されど御曹司は愛を誓う

雪華

文字の大きさ
上 下
276 / 302
~ 最終章 されど御曹司は ~

姉の結婚⑤

しおりを挟む
『それはどういう意味だ』と問われたら、何て答えよう。いっそ打ち明けてしまおうか。そんな事を考えていたら、いつの間にか朝になっていた。

 結局、父親が玲旺を問い詰めるために部屋を訪れることはなかったが、しかしだからと言って油断は出来ない。あの人のことだから何か感づいたかもしれないと、玲旺は密かに警戒した。

 そんなソワソワした気配が玲旺から滲んでいたようで、出勤時間に合わせて自宅に迎えに来た藤井が、玲旺の顔を見るなり片眉を上げた。
 玲旺のために車の後部座席のドアを開けながら、「何かありましたか」と憂いに満ちた表情で尋ねる。

「別に何もないよ」

 革張りのリアシートに身を滑り込ませ、玲旺は取り繕うように澄ました顔で答えた。後部座席のドアを閉め運転席に乗り込んだ藤井は、ルームミラー越しに玲旺を見る。

「久我と喧嘩でも?」
「違うよ」
「では、社長とですか。仕事の件ではなさそうですね」

 全てお見通しのような藤井に、玲旺は参ったと言わんばかりに両手で降参のポーズを取った。
 どうせ藤井は誘導尋問でじわじわと答えに近づくのだから、この際、昨日の出来事を話してしまおうと腹を括る。

「理瑚が結婚するんだって」
「それは……おめでとうございます」

 ゆっくり車を発進させた藤井は、何故めでたい話から揉める展開になったのかと、不思議そうな顔をした。

「でもさ、オヤジは理瑚と久我さんを、本当は結婚させたかったみたい」

 窓の外へ目を向けながら、どこか投げやりな調子で玲旺が言う。藤井は玲旺の様子がおかしかった理由にうなずいたものの、まだ腑に落ちていないようだった。

「玲旺様にとっては不快でしょうが、会社の利益を考えますと、久我と理瑚様の結婚はそれほど突拍子もない話とは思いません。社長は久我を身内に引き入れて、手元に置いておきたかったのでしょう。その考えは玲旺様も理解されているのでは?」

 ハンドルを握りながら、藤井が冷静に尋ねる。「そうだよねぇ」と、玲旺はまるで他人事のように相槌を打った。
 もし自分と久我の間に恋愛感情がなかったら、玲旺も父親と一緒になって「久我にすればよかったのに」と言っていたかもしれない。

「頭ではわかってたんだけどね。いつもなら流せただろうけど、昨日は駄目だった。自棄になって『それなら俺が久我さんと結婚しようかな』って言っちゃった」

 赤信号で緩やかに減速していた途中、藤井は動揺したのかいつもよりブレーキがきつめにかかった。カクンと小さく車体が揺れ、藤井が「申し訳ありません」と詫びる。

「それで、社長は何と……?」
「悪い冗談はよせって。あと、本当に恋人はいるのかって聞かれたから『一番遠くて一番近くに居る』って禅問答みたいな答え方した。理瑚は俺が冗談を言ってるだけだって思ったけど、親父は何か感じたかもしれないな。でも、今のところ何も言って来ないよ」

 ようやく藤井は全てに納得したようで、噛み締めるように「なるほど」と呟いた。

「社長が何も言わないのが気になりますね。私の方でも、社長に怪しまれない程度に様子を窺っておきましょう。何かありましたら直ぐお伝えします」

 藤井に打ち明けたことで少し気が楽になった玲旺は、ホッとしたように息を吐く。

「うん、よろしく。俺も今日はずっと本社に居ようと思う。……余計な業務増やしちゃってごめんね」
「いえ、どうぞお気になさらず」

 ルームミラーに、気遣わし気に眉を寄せる藤井が映った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

私の彼氏は義兄に犯され、奪われました。

天災
BL
 私の彼氏は、義兄に奪われました。いや、犯されもしました。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

『田中のおじさま♡』~今夜も愛しのおじさまと濃厚ラブえっち♡♡♡

そらも
BL
過去にとある出逢いを経て知り合った『本名さえもちゃんとわかってない』自分よりも三十二歳も年上のバツイチ絶倫変態スケベおじさまとの濃厚セックスに毎夜明け暮れている、自称平凡普通大学生くんの夜のお話♡ おじさまは大学生くんにぞっこんラブだし、大学生くんもハジメテを捧げたおじさまが大大大っだ~いすきでとってもラブラブな二人でございますぞ♪ 久しぶりの年上×年下の歳の差モノ♡ 全体的に変態ちっくですのでどうぞご注意を! ※ R-18エロもので、♡(ハート)喘ぎ満載です。 ※ 素敵な表紙は、pixiv小説用フリー素材にて、『やまなし』様からお借りしました。ありがとうございます!

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

専業種夫

カタナカナタ
BL
精力旺盛な彼氏の性処理を完璧にこなす「専業種夫」。彼の徹底された性行為のおかげで、彼氏は外ではハイクラスに働き、帰宅するとまた彼を激しく犯す。そんなゲイカップルの日々のルーティーンを描く。

処理中です...