されど御曹司は愛を誓う

雪華

文字の大きさ
上 下
281 / 302
~ 最終章 されど御曹司は ~

人生を賭けた大勝負⑤

しおりを挟む
『五十年後も心変わりすることなく、か。君はリアリストだと思っていたんだが、随分青臭いことを言うんだな。婚姻も結べない無責任な関係に、どんな夢を見ているのかね』

 侮蔑ぶべつを含んだ父親の物言いに、玲旺は怒りを覚えて唇を噛んだ。こんな奴に何を言っても通じないだろうという諦めの気持ちと、久我への申し訳なさが胸を埋め尽くす。
 もう充分だ。
 この上ないほどに、自分は久我に想われている。この事実があれば、例え親に理解されなくても、この先ずっと二人で生きていける。

 もう戦わなくていい。どうかこれ以上傷付かないでくれと思いながら、玲旺はイヤホンに手をかけた。
 何か理由を付けて、久我を社長室から呼び戻そう。
 しかし、外しかけたイヤホンから聞こえてきたのは、久我の不敵な笑い声だった。

『では、社長は法的効力があれば、愛は決して色褪せないとお考えですか。男女のカップルが婚姻届さえ出せば、バラ色の生活が未来永劫続くと? それこそ夢のような話ですね。私が青臭いなら、社長はロマンチストだ』

 まさか言い返されるとは思わなかったのだろう。強烈な反撃を喰らった父親が絶句する。久我はこの機を逃すまいと、畳みかけるように言葉をつづけた。

『社長がおっしゃる通り、私はリアリストです。玲旺さんへの愛を、理想や夢で語っている訳ではありません。お望みとあらば社長が納得してくださるまで、私と玲旺さんが共に人生を歩むことで得られる相乗効果やメリットをご説明いたしましょうか』

 玲旺の脳裏に、強気に笑う久我の表情が浮んだ。
 こんな窮地に立たされても、臆さずに新しく道を切り開こうとする久我に、心底痺れる。
 これが自分の愛した人なのだと、胸を張って父親に伝えたいと思った。

 しゃがみ込んでいた玲旺は、ゆっくり立ち上がって会議机に手をつく。気持ちを落ち着かせるように、息を深く吸って吐いた。
 イヤホンから、少しだけ勢いを失った父親の声が聞こえてくる。

『まるでプレゼンテーションだな』
『そうですね。一世一代の人生を賭けた大勝負です。引き下がると言う選択肢はありません』

 久我のアグレッシブな発言に、玲旺の口角が僅かに上がった。

「人生を賭けた大勝負だってさ。そんな時に、隣に俺が居なくてどうするんだよ」

 玲旺はどこかスッキリしたような表情で、藤井に目を向ける。耳から外したイヤホンを差し出し「ごめん」と口にした。

「このタイミングで行ったら怪しまれそうだけど。俺、久我さんの加勢に行かなきゃ。お前がスマホを置き忘れたことは、バレないように上手くやるよ」

 藤井はイヤホンを受け取ると、心得たように目を細めて玲旺にうなずいてみせた。

「承知いたしました。私のスマホなど、どうぞお気になさらずに。社長からのお咎めなら、いくらでも受けますから。人生を賭けたプレゼンの成功を、心からお祈り申し上げます」

 藤井の励ましを背に、玲旺は社長室に向かって歩き出す。
 相変わらず廊下には誰もおらず、「こんなデリケートな話題だから、社長室周辺は人払いされているのだろう」と考えているうちに、部屋の前に辿り着いた。重厚な木の扉が威圧的で、玲旺はごくりと唾を飲み込む。

 合図程度に扉をノックし、返事も待たずにドアノブを思い切り引いた。
 ローテーブルを挟んで向かい合うように座っていた父親と久我が、同時にこちらを向く。
 久我は驚いたように少し腰を浮かせたが、父親の方は妙に落ち着いていた。

「やっと来たか、玲旺。遅かったじゃないか」

 そう言って、意味ありげに微笑んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

私の彼氏は義兄に犯され、奪われました。

天災
BL
 私の彼氏は、義兄に奪われました。いや、犯されもしました。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

『田中のおじさま♡』~今夜も愛しのおじさまと濃厚ラブえっち♡♡♡

そらも
BL
過去にとある出逢いを経て知り合った『本名さえもちゃんとわかってない』自分よりも三十二歳も年上のバツイチ絶倫変態スケベおじさまとの濃厚セックスに毎夜明け暮れている、自称平凡普通大学生くんの夜のお話♡ おじさまは大学生くんにぞっこんラブだし、大学生くんもハジメテを捧げたおじさまが大大大っだ~いすきでとってもラブラブな二人でございますぞ♪ 久しぶりの年上×年下の歳の差モノ♡ 全体的に変態ちっくですのでどうぞご注意を! ※ R-18エロもので、♡(ハート)喘ぎ満載です。 ※ 素敵な表紙は、pixiv小説用フリー素材にて、『やまなし』様からお借りしました。ありがとうございます!

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

専業種夫

カタナカナタ
BL
精力旺盛な彼氏の性処理を完璧にこなす「専業種夫」。彼の徹底された性行為のおかげで、彼氏は外ではハイクラスに働き、帰宅するとまた彼を激しく犯す。そんなゲイカップルの日々のルーティーンを描く。

処理中です...