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~ 最終章 されど御曹司は ~
姉の結婚⑤
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『それはどういう意味だ』と問われたら、何て答えよう。いっそ打ち明けてしまおうか。そんな事を考えていたら、いつの間にか朝になっていた。
結局、父親が玲旺を問い詰めるために部屋を訪れることはなかったが、しかしだからと言って油断は出来ない。あの人のことだから何か感づいたかもしれないと、玲旺は密かに警戒した。
そんなソワソワした気配が玲旺から滲んでいたようで、出勤時間に合わせて自宅に迎えに来た藤井が、玲旺の顔を見るなり片眉を上げた。
玲旺のために車の後部座席のドアを開けながら、「何かありましたか」と憂いに満ちた表情で尋ねる。
「別に何もないよ」
革張りのリアシートに身を滑り込ませ、玲旺は取り繕うように澄ました顔で答えた。後部座席のドアを閉め運転席に乗り込んだ藤井は、ルームミラー越しに玲旺を見る。
「久我と喧嘩でも?」
「違うよ」
「では、社長とですか。仕事の件ではなさそうですね」
全てお見通しのような藤井に、玲旺は参ったと言わんばかりに両手で降参のポーズを取った。
どうせ藤井は誘導尋問でじわじわと答えに近づくのだから、この際、昨日の出来事を話してしまおうと腹を括る。
「理瑚が結婚するんだって」
「それは……おめでとうございます」
ゆっくり車を発進させた藤井は、何故めでたい話から揉める展開になったのかと、不思議そうな顔をした。
「でもさ、オヤジは理瑚と久我さんを、本当は結婚させたかったみたい」
窓の外へ目を向けながら、どこか投げやりな調子で玲旺が言う。藤井は玲旺の様子がおかしかった理由にうなずいたものの、まだ腑に落ちていないようだった。
「玲旺様にとっては不快でしょうが、会社の利益を考えますと、久我と理瑚様の結婚はそれほど突拍子もない話とは思いません。社長は久我を身内に引き入れて、手元に置いておきたかったのでしょう。その考えは玲旺様も理解されているのでは?」
ハンドルを握りながら、藤井が冷静に尋ねる。「そうだよねぇ」と、玲旺はまるで他人事のように相槌を打った。
もし自分と久我の間に恋愛感情がなかったら、玲旺も父親と一緒になって「久我にすればよかったのに」と言っていたかもしれない。
「頭ではわかってたんだけどね。いつもなら流せただろうけど、昨日は駄目だった。自棄になって『それなら俺が久我さんと結婚しようかな』って言っちゃった」
赤信号で緩やかに減速していた途中、藤井は動揺したのかいつもよりブレーキがきつめにかかった。カクンと小さく車体が揺れ、藤井が「申し訳ありません」と詫びる。
「それで、社長は何と……?」
「悪い冗談はよせって。あと、本当に恋人はいるのかって聞かれたから『一番遠くて一番近くに居る』って禅問答みたいな答え方した。理瑚は俺が冗談を言ってるだけだって思ったけど、親父は何か感じたかもしれないな。でも、今のところ何も言って来ないよ」
ようやく藤井は全てに納得したようで、噛み締めるように「なるほど」と呟いた。
「社長が何も言わないのが気になりますね。私の方でも、社長に怪しまれない程度に様子を窺っておきましょう。何かありましたら直ぐお伝えします」
藤井に打ち明けたことで少し気が楽になった玲旺は、ホッとしたように息を吐く。
「うん、よろしく。俺も今日はずっと本社に居ようと思う。……余計な業務増やしちゃってごめんね」
「いえ、どうぞお気になさらず」
ルームミラーに、気遣わし気に眉を寄せる藤井が映った。
結局、父親が玲旺を問い詰めるために部屋を訪れることはなかったが、しかしだからと言って油断は出来ない。あの人のことだから何か感づいたかもしれないと、玲旺は密かに警戒した。
そんなソワソワした気配が玲旺から滲んでいたようで、出勤時間に合わせて自宅に迎えに来た藤井が、玲旺の顔を見るなり片眉を上げた。
玲旺のために車の後部座席のドアを開けながら、「何かありましたか」と憂いに満ちた表情で尋ねる。
「別に何もないよ」
革張りのリアシートに身を滑り込ませ、玲旺は取り繕うように澄ました顔で答えた。後部座席のドアを閉め運転席に乗り込んだ藤井は、ルームミラー越しに玲旺を見る。
「久我と喧嘩でも?」
「違うよ」
「では、社長とですか。仕事の件ではなさそうですね」
全てお見通しのような藤井に、玲旺は参ったと言わんばかりに両手で降参のポーズを取った。
どうせ藤井は誘導尋問でじわじわと答えに近づくのだから、この際、昨日の出来事を話してしまおうと腹を括る。
「理瑚が結婚するんだって」
「それは……おめでとうございます」
ゆっくり車を発進させた藤井は、何故めでたい話から揉める展開になったのかと、不思議そうな顔をした。
「でもさ、オヤジは理瑚と久我さんを、本当は結婚させたかったみたい」
窓の外へ目を向けながら、どこか投げやりな調子で玲旺が言う。藤井は玲旺の様子がおかしかった理由にうなずいたものの、まだ腑に落ちていないようだった。
「玲旺様にとっては不快でしょうが、会社の利益を考えますと、久我と理瑚様の結婚はそれほど突拍子もない話とは思いません。社長は久我を身内に引き入れて、手元に置いておきたかったのでしょう。その考えは玲旺様も理解されているのでは?」
ハンドルを握りながら、藤井が冷静に尋ねる。「そうだよねぇ」と、玲旺はまるで他人事のように相槌を打った。
もし自分と久我の間に恋愛感情がなかったら、玲旺も父親と一緒になって「久我にすればよかったのに」と言っていたかもしれない。
「頭ではわかってたんだけどね。いつもなら流せただろうけど、昨日は駄目だった。自棄になって『それなら俺が久我さんと結婚しようかな』って言っちゃった」
赤信号で緩やかに減速していた途中、藤井は動揺したのかいつもよりブレーキがきつめにかかった。カクンと小さく車体が揺れ、藤井が「申し訳ありません」と詫びる。
「それで、社長は何と……?」
「悪い冗談はよせって。あと、本当に恋人はいるのかって聞かれたから『一番遠くて一番近くに居る』って禅問答みたいな答え方した。理瑚は俺が冗談を言ってるだけだって思ったけど、親父は何か感じたかもしれないな。でも、今のところ何も言って来ないよ」
ようやく藤井は全てに納得したようで、噛み締めるように「なるほど」と呟いた。
「社長が何も言わないのが気になりますね。私の方でも、社長に怪しまれない程度に様子を窺っておきましょう。何かありましたら直ぐお伝えします」
藤井に打ち明けたことで少し気が楽になった玲旺は、ホッとしたように息を吐く。
「うん、よろしく。俺も今日はずっと本社に居ようと思う。……余計な業務増やしちゃってごめんね」
「いえ、どうぞお気になさらず」
ルームミラーに、気遣わし気に眉を寄せる藤井が映った。
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