。
と、なれば、久我に聞くしかない。
「ねぇ、久我さん。今の書類、何?」
「いや、これは……その」
もごもごと言葉を濁す久我に、「やっぱりまだ話してなかったんだねぇ」と、氷雨が仕方なさそうに助け船を出す。
「桐ケ谷クン。気になるとは思うけど、今じゃなくてお家に帰ってからゆーっくり説明して貰いな? 楽しみは後に取っておきましょ」
ね? と優しく諭すような氷雨の口調には、これ以上追求しにくい雰囲気があった。
まだ納得いかなかったが、この場で話すべきことではないのだろうと理解して、玲旺は大人しく引き下がる。
「わかった。じゃあ、今日は久我さんの家に行くから、絶対あとで説明してよ」
不機嫌そうな玲旺を前にして、久我も観念したようだった。
叱られてしょんぼりしている大型犬のように、玲旺の顔色をうかがいながらボソボソと口を開く。
「ああ。うちに来てくれて構わない。そこでちゃんと説明するよ。でも、あの、隠してたわけじゃないからな。もっと具体的になったら、話そうと思ってたんだ。時期が来たら、俺のタイミングで……」
歯切れ悪く伝える久我の言葉を聞いて、氷雨が憤慨したように「えーっ」と声を上げた。
「ひっどーい。それじゃまるで僕が余計なことしたみたいじゃない。『具体的になったら』って、もう相当具体的になってると思うんだけど? あーあ。いつまでたっても言い出せない友人の背中を押してあげたのになー。上手く行くように、応援してたのになー」
わざとらしく拗ねたような口ぶりだったが、どこか楽しそうでもあった。久我も苦笑いで、「そんなつもりで言ったんじゃないよ」と氷雨に謝罪する。
二人の様子から察するに、あの書類はそれほど深刻な物ではなさそうだと、玲旺はこっそり安堵した。
それならば、と今度は藤井に探るような視線を向けてみる。しっかり目が合ったにもかかわらず、藤井はすーっと逃げるように顔を背けた。
つまりこいつも書類の内容を知ってるんだな。と、玲旺は面白くなさそうに口をへの字に曲げる。
それに気づいた久我が、慌てたように問いかけた。
「ところで桐ケ谷は、もう仕事は終わったの?」
これ以上機嫌を損ねられたら困るので、話題を変えたかったのだろう。玲旺もここで駄々をこねるつもりはないので、素直に「まだだよ」と答える。
「途中で放り出してこっちに来ちゃったから。でも、すぐに終わると思うけど」
「俺はやりかけの仕事を片付けた後、三号店の新ディスプレイを確認しに行ってくるよ。きっと桐ケ谷の方が終わるの早いよな。悪い、先に帰って待っててくれないか」
言いながら、久我がキーケースから家の鍵だけを取り外して玲旺に手渡した。手のひらに乗せられた鍵を見つめ、玲旺はその感触と重みを噛みしめる。
「わかった、先に行ってる。じゃあ、そろそろ仕事に戻るね」
鍵を胸ポケットにしまいながら「また後で」と久我に告げ、次に氷雨に目を向けた。氷雨の眼差しは優しく穏やかで、ああ、いつもこうして見守ってくれていたなと感慨に耽る。
「氷雨さん……本当にありがとう」
玲旺は改まった口調でそう伝えた。
あからさまに除け者にされた玲旺は、不満そうに腕組みをし、氷雨ではなく久我の方を睨む。
氷雨は悪戯っ子の顔でクスクス笑い、久我は気まずそうに目を逸らした。
もし氷雨が本気で秘密にしたいのなら、もっと上手く立ち回るだろう。そもそも、玲旺の目の前で書類のやり取りを行うはずがない。
このタイミングで渡したということは、恐らく玲旺が知っても構わない内容だが、氷雨の口から伝える事は出来ないと言うことだ。
と、なれば、久我に聞くしかない。
「ねぇ、久我さん。今の書類、何?」
「いや、これは……その」
もごもごと言葉を濁す久我に、「やっぱりまだ話してなかったんだねぇ」と、氷雨が仕方なさそうに助け船を出す。
「桐ケ谷クン。気になるとは思うけど、今じゃなくてお家に帰ってからゆーっくり説明して貰いな? 楽しみは後に取っておきましょ」
ね? と優しく諭すような氷雨の口調には、これ以上追求しにくい雰囲気があった。
まだ納得いかなかったが、この場で話すべきことではないのだろうと理解して、玲旺は大人しく引き下がる。
「わかった。じゃあ、今日は久我さんの家に行くから、絶対あとで説明してよ」
不機嫌そうな玲旺を前にして、久我も観念したようだった。
叱られてしょんぼりしている大型犬のように、玲旺の顔色をうかがいながらボソボソと口を開く。
「ああ。うちに来てくれて構わない。そこでちゃんと説明するよ。でも、あの、隠してたわけじゃないからな。もっと具体的になったら、話そうと思ってたんだ。時期が来たら、俺のタイミングで……」
歯切れ悪く伝える久我の言葉を聞いて、氷雨が憤慨したように「えーっ」と声を上げた。
「ひっどーい。それじゃまるで僕が余計なことしたみたいじゃない。『具体的になったら』って、もう相当具体的になってると思うんだけど? あーあ。いつまでたっても言い出せない友人の背中を押してあげたのになー。上手く行くように、応援してたのになー」
わざとらしく拗ねたような口ぶりだったが、どこか楽しそうでもあった。久我も苦笑いで、「そんなつもりで言ったんじゃないよ」と氷雨に謝罪する。
二人の様子から察するに、あの書類はそれほど深刻な物ではなさそうだと、玲旺はこっそり安堵した。
それならば、と今度は藤井に探るような視線を向けてみる。しっかり目が合ったにもかかわらず、藤井はすーっと逃げるように顔を背けた。
つまりこいつも書類の内容を知ってるんだな。と、玲旺は面白くなさそうに口をへの字に曲げる。
それに気づいた久我が、慌てたように問いかけた。
「ところで桐ケ谷は、もう仕事は終わったの?」
これ以上機嫌を損ねられたら困るので、話題を変えたかったのだろう。玲旺もここで駄々をこねるつもりはないので、素直に「まだだよ」と答える。
「途中で放り出してこっちに来ちゃったから。でも、すぐに終わると思うけど」
「俺はやりかけの仕事を片付けた後、三号店の新ディスプレイを確認しに行ってくるよ。きっと桐ケ谷の方が終わるの早いよな。悪い、先に帰って待っててくれないか」
言いながら、久我がキーケースから家の鍵だけを取り外して玲旺に手渡した。手のひらに乗せられた鍵を見つめ、玲旺はその感触と重みを噛みしめる。
「わかった、先に行ってる。じゃあ、そろそろ仕事に戻るね」
鍵を胸ポケットにしまいながら「また後で」と久我に告げ、次に氷雨に目を向けた。氷雨の眼差しは優しく穏やかで、ああ、いつもこうして見守ってくれていたなと感慨に耽る。
「氷雨さん……本当にありがとう」
玲旺は改まった口調でそう伝えた。
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