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~ 最終章 されど御曹司は ~
春の夜の夢のごとし⑦
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その一言で、快晴がなぜこれほどまで強引に氷雨に対決を挑んできたのか、玲旺には理解出来てしまった。
てっきり構って欲しくて喧嘩を吹っ掛けて来たのかと思ったが、どうやら別の意図もあったらしい。
「心配だったんですね。氷雨さんのこと」
黙り込んでうつむいてしまった快晴に、寄り添うように玲旺が尋ねる。快晴がふっと力を抜くように、吐息だけで笑った。
「白状しちゃうとね、その通り。だって、俺と永遠以外の人間に、コイツが心を開くなんてありえないだろ。氷雨がブランドを立ち上げるとしたら、絶対に独立すると思うじゃん」
それを聞いた氷雨は、意外だと言わんばかりに瞬きを繰り返す。
快晴は一度本当のことを話し出したら止まらなくなったのか、燻っていた気持ちを全て吐き出すように捲し立てた。
「なのに、企業デザイナーみたいなこと始めてさ。しかも御曹司がトップのセカンドラインだなんて、笑っちまうだろ。また搾取されてんじゃないかって、だったら助けてやらなくちゃって居てもたってもいられなくなったんだよ。だから、この喧嘩は本当は、氷雨じゃなくてアンタに対して売ったんだ」
力なく項垂れていた快晴が、急に顔を上げて睨むように玲旺を見る。
ああ。時折見せていた苦々しい表情は、氷雨を通して自分に向けられていたのかと、玲旺は今頃になって納得した。
「突然、大掛かりな企画を吹っ掛けられたら、経営陣はボロを出すだろうって算段だった。だって準備期間は一ヶ月しかないんだぜ? どうせ慌てふためいてもっともらしい言い訳して、情けなく逃げ出すと思ったんだよ。でもまさか、受けて立つなんてね」
快晴は面白くなさそうに、フンと鼻を鳴らして玲旺から目を逸らす。
「まぁ、直接対決になったって、アドバンテージはこちらにある。世間知らずのボンボンと、企業に飼い慣らされた氷雨に俺が負けるわけがない。フローズンレインを完膚なきまでに叩きのめして、それを機に氷雨を辞めさせよう……って作戦だったんだけどなァ」
あーあ。と、快晴は不貞腐れたように天井を仰いだ。湯月が呆れたように頬を膨らませ、快晴を見上げる。
「だからやめときなって言ったじゃん。氷雨くんの作った服を見たら、窮屈な環境で無理矢理やらされてるんじゃないってわかるでしょ」
「何だよ。お前だって最初は、氷雨が誰かと組んでブランドを始めるなんて信じらんないって言ってただろ。それなのに、いつの間にかそっち側に付きやがって。裏切り者め」
腰に手を当て見下ろす快晴に、聞き捨てならないと湯月は憤慨した。
「裏切り者って、なんだよ。私は快晴の味方になったことなんか、一秒だってないよ。ずっと氷雨くんのためだけに動いてたんだから」
「俺だって氷雨のためにやったんだ」
快晴も湯月の真ん前にしゃがみ込み、二人は睨み合う格好になる。まるで猫が毛を逆立てて威嚇し合っているような光景だが、氷雨は慣れっこなのか「はいはい」と湯月と快晴の間に入って軽く諫めた。
「二人ともやめなさいよ。とりあえず、僕のこと心配してくれてたワケね。でもさぁ、勝手に一年もかけて大掛かりな準備して、皆を巻き込まないでくれる。普通に『大丈夫なの?』って聞けばいいじゃない」
それが出来れば苦労しないとばかりに、快晴は眉間の皺を深める。
「簡単に言うなよ。俺も永遠もお前に声なんか、かけられるわけないだろ。それに、『大丈夫か』って聞いちまったら、お前はどんな状況でも『大丈夫』って答えるに決まってる。だから、わざわざこんな回りくどいことしたんだ」
