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~ 最終章 されど御曹司は ~
人生を賭けた大勝負⑧
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ソファに浅く腰掛けていた久我が、更に前に身を乗り出す。
「対する我々は、付け焼刃ではないプランを既に用意しております。甘めのデート服からバリキャリ向けのオフィスファッションまで網羅したラインナップですよ。氷雨は品のあるシルエットの服に、少しの色気を足すのが得意です。その上、価格はフォーチュンの半額程度」
隣で聞いている玲旺は、そこまで手の内を晒してしまっていいのかと不安になった。あまり詳しく話してしまえば、対策を立てられてしまう。しかし久我は、心配そうな玲旺の視線にも大丈夫だと言うように微笑んだ。
父親は劣勢を自覚しているようだったが、なおも抵抗を試みる。
「普段使いの服ならば中価格帯でも誤魔化しは利くが、フォーマルの品質では到底こちらには敵わないだろう。我々の脅威にはならん」
その言葉にも動じるどころか余裕のある笑みを見せた久我が、首を傾げるような仕草をした。
「本当にそうでしょうか。確かに海外セレブが出席するような本格的なパーティーでしたら、多少は分が悪いかもしれないですね。しかし結婚式や格式高いレストランを訪れるくらいならば、引けを取らないでしょう。その上でレッドカーペットを歩けるくらいのハイクオリティな商品を求められたならば、フォーマルだけ価格を上げれば良いだけの話です。氷雨の才能を惜しげもなく発揮したドレスやスーツは、きっと人気が出るでしょうね」
そこまでの計画は玲旺も聞いたことが無かったので、恐らく久我の頭の中だけに描かれた地図だろう。今思い付いたのかぼんやり構想があったのかはわからないが、「流石だな」と感心しながら玲旺は隣に座る久我を見つめる。
「社長が認めてくださるのなら、新ブランドはフォーチュンのアイテムとは被らない、キリッとした大人カジュアルをメインに置きます。氷雨が手掛けるフォーマルは、フォーチュンとコラボと言う形にしても面白いかもしれませんね」
久我の提案にグッと言葉を詰まらせた父親は、背もたれに体重を預け天井を仰いだ。
「粗はあるが、揺さぶりをかけるだけなら充分なプランだな。私に対して物怖じしない所と、狡猾なまでの用意周到さを気に入って婿にと考えていたんだよ。君なら義兄として玲旺を支え、事業も伸ばしてくれるだろうからね。それがまさか、玲旺本人と……」
途方に暮れたように、片手で顔を覆いながら父親が溜め息をつく。久我は気持ちを察し、悲し気に目を伏せた。父親の言葉の端々に、玲旺に一般的な家庭を持たせたかったという想いが滲む。
「社長のご希望に添えず申し訳ありません。ですが義兄と言う立場より、もっと近くで玲旺さんを支えていく所存です。全身全霊を懸け、生涯守り通してみせます」
久我の膝の上に置かれた拳は、震えるほど強く握り締められていた。玲旺はそっと久我の拳に手を重ね、父親を見据える。
「俺も久我さんを支えて、守り抜く。もちろん会社も。アパレル業界にとって厳しい時代はまだこれからも続くだろうけど、久我さんが隣にいてくれたら、どんなことでも乗り越えられるって断言できるよ。それに、心から信頼できる仲間もいるし。今のこの環境は、全部久我さんのお陰なんだ。俺たちはこれからも成長し続ける。だから、見守ってくれないか」
懇願する玲旺の視線を受け止めて、父親が静かに口を開いた。
「久我君に出会ってからのお前の変化は、私が一番わかっているよ。本音を言えば、応援したい気持ちもある。だが、それだけではどうしたって超えられない問題があるだろう」
一呼吸置いた父親が、辛そうに眉を寄せる。
「もし二人の関係が外部に知られたら、どう対応するつもりだ」
「対する我々は、付け焼刃ではないプランを既に用意しております。甘めのデート服からバリキャリ向けのオフィスファッションまで網羅したラインナップですよ。氷雨は品のあるシルエットの服に、少しの色気を足すのが得意です。その上、価格はフォーチュンの半額程度」
隣で聞いている玲旺は、そこまで手の内を晒してしまっていいのかと不安になった。あまり詳しく話してしまえば、対策を立てられてしまう。しかし久我は、心配そうな玲旺の視線にも大丈夫だと言うように微笑んだ。
父親は劣勢を自覚しているようだったが、なおも抵抗を試みる。
「普段使いの服ならば中価格帯でも誤魔化しは利くが、フォーマルの品質では到底こちらには敵わないだろう。我々の脅威にはならん」
その言葉にも動じるどころか余裕のある笑みを見せた久我が、首を傾げるような仕草をした。
「本当にそうでしょうか。確かに海外セレブが出席するような本格的なパーティーでしたら、多少は分が悪いかもしれないですね。しかし結婚式や格式高いレストランを訪れるくらいならば、引けを取らないでしょう。その上でレッドカーペットを歩けるくらいのハイクオリティな商品を求められたならば、フォーマルだけ価格を上げれば良いだけの話です。氷雨の才能を惜しげもなく発揮したドレスやスーツは、きっと人気が出るでしょうね」
そこまでの計画は玲旺も聞いたことが無かったので、恐らく久我の頭の中だけに描かれた地図だろう。今思い付いたのかぼんやり構想があったのかはわからないが、「流石だな」と感心しながら玲旺は隣に座る久我を見つめる。
「社長が認めてくださるのなら、新ブランドはフォーチュンのアイテムとは被らない、キリッとした大人カジュアルをメインに置きます。氷雨が手掛けるフォーマルは、フォーチュンとコラボと言う形にしても面白いかもしれませんね」
久我の提案にグッと言葉を詰まらせた父親は、背もたれに体重を預け天井を仰いだ。
「粗はあるが、揺さぶりをかけるだけなら充分なプランだな。私に対して物怖じしない所と、狡猾なまでの用意周到さを気に入って婿にと考えていたんだよ。君なら義兄として玲旺を支え、事業も伸ばしてくれるだろうからね。それがまさか、玲旺本人と……」
途方に暮れたように、片手で顔を覆いながら父親が溜め息をつく。久我は気持ちを察し、悲し気に目を伏せた。父親の言葉の端々に、玲旺に一般的な家庭を持たせたかったという想いが滲む。
「社長のご希望に添えず申し訳ありません。ですが義兄と言う立場より、もっと近くで玲旺さんを支えていく所存です。全身全霊を懸け、生涯守り通してみせます」
久我の膝の上に置かれた拳は、震えるほど強く握り締められていた。玲旺はそっと久我の拳に手を重ね、父親を見据える。
「俺も久我さんを支えて、守り抜く。もちろん会社も。アパレル業界にとって厳しい時代はまだこれからも続くだろうけど、久我さんが隣にいてくれたら、どんなことでも乗り越えられるって断言できるよ。それに、心から信頼できる仲間もいるし。今のこの環境は、全部久我さんのお陰なんだ。俺たちはこれからも成長し続ける。だから、見守ってくれないか」
懇願する玲旺の視線を受け止めて、父親が静かに口を開いた。
「久我君に出会ってからのお前の変化は、私が一番わかっているよ。本音を言えば、応援したい気持ちもある。だが、それだけではどうしたって超えられない問題があるだろう」
一呼吸置いた父親が、辛そうに眉を寄せる。
「もし二人の関係が外部に知られたら、どう対応するつもりだ」
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