氷雨から顔を背けた快晴は、話を聞きつつもまだ紙屑を拾っていた玲旺を見て、ふーっと息を吐き出した。
てっきり構って欲しくて喧嘩を吹っ掛けて来たのかと思ったが、どうやら別の意図もあったらしい。
「心配だったんですね。氷雨さんのこと」
黙り込んでうつむいてしまった快晴に、寄り添うように玲旺が尋ねる。快晴がふっと力を抜くように、吐息だけで笑った。
「白状しちゃうとね、その通り。だって、俺と永遠以外の人間に、コイツが心を開くなんてありえないだろ。氷雨がブランドを立ち上げるとしたら、絶対に独立すると思うじゃん」
それを聞いた氷雨は、意外だと言わんばかりに瞬きを繰り返す。
快晴は一度本当のことを話し出したら止まらなくなったのか、燻っていた気持ちを全て吐き出すように捲し立てた。
「なのに、企業デザイナーみたいなこと始めてさ。しかも御曹司がトップのセカンドラインだなんて、笑っちまうだろ。また搾取されてんじゃないかって、だったら助けてやらなくちゃって居てもたってもいられなくなったんだよ。だから、この喧嘩は本当は、氷雨じゃなくてアンタに対して売ったんだ」
力なく項垂れていた快晴が、急に顔を上げて睨むように玲旺を見る。
ああ。時折見せていた苦々しい表情は、氷雨を通して自分に向けられていたのかと、玲旺は今頃になって納得した。
「突然、大掛かりな企画を吹っ掛けられたら、経営陣はボロを出すだろうって算段だった。だって準備期間は一ヶ月しかないんだぜ? どうせ慌てふためいてもっともらしい言い訳して、情けなく逃げ出すと思ったんだよ。でもまさか、受けて立つなんてね」
快晴は面白くなさそうに、フンと鼻を鳴らして玲旺から目を逸らす。
「まぁ、直接対決になったって、アドバンテージはこちらにある。世間知らずのボンボンと、企業に飼い慣らされた氷雨に俺が負けるわけがない。フローズンレインを完膚なきまでに叩きのめして、それを機に氷雨を辞めさせよう……って作戦だったんだけどなァ」
あーあ。と、快晴は不貞腐れたように天井を仰いだ。湯月が呆れたように頬を膨らませ、快晴を見上げる。
「だからやめときなって言ったじゃん。氷雨くんの作った服を見たら、窮屈な環境で無理矢理やらされてるんじゃないってわかるでしょ」
「何だよ。お前だって最初は、氷雨が誰かと組んでブランドを始めるなんて信じらんないって言ってただろ。それなのに、いつの間にかそっち側に付きやがって。裏切り者め」
腰に手を当て見下ろす快晴に、聞き捨てならないと湯月は憤慨した。
「裏切り者って、なんだよ。私は快晴の味方になったことなんか、一秒だってないよ。ずっと氷雨くんのためだけに動いてたんだから」
「俺だって氷雨のためにやったんだ」
快晴も湯月の真ん前にしゃがみ込み、二人は睨み合う格好になる。まるで猫が毛を逆立てて威嚇し合っているような光景だが、氷雨は慣れっこなのか「はいはい」と湯月と快晴の間に入って軽く諫めた。
「二人ともやめなさいよ。とりあえず、僕のこと心配してくれてたワケね。でもさぁ、勝手に一年もかけて大掛かりな準備して、皆を巻き込まないでくれる。普通に『大丈夫なの?』って聞けばいいじゃない」
それが出来れば苦労しないとばかりに、快晴は眉間の皺を深める。
「簡単に言うなよ。俺も永遠もお前に声なんか、かけられるわけないだろ。それに、『大丈夫か』って聞いちまったら、お前はどんな状況でも『大丈夫』って答えるに決まってる。だから、わざわざこんな回りくどいことしたんだ」
氷雨から顔を背けた快晴は、話を聞きつつもまだ紙屑を拾っていた玲旺を見て、ふーっと息を吐き出した。
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